198:モントゴメリー:2024/05/25(土) 21:34:59 HOST:124-141-115-168.rev.home.ne.jp
幼き日の記憶
フランス連邦共和国(FFR)、Hexagone(六角形=FFRヨーロッパ州)のとある所。
その酒場には老人たちが集まり、ワインを傾け談笑していた。
彼らは同じ意匠の、そして年季の入った軍服に袖を通していた。
その姿を見た他の客たちは、好意的な視線を送り何人かはその輪の中に入ろうと近づく。
しかし、彼らの胸にあるそれを見た瞬間、そうした若者たちは最大限の敬意を表しつつ離れていくのである。
老人たちの軍服は海軍の、それも大戦中の共和国海軍のものであり、それだけでも敬意を表されるに値する。
しかし、胸元の“それ”は別格であった。
それ——第二次ゼーラント沖海戦参戦記章——は現在のFFRにおいては勲章に匹敵する価値あるものなのである。
これに比肩する栄誉は、エスト・デ・パリ解放作戦参戦記章やリシュリュー刀など片手で数えられるほどしかない。
更に言うなら、老人たちのものはその記章の中でもまた格別なものだった。
その記章にはRの文字と、それに続き数字が刻まれていた。
これを持つことが出来るのは、あの日『我らが指揮官』、戦艦リシュリューに乗りこんでいた者だけなのである。
他国の人間からすれば、勲章と違い年金も付与されないただの記念品であるが、フランス人にとってはレジオン・ドヌール勲章よりも尊いものなのである。
「おじいさま方!!」
そんな酒場に見合わない厳かな空気に、これまた酒場にそぐわない幼い声が響く。
「おお、マリー!今日も可愛いな」
「もう、お世辞がお上手なんだからっ」
幼女はおませな口調で返す。
「いやいや、本心じゃよ。あと10年くらいしたらフランス1の美人になるじゃろうて。
…ワシが30歳若ければなぁ」
「残念ですがその予測は外れますわ。『フランス1の美女』の座は私の予約席ですから」
そう老人に返したのは、今酒場に入って来たばかりの少女——こちらも酒場にはまだ早い——である。
「アナイス姉さま、遅いじゃないの」
「貴方が急ぎすぎなのよマリー」
今日のアナイスはマリーの保護者的立ち位置である。
(2人がペアを組めば必然的にそうなるであろうが)
幼女と少女の掛け合いを見ながら老人は大笑する。
「お前も相変わらずだなアナイスよ。
お前さんを忘れていた詫びに一杯おごってやろう。……一杯だけだからな?」
「では、“赤”を♪」
未成年者に酒を勧め、未成年者も平然とそれを受け取るという背徳的な光景であるが、それをとがめるものはいない。
この当時は、まだ戦前の「ゆるい」空気が残っていた最後の時代なのである。
199:モントゴメリー:2024/05/25(土) 21:35:56 HOST:124-141-115-168.rev.home.ne.jp
「マリーも飲む?」
「遠慮するわ。私は姉さまみたいな『悪い子』じゃないもの。
…それよりもおじいさま。また“お話”を聞かせてくださいな!!」
マリーは子供特有の無邪気さと無鉄砲さで「英雄」たちに接する。
周囲の大人たちがハラハラする中、老人たちはむしろ楽しそうである。
…しかし、そこは老人。
老人とは、子供と『遊ぶ』ことが何よりも楽しいのである。
「ん~?話と言ってもなぁ?最近は物忘れが激しくてのぉ。昔のことがよく思い出せんのだわい」
「もー!なんでそんなイジワルいうのよ!?」
プンスコするマリーに対し、老人の一人が(人の悪い)笑みを浮かべてこう言った。
「“あの歌”を聞いたら思い出せるかもしれんのぉ?」
それを聞いたマリーは破顔し
「もう、それを早く言ってよ!それくらいお安い御用だわ!!
