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憂鬱SRW アポカリプス 星暦恒星戦役編SS「ホーリィー・ブルー・バード」2【修正版】
- 星暦恒星系 星暦惑星 現地時間星暦2147年6月15日 ギアーデ連邦 ザンクト=イェデル 大統領官邸「鷲の巣」
エルンスト・ツィマーマンは自らの席で腰を落ち着け、座り直してから問いかけた。
「さて、状況を改めて聞こうか」
眼前、3次元映像投影機により、まるでそこにいるかのように大統領官邸の執務室に多くの将官や参謀などの姿が揃っていた。
地球連合より提供された通信設備は、電子攪乱型の影響をまるでないものとして、前線と後方とを繋いで見せているのだ。
そして、オペレーション・ブル・ブレイクという一大作戦の最中において、急遽という形で高級将校たちが通信回線上に集められているのは理由がある。
「原隊の指揮下から脱走し、ラシ原発に侵入、放射性廃棄物を奪取した---そんなことをしでかした、『ヘイル・メアリィ』についてね」
穏やかな相貌を、憤怒の表情でゆがめつつ、最高権力者は問いかけたのだった。
大規模作戦の間隙を縫うように、原隊から周囲の兵士とともに逃げ出したノエレ・ロヒを筆頭とした『ヘイル・メアリィ』という自称救世連隊。
それがしでかそうとしている、途方もなく無知で愚かななにかは、ギアーデ連邦に劇物として働こうとしていたのだった。
始まりは何のことはない---軍としては重罪ではあるが---輸送部隊に属する兵士たちがノエル・レヒを筆頭に脱走したことに始まる。
大規模作戦ということもあり、後方と前線の間には輸送ルートが策定され、日々大量の物資が輸送されていた。
輸送路は当然だが進撃に合わせて奪還した地域を通過するわけで、そこの掃除---戦場跡地のクリアリングが必須だった。
高い確率で放棄される見込みのこの惑星であるが、それでも後始末などはしていく必要があった。
さらには残っているレギオンの残骸などであっても相応に価値があり、今後を見越せば集めておくに越したことはないものであった。
それに、エクソダスにおいてはこういった地域の土壌であれ空気であれ動植物であれ、収集されることが決まっている。
色々と語ったが、ともかく多くの人間がこれに投じられていたのだ。
例えフェルドレスのオペレーターとなれなくとも、あるいは通常兵科の兵士になれなくとも、こうした雑務を熟す程度はできる。
ギアーデ帝国の負の遺産---愚民化政策によって学ぶことを忌避している属領出身者達でも動員できるからという理由で。
元より、こういった人員でさえも使わなければならない程度には、ギアーデ連邦は人の頭数が不足していたのだ。
例え質が悪かろうが人出であることは確かで、そうしている間に後方できちんとした人員を育成する---そんな要員であったのだ。
ノエレ・ロヒもまた、そういった人材の一人であった。
一応体裁的には地方の貴族くらいの扱いではあったが、士官学校などへの入学の時点で弾かれる程度の能力しかなかった。
だからこそ少尉という階級ではあっても、半ば以上にお飾りであり、やっていることは階級とまるで釣り合っていない仕事である。
そして、彼女はその任務に就いていた中にあって、いきなり脱走をした。
麾下にいた同郷の兵士---彼女同様に能力不足ゆえに後方に回されていた人材---を引き連れて。
ギアーデ連邦軍の編成や配属の特徴として、同じ郷里の出身者を一つにまとめているところがある。
その結果として、首魁であるノエレ・ロヒの元には彼女に従う兵卒が集まっていたというわけだ。
「決起の無線まで入れて、なんともはや……」
その後、彼女らは救世連隊『ヘイル・メアリィ』を自称。
軍用回線を用いて、自らが脱走者などではなく目的のために決起したと述べ、その活動への参加者を呼びかけるとともに、その目的を述べた。
核兵器の製造と保持、そして拡大。
さらには、それの使用による星暦惑星へと接近してくる宇宙怪獣の撃退という、大層なものだった。
