151 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/09/05(木) 20:41:46 ID:softbank126116160198.bbtec.net [6/214]

日本大陸×プリプリ「The Melancholic Handler」外伝「空と地と鉄火にて」


  • 西暦1853年11月 クリミア半島北部 ヴォインカ周辺


 冬を間近に控え、クリミア半島とその北部ウクライナは血の赤に染まっていた。
 それは南進してくるロシア帝国軍をアルビオン王国の王立空軍が叩いて回ることで発生していた。
地上戦ではロシア帝国軍に不利なのはわかった。ならばこそ地上ではない、空からの暴力を以てねじ伏せてやろうというのがアルビオンの選択であった。
セバストポリがアルビオンの勢力下にあり、そこに陸港が整備されたことで、航空艦艇の活動範囲がより広くなったことによるものである。
 ゲリラ的に、あるいは海軍の伝統を引き継ぐ空軍に言わせればサーチアンドデストロイの原則に則り、彼らは多くの目標を破壊して回ったのだ。

 しかし、後の資料や検証などは、アルビオン王国軍の死傷者は空軍による作戦領域の拡大に伴って死傷者が増えていったことを示していた。
ロシア帝国軍が手出しをできず、柔らかい横腹を見せるしかなかった後方地域において、なんと攻撃側の死者が増えてしまっていたのだ。
無論のこと、ロシア帝国軍は人員はもちろんのこと、装備や施設などを破壊されてしまったという損害はある。
 だが、双方の被害を並べて比較した際に、どうやってもアルビオン側の損害の大きさに目が行ってしまうのである。
戦争全体から見れば一時の結果、されども結果である。その時に間違いなくアルビオン王国軍は兵士を多く殺されてしまっていた。
 そう、例えばクリミア半島の付け根、ヴォインカ周辺で迂闊にも単独で「現地収穫」に勤しんでいた強襲装甲揚陸艦とその兵士たちのように。

「早く船を出せ!」
「やってる!」

 強襲装甲揚陸艦のブリッジや船内は大わらわだった。
 誰もが楽な任務だと高をくくり、肥沃な土地であるウクライナから収穫され、戦場へ送られる糧食などを奪い取るなどしていたのだ。
勿論、ロシア軍から鹵獲することは大きな意味が存在したが、それにしたって悠長すぎた。

「全員乗ったか!?」
「まだ負傷者が残っている、まだ出すな!」
「くそったれ!」

 誰も彼もが上を見上げていた。
 独特の音とともに、空から死神が迫っているとあれば当然だった。
 そう、迂闊にも安全な装甲艦から離れ、現地調達した荷物の運搬に熱中していた兵士たちにとっては。

「っ!?来るぞ!」

 その警告に覆いかぶさるように、連続した銃撃音がその場にいたアルビオン将兵の鼓膜を叩く。
 それは2門の8ミリ重機関銃の砲声。
 地面が耕され、退避が遅れた将兵をあっけなくミンチにしていく音。

「なんだよ、あれは!」

 そう、ロシア帝国軍の運用する航空機Sg-20による攻撃だ。
 10を超える数が飛び交い、代わる代わる銃撃を浴びせたり、爆弾を落としたり、はたまた吊り下げてきた岩を落としたりと好き勝手にしている。
地上に這いつくばるしかないアルビオン将兵たちは攻撃におびえ、必死に隠れようとするしかない。
攻撃が完全に奇襲だったことも相まって、既に100名近い将兵が負傷していた。
強襲装甲揚陸艦にしても、爆弾が弱くならざるを得ない場所を破壊し、あるいは火災を引き起こすなどしていた。

「もう駄目だ、速く逃げよう!」
「負傷している味方を見捨てるつもりかよ、まだ助けられる!」
「そんなことをしている間に全員なぶり殺しだぞ!」

 対立しあう兵士や将校たちは、それぞれが正しいことを言っていた。
 現状最大多数が生き残るにはさっさと逃げ出すことだ。
 だが、負傷してまだ生きている将兵を見捨ててよいわけでもない。
 最終的には、ロシア帝国軍のSg-20がおおよその武器を使い切って撤収していったことで難を逃れることに成功した。
負傷した兵士も、機関銃を受けてミンチになった兵士の死体も、目標であった食料の回収も行うこともできたのだ。

 だが、逆に言えば、相手が引き上げていくまでアルビオン将兵は何もできなかったということだ。
歩兵たちはライフルで航空機を攻撃しようとしたが、当然だが当たるはずもなく、無駄骨に終わった。
逆に目立つところに姿をさらしてしまったがために、そんな間抜けな歩兵目がけた制圧射撃が襲い掛かる始末だったのだ。
よしんば命中したところで、Sg-20は複葉機で軽量な木材や布張りなどで構成されているために、弾丸が突き抜けて撃墜には至らないこともある。
ならば乗っているパイロットをピンポイントで狙うか、はたまたエンジンのいいところを貫くという奇跡に近しい何かを起こす必要があった。
というか、アルビオン将兵の装備しているライフルは高速で飛ぶ航空機など想定していないし、将兵もそんな訓練など受けていない。
狩りで鳥撃ちなどをするのとは次元の違う話なのだ。

