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憂鬱SRW アポカリプス 星暦恒星戦役編SS「ホーリィー・ブルー・バード」


  • 星暦恒星系 星暦惑星 現地時間星暦2147年6月15日 ギアーデ連邦西部戦線 レギオン支配地域


『撃て撃て!敵に反撃の隙を与えるな!』

 戦場は、鋼鉄と爆発と銃弾に満ちていた。
 ギアーデ帝国の開発した無人兵器「レギオン」の群れに対し、人類の有する戦力が激突していくのだ。
膨大な物量、高い質、無人ゆえの挙動。そのすべてを以て軍勢は人の勢力へと牙をむく。
総合的なスペック上、星暦惑星の各国が運用するフェルドレスは必然的に不利を強いられる。
普及戦力として総合的に最強と言えるヴァナルガンドでさえ、戦車型相手には不利を強いられる。
そうでなくとも相互援助抜きにすれば近接狩猟型に膾切りにされかねないし、自走地雷で吹っ飛ばされることもある。

『前脚部に被弾、被弾!畜生が!』
『被弾した3番機を援護しろ、接近する奴らを近づけるな!』
『撃ェー!』
『9時方向から迂回してきています!』
『一時後退、陣形を立て直せ!』

 攻め込むというスタンスの都合上、防衛三倍有利はレギオンに働き、元のスペック差もあって苦戦が重なる。
これまで各国は基本的に防衛戦に終始しており、ここまで大規模な進撃などは経験が浅かった。
そうであるがゆえに、なおのこと不利を強いられていた。

『4番機沈黙!搭乗員は……クソッ!』

 4番機は擱座したところにロケット弾の集中砲火を浴びて大破炎上、搭乗員の生死は言うまでもないだろう。

『くそったれ、後方の部隊の進軍はまだか!?』
『砲撃は来ているが、まだ散発的だ!現有戦力で対処するしかない!』
『いつまで続くんだよぉ!』

 通信回線にはそんな嘆きの声が響く。
 彼らは軍人。そのための訓練を積み重ね、その上でここに配置されて、任務にあたる。
 さりとて、元をたどっていけば彼らは元は単なる市民であったのだ。レギオンとの生存戦争が始まって以来、志願兵の割合は多くなっている。
ギアーデ帝国から連邦への過渡期に動乱と混乱、さらに10年近くにも及ぶレギオンとの戦いが、帝国時代から見れば平均的な練度などを下げてしまっていた。
元より、人工知能により制御されるレギオンとは違い、彼らは恐れ、怯え、竦み、時に迷い、感情に振り回される。
状況によって変動するその感情は、肉体に影響し、あるいは判断能力を鈍らせることもある。
それにより、一瞬の判断が明暗を分ける戦場では致命傷となり、攻めてはいるが出血を強いられる現象につながったのだ。
地球連合と合同で行われた立て続けの大規模作戦は、被害などは小さくとも、確実に部隊の練度を下げるのに十分すぎた。

 士気という面でもそうだ。戦争とは人間の中の膨大なエネルギーを消費する。
 レギオンという恐ろしい相手に戦いを挑むというのは、人を相手にするのではないからこそ、そうしたエネルギーを奪い取るものだ。
死ににくいとはわかっていたとしても、強力な味方がいると分かっていても、それでも死の恐怖は避けえない。
軍人---あるいは兵士や騎士といった争いに適した精神涵養をやった期間が短い、元はただの市民から集められた兵だからこそそれに蝕まれるのだ。

421:弥次郎:2024/06/22(土) 22:50:17 HOST:softbank126036058190.bbtec.net

 彼らの部隊が十分な戦闘力を発揮できないのには、他にも理由がある。
 フェルドレスは極めて機動性と展開能力に優れた兵器であるが、同時に他の兵科を置き去りにしてしまう足の速さがあった。
十分な事前砲撃を行う他の兵科---ミサイルであれ、ロケット弾であれ、砲撃であれ---がなければ如何にヴァナルガンドでも不利は避けえない。
通常ならば支援を行う部隊の進撃を待ち、その上で慎重に進むことが普通であるにもかかわらずだ。
 だが、彼らにはそれが求められたのだ。レギオン支配地域に踏み込んでいく先鋒の役割という危険な役目が。
事前に行われた掃討攻撃の後に、真っ先にレギオンの陣地へと飛び込んでいき、露払いを済ませるという任務が。
 それはなぜか?
 「オペレーション・ブル・ブレイク」が発令されて以降、ギアーデ連邦の西部方面軍は進軍の一途をたどっていた。
これまでの防衛ラインを過去にし、支配地域を削り取っていく動きができているのだ。
それは、地球連合の来訪と対レギオン戦争への参戦がその理由であった。
彼らの有する戦力と共同することにより、犠牲を抑え、戦果を挙げ、レギオン支配地域を削り続けられていた。
 だが、それだけでは示しがつかないのが政治の事情。地球連合が援助してくれた分、エクソダスの分、彼らは血を流して応えねばならなかった。
この「オペレーション・ブル・ブレイク」において危険な役割を買って出るというのは、その一部でしかない。

