135:奥羽人:2024/07/21(日) 14:12:04 HOST:sp49-96-46-97.msd.spmode.ne.jp
【旭夜交差】始動
「なんたる不敬!なんたる大罪!朕に隠れて謀を企てるに留まらず、無断で異界の者らと戦端を開くとは!!これは許されざることぞ!!」
「陛下、しかして、かの都市がその異界の者らによって占領の憂き目に遭うた事は事実にございます……ここで侵略者に妥協するようなことがあれば、鼎の軽重が問われることになりかねると……」
ウルサスの帝都にて、かの国の最高権力者が怒りを露にする。
これまで侵略戦争にてその国威を高めてきた帝国にあって、侵略戦争を厭うた彼にとって、未だに戦争に栄達を見出だす旧貴族らの企みは、看過できることではなかった。
しかし、本来の流れにおいては『首謀者たる旧貴族の不振な自決』にて終着した筈のソレは、異界からの予想もできぬ介入にて制御不能の事態へと転がり始めていた。
136:奥羽人:2024/07/21(日) 14:12:56 HOST:sp49-96-46-97.msd.spmode.ne.jp
- この世界の“既知領域”は一般的に『テラ』と呼ばれている。
- テラに存在する人類相当の知的生命体を総称して一般的に『先民(エーシェンツ)』と呼称する。
- 先民は大まかな構造こそホモサピエンスと同等だが、全員がある種の動物的特徴(獣耳、尾など)を有している。また、天使や悪魔、神話生物に相当する特徴を持つ種族も確認されている。
- 先民の身体的能力は大抵の場合、地球人類(ホモサピエンス)と比較して有意に高い傾向にある。
- 先民の有する科学技術の殆どは『源石(オリジニウム)』と呼称される鉱石状の高エネルギー物質を中心に展開している。
- 源石のエネルギーは電磁気学的・力学的エネルギーに変換することができ、この為、先民の都市生活水準は21世紀地球と表面的には近い。一方で、都市外や辺境では中~近世農民相当の生活環境に留められている場所も多い。
- また、先民の半数程度は源石を通して『源石術(オリジニウムアーツ)』、通称アーツと呼ばれる魔法もしくは超能力様の力を行使することができる。この世界に存在する“銃”も、一般的には弾丸を源石機器によって射出するアーツの一種である。
- 源石は増殖性と自己崩壊特性を有しており、源石粉塵が先民の体内で増殖を開始した場合『鉱石病(オリパシー)』と呼ばれる。
- 源石の性質からガンに近い病態と推測され、末期には増殖した源石による多臓器不全が死因となると考えられる。また、鉱石病によって死亡した先民の遺体に存在する源石は自己崩壊特性を有しており、有意な時間の後、新たな感染源となる。
- 一方、先民全員の血液中に微量の源石が混入しており、微量ならば何らかの排出機能によって排出されているものと思われる。鉱石病発症の閾値は不明。
- 大気中を対流する源石粒子は、不明なの作用機序によって『天災』と呼ばれる災害を引き起こす。
- 地球で一般的な天災の他、大型の源石塊が高速落下してくるような場合もある。天災発生域では大気中源石粒子の濃度が高まる為、これを避ける為にテラの先民はその殆どが『移動都市』の上で生活している。
- 移動都市とは、超大型の無限軌道式車台の上部に都市構造を持つ、自走式の市街地である。この自走機能は主に天災の発生域を回避する目的で使われている。
- テラに存在する各国が有する軍事力は、マクロスケールで見る限り中世的である。
- 一般的に剣や槍等の白兵戦兵器もしくは弓、クロスボウ等の投射武器で武装しており、分隊~中隊支援火器相当の存在としてアーツを利用する『術師』が配置されている。源石を用いた爆発物も武器として用いられる。
- 銃火器類が一般的ではなく、また、アーツの取り扱いにも個々人の適性がある以上、火器を搭載した地球でいう“戦闘車両”の類いは殆ど存在しない。
- 一部の正規軍や有力な武装勢力においては、迫撃砲に近い形態の中射程兵器を有しており、ドローンによる観測を用いた射撃を駆使している。また、移動都市には固定式の『都市防衛砲』と呼ばれる大型の砲熕兵器が配置されている。これら重火器もアーツを用いたものと推測される。
- ドローンやティルトウィング機は存在するものの、各国での本格的な航空機の利用は確認されていない。
