571:弥次郎:2024/05/12(日) 01:21:03 HOST:softbank126036058190.bbtec.net
日本大陸×プリプリ「The Melancholic Handler」外伝「クリミアに小夜啼鳥は飛ぶ」3
フローレンスは、厳しくはあるが平等で公正を規すことを日本で学んでいた。
規則は集団を守り運営していくために存在し、それは特段の事情抜きには守るべきだということも。
だからこそ、個人や集団への攻撃がされても、規則に則り対応することにしたのである。
同時に、その手の攻撃者に対して同様の手段を用いることを彼女は避けた。
ルール無用の攻撃を仕掛けてきたからと言って、いきなり無法を働けば罪を問われるのは自分である。
そもそも、彼女にはこういった攻撃をしてくる人間に心当たりがあったのだ。
女王や戦争大臣、あるいは閣僚の信任を得て諮問を受ける医師として行動していく中で、どうしても意見が対立した人間がいたのだ。
嫌に具体的にフローレンスを攻撃できるということは、それだけ彼女の近くにいる人物ということなのである。
とはいえ、どこまで法で問えるかは分からないし、自分が判断すべきことではない。
それは司法に委ねるべきであって、気に食わない相手をいきなり権力で殴るようなことは避けたかった。
そういった方針を周囲やフローレンスの身を案じて怒りをあらわにする支持者たちに説明しつつ、きっちりと反撃の準備を整えていた。
彼らの協力を得ればいくらでも手段は取りようがあったが、まずは公平に出ることにした。
彼女は自らを直接狙った襲撃者から始めた。警察に突き出し、その理由を調べるというところから始まった。
ところが、正規の手段と順序に則り動いたところで、さらに攻撃が飛んできた。
またもや新聞の投書欄にイラスト付きの投書が殺到したのだ。
曰く、こんな格好の売女など襲われても当然だ、風紀を乱し、王国の品位を下げる!
それだけでなく、それを憂いて攻撃した奴が最近いたらしいが、今すぐ釈放すべきだ!とまで言い出したのだからたまらない。
さらに、警察の取り調べも杜撰どころではなく、むしろ被害者であるフローレンスを侮辱するような対応を重ねたのだった。
弁護士も呼んだうえで被害を訴えても、新聞や世間の目を気にしたのか、あるいはそもそもフローレンスを悪と断じたのか、扱いが悪かったのだ。
社会的に中傷され、嘲笑さえされる中でも、フローレンスは冷静だった。極めて、平常だったのだ。
ただひたすらに証拠と証言を記録していき、ひたすらに根拠を固めることに終始していった。
社会一般における規則に則った行動をとった上で、どうにもならない。
そう判断し、証拠が揃ったところで、フローレンスの本気の反撃が始まった。
さて、いきなりばらすことになるが、フローレンスを攻撃したのは史実において悪い意味で名を遺した人物ばかりであった。
ジョン・ホール、メアリー・スタンリー、エリザベス・デイビス、ブリッジマン尼僧長---およびその周辺の人物だった。
軍医や軍医局の人間も敵だらけだったし、適当な嘘を鵜呑みにしたその他大勢さえも敵になっていた。
所属や立場が違うために、追及している間に余計な時間を費やすことは確定的だった。
逆に言えば、公式の立場や役職を持ち、それについて信任を受けて責任を持っている以上、?がりは存在していた。
まして、戦争に備えて動いているフローレンスは公的な権力が保証されていた。戦争のために、というお題目が使えたのである。
そして、フローレンスは彼ら彼女らを呼び出した。
戦争に向けた準備に向け、各員の働き具合および知識や認識を照らし合わせるため、という名目で呼びつけて会議を行ったのだ。
一説によれば、フローレンスはこの際に千名以上にも及ぶとされる人員を呼びつけたとされる。
言い逃れや?の証言、あるいはあることないことを吹聴するなどをしないようにする対策も十分にとっていた。
端的に言えば、閣僚や重職、そして女王の臨席の元で会議を行い、必要に応じてディスカッションを行ったのである。
のちにナイチンゲール審問とまで呼ばれる、人の悪意をへし折るための容赦のない正論がぶつけられる、地獄の釜の蓋が開いたのだ。
572:弥次郎:2024/05/12(日) 01:21:51 HOST:softbank126036058190.bbtec.net
方式は単純。
フローレンスのやり方や指示を守らないことに対して、なぜそのような行動をとったのかを問うたのだ。
どうしてその行動をとったのか、どういう理屈や理由なのか。あるいは現場での判断なのか。私的な感情なのか。
それともわからなかったから行動しなかったのか。だとするならば何故責任者であるフローレンスに報告や相談や連絡を行わなかったのか。
これまでの行動や言動を---彼ら彼女らの親族がなぜか詳しく新聞に投書できていたことも含め---問い詰めた。
理詰めだ。押せば迎撃し、ひけば踏み込む。そうやっていく中で逃げ場はどんどん減り、やがて自分の言葉で自分が縛られていく。
やがて言葉はなくなり、単なる悪態や暴言などが飛び出し、それらも封じられる。
そして、さらなる問い詰めを受ける中で言葉は出なくなり、言葉が出ないことをさらに咎められる。
