713:モントゴメリー:2024/07/07(日) 01:18:13 HOST:124-141-115-168.rev.home.ne.jp
日蘭世界SS——とある田舎娘の物語(後編)——
記念艦ロレーヌの所在地は、アフリカ州はチュニジアのビゼルタ港に決定した。
ここは地形的にチュニジアの“北端”と呼べる立地であり、紀元前1000年頃にはフェニキア人により港と運河が築かれ、地中海における交易の要地となった歴史を持つ。
そして19世紀末に当時のフランス共和国はこの地を軍港として整備することにした。
植民地獲得競争の相手であった英国の勢力圏を分断するのに最適な立地だったのがその理由である。
当初は水雷艇部隊を運用できる程度の規模であったが、第一次世界大戦前には6隻の戦艦・巡洋艦を同時に修理できる能力を有する主要軍港の一つとなった。
その威容から「アフリカのトゥーロン」と呼ばれるほどであり、第4海軍管区司令部もこの地に置かれた。
しかし、戦略環境の変化がこの地には逆風となる。
20世紀に入ると、地中海の仮想敵がイタリアとなった。そしてビゼルタはイタリア半島から近すぎるのである。
当時の爆撃機でも十分に往復できる距離であるため、フランス海軍は司令部機能の残しつつも新たな根拠地を整備することを決定。
これにより1934年にアルジェリア西部にメル・セル・ケビル軍港が開設されることになる。
こうして時代から取り残されたビゼルタであるが、良い面もあった。
第二次世界大戦ではその重要度の低さからあまり攻撃を受けず、司令部施設はともかく港湾設備はほぼ無傷で残された。
(これは占領した後兵站拠点として活用しようとしたOCU側の思惑もあった)
戦後は割譲されることもなく、フランス領土に復帰。
軍港としても影はほぼ無くなり、中規模の交易港として細々と過ごしていた。
何故この地がロレーヌの安住の地となったのか?
「鉄人」ジョルジュ=ビドー大統領はここでも冷静であり、冷徹であった。
彼はロレーヌを“観光資源”と見なし、アフリカ州経済の起爆剤としようとしたのである。
その視点で見れば、既に十分に発展しているダカール等よりもよく言えば伸び代がある(悪く言えば寂れている)ビゼルタは最適な候補であった。
また同地ならば、既に不良債権と化しつつある大型ドックなどを活用することもできる。
海軍はこの候補地選定に不満であったが、「ロレーヌの解体回避」という戦略目標は達成しているため、これ以上政府と衝突するリスクは取らなかった。
こうしてロレーヌはブレスト港で(海軍が全力を挙げて準備した)退役式典を行った後、自力航海でビゼルタへ向かい、もうほとんど使う者がいなかった軍用大型ドックに腰を下ろし記念艦として再出発することになった。
なお鉄人の思惑通り、その後ビゼルタは観光客(参拝客と言う方が適切か?)が例年FFR中から押し寄せるようになり、交通インフラも整備され東部アフリカ州交通の一大結節点となるまで成長しアフリカ州発展に大きく寄与することになる。
714:モントゴメリー:2024/07/07(日) 01:19:54 HOST:124-141-115-168.rev.home.ne.jp
記念艦となったロレーヌの生活は平穏なものであった。
来館者も、当初は海軍関係者くらいしかいなかったほどで閑散としたものだったのである。
このまま“歴史”として忘れ去られるのかと思いきや、時の女神はまだロレーヌを手放そうとはしなかった。
最初の変化は来館者の増加であった。それも特に若年層が目立つ。
これは、リシュリューを頂点とするFFR国教(当時はまだ正式な国教化はしてないが)が浸透してきた戦後第3世代以降が台頭してきたことに由来する。
彼ら彼女らの世代は、戦前のロレーヌやサウスダコタ級に対する悪評に縛られない目でロレーヌを見ることができた。
そしてその目で歴史を学んだ結果、ロレーヌの「武勲」を偏見に邪魔されずに評価することができたのである。
やがて、ロレーヌの異名は「田舎娘」から海軍関係者たちが呼んだ「傷だらけの不沈艦」へと変わっていった。
そしてロレーヌの評価を決定づける“事件”が起こる。
国防大臣——戦車乗りとして令名を馳せ、フランス史上最年少の大臣となり有名になった女傑——が現役閣僚として初めて記念艦ロレーヌを訪問したのである。
「『傷だらけの不沈艦』殿にご挨拶に伺いました」
と教本に載せたくなるような完璧な敬礼(陸軍式なのはご愛嬌か、はたまた彼女の矜持か)を捧げながらロレーヌに語りかける彼女の姿は、ニュース映像としてFFR全土に放映された。
彼女の同僚にして政敵である代議士たち——第2世代や第1世代——は今一つその行動の真意を測りかねていた。
しかし、これ以後、彼女は第3世代たちと海軍関係者からの圧倒的な支持を獲得することになる。
彼女はこれらの「戦力」を基に大統領選挙へ出馬、見事フランス連邦共和国初の女性大統領にして最年少大統領となった。
「謀将大統領(命名BC)」の名に恥じない船出であるが、ダシに使われた形のロレーヌもこれを契機として完全な名誉回復がなされた。
さらに大統領となった彼女は、もらった『お小遣い』への感謝の意を表することも忘れなった。
彼女は「我らが指揮官」艦上で大統領就任式を終えた後、パリのリュクサンブール宮で議会に対し所信表明演説を行った。
その後「先生」艦上で士官学校生徒たちに講演を行った後、彼女が向かったのはビゼルタのロレーヌだったのである。