- これは、テラの推定海抜高度6000m強より上部に存在する、一般的に『阻隔層』と呼ばれる高エネルギー大気層が原因と考えられる。阻隔層近辺では電離気体濃度が極端に上昇しており、航空機もしくはロケットを用いた突破は現実的ではない。
- 阻隔層の厚さは不明であるが、大気圧から推測するにその上端は地球の大気構造から大幅に逸脱するものではないと考えられている。
137:奥羽人:2024/07/21(日) 14:14:51 HOST:sp49-96-46-97.msd.spmode.ne.jp
「ヴィクトリアの手の者とおぼしき密偵を確認し、追手を放って追跡しております」
「またか、全く飽きないものだ。適当に追い散らすだけで良い」
チェルノボーグ市、ゲート前。
ウルサス帝国軍突入から少し後。
“日本軍”を名乗る軍勢が撤退していったゲート内に、チェルノボーグ市を奪還したウルサス帝国軍の部隊が突入してから数十分。
本隊がゲートの向こうに侵攻する傍ら、ゲートのテラ側では、“日本軍”の全周波数発信を聞き付けたテラ各国が放った密偵や諜報員と、それを防ごうとするウルサス軍の後詰めの暗闘が繰り広げられていた。
ゲート越しでの無線通信が機能しない以上、本隊の様子は不明だったが、誰も彼も新天地への未知という不安以上のものは抱いていなかった。
それもその筈で、“日本軍”はレユニオンという暴徒集団からチェルノボーグ一つ奪取することができなかったからである。
レユニオンは幹部クラスこそ帝国軍の精鋭にも互する強者だが、構成員の殆どは素人の暴徒集団でしかない。
チェルノボーグが陥落したのは現地貴族も交えた陰謀による内憂のせいであり、本来、レユニオンとウルサス帝国軍が真正面から激突すれば、帝国軍の圧倒的勝利は揺るがない。
故に、ウルサス人達は日本軍を「アーツや先進機械を持たない未開軍隊」と考えていた。
そのある種の先入観が、彼等の身を亡ぼすことになる。
「隊長!ゲートから何か出てきます!!」
ゲートを守っていたウルサスの盾兵が、光の幕の向こうから現れた“何か”を確認して声をあげる。
「定期連絡にはまだ早いぞ……敵か?」
それは、四足歩行の何か。
身も蓋も無い言い方をすれば、ビッグドッグを大きくしたものと言ってしまっても過言ではないだろう。
「感染生物、いや、“日本”の駄獣か……?」
テラにもUGVの類いは存在するものの、それは大抵が人間大サイズの装輪式であり、今しがた現れたモノは彼等の目からすると源石に感染して巨大化した甲殻生物に近かった。
とはいえ、それに銃火器等は付いておらず、現れて直ぐ様ウルサス兵を攻撃するなどということは無く、その体格以外の脅威は無いものと思われた。
「とにかく、脚を止めて鎮圧を────」
その上部に、1トン級のサーモバリック航空爆弾を複数発搭載している事を知らなければ。
閃光、炸裂、火球。
爆発によって発生した強烈な衝撃波は、いくら頑丈な先民の身体を以てしても耐えられるものではなく、街の瓦礫と共に呆気なく吹き飛ばされていった。
そうして爆煙と粉塵に包まれるゲート前の広場。
その中から、異形の軍隊の影が歩み出してくる。
不気味な姿の二足歩行の戦闘UGVと、履帯式の鉄の塊。
それらは、ゲートから現れた瞬間に持てる火力を遺憾無く発揮し始めた。
「何だ!?アレがラテラーノ人だとでも言うのか!?」
「畜生!奴ら、装甲車に源石大砲を乗っけてやがる!!」
戦闘UGVの重機関銃が唸りを上げ、爆発に気づいて集まってきたウルサスの後詰めを薙ぎ倒していき、戦車砲から放たれる無慈悲な多目的榴弾によってトドメを刺されていく。
彼等の殆どは、マトモな銃火器を相手にした経験が無い。
それは、いくら適性があろうとテラにおいて拳銃以上の銃火器を扱えるのは「ラテラーノ」に主に居住する天使的特徴を持つ種族、ラテラーノ人のみであるからだ。
そして、そんなラテラーノ人ですらも、火器をフルオートに扱える人間はそう居ない。
「とても敵う相手じゃない!」
「待て!逃げるな!敵前逃亡は重罪だぞ!!」
白兵戦に持ち込めば、先民特有の身体能力を用いて戦うことも可能ではあったが、“日本軍”から放たれる“本当の弾幕”によって、それも不可能となっていた。
138:奥羽人:2024/07/21(日) 14:15:24 HOST:sp49-96-46-97.msd.spmode.ne.jp
