485:弥次郎:2024/06/02(日) 23:20:49 HOST:softbank126036058190.bbtec.net
日本大陸×プリプリ「The Melancholic Handler」SS「開演を飾るプリンシパル@秘密結社」
あらゆる可能性が内包され、無数を超えた数存在する並行世界---そのうちの一つ。
日本列島が日本大陸になっているという、共通項を持つ世界線のグループのそのまた類似の世界にて。
その世界では、他の並行世界を経験してきた者達が日本大陸に生まれ、育ち、そして暗躍し続けていたのだった。
さて、時は西暦にして1601年。
北条早雲が幕を開けた騒乱の戦国時代---それが織田信長が一代で統一し、統一政府となる幕府を打ち立てて終焉させてから十年余が過ぎていた。
戦国の、殺し殺される時代が終焉し、日本大陸は統一された政権の元でその国力を存分に生かし、真価と発展をしようとしていた。
それはまさに繭の中で羽化を待つ蝶のようであり、事実として膨大なエネルギーが使われていたのだった。
だが、この世界では少々過激なモノが繭の中に紛れ込んでいたようだった。
織田政権の天下統一の陰の立役者あるいは縁の下の力持ちとして活躍した転生者たちの集まり「
夢幻会」は、遅れがらもその年になって気が付いたのであった。
「はい」
「はいじゃないんだが?」
「アッハイ」
彼らは会合の場に持ち込まれている「とある鉱石」を前にして百面相をしていた。
「まあ、やばいよねこの鉱石」
「クッソ重要な戦略資源なのは確定ですからね」
「今まで見つかっていなかったのか?」
「発掘できたのがかなり深い深度だそうです……」
「ああ、そういう……」
彼らの目の前の箱に収められて視線を集めるその鉱石は、ごく最近発見された新種の鉱石だった。
これが既存の、あるいは既知に収まる鉱石ならば夢幻会も困りはしなかっただろう。
この日本大陸は日本列島の比ではなく鉱物資源が豊富だ。銅も鉄も石炭も石油も金も銀も史実から見ればうらやむほどに。
まあ、ウラン鉱石とかそういうのだったら、夢幻会もなりふり構わず動いたかもしれないだろう。
戦略資源の一つであることは間違いなく、今すぐではなくとも将来的に重要なモノになるのは確定なのだし、今のうちに発掘された鉱山を抑えるくらいはする。
だが、これはその鉱石の性質と活用法を知る物からすれば、他の戦略資源のほうがよっぽどマシという劇物であったのだ。
それこそ、これが世界の、ひいては夢幻会の持つ常識を覆し、とんでもないパワーバランスを発揮するものなのだから。
加えて、単なる並行世界へと転生したのだと思い込んでいた夢幻会の予想を裏切り、とある作品の並行世界だったことが判明した。
「まさか……」
徐に、一人がその鉱石をつまんで拳の中にいれると、暫く握ったままにする。
そして、パッと手を開くと---
「プリンセス・プリンシパルの世界とはね」
そこにはわずかに発光しつつ、空中に静止する問題の鉱石---ケイバーライト鉱石の原石があった。
将来的にスチームパンクとスパイとアクションの、ローマ以来の巨大国家をめぐる陰謀劇が繰り広げられることが確定したのである。
諸君らは「月世界最初の人間」というSF小説をご存じだろうか?
「SFの父」とも称される作家「ハーバート・ジョージ・ウェルズ」が書いた、地球から月への旅を行うという小説だ。
同じくSF作家のジュール・ヴェルヌが大砲という手段で月に向かった人間の旅を描いたのに対し、こちらは重力を遮断する物質を使うというものだった。
それによって所謂宇宙船を作って月へ向かうのであるが、この宇宙船は地球の重力を振り切って飛んでいく方法を選んだのだ。
作中ではこの物質の発明者のケイヴァーの名前からとってケイヴァーリット、あるいはケイバーライトと呼ばれていた。
重力を遮断したら月の重力にも縛られないんじゃないかとか突っ込んではいけない。ともかくそういう話なのだ。
486:弥次郎:2024/06/02(日) 23:21:44 HOST:softbank126036058190.bbtec.net
閑話休題。
この「プリンセス・プリンシパル」の世界では、その物資と同じ性質を持つ鉱石「ケイバーライト鉱石」が採掘されるのだ。
世界観をそうするためとはいえ、アルビオン---史実においてはイギリスにあたる国だけで採掘可能な、稀少な鉱石として。
「なんでまたこの大陸で発見されたんだか……原作ではなかったはずだよな?」
「ああ。だが、大陸になって何か事情が変わったのかもしれんな」
「あるいはこの世界をシミュレーションする誰かがそのように設定したか、だな」
「シミュレーション仮説は怖いからやめてくれ……確率論的にはほぼ0%だろう?」
「だが0ではない。悪魔の証明になるからな」
ともあれ、そんな重力を制御しうる機関を作り上げる鉱石であるケイバーライト鉱石なんぞを見つけちゃったので、夢幻会は大わらわだった。
直ちに該当の鉱山を幕府直轄としつつ、他に鉱石として採掘されないか、国内の主要な鉱山の調査を行う必要に追われた。
何しろ、大英帝国がモチーフとされている国家「アルビオン」が世界の覇権を握る原動力としたのがこれなのだ。
イギリスが海軍と海運とでのし上がったのと同様に、アルビオンは航空艦隊というさらなる理不尽で覇権を握る。
あらゆる地形や要害を飛び越えたプレゼンス能力を持つそれらはまさしくゲームチェンジャーだろうし、持たざる国にとっては理不尽であろう。
現段階ではちょっとしたびっくりしか提供できなくとも、蒸気機関との組み合わせが成立すれば話は変わる。