 とはいえ、前線の将兵たちにとってそんなのは遠い場所の出来事だ。
 そんな事象があるからと言って、喜んで死地に飛び込めるような人間は前述のように少ない。
多くの国民が無責任でいられるギアーデ連邦だからこそ、責任と義務を求められる戦場に理解を示せないというわけだ。
 ああ、こんな戦いは嫌だ。もっと強い奴らがやればいいのに。自分たちがこんなに苦しみ、血を流すなんてたまったものじゃない。
志願したとはいえ、結局は人は戦いが恐ろしく、レギオンがもっと恐ろしいのだ。
死というものがレギオンという無人兵器の形をとって迫りくるというだけで、途方もないほどに。
まして、彼らはレギオンが恐ろしいものだと散々刷り込まれ、あるいは経験している世代も多いのだ。

『支援砲撃、弾着まで15秒!ポイント更新!耐衝撃!』
『相手の動きを牽制だ、急げ!』
『わかっているっての!クソ、改修したってヴァナルガンドでもこの有様か!』

 誰もが必死に戦う。
 協力し合い、恐怖に抗い、生き残るために。
 だから、あるいは、それでも、感情は納得しない。

『ああ、もう!地球連合の連中は何をしているんだ!』

 故にこそ、そんな怨嗟の声と感情が生まれるのも、至極当然のことであった。
 それはとても人間らしく、生き物らしく---同時に俯瞰的に見て途方もなく無責任で、自分勝手なものだった。

422:弥次郎:2024/06/22(土) 22:51:16 HOST:softbank126036058190.bbtec.net


  • ギアーデ連邦西部戦線 リュストカマー基地 食堂


 最前線より一歩下がったこの基地は、最前線で消耗した将兵たちが後送されてくる後方基地としての役目を担っていた。
最前線の押上げが進んでいることにともなう本国との距離の隔絶は、補給や通信や兵員の移動という軍事上の仕事を拡大させているのだ。
負傷兵の治療や本国への輸送、最前線基地では難しいフェルドレスなどの兵器の大きな補修や整備、はたまた大量の物資の備蓄を行わなくてはならなかった。
ギアーデ連邦軍の分だけでも、これまでの何倍もの仕事がのしかかっていると言えば、どれほど負担かがわかるだろう。
勝ちを得て、レギオンの支配地域を削り取っていくということは、同時に支配地域を維持しなくてはならないことと同義であったのだ。
奪還した地域の安全確保や後方浸透への警戒には存外時間がかかる。
戦場跡地ともなれば不発弾やらレギオンやフェルドレスの残骸、さらには死者の死体なども残っているものである。
それらを綺麗にして戦地から安全が確保された奪還地域に、そして人類の勢力圏へと組み込むプロセスは非常に面倒が伴う。
地球連合が前線を構築していることもあり、ギアーデ連邦はそちらに兵力を回す余裕を得ていたのだ。

 ここに追い打ちをかけたのは、実践の場に投入されたいくつもの新型兵器の数々であった。
 新型兵器は、改修されたフェルドレスであれ、供与されたKMFであれ、通常兵科の戦闘車両であれ、性能は非常に優れている。
レギオンとの戦いの中で死傷者の数が減ったのも、優れた兵器への乗り換えや更新があっての事であった。
 だが、同時にそれへの扱いは不慣れであるということでもあった。
改良されたヴァナルガンドはともかく、レギンレイヴやKMFといった新機軸の兵器群はメンテナンスや補修でさえも後方に強く依存していたのだ。
専用の設備が新規に必要で、尚且つ習熟している人間に限りがあるという、かなりタイトなスケジュールと体制をとらざるを得ないほどに。
同時に、それだけの価値があり、それをやらなければならない理由もあるという厄介な事実でも。

