382:弥次郎:2024/09/21(土) 22:17:12 HOST:softbank126116160198.bbtec.net
日本大陸×プリプリ「The Melancholic Handler」外伝「空と地と鉄火にて」4
世界は恐怖した、アルビオンの蛮行に。
ロシア帝国首都たるサンクトペテルブルクへの無差別砲爆撃による殲滅戦---否、もはや虐殺。
航空艦隊を、行きと帰りの2回にわたる空中給炭と給水を行うことで通常発揮できる距離以上の長距離航行で送り込み、敵国の首都を狙い撃ちにする。
戦争というのは殺し合いだ、その方法が多少変わった程度とみることも可能ではあった。
だが、限度というものはどこかしらにあったのが通例だったものを、一気にぶち破ってしまったものだったのは否定しきれなかった。
前提として、この世界では王権神授説が未だに現役であった。
史実において決定的に否定されたと言えたのはフランス革命においてブルボン家が処刑された時であろう。
その時は余りにもやり過ぎではという声が上がったし、天罰が下ると本気で恐れていたのだからどれだけのものだったかは言うまでもない。
あるいは、この世界線において日本の経済学に影響を受けたマルクスが、ロンドンではなく日本で共産党宣言をしたのも、それに抵触することを恐れての行動だった。
そんな中において、王侯貴族もいる首都を無差別攻撃して虐殺したというのは、途方もない悪逆非道と認識されていたのだった。
幸いにしてニコライ1世およびアレクサンドル2世は無事であったが、両者ともに負傷をしたし、王族関係者には死傷者が出る始末。
止めにニコライ1世はこの時の負傷が祟ったのか、戦後交渉の最中に死亡するという最悪の事態にまで発展した。
「間接的にしろ、神より王権を賜ったニコライ1世を死に追いやったアルビオンには、ソドムとゴモラの如く天罰が下るであろう」
そのようにロシア、そしてアルビオンの国民でさえもささやき合ったほどに、その影響は大きすぎた。
実際、このサンクトペテルブルク空襲---アルビオン呼称「オーバーホライゾン作戦」は無差別攻撃であった。
それこそ、史実における東京大空襲を超える量の爆弾を投下し、さらには砲撃までも加えていったのだから、どれほどの被害かは言うまでもない。
「北のヴェネツィア」と呼ばれたサンクトペテルブルクは、都市も港も次々と焼き払われ、往時の姿を失うことになったのだ。
さらに、アルビオン国内でも問題になったのは、これが無差別ゆえにアルビオンにもダメージが及んだことだった。
サンクトペテルブルクに存在した在ロシアの国民、資産、あるいは交易品、止めにアルビオン王室の血縁者。
サンクトペテルブルクの大使館は爆撃で消し飛び、外交官やスタッフも負傷あるいは死亡。
戦争中とはいえロシア-アルビオンを結んでいた交易船が空襲で次々と大破炎上、あるいは沈没。
少なくはないアルビオン王国民までもが空襲によって死亡することになったのだ。
失われたアルビオンの富や国力などに関しては言うまでもなく大きい。
国家と国民を守るはずの軍隊が、庇護対象に牙をむいたというのだから当然か。
上乗せされたのは、同じくサンクトペテルブルクに集中していた各国の被害だ。
ロシアはアルビオン王国の勢力ではない独立国だ。当然、対アルビオンを考慮して同じような国々と関係を持ち、交易なども行っている。
そんな人・モノ・カネまでも焼き尽くしたのだ、これに起こらないわけがない。
どうあがいたって国際問題は必定。最悪の場合戦争に至るまで十分すぎる理由であった。
これが小国が少々であったならばなあなあで済ませられただろうが、あまりにも巻き込んだ規模が大きすぎた。
383:弥次郎:2024/09/21(土) 22:18:06 HOST:softbank126116160198.bbtec.net
当初こそ攻撃の成功に浮かれていたアルビオン王立空軍およびアルビオン政府であったが、その「成果」が露わになるにつれて顔を土気色にしていった。
どれくらい浮かれていたかといえば、アルビオンが作戦成功を喧伝した際に発したプロパガンダで逆鱗の上でタップダンスしても当初は気に留めなかったくらいだ。
各国---アルビオンと同盟関係にあるポルトガルやオスマン帝国も含んだほぼすべての国---はこれに反発。
クリミア戦争とは別件で事を構える体制に突入し、実際に世界各地で軍事的なにらみ合いに発展した。
最後通牒数歩手前に至り、大使館などの権限が場合によっては失われると通知した国まで存在したくらいだ。
特に、この作戦を行ってまで繋ぎ止めたかったオスマン帝国が戦争継続を拒否したのが痛かった。
このままロシアとの和平交渉などを自前で行うことまで断言した程度には影響力がありすぎた。
場合によっては国交断絶さえも辞さないとまで言う程度には、オスマンは被害を受けていたのだ。
さらに、アルビオンにとって悪夢だったのは大日本帝国が動いたことだった。
王室とはちょっと違うが皇室を抱える大日本帝国にとって今回の件は決して無関係ではいられない。