いや、ひょっとすれば、ちょっと研究するだけで人が重力の枷をある程度ほどける可能性もあるのだから、何かと影響はあるかもしれない。
未知数だからこそ、その危険性は計り知れなくなり、リスクは計測不可能となる。全く怖いものだ。
「早くに発見できたこと、そして研究が始められるのは良かったですね」
「まったくです。
そして、夢幻会が諮問機関の一つということもあり、少数ではあるがこの情報は幕府内部で明かされている。
当然ではあるが一部を除いて与太話扱いされているのであるが、今はそれでいい。
Need to Knowの原則。未来の技術や知識という情報を武器としている夢幻会にとっては、情報とは資源である。
それは思わぬところから漏洩する可能性があり、だからこそ、厳密に管理し、統制しなくてはならない。
実際、これが将来的にやばいほどの価値を発揮することは明かされている人間の中でもさらに少ないのだ。
知っている人間が多数いれば、その数だけ情報が漏洩する可能性が高くなる。考えられることは起こりうるのだから無理もない。
「ともあれ、今のところは与太話だという尾びれ背びれをつけておきましょう」
「そうだな……今はまだ、単なる遊びの研究ということだけにしておかなければ」
「あとは将来に向けた研究---原作の詳細な設定を知っている人間をかき集めて、検証をしていかないとなりません」
そう、ケイバーライトは将来的にはすごいものになるのだが、現段階では鉱石が見つかった程度だ。
これが本当にケイバーライト鉱石なのか、これを如何に加工し精製するのか、リスクはないのか---調べるべきは山のようにある。
蒸気機関の本格的な研究がこれからということも合わせれば、長い時間と人員、そして金をかけることになるだろう。
「ケイバーライトは原作でも人体に有害でしたからね……」
「罪人を使って実験するのがいいだろうな、影響を調べるにしても、治療方法を見つけるにしてもだ」
「詳細は不明でもあることは確か。ならばやらない理由はないです」
「これがとんでもない爆弾にもなるって言うんだから、怖いもんだよなぁ」
「少なくともアドバンテージを稼いでおかねばなりませんね。
それとスパイアニメの世界と分かった以上、防諜にはより一層力を入れなくてはなりません」
「やれやれ、やっと戦国時代が終わったと思ったのに」
487:弥次郎:2024/06/02(日) 23:23:26 HOST:softbank126036058190.bbtec.net
裏方の仕事は実に多いというのに、これにプラスされるとはついてはいない。
これを活用すれば極東圏での覇権は確実なものとなりうるだろうが、それに比例して夢幻会はやることが増えてしまうのだから。
やっと戦国時代を収束させ、内政に力を入れ、今後の歴史に備えた動きをしていこうというところにこれとは、つくづく運がない。
特に裏方と表舞台の両方で活躍していたメンバーの表情は明るくはなかった。
彼らは今後さらなる仕事が確定したのだから。
「だが、これを用いれば史実ではありえないものを現実化できることは確かだろう?」
「重力遮断機関だからな、航空分野、ひいては宇宙開発分野において大きな働きを果たすことは確実だろう」
他方、研究分野を司る部署の面子の顔色は良い。
史実では存在していない、夢の物質。
応用すれば強力な爆弾にもなる物質だが、それ以上に活用できる分野は大きい。
「ケイバーライト機関の実用化を果たせば、史実の航空機やヘリなどを超えるモノが現実となる。
勿論通常の航空機の研究も進めて、両方からアプローチをしていく形になるだろう。
目指せ宇宙開発の早期実現だ」
「夢が広がるな」
「原作からすればアンプリは確定だ。ついでにドロベアをすこれ」
「まだカップル論争は早すぎるぞ。チセ殿はいいぞ」
「早すぎるとか言いながら断言とか、オヌシナニモノ」
「アイアムハヤスギル」
そんな感じでグダグダしつつも、いつものノリと算段を立てる彼らは、国家百年どころではない計略を練り始めるのだった。
せっかく時間をかけた国家戦略が見直しだ、と愚痴りながらも彼らは実に真摯であった。
「ところで」
そんな浮かれる面々の中で一人が言い出す。
「大殿にはどう報告します?」
「それは……そのぉ」
「当たり障りのない感じで?」
問題は、老いてなおますます盛んな織田信長であった。
政治の場においては既に引退していても、影響力を各所に及ぼし、さらには夢幻会も無視しえない英傑。
こんな面白いおもちゃを聞いてしまったら、矢も楯もたまらずに押し寄せてくることは確定だ。
「現場にも苦労を掛けることになりそうです……」
「そういう御方なのだ、諦めるしかあるまいて」
そんなことを話し合いながら、極東の大陸国家で将来に向けた動きは始まることとなった。
そしてそれは、欧州圏においてローマ以来の覇権を構築することになるアルビオンとその周辺国を巻き込んでいく大きな嵐となる。
やがては、人類全体の栄枯盛衰をかけた、途方もないグレートゲームにつながるのだが、それを知るのは今は夢幻会のみであった。
既に舞台の幕は上がり、全てがあらゆる可能性に向けて動き出す。そこにプリンシパルの踊りを添えれば、完璧かもしれない。
488:弥次郎:2024/06/02(日) 23:24:29 HOST:softbank126036058190.bbtec.net
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最終更新:2024年09月08日 13:45