「なんだこれは!これは絶対に報告しなければならない!」
チェルノボーグの片隅、グレーシルクハットと呼ばれるヴィクトリア……つまり大英帝国モデルの国のとある大公爵に仕える上級エージェントは、降り注ぐ砲爆撃の中を走り逃げながら街の外を目指していた。
この、ウルサス帝国軍の兵士が手も足も出ないまま、ラテラーノ人のそれを何百倍にも強力にしたような重砲火によって一方的に『駆除』されていく様を報告する為に。
139:奥羽人:2024/07/21(日) 14:15:56 HOST:sp49-96-46-97.msd.spmode.ne.jp
チェルノボーグから百数十km離れた先の荒野。
そこに、移動都市程の大きさではないが、地上物としては破格の600メートル級の巨体を持つ大型車両……ウルサスの高速軍艦が砂煙を上げて走っている。
彼等もまたチェルノボーグのゲートを目指しており、艦内には夥しい数の武器兵器、そして兵士達が乗り込んでいた。
「『シュー……シュー……シュー……』」
その中でも一際異様な、一般兵からは半ば隔離されているような船室に座っているのは、多数のパイプが繋がった大柄なマスクを被り、漆黒の外套を着た巨躯の兵士である。
彼は『皇帝の利刃』
ウルサス帝国近衛兵の一人であり、「北の悪魔」と呼ばれる文明圏外の人外の力を取り込んだ、精鋭中の精鋭である。
黒い靄を体から滲ませながら歩みを進める姿は「悪魔憑き」と形容するにふさわしい。
そして「彼らが出てくる=ウルサス帝国は本気で潰すべき対象と定めた」という意思表示にも近く、よほどの力がない限りは死刑宣告に等しい。
とはいえ、それらの評価は大抵「よほどの力」が無かった相手のものでしかない。
「『……何だ……?』」
突如、轟音と振動が艦全体を揺るがした。
それと同時に、警報が艦内に響き渡る。
微かに、火と煙の匂いも漂っていた。
接敵にはまだ早すぎる。
異変を察知した彼は、立ち上がると強い脚力を以て甲板へと躍り出た。
「『アレは……攻撃か?』」
彼の超人的な知覚力を以て一瞬だけ見えた……“周辺の光景を衝撃波境界面で歪ませながら一直線に突入してくる飛翔体”は、そのまま高速軍艦の側面を貫通。
内部に到達した瞬間に炸裂し、破孔から紅蓮の炎が吹き出した。
『UAV、スレイブモードでデータリンク──』
『──目標の地上艦艇を捕捉。全機、対艦誘導弾発射──』
次に見えたのは、先程のよりは遅いものの、テラの基準で言えば十分すぎるほどの高速な小型飛翔体の“群れ”だった。
群れの半数の飛翔体はそのまま一直線に向かって来ており、もう半数は急上昇した後に角度を変えて斜め上から高速軍艦に突入してきた。
この世界に、近接防御火器システムなどという便利な物は存在しない。
『皇帝の利刃』は、咄嗟に黒い靄を噴き出して防御姿勢を取る。
側面および上面に30発以上の超音速/亜音速対艦誘導弾を受けた高速軍艦は、各部が大破して荒野の中に擱坐。
集中砲火を受けた側舷は、重砲から滅多打ちにされたかの如く滅茶苦茶になっていた。
資材搬入口から突入した300キログラムの半徹甲弾頭は、艦内壁を突破し機関部源石炉付近で炸裂。
艦橋にも一発のミサイルが直撃し、操舵不能、指揮不能と成り果てた。
被弾の余波で発生した火災は次々と艦内に広がっていき、手のつけられない状態となる迄に、そう時間は掛からないだろう。
そんな大損害を、ウルサスの高速軍艦は受けた。
たった数十秒の内に。
まだ、敵の影すらも視界に捉えられていないままに。
いったい先程まで、艦内の誰が考えていただろうか?
テラで最大の軍事国家たるウルサス帝国の、力の象徴である高速軍艦。それも、最精鋭の兵士を乗せているにもかかわらず、手も足も出ないままに敗れ去るなどと。
「『我々は、何と戦っているのだ……?ウルサスは、何を敵に回した?』」
燃え広がる火の手の横で、軍艦という戦場に向かう「足」を失った皇帝の利刃の呟きが虚空に消えて行った。
140:奥羽人:2024/07/21(日) 14:17:16 HOST:sp49-96-46-97.msd.spmode.ne.jp
以上となります。転載大丈夫です
現代軍と戦う場合、戦場でどう戦うかの前に、まず戦場に到達できるかどうかを考えるべきです。
最終更新:2024年09月14日 14:52