453:弥次郎:2024/06/02(日) 21:08:06 HOST:softbank126036058190.bbtec.net

日本大陸×プリプリ「The Melancholic Handler」小話「小夜啼鳥伝」8



 さて、日本への留学という得難い経験をしたフローレンスは、己の同志を増やすことに力を注いでいた。
 自身の出資などで看護学校や医学校を設立し、日本から講師を招くなどして底上げの準備をしていたが、それはアルビオンという集団から見れば小さい。
広大な海に砂糖水を一滴垂らしたところでしょっぱいままであるように、全体を変えるには頭数が必要であったのだ。
如何に質として優れようとも、やはり数が必要であると。
それに加え、自分が女性であるという性別に基づくハンディキャップ---社会的な軽視を受けることが想定されたのだ。
その解決手段として選んだのが、自分と同じく日本への留学生を募って送り出すという単純な方法であった。

 当時、アルビオンは世界の三分の一を占める覇権国家であった。
 殊更に、アルビオン島を中心に見た時の欧州文明圏においては、まさしく頂点にあった。
 それは単純にケイバーライトによる軍事的優位という面でもそうだが、技術や物流という面でもそうであった。
フランス革命への介入時における人材のペーパークリップ的な救出に始まり、リ・レコンギスタ以降アルビオンは各国の人材を次々とスカウトしていたのだ。
それは富だけでなく知恵という面においてもアルビオンが独占を果たすことで、知恵という面でもトップを走ろうというアルビオンの策略が窺える。
それらは正しい戦略であった。当時フランス---というか貴族や富裕層がパトロンとして抱えていた多くの学者たちはアルビオンへと逃げおおせたのだ。
史実において、革命運動によって始まった狂乱の最中、謂われなき罪で殺されてしまった学者などは数えきれない。
そんな彼らが力を発揮したからこそ、アルビオンは覇権国家に相応しい国力とそれを支える技術などを得たのだ。

 だが、それは同時に驕りと停滞、そして硬直を生んだ。
 アルビオンこそが欧州---ひいては世界の頭脳の頂点だと、そのように慢心し、騙りを抱いたのだ。
実際に優れてはいたのだが、その当時としては技術が進歩したこともあり、アルビオン・アズ・ナンバーワンというブランドに酔ったのだ。
アルビオンの常識こそ世界の常識、アルビオンの認めないものを受け入れない風土が生まれてしまったのである。
故に、ある一定のラインまでは成長できたとしても、そこから先に頭打ちが発生するという事案が生じたのだ。
 医師免許を取得する際に、学んできた医療関係の知識についてのプレゼンして合格したが、あらぬ噂を立てられたフローレンスはそれを実感していた。
停滞や怠慢、あるいは傲慢さによって進歩の歩みを止めてはならない---あるいはそれゆえに日本に遅れていると、フローレンスは判断したのだ。
ある意味是は正しく、ある意味では間違っていた。転生者たちの知識に基づくそれは、所詮は後知恵なのだ。
先達が血を流し、苦難の末に勝ち取ったものを広めているだけにすぎないのである。
勿論実証や検証などを済ませ、同時に再現などをする際に努力などはしているが、ある種のズルである。

 閑話休題。
 だからこその、留学生という選択であった。
 兎にも角にも常識レベルで更新するにはこういった荒療治が必須と考えたのである。

454:弥次郎:2024/06/02(日) 21:08:43 HOST:softbank126036058190.bbtec.net


 フローレンスの開設した医学校や看護学校の生徒から、相応しい素質を持っている人材が選ばれて留学に送り出されていった。
 他方で、フローレンスは看護などを舐め腐った不良生徒を送り込むこともしていた。
自前で性根やら性格を強制しても良いのだが、フローレンスの看護学校などを箔付けにとらえている生徒やその家族もいたため、一計を案じたのだ。

 日本への留学は最低でも半年以上、おおよそ1年ほどが多かった。
 日本の技術や体制を学ばせるという目的があり、同時にアルビオンの劣悪な環境を認識させる都合があったのだ。
アルビオン・アズ・ナンバーワンの陰で、成長や発展することをやめ、思考を停止させている分野が存在することを知らなければならない。
知らなければ改善しようという気にもならないし、そもそも問題視もしない。あるいは現状を無意識に追認するだろう。
 そして、前述のように自分と同じように行動できる数を増やすことにつながるというわけだ。
 自分だけでなく、他の人間の口からもアルビオンの医療が遅れていることを証言してもらわなくてはならない。

 結果を述べるならば、これは成功した。
 送り出された留学生は日本とのカルチャーギャップに驚くとともに、如何にアルビオンが医学に関わる面で遅れているかを認識したのだ。
男性も女性も、若いも老いたるも、多くの口から証言がなされ、あるいは行動が生まれていったのだ。

 同時に、その劇薬的な情報の投入は当然だが副反応をまき散らした。
 アルビオンが世界の頂点---その驕り高ぶった自信や根拠のないプライドが、その事実を認めようとしなかったのだ。
ルール・アルビオンの頂点たる女王が認めようとも---いや、だからこそ認めない人間が多くいたのだ。
自分のプライドの方が重要であり、そのプライドの根源たる知識が古いなどと言われれば、当然。
それがのちに、彼女への個人的な攻撃と結びついたのは必然であっただろう。

 だが、結局のところ最終的な勝利はフローレンスのものとなった。
 また、これは後のクリミア戦争従軍に際し、彼女を救うことにつながった。
最前線において激務をこなす彼女と同じように働ける人材の発掘につながったこと。
さらには、後方である本国でフローレンスが万全の態勢で働けるように政治的なものも含め活動できるバックアップがあったこと。
これらが総じて、激務の中にも猶予を生み、またフローレンスの心身を苛むいくつもの事象を防ぐことができた。
これにより、フローレンスは史実において悩まされた慢性疲労症候群に罹患せず、健康的な肉体を維持した。
 そして、後にアルビオンが革命で割れた時も、その後も、矍鑠と動き影響力を発揮することにつながったのだ。
 アルビオンのためにと始めたことが、最終的に彼女自身も救うことになった。
 まさに情けは人の為ならずという言葉の、端的な例であろう。

455:弥次郎:2024/06/02(日) 21:12:14 HOST:softbank126036058190.bbtec.net

以上、wiki転載はご自由に。

色々と書いていたのですが、とりあえず書きあがった物から。
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最終更新:2024年09月08日 13:41