地位として遥かに上の存在からも質問や疑問がぶつけられるのだから、彼ら彼女らにとってはたまったものではない。
これはあくまでもディスカッションだ。
その知識と経験、実績をアルビオンの最高権力が認めたフローレンスを無視し、あまつさえ攻撃した理由を裁判ですらない場で吐き出させたのだ。
ルール無用の盤外戦術に出て、その結果として間接的に内閣やそれを信任した女王さえも攻撃してしまった者達への、理論的でルールに則った問いだ。
追い詰められた彼らの反応は様々だ。
泣き叫ぶもの、言い訳に終始するもの、ストレスとショックのあまり気絶するもの、許しを請うもの。
だが、これは繰り返しになるがディスカッションだ。
「そんな反応が欲しいんじゃないのですよ。
ちゃんと理屈で返答してください」
フローレンスは冷静に言い放った。
彼女はあくまでも指示に従わずに職務を全うしなかった理由を問いかけ続けた。
罵倒の言葉は一切出さず、事実と実情を問いかけ続け、あくまでも規則と理論に則った。
そうであるがゆえに、逃げ場が存在しないことをよく理解したうえで、そのように振舞っていただけだ。
そして、この一連の流れは、彼女を攻撃していた、あるいは表にならないところで密かに妨害していた者たちの心を折った。
自分達が正しいと吹聴したからこそ、その正しさをひっくり返されて、どうにもならなくなったのだ。
ついでに、これらはアルビオンの最大権力の目の前で、信用も実力も知識も---何もかもが評価に値しないと断じられることにつながった。
要するにやる気のある無能が己の懐や権力欲などを満たすために行動していて、任された職務に相応しくないと判断されたのだ。
これらの結果は言うまでもない---ディスカッションの場から自分の足で歩いて出ることができた人間がほとんどいなかったくらい、良く「効いた」。
573:弥次郎:2024/05/12(日) 01:23:07 HOST:softbank126036058190.bbtec.net
さて、こうした主導的な役割だった人物の心が折れてしまい、主柱を失えば、あとは烏合の衆ばかりである。
ろくに考えることもなく、ただ従うばかりの連中に自分たちの上司や同僚への忠誠心だとか同情心などはない。
一番大事なのは我が身であり、それを恣にする人間の直接睨まれてしまえば、昨日までの主張など容易く捨ててしまうのだ。
これによって不特定多数が事実上降伏に追い込まれ、余計な雑念が消え去った。
フローレンスとしてはこれで充分であった。仕事がこれ以上余計に増えることはなくなり、自分の意見が通しやすくなると分かったから。
だが、満足していない、あるいはケジメをつけなくてはと行動したのは、彼女のパトロンたちだ。
対応が後手に回り、挙句に彼女主体で対応させてしまったわけで、パトロンや後援者としては失格だったからだ。
故に、フローレンスの関知しないところで制裁の嵐が吹雪いた。
社交界で悪評を吹聴して回っていた貴族階級は積み上げてきた実績や信頼を失った。
恣に世論を煽った新聞社は、畏きところから直々にお叱りが飛び、いくつかの新聞社は廃刊などを余儀なくされた。
王国政府や軍においては無能な人間が次々と職を失うことになった。
いや、それらさえもまだ生温かった処置であっただろう。
場合によっては地位も職も返上し、文字通り都落ちをする羽目になったのだ。
本国は愚か植民地ですら居場所がない、そんな徹底的に追い詰められた人間さえもいたほどだったのだから。
最後まで彼らは理解しなかったかもしれない。なぜそのような目に遭ったのか---近視的な、感情的な行動な結果の果てに妥当な末路を迎えたのかを。
とはいえ、そんなことはフローレンスにとっては些事にすぎない。
ようやく本当の意味でのフリーハンドを得られたのだから、準備にこれまで以上に集中できるようになったのである。
また、この時の反省点から、フローレンスは自分と同じように判断ができる人材を選抜することにした。
フローレンスに倣って日本へと短期留学した経験を持つ卒業生、あるいは成績だけでなく実務面で優秀な看護師などを選び抜いた。
自分が攻撃を受けてその対処をしたり、あるいは何か問題が発生した時、代わりに指揮や監督を引き継げるようにしたというわけである。
転んでもフローレンスはただで立ち上がることはなかったのだ。
これを含めた行動が、実際のクリミア戦争において大きな結果を彼女にもたらすのだが、それはもう少し先になる。
そしてついに、運命の開戦の日を迎えることとなった。
ロシアからの戦線布告と軍事行動が開始され、火ぶたが切って落とされたのだ。
これに合わせ、フローレンスは選抜した人員と共に遊撃戦力兼指導役として従軍。
未知の戦争が繰り広げられる大地に小夜啼鳥は舞い降りたのだ。
574:弥次郎:2024/05/12(日) 01:23:57 HOST:softbank126036058190.bbtec.net
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シュートサインの意味はご存じですよねぇ!?(煽り
寝ます!おやすみなさいませ!
最終更新:2024年08月16日 14:23