私もおじいさまたちの演奏を聴きたかったしね」
「そう言ってくれると嬉しいのぉ。…じゃあ、皆よ。一丁やるか!!」
その掛け声を合図に老人たちはフルートやギター、ヴァイオリンを取り出す。
古来から、海の男にとって音楽と楽器は切っても切れない縁である。
老人たちもその例に漏れず、中々の演奏技術を持っていた。
演奏が始まり、マリーが歌い始めた。
ブレストの傍(そば) 昨年(さくねん)の7月のある朝
ボカージュから出(い)でた娘(こ)が 俺に微笑みかけたんだ
可憐な二つの裸足から白金(しろかね)の毛先まで 妖精のような美しさに心撃ち抜かれたんだ
デン・ヘルダーからスカパ・フロー ノーフォークから横須賀まで
旗立てても見つからないさ 彼女ほどの乙女は
手拍子の中、歌は2番に入る。
走り去る彼女を眺め 頭を掻きながら
側仕えの娘(こ)に尋ねる 「あの白金の乙女は?」
幼女は胸を張り叫ぶ 「あの方こそ我が道標(しるべ)!
戦艦リシュリュー このブレストの輝ける星!!」
デン・ヘルダーからスカパ・フロー ノーフォークから横須賀まで
旗立てても見つからないさ 彼女ほどの乙女は
アナイスが馬手にワイングラスを、弓手にビデオカメラを持ちながらそれを観ていたことにマリーは気が付かなかった——。
——時は流れ、パリはエリゼ宮にて。
「この時のマリーは可愛かったわねぇ。今みたいに腹黒くなくて」
「アナイス姉さま止めてください!!!!」
“同志”たちだけの宴の席で、マリー・マフタン大統領は顔を真っ赤にして転げまわることになった。
200:モントゴメリー:2024/05/25(土) 21:36:57 HOST:124-141-115-168.rev.home.ne.jp
以上です。
ウィキ掲載は自由です。
同志635のエラン・ヴィタールを受けて、こちらも返礼しようとしていましたが、ようやく時間が取れました。
『ブレストの輝ける星』
以前書いた歌詞はそのまま和訳したやつでしたが、今回は“旋律対応”!
つまりそのまま歌えるのだ!!
さあ、みんな歌ってみよう!?
つttps://www.youtube.com/watch?v=l4GRx0s9ZN8
204:635:2024/05/25(土) 22:25:14 HOST:119-171-249-59.rev.home.ne.jp
乙です。
この後、二人の少女は転属する彼らを見送る側へとなるのでしょうな。
遺言は『ブレストの輝ける星』で転属を祝って欲しいとかありそうだ。
なお、長生きした我らが指揮官の戦友を送る場合の弊害。
お話より数十年後のエリゼ宮。
「マリー様、アナイス参謀総長。此度転属された我らが指揮官の戦友より見送って欲しいとの御遺言が。」
「そう…久々ねマリー…。」
「最後は十年前だったかしら?それで遺言は?」
「それが…あの…。」
「どうしたの?」「我らが指揮官の戦友の遺言だもので出来る限りはするわ。」
「あの…その…ブレストの輝ける星を葬式で歌ってほしいと…。」
「……。」←マリーちゃん、ょぅι゛ょ歳+数十歳
「……。」←アナイスちゃん、マリーちゃんより年上+数十歳
公開処刑である。
209:モントゴメリー:2024/05/26(日) 00:04:56 HOST:124-141-115-168.rev.home.ne.jp
208
アナイスちゃん「じゃあ、マリー頑張ってね!!」(窓から逃亡しようとする)
マリーちゃん「お待ちなさい、『ベルナルド総参謀長』?」(服を掴む)
アナイスちゃん「あの時みたいにマリー一人で歌いなさいよ!?」
マリーちゃん「『戦力の逐次投入は敗北への片道切符』でしょう?それに、姉さまの方が歌上手いじゃない」(ハイライトオフ)
210:モントゴメリー:2024/05/26(日) 00:53:32 HOST:124-141-115-168.rev.home.ne.jp
作中のイメージ映像に一番近いのはこれかな?
つttps://www.youtube.com/watch?v=mkTI1L2Ap3s
あと、歌詞の解説。
サビの部分は、以前の説明の様に
「デン・ヘルダー(蘭)やスカパ・フロー(英)、ノーフォーク(米)そして横須賀(日)。
すなわち世界の列強海軍全てを見渡してもリシュリューに勝る艦は存在しないのだと声高に宣言している」
のですが、”旗立てても”つまり「征服しても」見つからないと言っていますが
敵である蘭帝(デン・ヘルダー)や日本(横須賀)はともかく、味方であるはずの英国(スカパフロー)や米国(ノーフォーク)まで
ナチュラルにそう言っちゃう所に当時のフランス海軍の心境が現れております。
最終更新:2024年09月06日 21:40