833:弥次郎:2024/07/28(日) 21:10:39 HOST:softbank126036058190.bbtec.net
憂鬱SRW アポカリプス 星暦恒星戦役編SS「ホーリィー・ブルー・バード」4
- 星暦恒星系 星暦惑星 現地時間星暦2147年6月17日 ギアーデ連邦領内 北部奪還地域 地球連合・ギアーデ連邦軍合同FOB
ヘイル・メアリィ蜂起事件勃発より2日。
事件は既に収束し、レベルは後始末及び政治的な処理へと移行していた。
ヘイル・メアリィの兵士達の全員が治療を終え、リハビリへと移っていたためだ。
急性放射線障害による嘔吐・脱毛・脱力感などなど、放射線の被爆による諸症状は止まっており、問題がないとみなされた。
骨髄や重要器官に及んだ放射線被ばくの影響についても、1日もかければ十分に治癒できる範疇でもあった。
事態をややこしくしないためもあり、ヘイル・メアリィの兵士は揃って治療のためとかこつけて隔離を行い、沙汰を待つ形となった。
なぜか。
それは、ヘイル・メアリィの兵士達が宇宙怪獣と戦うのだ、と息巻いている姿勢に対して連合が応じたからに他ならない。
治療が完了し、意識がはっきりし始めた兵士から事情聴取なども行ったのだが、話がなかなか通じることなく、持て余したのもある。
それへの当てつけというのもあるかもしれないが、ともかく、宇宙怪獣と戦うという志願を彼ら彼女らはしたのだ。
元より、投降をするように促した際にも、地球連合はダーティーボム程度ではなく、戦える力を与えてやるとも言っていた。
それだけの気概があるならばかなえてやった方がいいのではないかという、ある種戦争狂の面もある連合ゆえの判断だ。
こうした志願兵ならば、特にここまでの行動を起こしてまで宇宙怪獣との最前線に行くというならば、歓迎できると。
対して、ギアーデ連邦および軍ではそれをあまり歓迎しなかった。
なにせ、一般的な教育課程を経ても修正ができず、適応させることができなかった兵士未満の労働力だ。
そんな人材を使うのは危険が伴い、ひいてはギアーデ連邦が地球連合に害を与えたとみなされるのを恐れたのだ。
また、彼らは理由はどうあれ脱走兵であり、裁判にかけたうえで処分を与えなければ内外に示しが付かないというのもある。
地球連合に亡命したから無罪というのはよろしいことではないのだ。これが変な前例となられても困るわけだし。
そもそも、彼らはギアーデ連邦軍の兵士なのだ。たとえそれが兵士以下の労働力でしかないとしても名目的には。
834:弥次郎:2024/07/28(日) 21:11:24 HOST:softbank126036058190.bbtec.net
だが、これは懲罰でもある、という連合の提案の内容に、誰もが思わずうなずくしかなかった。
一体どうやって兵士未満の学力を含む能力しかない彼らを一兵卒とするのか?という問題。
それへの答えが、肉体の改造及びインプラントなどを含む処置を施すことで「使える物」とするとあれば。
ギアーデでは相応に医療も発達している。ヴァルト盟約同盟が実施しているようなインプラント施術がないわけでもない。
だが、人体をパーツのように扱い、あまつさえ機械とつながって一体化するというのは、ギアーデでは一般的ではない。
ヴァルト盟約同盟のそれも、地球連合がやるほどの極端なものではないのだから、猶更に異様さが目立った。
そしてついでのように地球連合はこれが懲罰である理由の一つを述べた。
「一度改造を行ってしまえば、メンテナンスや維持管理の面からもはやギアーデに戻ることは不可能。
そして、改造した肉体を元に戻すのも地球連合でしか不可能なのです。
彼らが望もうと望むまいと、彼らの今後は我々が事実上握ることとなります」
ギアーデの担当者は絶句した。
本当に生殺与奪の権を握っていると、そういうことなのだ。
人の身体を機械のように改造するということは、機械という遺物を入れるということは、それが無くては生きていけなくするに等しい。
彼らがそれを自力で何とかすることは当然不可能であるし、ギアーデ連邦だって不可能だ。
そもそも地球連合との間の技術力は隔絶しており、とてもではないが追いつけはしない。
供与されている技術だって、ギアーデ連邦が扱えると判断されたものがほぼすべてであったのだ。
「なるほど。無罪を得るために払う代償は大きい、ゆえに抑止力は揺らがないということですね?」
「そういうことです。そもそも体をいじること自体を忌避するのが普通でしょうからね。
大人しく軍での処分を受けたほうが、その後の人生を含めて楽だというならば、遵法精神も維持できるかと」
担当者同士の話し合いは、その実としてとても恐ろしい内容であった。
どちらかというと、ギアーデ連邦側の担当者たちの方が平然と言っている地球連合側に慄いているという感じなのだが。
「また、彼女らの治療を行った分というのもどうにか対価を払っていただく必要がありますからね」
その言葉にギアーデ連邦側担当者は身を固くした。
そもそも、急性放射線障害から回復させた治療に関しても、治療費という問題が存在している。
エクソダスやこれまでの対レギオン戦争への協力のことを考えると、支払う対価は増えない方が望ましいのだ。
途方もない借りを作っている時点でもはや誤差であるかもしれないが、それが兵の謀反モドキとあれば風聞にも関わる。
それが帳消しになるどころか、志願兵という形で活躍次第で減らしてくれるというならば、これほど大儲けなことはない。
