719:奥羽人:2024/04/17(水) 18:03:48 HOST:sp1-73-155-62.smd01.spmode.ne.jp
近似世界 17世紀初頭 【食糧計画】

16世紀末、天下統一を果たし、中央集権化も想像よりスムーズに進められ……ようやく内に秘めた野望を解放できる!と息巻いた夢幻会のメンバーは、その眼前に巨大な壁が聳え立つことを自覚する。

それは「コスト」である。

後の時代区分において、中世がようやく終わって近世に足を踏み入れた頃合い。
何を始めるにしても、極めて重い初期コストが掛かるのである。

何故か?

単純に、あらゆるものの需要に対して供給が全く追い付いていないからである。
近代的産業の欠片も無い時代特有の低すぎる農・工業生産力は元より、船の他は人力か駄獣しかない輸送手段に整備されていない道路網、商品やサービスを円滑に取引するための経済システムの未熟さ。
それら何もかもが、あらゆるモノのコストを押し上げる要因となっていた。

要するに、慢性的に“足りない”のである。
文明進歩の常として、「余裕」が無ければ何も始められない。
古くに起こった文明はその全てが、農耕等により生まれた余剰によって分業化が促された事が発端となったのは言うに及ばずである。

そこで夢幻会は、何よりも先ず「食の余裕」を求めることとした。
日本人としての食へのこだわりはともかく、根本的に食糧の余裕が無ければ、全員が農民や狩猟民になるしかなく、それ以外の事に着手するなど到底不可能だからだ。
工業化も経済も、何よりまず食の余剰が生まれなければ発展の余地は絶対に無い。

この点において、夢幻会という機能は極めて有利に働く。
ネットなど存在せず、物理的要因によって人と人との繋がりが制限されてしまう時代において、夢幻会の持つ横の関係というのは、そのまま“外の有力者とのコネ”という得難い資産へと繋がり、それは各々のメンバーが自らの藩内で立場を固めるのに役立つこととなった。
何せ、夢幻会メンバーであること自体が即ち有力者達との確実なコネと同義語なのだ。勿論夢幻会の各々もそれを理解しており、各地各分野に散らばるメンバーに対しての援助や口利きは惜しまなかった。
そうして暫く時代が進んで、天下統一の時期には夢幻会メンバーが藩政や経済において極めて有力な立ち位置を占めることとなり、これが中央集権化にプラスに働いたのは想像通りだが……要するに、夢幻会はよく見かける「ネット小説のチート転生者」と違って“頭数”を生かせるのである。

あえて夢幻会メンバーを多く集めた地域において、その未来知識を存分に生かした新しい農法や器具を使って収量を増大させ、その話を全国に広めて国全体の農業生産力を底上げする。
そうした、先にやってみせ、後に続く者を生み出す手法は多数の民衆を動かす常套手段として多用されることとなる。
また、こうした「夢幻会農場」は新作物の内地導入や品種改良の場としても活用され、元の現代にあるような美味な食材を目指して日夜研究が成されていった。

720:奥羽人:2024/04/17(水) 18:05:23 HOST:sp1-73-155-62.smd01.spmode.ne.jp
同時に、夢幻会の目は外側にも向けられていた。
船を漕ぎ出して南洋へと進出した彼らは南蛮貿易……東南アジア地域での交易において富を蓄えると共に、その富を生かして新たな産物を内地へと持ち帰る為に動いた。
現地に渡ったメンバーは当時隆盛していた香辛料貿易に倣い、香辛料取引やプランテーション栽培によって財を成すと、それを元手により広い範囲に進出し、あらゆる食材を集めて持ち帰った。
カボチャやトウモロコシ、ライ麦、じゃがいも、サツマイモ等の主食作物は勿論、トマト、ニンジン、玉ねぎ、キャベツ、白菜、ホウレン草などの野菜、枝豆や空豆等の豆類など、ありとあらゆる食材を仕入れて持ち帰るのである。
それらはただ食すだけにあらず、国内や入植地での栽培を試行する為として、又は品種改良の元として利用する為として、国家的な政策として食の多様化を推し進めていった。
特に、じゃがいもやライ麦といった寒冷地でも育つ穀物類の国産化は、初期の北海道入植において大きく役立つこととなった。

他にも、養った財力と広大な熱帯の地、そしてかき集めた作物品種を利用してバナナやパイナップル、カカオ、コーヒー……そして、サトウキビの大農場を作り上げ、現地の労働力を活用して大量生産を始めていった。
また、生産力の増大に対して土地の力を意地するために必要な肥料……リン鉱石や硝石を求めて太平洋島嶼やインドまで船団が出向いている。

