152 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/05/17(金) 00:44:31 ID:softbank126036058190.bbtec.net [5/29]
日本大陸×プリプリ「The Melancholic Handler」小話「アルビオン航空機狂騒曲」4
結果を述べよう、アルビオンは敗北した。
将来に訪れる自らの覇権の凋落を回避するために、疲弊した状態から投機的な賭けに打って出るという、破綻した計画の末路がそれだった。
当然、この航空機にまつわるアルビオンの狂騒曲も、ひとまずの終曲を迎えることとなった。
アルビオンの王立空軍、その航空機部隊はこの北米東西戦争において、文字通り壊滅的な被害を被るという終曲を。
なぜそのような有様になったのか?
北米東西戦争において相対した大日本帝国軍は、敵国の事情を知るためもあって組織的に調査を行った。
戦時中・戦後に行われた調査やOR、あるいは捕虜にパイロット達の聴取、現物の解析などだ。
その結果は以下のように列挙されることとなった。
航空機部隊の練度の低さ。
アルビオン王国空軍が主力として使うSg-20の運用能力---整備能力や補修能力の欠如。
大日本帝国空軍の航空機部隊の練度の高さ。
Sg-20を遥かに超える航空機との戦闘による一方的な被害。
日ア間の航空機の絶対数の差。
陸軍の機甲部隊・歩兵部隊および空軍の航空艦隊における対空戦闘能力や技能の違い。
そもそも実際の戦場でどのように動かすかのドクトリンの完成度の低さ。
その他、数えきれないほど存在していた。
それらの最大公約数を端的に言えば「航空機に対して理解と慣熟が不足している」ということだった。
そもそも、アルビオン王国における航空機の歴史は黎明期の研究を除けば、クリミア戦争後にいきなり始まったのだ。
空を飛ぶという観点においては黎明期の研究やケイバーライト機関による飛行というものもあった。
以前も述べたように、ケイバーライトに依存しない飛行というものに対して疎い面があったのだ。
そうであるがゆえに、扱いをどうすればいいか、既存のドクトリンに如何に組み込めばよいのか---分からないままにあったのだ。
大日本帝国がアルビオン王国軍の兵士から得た捕虜からの情報や証言はそれらを裏付けるものが多くあった。
証言以外としても、パイロットたちの年齢や体格や技能面でのばらつきがひどかったことからも窺える。
つまり、どういう人間がパイロットとしてふさわしいか判別ができていなかったというわけだ。
調査では視力に関しては良い人間が多くを占めており、そこはわかっていたようだった。逆に言えばそのくらいしかわからなかったともいう。
加えて、パイロットが航空機に慣れるまでの訓練の時点でかなり死傷者が出たことも練度の低さなどにつながった。
その根本的原因には航空機の運用能力---工学を含めた理解の低さによる整備不良なども関わっていることも。
鹵獲あるいは戦場から回収されたエンジンの状態を見れば、そのことは容易に判明した。
これらを鑑みて、大日本帝国空軍および各軍の航空部隊は敵ではあったが非常に哀れんだ。
戦場に来るからにはそういう覚悟をし、訓練を重ね、軍人となってから来るというもの---それが大日本帝国軍の認識だった。
だからこそ、こんな数合わせや単なる素質だけで命じられ、命の危険どころか、命がけで殺し合う場に放り込まれたアルビオンの兵士に同情したのだ。
だからこそ、特に空戦が著しかったB7Rの空を戴く史実オザーク高原において、慰霊碑が建てられることになったのであろう。
153 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/05/17(金) 00:46:02 ID:softbank126036058190.bbtec.net [6/29]
さて、戦争が終わってからアルビオンの苦境はよりひどくなった。
戦後の賠償などを含めて無事だった軍は存在していない。
そもそもクリミア戦争の傷が癒え切っていない状態で無理を押したのだ、
前述のように壊滅---軍事定義上ではなく、文字通りの意味でその戦力を失った航空機部隊も例外ではない。
理由はどうあれ戦時中に数が足りなくなったことで、本国の教官や予備戦力までも投じた結果、払底の様相を示したのだ。
張りぼてであろうと存在していた筈の航空機部隊は、戦力の維持どころか次の航空機パイロットの育成すらままならなくなったのである。
元々の航空機の調達がエンジンを他国から買い取ることに依存していたことも含めれば、まさしく踏んだり蹴ったりであった。
そんなわけもあり、軍部は相当お冠であった。
空軍に限らず、数多の歩兵たちを天国へと転属させられた陸軍、北米の重要拠点を破壊され艦艇までも賠償で奪われた海軍も同様だった。
そもそもの時点で政府の無理で始まった戦争だ、こんなことになったのは半ば以上に政府が判断を誤った結果と言えた。
各軍の上層部を構成する人員が揃って三行半を叩きつけたのも無理もない。引責のため、と言いつつも抗議の意味が強い。
特に空軍は空気が最悪どころではなかった。自殺者が階級の上下を問わずに出るほどに打撃を喰らった。
それもこれも政府のせいだ、という意見が蔓延しており、離職者も相次ぐ形で、体裁さえも危うくなるほどに。
政府は大慌てで引き留めようとしたのだが、遅きに失した。
政府も政府で軍が悪いか自分たちの判断が悪いかで意見が割れて内ゲバ気味だったのである。
ともすれば軍部からは、決断を下した女王に対する批判までもが沸き上がってしまうほどには突き上げを喰らっていたのだ。
敗戦に伴う賠償のこともあって、政府でさえも決断について疑問視する声が沸き上がってしまった。
まあ、これについては本題からそれるので別な機会に語るとしよう。
実働戦力も後方の戦力も払底したことで、アルビオンの航空機というのは危機的状況にあった。
失った分を補充することができるかも怪しいうえに、自国での生産などもできない状態。
他国が航空機や飛行船を揃えていく中にあって対抗馬を用意できない状況に陥った。
そうなることを回避するために戦争を起こしたというのに、戦争でもそれを覆せなかったのだ。
斯くして、航空機はアルビオンにおいて長いの間冬の時代を迎えることになる。
曲目が終わりを迎えても、その後はまだまだ続くのだ。
北米東西戦争後の失われた20年、さらにその後に勃発したアルビオン革命---航空機などに関われる余裕を失うには十分すぎた。
その反動のように、アルビオンは旧来の技術に固執した---新技術を無理に取り入れたこと自体が間違いだったと、言い訳のように。
だが、皮肉にもアルビオン革命後の王国と共和国間では、航空機技術の開発が再開され、激化することとなる。
敵国は恐ろしいが、味方であったが敵になった自国が最も恐ろしいともいえたからであった。
これをめぐり、白い鳩の名を冠するスパイチームが暗躍することになるのは、革命から10年の月日が流れてから。
確かにアルビオンは判断を誤り、多くを失った。それでも、歩もうという意思だけは消えていないとばかりに。
あるいは、アルビオンは伊達に覇権国家ではない証拠と言えるかもしれない。
いずれにせよ、芽はあったのだ。伸びるかどうかは、神のみぞ知るのだが。
154 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/05/17(金) 00:47:28 ID:softbank126036058190.bbtec.net [7/29]
以上、wiki転載はご自由に。
とりあえず航空機事情はこんな感じで。
結局のところ、踊らされた結果迷走してぶっ倒れた、そういうことですな。
これが後々の革命の火種の一つとなります。
しかして、希望がないわけではない。
アルビオンだって馬鹿ではないし、努力をしていないわけじゃないですからね。
負けてばかりではいられない、そんなアルビオンの人々を無礼るなよ。
最終更新:2024年08月23日 21:44