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改めてコンセンサスを確認したところで、エルンストは深くため息をついた。
救いようがない、と彼をして理解せしめたのだ。
「追跡は?」
『既に』
問いかけに応えたのは、現在も最前線で『ヘイル・メアリィ』の追跡を続けるニアム・ミロヒナ中佐だ。
通信越しの会議に出るにあたり仮設拠点の中にいるようだったが、その服装は厳重な対NBC装備であることが窺える。
『元より練度の存在しないような部隊です、足取りを追いかけること自体は問題ありません』
それは事実だ。前述のように、彼女らは軍人としての練度はほぼないに等しい。
帯に短したすきに長しというレベルではなく、数合わせとしての意味しかない、そのくらいにしかできなかったという事実がある。
ギアーデ連邦軍とて手を抜いたわけではないのだが、本人たちにその気がなければどうにもならないのだ。
そんな彼女らがプロの軍人による追跡を振り切るだとか、痕跡を消して逃亡するなど、そんなことができるはずもない。
順調に追いかけており、もはや『ヘイル・メアリィ』は指呼の距離にまで詰まっているほど。
ただ、問題であるのはただ一つだ。
『作成したと思われる核爆弾---いえ、ダーティーボムの存在が問題となります』
そう、わけもわからず核兵器と信じて作ったダーティーボムがあらぬところで暴発することを恐れているのだ。
別の世界線---レギオンによる攻勢を受けて人々が退避している世界と異なり、こちらでは順調に奪還が進み、人の生活圏を取り戻していた。
そうであるがゆえに、エクソダスの際にはそこにある資産などを逃がす必要が生まれていたのだ。
そんな重要な生活圏をダーティーボムで汚染されてはたまったものではないということ。
無論、地球連合により除染をしてもらうと言う手はあるが、ここまで頼っては連邦の面子に関わる。
ただでさえ脱走兵によるダーティーボムの作成と、宇宙怪獣との決戦を嘯くという、シビリアンコントロールにあるまじき事態なのだ。
ギアーデ連邦内で対応し、連合の手を煩わせることなく処理を終えたいのが本音であった。
加えて、下手人である『ヘイル・メアリィ』をできることならば捕らえ、処罰を下したいという考えもあった。
仮に裁判になろうが銃殺確定案件ではある。とはいえ、手順を踏んだうえでというのが求められてもいたのだ。
表情を務めて変えないままに、ミロヒナは言葉を続ける。
『原発から奪取した時点で被ばくは避けえないでしょうが、まだなんとかなるでしょう。
ですが、迂闊に追い詰めてダーティーボムを起爆されても困るのも事実です。
何しろ、持ち出された放射性廃棄物の量からして、それが拡散すれば治癒不可能なレベルなのは確実と推定されています』
「それは困るね、出来れば生きて裁判を受けてほしいところだけど……」
エルンストはため息を一つ落とす。
『閣下、ですが』
「わかっているよ、うん。
あくまでも連合の求めるところは迅速な収束だけだ。
最悪の場合、現場の判断に任せることになる」
言いたくはない、けれども、エルンストは血を吐くように言い切った。
これが必要と分かっていても、認めたくない現実であった。
誰もが手と手を取り合い必死に滅びに抗う連合のようになれればと、そう思っていたのに、容易く現実は理想と剥離する。
ギアーデ帝国の負の遺産であり、同時に被害者である彼女らを救うことも説得することもできなかった。
「地球連合からは、彼女らをどうにか治療する手段はあると聞いている。
あくまで最終手段ということを忘れないようにしてほしい」
それが精一杯。地球連合からもたらされた、一筋の救い。
自分達が提供できないということだけでも、嫌悪感でどうにかなりそうだった。
体の内で、火が燃えて、血管の中を走り回っているような、そんな感覚さえする。
それを感じつつも、将校将官たちは最高指揮官たるエルンストの許可を得て、一斉に動き出す。
もうチェックメイトにはまるであろう哀れな『ヘイル・メアリィ』達の末路を、多少は同情しつつも、少なくはない侮蔑の感情を抱きながら。
735:弥次郎:2024/07/27(土) 22:45:54 HOST:softbank126036058190.bbtec.net
