921:ホワイトベアー:2024/05/03(金) 17:09:07 HOST:om126167074229.29.openmobile.ne.jp
日米枢軸ルート 小ネタ 幕間

「我々は無理に殺し合う必要はない。しかし悲劇を止める力を持つ者が、目の前でおきる悲劇を傍観することは果たして正しいことだろうか……か。
どうやら日本人達はジョークが下手らしいな」

イギリス連邦の事実上の首相官邸であるナンバー10、その中の執務室でイギリス内閣の行政を事実上取り仕切るケヴィン・ケース内閣官房長官は呆れたような口調で口を開く。

「何を今さら。あのギャングどものボスのジョークが笑えた例があるか?」

「愛想笑いをしてやった事はあるが、本心から笑えたことはないな」

ケヴィンの視線の先にはMOD(国防省)事務次官チャールズ・ヘンリー・エリオットとイギリス外務・連邦省(FCO)事務次官ウィリアム・スチュアートがおり、彼らももまた疲れと呆れを含ませた表情を浮かべていた。
事実上イギリス連邦の軍事と行政、そして外交の事務方トップ達が、すでに時計の針も0時を通り越し外は暗闇と静寂が支配する時間にここで集まる事になったのは、ローデシア・ボツワナ間でおきた紛争に日本が武力介入をしてきたためであった。

「話を戻そう。日本の攻撃による被害はどうだ?」

「さすがというべきか、一撃でローデシアの主要な航空基地と駐屯地に甚大な被害を受けたよ。とくに航空戦力は壊滅状態だそうだ」

チャールズの言葉以上にその表情が事態の深刻さを示していた。
ローデシアは国内で深刻化する独立派武装勢力との戦いを有利に進めるべく空軍は8つの飛行隊を保有し、過激化するローデシア紛争で戦況を優位に保つため国内2箇所の航空基地と9箇所の飛行場にこれらを分散配置している。

これら航空戦力を効率的に活用することでローデシア軍は数で劣っていながらも内戦で優位に立てていたが、ボツワナ国内の難民キャンプを空爆した機体もこれらから飛び立っていた。
そのため、日本軍の最優先攻撃目標に指定されてしまい、巡航ミサイルの集中攻撃にさらされてしまった。

「おいおい……確かローデシア軍には最新鋭のロングボウが提供されていたはずだ。それが突破されたのか?」

ケヴィンは率直な疑問をチャールズにぶつけた。

「ああ、各航空基地にはロングボウとクロスボウを装備した1個高射大隊が配備されてたが、基地を護ることはできなかったそうだ。
モンティ(帝国参謀総長)とキース(空軍参謀総長)が顔を真っ青にしていたよ。
おかげで防空戦略とミサイル防衛戦略は1から見直しだ。」

ロングボウ地対空ミサイルはイギリス連邦が配備を開始したばかりの最新鋭の広域防空用地対空ミサイルで巡航ミサイル(低空目標)や空対地ミサイル(高速目標)への高い対処能力を買われ、エスカッシャン・システム艦やサンダーバードABMとともにイギリス連邦の統合防空ミサイル防衛戦略の柱として調達が進められていた

それがいくら最高時速マッハ15を発揮できる日本の極超音速巡航ミサイルを100発単位で撃ち込まれたとはいえ、突破されてしまったのだ。
イギリス連邦が受けた衝撃は防衛構想を1から見直さなければならないほどあまりに高かった。

「防衛体制の見直しもそうだかが、直
近の問題はローデシアが単独で内戦を戦う力を失ったことだろう。今回の件が仮に穏健に片付いても、ローデシアを維持しようとするなら連邦軍の派兵は避けられないだろうな」

ウィリアムはこれから起こるであろう連邦内のアレコレに頭痛を感じてしまう。
国内の反体制派に数で劣るローデシア自治政府側が内戦で有利に戦えていたのは、ひとえに航空優勢を取れていたからである。
逆に言えば航空戦力を失ったことでローデシア自治政府軍の優位は失われ、数で勝る反体制派に天秤が傾いてしまった。

922:ホワイトベアー:2024/05/03(金) 17:09:44 HOST:om126167074229.29.openmobile.ne.jp
「……軍は今回の件を穏便にかた付けられると思っているのか?」