迷いに迷って、軍は最高指揮官たる大統領へと判断を仰いだ。
ギアーデの国益のために、割り込みのような形で超法規的措置をとってしまうか。
それとも、得られる利益を無視して、現在の法規や秩序を守ることを選ぶのか。
ことは軍事に限らない、ギアーデ連邦という国家の将来までかかわる案件であった。
「体が……?」
そんなことになっているとは露知らず、ノエレ・ロヒは隔離病棟で自分の身体の変化に戸惑うしかなかったのであった。
835:弥次郎:2024/07/28(日) 21:12:38 HOST:softbank126036058190.bbtec.net
- 同日 ギアーデ連邦 ザンクト=イェデル 大統領官邸「鷲の巣」
頭を?きながら、エルンストは地球連合との折衝の途中経過を記した書類を前に百面相をしていた。
言うまでもなく、悩みの種はヘイル・メアリィの扱いである。
(迷う時点で論外かもしれないけど、本当にね)
本当にため息しか出ない。
軍の最高司令官としての立場からすれば、連合から引き渡してもらって処罰をしたい。
国家を預かる大統領としては、国益の観点から見て連合兵の一員に志願してもらい、ギアーデの借りを返してもらいたい。
理想主義者としては、ギアーデ帝国の被害者を救わなくてどうすると反発心が湧く。
個人としては、治療後の志願という体裁にしても、自国民を売る行為をしたくはない。
どうすべきかに迷い、悩み、意見なども部下たちや軍からも意見を聞いたうえで、それでも結論を出せずにいた。
正直なところ、どれをとっても利益不利益があるために、何を優先して判断するかで変わってしまうのだ。
警戒しているのは、これが悪しき前例となることである。
エクソダスや対レギオン戦への助力、技術供与などなど、ギアーデ連邦は支払いに苦労すること確定の立場にある。
とはいえ、それを効率的に返済できるからと言って人を売り渡すに等しいことをして良い理由にはならないのだ。
ともすれば貴族間での追放合戦となり、ギアーデ連邦そのものの弱体になりかねず、致命傷となる。
あるいは農奴などを替えが効くからという理由で送り出すことで利益を得ようとする動きが始まりかねない。
だが、しかして、こういう方法でも連合への貢献ができるというのは大きいのだ。
ある時払いの催促なし、物納・労働・資源などの形での支払いもOK、さらには利子なども事実上0という好条件でエクソダスなどは実施される。
新しい惑星への入植などの支援も行ってくれることを確約してくれるなど、本当に好条件どころではない。
故にこそ、それに甘えることなく対価を支払いたいのである。そして手っ取り早くできるのがこれとあれば、飛びつきたくもなるのである。
そして、別件ではあるが本質的に似通った問題もある。
地球連合の提供した医療により、傷痍軍人たちが次々と復帰している点だ。
これは軍人に限らないのだが、治療が追い付かずサナトリウムに居たり、あるいは死んではいないが生きてもいないような状態の患者が治癒されていた。
革命に合わせた動乱、対レギオン戦争、さらには一般市井において生じる傷病者など、該当者は決して少なくはない。
そんな彼らの中で軍人を、志願兵という形で引き取りたいと連合は提案していた。
治療を行った分の費用はタダで済ませるわけにもいかないので、彼らが何らかの形で支払ってほしい、というわけである。
軍や政府が支払うべき案件ではあるが、それも大変ならば個人の努力で人生を買い直してほしい、とも。
「悪くはない、悪くはないんだよ」
ただ、本当に悪しき前例になるのが恐ろしい。
連合の善意を言いことに悪意が噴き出しては困る。
そうならないようにするのが自分や政権の仕事だと分かっていても、なお懸念があるのだ。
しかし---
「いや……」
ここは果断に行くべきだ、とエルンストは自分に言い聞かせた。
「条件を厳しく……審査過程をギアーデと連合の二か所で行って……あとは経歴の調査も必要だね」
そうと分かれば、やるべきは一つだ。
ギアーデのため、国家のため、自分の理想のため---妥協して、折衷できるところを探し、決定する。
すでに彼の脳味噌は必要な政治的な行動スケジュールの組み立てを行っていたのだった。
そして、1週間ほどの実務を含んだ協議の結果として、ギアーデ連邦-地球連合間の志願兵制度の取り決めが交わされた。
ギアーデ連邦と地球連合の審査及び調査の両方を経たうえでの、狭き門をくぐる必要があるという形だ。
しかし、傷痍兵として役に立てていなかった兵士のほか、特殊な事情を抱えた貴族などが志願。
多方面に利益をもたらしつつ---しかし、不安を同時に蒔きながら、始まることとなった。
そこに、ノエレ・ロヒをはじめとしたヘイル・メアリィが含まれていたのは言うまでもないだろう。
836:弥次郎:2024/07/28(日) 21:13:58 HOST:softbank126036058190.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
これにて一件落着…とは言いませんね、むしろ始まりです。
でもまあ、SSとしては一区切りです。
他の世界の観測か、あるいは星暦惑星の別の場所の観測に移ろうと思います。
ただ、原作だとギアーデ連邦とサンマグノリア共和国に焦点を強くあてているので、
他の国の様子を描くにはちょっと情報が足りないかなぁって…
やるだけはやってみますがね。
最終更新:2024年09月14日 15:01