この世界線においてはロシア帝国帝室と皇室の間では皇室外交が展開されており、関係が深かったのだ。
シベリア鉄道を敷設したのも、対アルビオン戦略の一環でもあり、同時に国家間の交易や交流のためであった。
そんな相手国が舐められた真似をされたならば、大日本帝国もまた相応にやり返す必要が生じていた。
サンクトペテルブルク空襲に際しては大日本帝国も被害を受けており、落とし前をつける必要も。
そんなわけで、インド洋のアルビオンと大日本帝国の勢力境界線付近で、大日本帝国海軍および空軍は大規模演習を実施。
これには大日本帝国との間で安全保障条約を結んでいたネーデルラント連邦共和国およびタイ王国なども加わる形であった。
わざわざ太平洋諸国に含まれるハワイ王国海軍までも参加しているということが、どれほど本気かをうかがわせていた。
時を同じくして、北米大陸の日ア国境付近でも、大日本帝国空軍および陸軍は大規模演習を開始。
メキシコ王国もこれに倣う形で国境付近で陸軍による演習を行った。
同国の海軍がメキシコ湾で演習という名の警戒をし始めたのも、これに合わせてのものなのは明白だった。
仮にであるが、これらが本気で戦争状態に移行した場合、アルビオンは痛手を喰らう。
他の国ならばともかく、アルビオンと同等かそれ以上の国家である大日本帝国がいるのだから、無視しえないのが事実だった。
ただでさえクリミア戦争に多くを投じていたところに、今度は世界各地で戦争を行う?冗談ではない。
繰り返しになるが、王権神授説の否定というタブーを侵したがゆえに、どの国も早々に引っ込まない程度にまで悪感情を抱えていたのだ。
多少の被害で止まるはずもないし、全力で抵抗してくることは確実。
大日本帝国が加わっていることも考えると、立地的にインドか北米植民地の失陥があり得るくらいには危険だ。
インドと北米植民地。立地的にも、経済的にも、あるいは他の要素を含めても失っては困る場所だ。
アルビオン王国の心臓、王冠にはまる最大の宝石とも呼称されるインド。
市場であり資源供給地であり、王国本土の対岸であるという北米植民地。
そこを指呼の距離に収めたところで武力をちらつかせる意味は嫌でも理解できる。
384:弥次郎:2024/09/21(土) 22:20:10 HOST:softbank126116160198.bbtec.net
斯くしてあらゆる国との様々な外交ルートを通じて抗議などが殺到したことで、さしもの女王も座視するわけにはいかなくなった。
ルール・アルビオン、白の時代、永遠の王国のトップである女王の言が出るくらいには、問題が深刻化していたわけである。
単なる戦争どころではなく、全世界とアルビオンの際限のない激突というのはやはりというか歓迎できるものではなかった。
女王が動いたのは、首相と財務大臣の連名で財政的に戦争継続が困難であることを示されたのも関係しているだろう。
ロシア帝国軍による出血死を狙った戦術・戦略に加え、航空攻撃による多数の空海の船舶の撃沈、さらには多数の戦力を万全の体制で送り出す負担。
それらはさしものアルビオンにとっても無視できないものであった。戦時ということで国庫が開かれ、多くの富や人や物が投入されてもなお、というのだから。
つまり、ロシアが企図した効果が時間差でアルビオンの屋台骨にダメージを与え、ここで顕在化したということなのだ。
アルビオンにとってはまさに泣きっ面に蜂状態であろう。
ともあれ、ここまで状況が悪化したことで我に返ったアルビオン王国政府および軍は、ついに戦争継続を諦めざるを得なかった。
自分たちは確かに困難な作戦を遂行し、ロシア帝国に大きなダメージを与えることができた。
だが、それはロイヤル・サブリン撃沈をはじめ被害を受けたことへの報復としてはエスカレーションしすぎたものだったのである。
成功しすぎてしまったがために---あるいは成功させることに執着し、その結果生じることから目をそらしてしまった。
これでもなお戦争の継続、さらには世界との戦争を受けて立つという声がなかったわけではない。
「世界の主たるアルビオンの力を見せる時が来たのだ」
「ロシアの如く、他の国も焼き尽くしてしまえ」
「いずれ雌雄を決する必要があったのだから、戦ってしまえ」
だが、それは「なかったこと」になった。
そう、そんなことを言いだした人間は、軍人であれ民間人であれ、そもそもアルビオンに「いなかった」のだ。
それだけ、アルビオンが追い詰められていたということであろう。危機感を募らせていたということに他ならない。
斯くして、世界を震撼させたクリミア戦争は1855年4月に停戦、そのまま和平交渉へと場を移すことになった。
385:弥次郎:2024/09/21(土) 22:20:47 HOST:softbank126116160198.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
一気に突っ走りました。
歴史と違うところもあるけど……まあ、バタフライエフェクトと思っていただければと。
最終更新:2024年11月18日 16:17