この時、当時の状況を考えるとプランテーション+奴隷という生産方法が主流かつ効率的ではあるが、夢幻会からすると50年単位で見れば有効だが100年単位で見ると微妙な手段であると考えたメンバーは一計を案じる。
それは、現地に貨幣という概念と国内で生産された嗜好品等の“魅力的な商品”を持ち込むことだった。
初めは現物給与によって現地人に手渡されたそれらは、やがて現金によって日本人街で手に入れられると理解した現地人がこぞって農場から得られる賃金=労働を求める始めた事で労働集約を達成し、副産物として現地に近代的貨幣経済を浸透させる切っ掛けともなっていった。
意欲ある現地人が自らの手で農場事業を起こすまで行けば占めたものである。
それは、日本と現地との経済的繋がりをより強固にさせ、引いては日本の影響力を強化する事にも繋がるからである。

東南アジアで生産された食物は、現地や内地の食生活を豊かにするだけではなく、経済的な利益ももたらした。
日西戦争でマハルリカ(当時の呂宋、フィリピン)が日本の手中に収まり、また、日蘭植民地紛争において東南アジアの主導権を日本に奪われた代わりとして、同地の貿易独占権を得たオランダだが、他の欧州諸国はより安価で大量の香辛料を求めて日本に来るという場合が多くなっていた。
ここで日本は東南アジアから輸入した香辛料を転売し、オランダとのバランスを取りながらも莫大な利益を上げており、その利益が更なる計画進行にも利用されたのは言うまでもないだろう。

721:奥羽人:2024/04/17(水) 18:06:29 HOST:sp1-73-155-62.smd01.spmode.ne.jp
話を内地に戻し、当時の幕府は「畜産業の奨励」にも力を入れていた。
元々、日本では仏教伝来以降、肉食の習慣とは忌避されがちであり、世界的に見ても珍しい非肉食文化を持っていた。
それ自体は特に悪い事とは言えないものの、夢幻会としてはやはり肉が欲しいと考えてしまうのが普通だった。
夢幻会メンバーの嗜好はそうだが、そもそも足りない尽くしの中で、わざわざ選択肢という手札を縛る事も無いだろうというのが主であった。
こちらも植物性食品と同様に世界各地から種を収集し、鶏、豚、牛等はより現代的な品種に近づけるよう改良するために多数の種が導入された。
また、17世紀初頭には田舎というか湿地帯だった江戸においては水牛の家畜化が大いに振興され、人口の流入と共に後の大都市へと至る下地が組み上げられていった。

これら畜産業は初期において、文化的下地も相まって食糧生産という意味合いでは補助的役割に留まっていた。
これが覆るのは17世紀中盤、南方大陸の発見である。
広大な無主地であった南方大陸の大地は放牧肥育にはうってつけであり、日本人は早速この広大な草原に牛や羊を持ち込んで畜産を進めることになる。
当時は保存技術や輸送技術の制限もあり、内地に持ち込まれるのは保存加工された肉という形式が主だったが、生産量の増大に伴って価格が下落していく中で、肉食文化はより身近な存在になっていったのである。
南方大陸で特筆するべき生産物といえば、腸詰め(ソーセージ)である。
現代からすれば想像し難いが、ソーセージは元々腸という密閉された容器に封入されて乾燥・燻製される、長期保存食だったのである。
欧州と比較すると高温多湿である東アジア地域では相応に保存期間は短くなるものの、それでも夢幻会特有の未来知識を利用して製造や輸送工程を工夫し、なんとか本土に運んで広く流通させることに成功している。
また、ここで培われた保存加工技術は、日本全体の食品保存技術の伸長にも繋がり、主に船で長距離を航海する必要のある欧州の船乗り達に歓迎される形で世界中に広まり、主要な輸出品となっていった。

漁業に関しても、増加傾向にある人口に対応する為に大規模化が推し進められていった。
史実の幕府とは異なり漁船の大型化を補助すると共に、遠洋漁業の導入を奨励。初期には幾らかの不幸な事故や試行錯誤も多かったものの、計画が軌道にのり始めると漁獲量は大きく上昇。また、漁船の大型化と共に、釣り上げた魚を船上で保存加工する「工船」スタイルの導入も行われ、その高い品質によってアジア市場を席巻していくこととなる。
特に北海道において大量に水揚げされるニシンは、北方入植において長期間、貴重なタンパク元として活用されていった。

722:奥羽人:2024/04/17(水) 18:07:15 HOST:sp1-73-155-62.smd01.spmode.ne.jp
こうした、ある意味では貪欲な食糧政策について、欧州諸国からは「只でさえ豊穣の大地を持ちながらもまだ欲するのか」という驚きを以て迎えられ、日本人に対するエコノミックビーストという評価が確立されていく。
また、平民階級に余力を持たせるという同時代の他地域では体制にとって時に致命的ともなる政策は、不思議な東洋的文化として欧州諸国で語られていくこととなる。

723:奥羽人:2024/04/17(水) 18:10:36 HOST:sp1-73-155-62.smd01.spmode.ne.jp
以上となります

夢幻会「あれも足りないこれも足りない!とにかく余裕が無い!」

同時に工業や流通にも手を加えてますがとりあえずは食からということで。
個人的にはパラドゲーとかでも戦争するより生産とかGDPが徐々に上がっていく様子を眺めてる方が好きかもしれません。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2024年08月23日 01:06