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憂鬱SRW アポカリプス 星暦恒星戦役編SS「それは消えず、巡るのみ」


  • 星暦恒星系 第3惑星「星暦惑星」 現地時間星暦2147年7月27日 サンマグノリア共和国領「グラン・ミュール」城壁


 夜の帳が地表を覆い隠し、それでも、サンマグノリア共和国領「グラン・ミュール」は賑やかであった。
 殊更にオカルト関係者は不夜の体制で活動を強いられていた。
 故の不夜城であった。
 表の人間だけではない、裏の世界に生きるオカルト関係者が日夜活動をしなくてはならない状態にあった。
範囲は、何度となく行われた浄化作業によって沈静化したかと思われた85区および86区全てが該当。
押し寄せるのは途方もない数の悪霊や死者の残響、果ては物理的なスケールまで濃縮された霊魂。
死者のざわめきが、大合唱どころの話ではない。変質して物理的にも人を苛むレベルになっているところさえ存在していた。

「Uruz……naudiz!」

 虚空に刻まれたルーン文字が、力となって発現する。
 力、そして束縛。
 悪感情と恨みを蓄えた結果、醜く膨れ上がって生まれた10メートルを超える巌のような人型の悪霊がその力に捕らわれた。
術者の姿を捉え、見境なく破壊を振りまこうとして、阻害され、地面へと転がったのだ。

『UUUuuuusssaaAAAAFFFFFaaaaaa!』

 複数本生えている腕も残らず拘束されているが、それでももがき、ルーンによる拘束を振りほどこうと暴れている。
当たり前であろう。この怨霊に濃縮されているのは何百人か何千人かの感情や魂の一部などだ。
自然に集まって濃縮され、さらにそれに吸い寄せられ、ここまで大きくなった名無しの死者(ジョン・ドゥ)。
 諦めたかに見えたが、そう簡単ではない。
 新たに腕が生え、足が生え、おまけに口や牙が生まれ、より醜悪な姿へと変わっていく。
 もはや人ではなく、獣かあるいはそれ以下へと堕ちている。
 再び立ち上がろうとしたところで、再びルーンが叩きつけられた。
「力(ウルズ)」の重ね掛けと内向きの「防御(エイワズ)」の組み合わせが、術者の手により檻のように編まれ、再び縫い付けたのだ。

「醜いものね……」

 カツ、と巨大な鎌の石突が地面をたたく。
 鎮魂の曲刃---ブレンヒルト・シルトの持つ概念武装。
 刃をかざすだけで、その獣は怯む。
 鎮魂の曲刃とは単なる武装ではなく、死者やその魂の行きつく先である冥府の具現体。携行できる地獄といっても過言ではない。
死したものがたどり着くべき場所であり、逃れることは許されない、まさに天敵とすら呼べるものだからだ。
 そして、使い手であるブレンヒルトはその手のエキスパート、如何に扱うかを心得ている人間だ。
ここまで厄介であるならば、最早強制的にでも冥府に放り込んだ方が速いかもしれないという判断さえも。
物理的に存在し、目視さえもできるレベルとは中々に大物だ。これから雪だるま式に大きくなるのも目に見えているレベルなのだし。
 だからこそ、とブレンヒルトはルーンを刻む。

「逃がさないわ」

 なおも暴れようとする相手を、ルーンで編み上げた檻に「成長(ベルカナ)」を与え、増強する。
 もはやアイアンメイデンの如き、内側を責めるそれに一切の容赦はない。
 中で暴れても、逆にそれが悪霊自体を傷つけ、苛むのだ。

