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憂鬱SRW アポカリプス 星暦恒星戦役編SS「人形と鎖蛇」


  • 星暦恒星系 第3惑星「星暦惑星」 星暦2147年8月23日 ロア=グレキア連合王国領 王都 アルクス=スティリエ 研究所


 研究施設にある作業台の上で、一体の人造妖精「シリン」が目を覚ます。
 シリン一番機「レルヒェ」が、脳機能が活性化され、その義体へと火が入ったのだ。
 周囲に並び立つ機器類が調整を行った人間の手により動かされ、記録や計測を開始する。

「どうだ、6歳児……いや、生まれ変わったから0歳児か」

 起き上がってすぐレルヒェの目がとらえたのは、レルヒェを起動させた主君の姿だった。
 瞬きをして、少し顔をしかめ---顔をしかめられることに驚きを感じ---驚いたことに驚くという混乱が生じた。
しかし、彼女は人の形をしているが、人ではないものだ。その混乱を即座に治め、自分の新機能を再認識することで立て直す。

「殿下」
「ふん、記憶の連続性に異常はなし。
 発声機能は問題なく稼働中---さて」

 感慨もなく、ひたすらに学者や技術者として、彼女の主君たるヴィーカは問いかける。

「残響は聞こえるか?」
「---いえ、全く。聴覚機能にも問題はございません」

 残響---地球連合が言うところの死者の声、その残響をシリンは受け取っていた。
 それはサンマグノリア共和国が制圧され、中に籠っていたモノがあふれ出てしまったことにも由来する。
濃縮された負の念。人工的に作られた壁の中で行われた呪詛の蠱毒。それが出たことで、同じく死者に由来するシリンは影響を受けたのだ。
不調をきたすだけでなく、任務などを放り投げてサンマグノリア共和国へと矢も楯もたまらずに走り出そうとする個体までも出現したのだ。
サンマグノリア共和国での折衝を行う役目も兼ねていたヴィーカが本国へととんぼ返りし、シリンの調整と治療に取り掛かったのも無理もない話だ。
地球連合からの技術者たちも加わり、ロア=グレキア連合王国で運用されていたすべてのシリンへのアップデート。
連合王国軍に編成されているフェルドレスのおよそ半数がシリンを前提とした「アルカノスト」。
つまり、主戦力のおよそ半分が一時的に使えなるかトラブルを起こし、軍事定義上の全滅を超えたのだった。
その間を地球連合からの派遣軍によって補い、突貫作業でシリンの改造と改修を済ませたのだった。
当然だが、原因こそ究明できてもそれへの対策を実際に行うのは楽ではなく、地球連合も加わっても一週間ほどを擁していた。

「調整はうまくいったか」
「お手数をおかけしました」
「構わんさ」

 激務であったはずのヴィーカは、しかし、興奮を隠しきれていなかった。
 地球連合から得たAI技術や人工知能に関する技術や知見、さらにはそれを搭載する義体の技術。
そのどれもが異能の発露者であるヴィーカをして、全くの未知であり、途方もない刺激であったためだ。
 結果として、フェルドレスを無理やり人のサイズに押し込んで完成していたシリンの義体は、サイズはそのままに改造がなされた。
人工筋肉の導入で人間以上の膂力・脚力・腕力を備え、それでいて活動時間も従来の何倍にも跳ね上がったのは序の口。
処理系に関しても電算機などを追加で搭載することにより、歩くコンピューターといっても過言ではない処理能力を得ている。

160:弥次郎:2024/08/04(日) 20:33:17 HOST:softbank126116160198.bbtec.net

(ますます人の形をした何かになりつつあるな)

 ヴィーカも自覚していることだが、人造妖精「シリン」は忌避感を招くものだ。
 レギオンの中枢系の元になったマリアーナ・モデルから発展したものというのもあるが、人に近いからこそ嫌悪感を抱くものである。
まして、その人の形をしたものが人以上の力を持っていると分かれば、忌避感はさらに上乗せされるであろうことも。

 そも、今回のシリンの不調に始まった一連の対応については、少なからずシリンの処遇にまでかかわる案件にまで及んでいたのだ。
今回のようなことが起こったのだから、シリンを積極的に投入するのはやめる、あるいは全廃すべきとまで。
その大本であった第三王子はロア=グレキア連合王国の王とその周辺の人物、そして地球連合に睨まれて口をつぐんだ。
 王国からすれば、シリンという戦力は対レギオンにおいて重要な戦力であり、今後も活用の見込みがある道具。
今後の地球連合へのエクソダスなどへの見返りを稼ぐためにも、人手はなんであっても欲しい。
 連合からして、戦力のえり好みはしている暇がないとも苦言を呈された。
 そうであるからして、第三王子の言は封殺されてしまったのだ。

(ともあれ)

 そんな些事より、ヴィーカの興味は目の前で体の調子を確認しているレルヒェの方に移る。
 連合からの技術供与とレクチャーを経たうえで、自らの手で調整と改装を施したのだから、どのような結果になったのかが気になる。

「どうだ、新しい体は?」
「人間とは、ここまで余計な機能がついているのですな」
「苦労して取り付けた本人への感想がそれか?」
「はい」

 感情表現に付随する顔の表皮や筋肉、さらに感情に合わせた声の変調など、人に近づけるために追加された機能は多い。
外側も内側も人のそれに近づけることで、多機能化や汎用性などを拡張させた形なのだ。
それをこの0歳児はあろうことか余計なと言い切ったのだ。

「まあ、そういうのも無理もないか。
 だが、慣れておけ。それが必要になる」

 だが、それをヴィーカは平然と受け入れた。
 元よりそういうものとして扱い、シリンとはそのように行動するように規定されているのだ。
元あったものに追加すれば、それがプログラム上は余計な機能と取られてもおかしくないのも事実。

「ドレスも新調してあるからな、確認しておけよ」
「お役御免ではないのですね」
「当然だ。レギオン共はまだ動いているのだし、エクソダスの邪魔をされては困る」

 国王および第一王子の指揮の元、確定となったエクソダスへの動きはこの国でも加速している。
 そんなこともお構いなしにレギオンは各方面で散発的に戦闘を仕掛けてきており、それへの対処は急務だったのだから。

「準備はいいな」

 その問いに、どこかの誰かに似た笑みを浮かべ、レルヒェは返答する。

「御意に、殿下」
「顔の表情筋は外しておくべきだったか……」
「殿下!?」

 ともあれ、この日からロア=グレキア連合王国の戦線にはシリンが続々と復帰。
 改装を済ませたアルカノスト共々、戦線に参戦することとなったのであった。

161:弥次郎:2024/08/04(日) 20:34:30 HOST:softbank126116160198.bbtec.net

以上、wiki転載はご自由に。
シリンの改造を行った殿下たちでした。
なお、ヴィーカはちょっとどころかかなりハイになっていますが平常運転ですのでお気になさらず。
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最終更新:2024年10月12日 13:05