ケヴィンは確認するように問う。

「被害の大きさに惑わされるかもしれないが、今回連中が動かした戦力を見てみろ。
巡洋艦と駆逐艦、それに爆撃機だけ。
連中自慢の戦艦や空母は愚か強襲揚陸艦や地上部隊もアフリカ大陸近辺で動きを見せていない。
どこまでを穏便と言うか次第だが、対応を間違えなければそこまで大規模な騒乱には発展しないだろうというのが我々の見解だよ」

ローデシア軍によるボツワナ領内での攻撃がおきて以降、日本軍は南大西洋側のアフリカ沿岸部とインド洋側のアフリカ沿岸部に吾妻型ミサイル巡洋艦1隻と夕雲ミサイル駆逐艦4隻、時津風型汎用駆逐艦4隻からなる水上戦闘部隊を1個ずつ展開させ、イヴァトゥ空軍基地にはB-15を装備する爆撃航空団2個が緊急派遣されていた。
しかし、日本海軍の顔である原子力空母を主力とした空母打撃部隊や戦艦を主力とした水上打撃部隊は愚か、強襲揚陸艦を中核とする遠征打撃部隊すらもアフリカ沿岸には姿を見せてはいなかった。
地上部隊もアフリカに展開しているのはアフリカ大陸から離れたマダガスカル島の在メリナ王国駐留軍部隊だけで、ボツワナは愚か同盟国領であるオーストリア領アフリカにも日本軍地上部隊は展開していない。

チャールズは続ける。

「情報部からの報告だがノーフォークを拠点とする日本海軍大西洋艦隊の整備スケジュールに変更はないそうだ。
それを裏付けるように日本海軍の空母ショウカク、強襲揚陸艦シャープスバーグが日本本土での大規模整備のためノーフォークから出港した。
アメリカ海軍やオスマン帝国海軍、オーストリア・ハンガリー帝国海軍も同様に整備計画に変更はない。
いくら連中が傲慢と言えども、本格的に我々とことを構えるつもりならこうはしないだろう。
問題は……」

「我々が盟主として力と意志を見せつけなければならないと言うことか」

「ああ、ローデシアあれでも我々直轄の自治領。実情はどうであれ我々に一報も無しにそこを攻撃された以上、報復をしなければ連邦が瓦解しかねない」

チャールズの言葉にケヴィンが確認する様に聞く。チャールズはそれに答えず変わってウィリアムが肯定の意を示した。

「となるとこれ以上のエスカレーションを起こさない程度には日本側にとって重要ではない地域への限定的かつ最小限度での攻撃か」

「あのギャングどもが過剰反応しないであろう辺境であっても、連中の勢力圏を攻撃すれば一応はメンツが経つ。そこらへんを落としどころとするしかないだろう」

自国を攻撃されて黙っている頼りない盟主の下に居続けようと言う物好きな国家は、この国際社会上に存在しない。
イギリス連邦がイギリス連邦であり続けられているのは、曲がりなりにも連合王国が盟主としての義務を果たす意志と能力を兼ね備えていることを証明し続けてきたからだ。
それはこの場にいる全員の統一見解であった。

「しかし連中がさらなる報復攻撃をしない場所……そんなところが存在するのか?」

ケヴィンの問いにチャールズとウィリアムは苦虫を潰したような顔になる。
何しろ相手は1発殴ったら1万発殴り返して正義ヅラする国である上に、冷戦でガタガタになったイギリス連邦経済の建て直しに莫大な資金を投じてくれている国でもある。
報復は必要だが下手な場所に報復攻撃をしようものならそれはそれでイギリス連邦は瓦解する。

この場は実務者達が現状認識を統一するための場である。イギリス連邦、その盟主たる連合王国は今後どう動くべきか。その結論は出なかった。

ともかく報復は行うべきであろう。そう締めくくり、彼らの会合は幕を閉じた。

この会合から数日後、イギリス海軍はドレッドノート級攻撃型原子力潜水艦からの巡航ミサイル攻撃をグリーンランドに対して実施、日本側のミサイル駆逐艦がこれを迎撃し、一応の幕が閉じられた。

923:ホワイトベアー:2024/05/03(金) 17:10:23 HOST:om126167074229.29.openmobile.ne.jp
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最終更新:2024年08月25日 00:48