ここにロレーヌは、現世においてリシュリューとジャンヌ・ダルクに次ぐ権威を確約されたのである。
(なお、この行脚ルートは後にFFR大統領就任時の定例となる)
21世紀現在の記念艦ロレーヌは、人の波が途切れることのない人気施設となっている。
FFRに存在するほぼ全ての学校では修学旅行でここを訪れるほどである。
また“現存する最後のサウスダコタ級戦艦”としての学術的価値も高く、海外からの訪問客も多い。
(日本の旧アイオワこと松島は、「松島型戦艦一番艦『松島』」と呼ぶべき存在となっており、もはやサウスダコタ級の面影は無かった)
ロレーヌはもはや田舎娘と蔑まれる存在ではなく、FFR国民の誇りとなったのである。
715:モントゴメリー:2024/07/07(日) 01:21:05 HOST:124-141-115-168.rev.home.ne.jp
以上です。
ウィキ掲載は自由です。
霧の咆哮氏のエラン・ヴィタールに応えるために、何とか大急ぎで完成させました。
ロレーヌ三部作、これにて完結でございます。
ロレーヌ「生まれ変わったリシュリュー、素敵ね!…もうこの『田舎娘』の出る幕はないわね」
↓
ロレーヌ「え、記念艦?そんな、わ、私なんかのためにそんな費用をかけなくとも…」
↓
ロレーヌ「平和ね…記念艦と言っても来てくれるのは戦友たちだけだし。…やっぱり私なんて…」
↓
ロレーヌ「なんだか最近お客さんが増えたような…?まあ、にぎやかなのは楽しいですわ」
マリーちゃん「おb…お姉さま!『お小遣い(若者たちからの支持)』下さいな♪」
ロレーヌ「ふぇっ!?」
↓
マリーちゃん「ありがとうございましたおb…お姉さま!!お礼にお肩お揉みしますわ♪」
ロレーヌ「ふぇぇぇ!?」(FFR国教における現世3番目の権威)
(マリーちゃん、『お母さま』からだけではなく、おb…お姉さまからもお小遣いをゲットするの巻)
「ねえロレーヌ?貴方、現役復帰するつもりはない?
記念艦というのも意義深い勤めだけど、ずっとドックの中にいたら退屈でしょう?」
「…そ、そんなのムリよリシュリュー。私は貴方のような改装も受けてない老兵なのよ⁉今の舞台に私の出る幕は無いわ」
「『老兵』だなんて、そんな言葉私よりも艦歴が若い貴方には似合いませんことよ?
(あなただけ引退して、悠々自適な記念艦生活なんて認められるものですか…!!)」
「そうですわ、改装なら今からでも遅くはありませんし
(民間船の私が現役続行してるのに、戦艦の貴方が“一抜け”するなんて許さないわよ⁉)」
「ひぇぇぇん、ジャンヌ・ダルクもイル・ド・フランスさんも目が怖いよぉ……」
「あらあら♪」
「(…イル・ド姐さま達お三方と気軽に談笑できる時点で、ロレーヌさんも大概なんだけどなぁ)」
「「「(我々戦後生まれからしたら、ロレーヌ殿も間違いなく『伝説』の中の住民ですよ…)」」」
729:635:2024/07/09(火) 00:12:11 HOST:119-171-252-219.rev.home.ne.jp
モントゴメリー氏、乙です。
何となしに浮かんだネタにて感想代わりで候。
19XX年、フランス連邦共和国アフリカ州ビゼルタ
「今日もいい天気ね…。」
元整備ドックに記念艦として腰を落ち着けた戦艦ロレーヌの艦魂は退屈ながらも平穏な日々を過ごしていた。
あの狂乱と熱気、鉄と血に満ちた戦争と辛かった暗黒の時代もう遠い日々、もう海を駆け弾雨をくぐり抜けることは無いがそれも満足していた。
この国の艦として生まれ、この国を残すことに尽力し最後は鉄屑としてではなく海軍の栄光を残す記念碑として余生も悪くはない。
ただ心残りは姉妹のことであろう。大半の姉妹は水底に沈み或いは戦後解体された上に自分らの艦級の評価は散々、名誉も何も無い。
そんな中、今日という日に何故か集まった戦友らの騒がしい声が艦内から聞こえる。
風に乗る人々の声を聞けば日本の戦艦…それも”戦わぬ殊勲艦”がここFFRの港に寄港するという。
日本の艦船の寄港は無かった訳ではないが戦艦という国を代表する艦艇の寄港など今まで無かった…ましてや”戦わぬ殊勲艦”など聞いたことがない。
そんなことを考えていると遠くより汽笛が聞こえその方向を振り向くと太陽の旗を掲げる一隻の戦艦が居た。先程の汽笛は彼女か…。
そしてその汽笛に応える様にロレーヌに備え付けられ今日に限り通電された信号探照灯を戦友が操作する。
『ワガナハロレーヌ。ワガシマイノキコウヲカンゲイス。』
読んだ信号にまさかとロレーヌの身体が震える。本当なのか…夢ではないのか…。
その戦艦の返信を見た瞬間、ロレーヌの頬に熱いものが伝った。
『シマイノカンゲイヲアリガタクオモウ。ワガナハマツシマ…カツテノナハサウスダコタキュウセンカン【アイオワ】デアル。』
731:モントゴメリー:2024/07/09(火) 22:06:51 HOST:124-141-115-168.rev.home.ne.jp
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ロレーヌ「アイオワ…あなたも苦労したのね…こんなに姿が変わってしまって……。
ごめんなさい…あなた(サウスダコタ級)だとわからなかったわ(号泣)」
旧アイオワ「…エエ、ソウネ。
(アイルランドの民謡風な勘違いを受けてるわ……。)」
最終更新:2024年10月01日 19:20