152 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/09/05(木) 20:42:21 ID:softbank126116160198.bbtec.net [7/214]

 しかも、攻撃によって死んだ将兵は多くはないが、少なくもない。
 陸軍の将兵に限らず、航空艦を動かす空軍の空兵までも負傷あるいは死亡したというのが痛すぎたのであった。
一方的に相手を狩ることができると、楽な任務だと楽観視していた将兵は、ようやくここが戦場であると理解したのだ。

 これをはじめとした、孤立している艦艇や着陸している艦艇および将兵への、航空機による襲撃はかなりの成果を上げることになった。
当初こそ「空を飛ぶものがロシアにあるものか」と現地指揮官は楽観視していたのだが、やがて被害が積もるに従い認めざるを得なかった。
 後方だけではなく最前線---未だに一進一退の攻防が繰り広げられているクリミアでも航空機投入が始まって被害が出たことも決定打になった。
陣地や地形を飛び越えるのは航空艦だけではない。まして、クリミア半島でにらみ合う両軍の彼我の距離は非常に近い。
そうなれば編隊を組んだ航空機がアルビオン側の後方にまで浸透して荒らしまわるなど不可能ではなかったのだ。

 この後方への攻撃は実にバリエーションに飛んでいた。
 ばらまくのは爆弾や銃弾だけではない。塹壕戦や要塞内部での戦闘で使われたカルトロップや汚物を詰め込んだ容器などもばらまかれた。
カルトロップは非殺傷ではあるが、地味にダメージを歩兵や馬などに与えるものであるのは言うまでもない。
汚物だって立派な「兵器」たり得た。放置しておけばそこから用意に病気が広まり、衛生環境を悪くしてしまうのだから。
あるいはもっと原始的に岩を落っことすというのもやってきた。高高度から降ってくる岩は容易く人を殺傷できるのだ。
道が岩でいっぱいになるだけでも、それをどかして道を整えるという仕事が発生し、その分だけ輸送が滞る。

 航空艦にしても、地上に停泊中であれば容赦のない攻撃の対象となった。
寧ろ、積極的に狙っていたくらいだ。爆弾を投じ、あるいは銃弾を叩き込み、稼働状況を悪化させる。
この頃のアルビオンの航空艦は上部装甲が薄いということもあり、巨大な杭を落っことして破壊を試みるケースもあったほどに。
現地で修理できるレベルならばまだいいが、どうしようもなくなれば複数の艦艇で曳航し、本国に戻す必要だってある。
これもまた、アルビオンのリソースを分断させ、浪費させることにつながった。

 航空艦の蒸気機関に必須の水を貯える貯水槽や石炭の保管庫も当然ターゲットになった。
航空艦の数に比例し、消費する燃料や水の量は増えていく一方だ。兵士達だって生きるために水や燃料が必要だし、需要は留まるところを知らなかった。
特に真水というのは給水艦が運んでくるしかない、非常に貴重なものであったから猶更に攻撃は堪えた。
黒海は内海とはいえ海であるし、雨水も潤沢とはいいがたいし、何より水を介した病気も怖い、というわけである。

 ここまで戦争が続いてきて、ようやくアルビオン将兵、そして本国の戦争指導者たちは気が付き始めていた。
 この戦争は、過去のものとは違う。
 何が、と言われればすべてだ。
 ルール・アルビオンの元にすべてが容易く粉砕できていた時代は終わっていると、軍の会議でも言われるほどに。
ロシアが地中海というアルビオンの海に手を突っ込もうとしてきたからには勝機があるとは考えていたが、ここまでとは思わなかったとも。
あるいは---世界帝国を名乗りながら、その実としてまるで進歩などをせず、怠惰に過ごしていたのではと、戦争中にも拘らず囁かれるほど、彼らは動揺していた。
 そして、戦争の被害の大きさに密かに胃を痛め、あるいは戦争の変わりように戦々恐々としていた彼らに、とびっきりの悲報が飛び込んできた。

  • ロイヤル・サブリン級フリゲート ロイヤル・サブリン、撃沈される。

 合わせるようにして、ロシア帝国のプロパガンダは、不沈であったアルビオンの航空艦を撃沈したと大々的に報じた。

「もはや空はアルビオンだけのものにあらず」

 自信に満ちたその言葉は、そしてその事実は、アルビオンの根幹を寒からしめるのに十分すぎるほどの威力と恐怖を伴っていたのだった。

153 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/09/05(木) 20:44:23 ID:softbank126116160198.bbtec.net [8/214]

以上、wiki転載はご自由に。
ああでもない、こうでもないとやり直して何とか形に。

ここからは婦長から視点を外し、名もなき兵士達や将校たちの戦いとなります。
ついでにクリミア戦争を畳みにかかりたいですね…
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最終更新:2024年11月02日 19:27