 また、それらの運用データの収集にはやはり現物やパイロットからの証言なども必要で、軍だけでなく政府の肝いりで進められていた。
レギオンとの戦いの後、エクソダスの後、さらにその後の未来を見据えた国家戦略の見直しに伴う、国家レベルの動きの一つだったのだ。
これはギアーデ連邦に限った話ではなく、他国でも同様であった。
 この先、レギオンを倒せばおしまいではない。宇宙怪獣のほかにも、生命体に牙をむく存在が山ほどいる。
エクソダスした後も自分たちの生存のために外敵と戦い続けなくてはならないのだ。
幾ら戦いを拒もうとも、火種はどこからともなく襲い来るし、それと戦う力をつけねば生き残れない。
生きるとは戦うということなのだ。星暦惑星の人々の前に現れた地球連合が示した、ごく当たり前のルールであった。
生き残り、強くあろうとしなければ儚くも命を散らすしかない。いや、どうなるかの末路さえも自分で決められなくなる。

 とはいえ、である。
 繰り返しになるが、そんなことを想像することも考えることも、あるいは理解することも難しいのが一般市民であった。
後方基地に分類されるリュストカマー基地で、つかの間の休息を得ている集団もそうだった。
最新兵器を配備されていると言えば聞こえはいいが、危険な任務で命をすり減らし、時に死ぬこともある環境に苛まれている。
 だから、今をレギオンとの戦いで費やすだけでも精一杯になろうというものであった。
 そして、その中で文句も出る。

「うんざりしてきたな……」
「次も激戦だって噂だしな」
「また槍の先っぽ(スピアヘッド)か?」
「司令官の野郎、言葉を濁しやがったからな……」

423:弥次郎:2024/06/22(土) 22:52:25 HOST:softbank126036058190.bbtec.net

 食事をとる兵士たちはぼそぼそと話し合う。大声では言えない、身内の間だけで聞こえるような内容だから。
誰から聞いたかも、自分が言い出したことかもわからないままの情報を流し合う。
まさしく市場のイドラに囚われ、客観性などないかのような、そんな会話だ。

「俺たちばかり苦労している気がする。攻め込むなんて無茶もいいところだろ」

 憤りの声、あるいは批判の声。自分たちが苦しいことの言い訳を求めた、そんな反射の言葉。
それはエコーチャンバーとなり、他の兵士たちの間に響き渡っていき、瞼のない耳に染みこむ。

「俺たちは守っているだけでも十分なはずなのに、なんでだよ……」
「武器があれば勝てるってわけじゃないのに、司令部は馬鹿じゃないのか?」
「これだけ苦労しているってのに無理に進撃するから死者が増えるってのにな……どうしてくれるんだよ」
「子供の誕生日までには帰りてぇんだけど、この分じゃ無理かな……」

 身を襲う恐怖はやがて他者への攻撃の言葉となり、彼らの内に形成され、溢れかえる。
自分達を振り回す上の人間への、あるいは政府への無責任な責任追及や批判にすり替わっていく。
目先の感情に囚われ、元々はレギオンというものが自分たちの惑星の出来事であり、責任があるということを忘却していく。
全ては我が身の可愛さ故に。究極的には、そこにたどり着くのだ。

「連合がパッと解決してしまえばいいのに……」
「いくらでも兵器があるだろうに、なんでちまちまやっているんだろうな?」
「死なせるためじゃねーのか?」
「ふざけんなよ……」

 そんな無責任な流れは、ひそかに積み重なっていく。
前線から後方へ、あるいは最後方である連邦領土の内部へと。
手紙、通信、あるいは人伝の言葉、噂。そんなものが沸き上がる悪意を伝播し、拡散させるのだ。
広く多数の人々のいる連邦領土の中で、その悪意の言葉はさらに反響し、人々の精神に浸透していく。
統制することも、遮断することも、とてもではないが難しい厄介な火種は、ひそかに燃え上がろうとしていた。
 それは、大規模作戦の合間に発生し、密やかに処理され---しかし、戒めとして語られることになる事件の予兆であった。

424:弥次郎:2024/06/22(土) 22:53:38 HOST:softbank126036058190.bbtec.net

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最終更新:2024年09月08日 14:39