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日本大陸×プリプリ「The Melancholic Handler」外伝「クリミアに小夜啼鳥は飛ぶ」



 ロシアが強硬姿勢を崩しておらず、戦争は不可避という流れの中にあって、フローレンスは準備に追われていた。
彼女が女王から勝ち取った裁量権および指揮権、さらにある種の越権行為を認めるお墨付き---それらを果たすための行動を重ねていたのだ。
医薬品の輸入、必要となるであろう消耗品の備蓄と生産、さらにはそれらを動かすための足や人員の確保。
やることは尽きることなく存在し、フローレンスはトップとして淀みなくそれらの仕事をこなす必要に迫られていた。
 女王のお墨付きを得たからこそ、失敗が許されない状況にあったと言っても良い。
 そのプレッシャーは確かに存在し、彼女がこなす仕事に緊張感や厳しさを上乗せする形となっていた。

 そして、厄介であったのは戦争への従軍が確定的になっていたフローレンスの周囲に沸いた、いわば取り巻きの存在だった。
アルビオン王国第一の権力者から権力の一端を任された彼女に纏わりつくことで、自己の利益を得ようとするハイエナにも劣る集団である。
 具体的に言ってしまえば、女王の前で公開処刑された戦争省の軍医局の人間や医療関連の知識人、あるいは医師。
場合によっては戦争省に限らないアルビオン王国の省庁の制服組、はたまた民間企業の重役などなど枚挙にいとまがない。
他にも宗教関係者に学者、上流階級の人間、さらには新聞記者といった人間まで集ってきたのだ。

 弁護しておくが、そこに見るべき人材がいたのも事実だ。
 彼女の活動や論文などを見て協力を申し出た医師や専門家、あるいはスポンサーに名乗り出た上流階級の人間など、協力的な人材がいたのだ。
対話ができ、尚且つ必要なことを認識ている彼らこそフローレンスが求めたモノであり、今後必要になると考えていた人材だった。

 問題だったのは、善意を振りかざし、その実態として彼女の行動を結果的に邪魔する人間が多かったことだ。
 新聞記者はゴシップを求めて所かまわず押しかけてくる。
 パトロンを名乗る人間は厚かましい顔で融資をしてやろうと言い出す。
 医師だという人間はフローレンスの論文を見当違いな点から目の前で批評する。
 あるいは戦争省や軍から来た人間は女性がやるには云々と言い出して権限を奪おうとする。
 どことも知れない病院の人間は自分のところの医師や看護師を雇えと押しかけてくる。
 それらに対応するために、フローレンスは貴重な時間を浪費する羽目になった。
有名税と言えばそれまでではあるが、実学や実利を重視し、日々を必要だと考える行動することに費やしたいフローレンスにとっては邪魔でしかなかった。
一々自分が相手をしていては動けない---そう考え、彼女は両親や姉を頼り、代理人を立てることで自分の時間を確保した。

 パトロンは丁重に断りを入れた。そもそも彼女のパトロンは女王であり、この国そのものなのだから。
 新聞記者は必要なこと書いたメモを叩きつけて追い返した。
 論破しに来た医師や研究者には論文を突き付けた。
 戦争省や軍からの迷惑な客人については、所属元に抗議を入れて対応してもらい、尚且つ常駐の人間をよこしてもらった。
 医師や看護師を雇えという人間は、まとめて看護学校に放り込んで扱いて使えるように仕立てることにした。
 その他小賢しい人間は軍から送ってきてもらった兵士によって追い返してもらった。
 この、仮にフローレンスがいなくとも彼女の示した方針や行動理念に合わせ、判断と指示を出せる人員を用意するというのは、のちに彼女を救うことになる。

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 そして、代理人や補助の人員を周囲に置くことで猶予を得たフローレンスは、既存体制の改善に乗り出した。
改善と言っても、即効性がある、あるいは短期間で改善することができる分野を選んで取り組むことにしたのだ。
女王がにらみを利かせている手前、何かアクションをとりたいと焦る軍からの要請でもあったが、むしろ好都合と言えた。
衛生観念と書くと堅苦しいものだが、本来はもっと身近なところから始めるものであるのだ。
だから、兵士たちに対して平時や負傷時に取るべき行動をまとめた小冊子を配るというのも立派な改善の一つであった。
加えて、所謂応急手当の概念を普及させるため、兵士たちの訓練にそれらを加えることも確約させ、時に監修することとなった。

 また、軍とのつながりで必須だったのが、輸送手段の確保にあった。
 遠隔地まで物資や人を運ぶのは苦労がつきものだ。まして、医薬品や非戦闘要員である医師などはデリケートになる。
生産した場所から物資を運び、現地で消費し続けることでしか遠隔地での医療体制は維持ができない。
その為、空軍を説得して輸送艦を手配してもらうこととなったのだ。
あらゆる地形を超え、迅速に行き来できるからこそ、航空艦は海上船舶による輸送を凌駕できる。
その様に説得して回ったことで、専用の輸送艦と水兵、さらには陸港や補給における優先権を獲得することに成功した。
 フローレンス自身は造船などには造詣が深くなかったが、造船技師や運用を行う空軍との打ち合わせを行い、適した改造を施すことも認めさせた。
即ち、武装よりも輸送量を優先。衛生的な水のタンクを積み下ろしできる能力。ガラス器具や瓶などを割らないように輸送する免震構造。
荷下ろしのしやすさとどこに何が積まれているかを分かりやすくするタグや標識の設置。
貴重品であり危険性も持ち合わせる医薬品を厳正に管理するための鍵付きの収納棚や輸送コンテナ。
いざという時に病院代わりに使うことも考慮に入れた、換気に優れ、衛星の保たれた部屋の設置。
要望は多岐にわたり、それらは余すことなく反映されていった。

 フローレンス以外の人員も働いていた。
 特に、必要とされるであろう医療従事者の数の確保と質の両立に勤しんでいた。
 教会や民間の病院から点数稼ぎに押し付けられた尼僧やアルビオン基準の看護師や医師などへの対処が必須であったのだ。
当初はフローレンスは自身が開設した学校や病院で訓練と臨床実績を積んだ人員だけを連れて行くつもりだったのだが、数の不足を彼女が懸念した。
専門性の高い知識を持たない人員が役に立たないことは理解していたし、臨床実績などで理解していた。
 だが、結局は人の数がモノを言うことになるというのも理解していて、そのアンビバレントの解決を求められたわけである。
そこで、前述のように送られてきた人員を教育することにしたのだ。スパルタもかくやの厳しい選抜で、「旧い」看護師を間引いた。
新しい知識と常識に適応した「新しい」看護師だけが必要だと、断腸の思いで切り捨てたのだ。
この中には史実でフローレンスの足を散々引っ張ることとなる、エリザベス・ウィーラーやエリザベス・デイビス、ブリッジマンなどが含まれていた。

 斯くして質の高い人員をはじめ、戦時に備えた準備が整い始める中にあって、ついにそれが始まった。
 ぽっと出のフローレンスが台頭して自分たちの領分を荒らしていることに腹を立てた、不特定多数の悪意が、フローレンスへと実害の牙をむいたのだった。

152:弥次郎:2024/05/09(木) 23:44:21 HOST:softbank126036058190.bbtec.net

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クリミアに飛び立つ前からすでに大変だ…
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最終更新:2024年08月16日 14:16