戦場の跡地を、トラックが走り抜けていく。
整備されていない、道として成立していない、悪路もいいところの道を行く。
粗っぽい運転ではあるが、それでも大地を疾走する目的は果たせている。
『ヘイル・メアリィ』の人員と、彼らが作り出した「モノ」を運ぶという目的は。
彼女らの目的地は、地球連合軍も駐留する北部方面ににらみを利かせるFOBだった。そこでなければならないというわけではない。
極論言えば、地球連合にこの兵器の存在を伝え、押し寄せてくる宇宙怪獣を蹴散らすことができればいいのだ。
「あともうちょっと……」
ノエレ・ロヒは所属していた部隊から脱走する際に盗み出した地図を見て、ひとり言葉を漏らした。
アナログな地図ではあったが、そこにはFOBや中継基地などの配置がかかれており、それを頼りに向かっていた。
自分がかつて暮らしていたメアリラズリア特別市は、かつて大領主であるミロヒナ家の出資の元で最先端の都市として生まれ変わった過去を持つ。
貴族であると同時に、原子力という分野を研究する学者の一族であったミロヒナ家は、そこに原子力発電所を建造したのだ。
そして郷士の一族であるノエレ・ロヒは朧ながらも原子力に関する知識を得ていたのだ。
無尽蔵にエネルギーを生み出す原子炉。その元となる物質を使えば、核兵器という恐ろしい兵器を作れるのだということも。
その原子力発電所---ロヒ原発は革命騒ぎにおいて破壊され、廃炉となり、以降は核燃料の冷却待ちという状態であった。
とある世界線とは異なり、このメアリラズリア市からの疎開はまだ行われていなかった。
ただ、エクソダスに向けた準備が進められており、何かとごたごたと忙しかったのが実情であった。
その為に監視の目が緩んでおり、彼らのような素人が侵入して必要なものを奪い取る隙が生じていたのだった。
だが、所詮は浅知恵だ。
実際に出来上がったのは単なるダーティーボムであり、爆発の威力は付属する爆発物依存だということを彼女らは知らない。
そもそも、核兵器に使う核物質は濃縮などを経なければならないということを知らない。
宇宙怪獣というレギオンよりも恐ろしい脅威が宇宙---空よりも高いところから来るということしか知らない。
宇宙怪獣が核兵器程度で倒せるほど弱い相手ではないということを知らない。
自分の想像する宇宙怪獣が、伝え聞いた情報と過去に見聞きした創作などの情報と交わってできた虚像であると知らない。
地球連合側が、傍迷惑なモノを抱えて近寄ってくる離反者に備えている事さえも、全く知らないのだ。
「これで全部救われる。レギオンも、宇宙怪獣も、全部倒せて、平和になるのよ」
その決意と覚悟さえ、全て誤りであることも。
さらには、ロヒ原発から放射性廃棄物を奪った時点で既に被爆しており、確実に体を蝕んでいるということも、全く知らなかった。
連邦政府も軍も地球連合も頼りにならない。レギオンなんかに手間取っている暇はない。破滅を回避するべきだ。
連邦から公表された「宇宙怪獣」の脅威に際し、あるいはエクソダスへの反発心もあって、彼女らはそのように考えて動いたのである。
宇宙怪獣に抗うこともなく逃げ出すなんて、故郷を捨てるなんて、とノエルは憤り、同じ部隊の仲間たちも賛同して行動を共にしてくれた。
だからこれは正しい行い。地球連合にも説明すれば理解してくれるはず。
この星を、故郷を捨てることなく、宇宙怪獣を打ち倒せるのだと、そう考えていた。
そんな有様が旧帝国時代の流れをくむ貴族たちが青い血を受け継ぐ貴族らしくもないと蔑むものだと、露ほども知ろうとせず。
盗み出した放射性廃棄物によって、明らかな足跡を残しながらも、世界を救うと嘯く連隊は進む。
その果てに破滅が待とうとも、どこまでも。
736:弥次郎:2024/07/27(土) 22:46:29 HOST:softbank126036058190.bbtec.net
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おいは(ry
最終更新:2024年09月14日 14:58