523:弥次郎:2024/08/10(土) 21:00:58 HOST:softbank126116160198.bbtec.net


 その様を見ながら、ブレンヒルトは一人呟く。

「死してもなお、まだ残り続けるだなんて。
 恨み、嘆き、あるいは---怒り?白系種(アルバ)の?」

 その時、鎮魂の曲刃を持つブレンヒルトは、意外な感情を検知した。
 それは有色種ではなく、この国では唯一人間とされている白系種の思念あるいは感情だった。

『俺たちばかり死んでいる……』
『なんで有色種はのうのうと生きているんだ……!』
『あいつらのせいで……!』
『裏切り者……』

 ああ、とブレンヒルトは納得を作った。
 サンマグノリア共和国は何も最初から隔離政策とエイティシックスの投入を行ったわけではない。
ギアーデ帝国の宣戦布告とレギオンの投入に対し、当初は正規の手順に従い、正規軍を投入して対処を試みた。
そして、その結果---わずか一週間で正規軍は致命的以上の打撃を受けたのだ。
サンマグノリア共和国軍は当然ではあるがサンマグノリア共和国国民から志願した兵士で構成される。
同国における白系種と有色種の人口比は8:2。必然的に戦死者は白系種ばかりとなる。

(要するにフラストレーションや責任を、主観的且つ他責的な思考の元にぶつけた、と)

 正規軍でさえそれで、尚且つ後方の政府や国民がそう考えたのも無理はない。
軍人たちとて国民だ。家族がおり、友人がおり、知り合いがいる。
コミュニティにおける人のつながりとは、人によってスケールに差こそあれ、複雑に絡み合って国家形成の一翼を担うものだ。
上は政府、下はホームレスまで、等しく存在している。
そんな彼らが、家族や友人の死を受け入れることは果たして簡単だろうか?
そんなわけがない。どうあがいても遺恨になる。
前線でさえ他責的になったのだ、一気に末期戦になったとあれば後方さえも飲み込まれるだろう。
 そして、その感情を抱えている国民は、当然だが投票権を持ち、あるいは政治に口を出すことができる。
それが「自分達(白系種)」という括りで形成された時、エイティシックスへの責任の押し付けが大手を振って開始された。

(あまり知って気持ちのいいものじゃないわね)

 一先ずはそれを端末に記録しておいて、情報としておくことにする。
 恐らくはギアーデ帝国の宣戦布告直後に始まった戦いで死んだ兵士たちの証言だ、根拠などにはなるだろう。
 そして---

「逝きなさい、死者のたどり着くべき所へ」

 刹那の斬撃が、その亡霊を刈り取った。
 いかに悪霊と化そうとも、結局はルールに縛られている。冥府の具現の刃には根本的に相性が悪い。
刃に切られ、その奥に眠る冥府へと吸い込まれていくのに抗うことはできない。

『まだ……あいつらが……!』
『仇を……!』
『お母さん……お母さん……』
『おなかがすいた』
『へっ、ざまあみろ……』

 吸い込まれるときにも、残響が生まれる。
 嘆き、怒り、悲しみ、憎しみ、あるいはそれらをひっくるめた負の念。
 あるいは---呪いだ。

「困るわね……」

 呪いに果てはなく、感情は流転し、呪いは蔓延る。そして、悪夢は巡り、終わらない。
 どうあがても、一度生まれたモノを殺しきるというのは難しいのだ。
 やがてそれは深淵、あるいは海のようなモノとなり、どうにもならなくなる。
 浄化云々の話ではない、海の水を砂糖で甘くしようとするような試みに等しいのだ。
 とはいえ、直近に迫った他国の武力による制圧までに一時的にでも大人しくさせなくてはならないのがオカルト関係者の責務だ。
表の人間に被害が出ることも困るし、裏の世界の露見につながりかねないから困る。本当に、困ることだらけだ。

「行きましょうか」

 敢えて口に出して、次の獲物を求める。
 今宵はまだ長く続きそうだった。

524:弥次郎:2024/08/10(土) 21:01:28 HOST:softbank126116160198.bbtec.net

以上、wiki転載はご自由に。
リアル系も書いていたので、オカルト系もちょっと書こうかなと思い立ったので。
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最終更新:2024年10月12日 13:12