400:奥羽人:2024/06/15(土) 20:35:08 HOST:sp49-109-3-122.smd01.spmode.ne.jp
近似世界【日露戦争の戦車】



「これは流石にダメでしょ」
「やっぱりかぁ……」

ため息をつく戦車開発者の目の前。
そこには、避弾経始を念頭に置いて設計されたらしい傾斜装甲が目立つ構造に、コンパクトに纏められた全周旋回砲塔。快速を与える数百馬力級ディーゼルエンジンを積み、正面を睨む長砲身75ミリ砲を装備した戦車が鎮座していた。

ちなみに、西暦1902年の出来事である。

見る人が見ればT-34の親戚かと言われるだろうこの試作戦車「試製イ号戦車」は、夢幻会直営の秘密工廠で設計開発を終え、そしてつい最近製造された次世代戦車候補である。
来る日露戦争を見据えて作り出されたこの戦車は、正面に40~90ミリの傾斜装甲を採用しており、露軍の直射野砲による攻撃のほぼ全てを跳ね返せるだろう。
いや、露軍砲弾が黒色火薬を封入した銑鉄・鋳鉄性能砲弾であるとこを鑑みれば、15センチ級カノン砲弾ですら弾頭を破砕して防ぐことも可能かもしれない。
搭載する長砲身の75ミリ砲は1000メートル先の100ミリ近い装甲板を貫通することが可能であり、また命中精度も高くトーチカの銃眼を“狙撃”することも容易かった。
トランスミッションやエンジンは極めて高品質であり、その操縦容易性は後のM4シャーマンに勝るとも劣らない。
これらオーパーツじみた性能に加えて今のところ致命的な不具合もなく、また国力から鑑みた運用性も十分という高評価を得られたが、結果としては不採用だった。

その理由は……「高性能に過ぎた」からだ。

考えても見て欲しい。
T-34のレイアウトや設計というのは、第二次世界大戦における一つの最適解と言っても過言ではない。
つまりこの先進的戦車の設計は1940年代、ざっと40年先まで通用することになるのだ。
それは同時に、諸外国に対して半世紀先の「正解」を喧伝するに等しい。
技術開発競争は加熱し、日本人に向けられる疑念が増え……もしかすると歴史があらぬ方向にねじ曲げられるかもしれない。

戦車ひとつという小さなことだとしても、世界はどこでどう繋がっているか知れたものではない。
もし世界単位で技術レベルを必要以上に向上させてしまった場合、後の第二次世界大戦が全面核戦争となってしまう可能性がある。
もしそうならなかったとしても、未来知識という夢幻会最大のアドバンテージが持つ寿命を徒に減らすことに繋がりかねない。
そのような懸念が夢幻会会合より出てくるのは、当然のことだった。

401:奥羽人:2024/06/15(土) 20:36:51 HOST:sp49-109-3-122.smd01.spmode.ne.jp
そうした経緯を経て、戦車設計において幾つかの制約が課されることとなった。


  • 第一次大戦の終了まで主力戦車への旋回砲塔の採用を禁止

  • 同時期まで避弾経始を前提にした装甲傾斜を禁止

  • 搭載砲は旧式化した山砲もしくは対水雷艇砲の流用とする

  • 対歩兵および堡塁に特化し、対戦車戦闘の概念を盛り込む事を禁止




こうした制限の元で開発されたのが、日露戦争中の日本軍主力戦車となる「一号戦車」だった。

史実八九式のような車体を箱形戦闘室とし、前面にM3リーのような形で山砲もしくは対水雷艇砲を搭載。
スポンソンには全周をカバーするように複数の機関銃を搭載している。
防御力も、前面なら露軍の70ミリ級野砲の直射に耐えられる。
イ号と比較すれば流石に性能的には下の下だが、殆どが散兵線を敷いて号令で撃ち合うだけの戦場である日露戦争においては、これでも十分だとされたのだ。
横一列に並ぶ歩兵に撃ち込むだけなら、コンポジションB炸薬が充填された鋼鉄製57ミリ高勢弾でも問題ないのだ。

もちろん、カタログスペックから目を離して部品や装甲板一つでも拾ってしっかり研究すれば、そこには数十年先の工業技術が見え隠れしており、諸外国の技術者からは「こんなオーパーツじみた性能・精度の部品、どうやって作ったんだ」と絶句されることにはなるだろうが。

ともかく、こうした「横並びの概念・一歩先の性能・二歩先の製造技術」は、近似世界日本にとって開発の基本姿勢となっている。

402:奥羽人:2024/06/15(土) 20:38:15 HOST:sp49-109-3-122.smd01.spmode.ne.jp
以上となります。転載大丈夫です。
近似世界の日本は制約を受けた結果として製造技術の優位性に注力していますので、例えば同じ厚さの装甲板を同じ砲で撃ったとして、欧米製の装甲は貫通されても日本製のは防ぎきる……なんてこともあるかもしれません。
また、同じ口径の榴弾でも日本軍の方が殺傷確率で倍はあることもあり得ます。

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最終更新:2024年10月01日 18:57