916:弥次郎:2024/09/28(土) 21:10:36 HOST:softbank126116160198.bbtec.net

憂鬱SRW SS「パッチワークス」



 リンクスの仕事は、何も戦闘だけではない。
 製品開発のテスター、軍事訓練、戦闘技術や教義に関する学習、会社広報やCMなどへの出演、イメージアップイベントへの出演、後進育成など非常に多岐にわたる。
会社経営そのものに深くかかわるリンクスもいれば、他の仕事と兼務であったり、果てには個人事業を営むなどケースもみられている。
戦うことを目的とする軍とは違い、一つの企業の社員としての業務の割合が実のところはかなり多くを占めているのである。
 そして、ダイスウーメンのように、テスターや研究者という面が強いリンクスがいることもまた確かなことであった。

 日本大陸の某所、日企連の保有するテストエリアに彼女の姿はあった。
 正確には愛機であるネクスト「パンドラケース」の中に納まっての姿であったが、ともかくそこにいたのである。
特徴的なのは、彼女の一体化しているパンドラケースが普段よりもややごつごつとした印象を与えることだろう。
Mod.P、パッチワークの名を冠するそのネクストは、まさにその通りを体現するための機構を取り込んでいたのであった。

「なんか、身体の節々に違和感……」

 リンクスはAMSを経由し、ネクストと一体化する。
 それは文字通りの意味であり、それだけ機械とつながり、ネクストとつながり、非常に高い戦闘力を生み出す原動力となる。
 だが、利点ばかりではなく、受けたダメージのフィードバックはリンクスの脳へとなだれ込むし、AMSの負荷を高める要因となる。
ダイスウーメンが感じている違和感もまた、普段とは接続しているネクストの仕様が異なり、また特異な機構を組み込んだことによるものだった。

「パッチワーク、ねぇ」

 仕様書は読んだ。原理もよく聞いて理解した。アセンブリの時に立ち会いもした。
そのうえで、ダイスウーメンが感じたのは、よくもまあこんな無茶な仕様でも同じかそれ以上のスペックのネクストを作ったものだという感想だ。
 パッチワーク。すなわち、継ぎ接ぎ。
 ELS戦役において吶喊で導入された、損傷部パーツをパージして交換するというシステムの発展・完成形の一つ。
戦闘中に武器弾薬を受け取るV.S.C.とその一連のシステムからさらに踏み込んだ、コアパーツの根幹以外を交換することで戦闘継続を行うというもの。
理論的にも技術的にもELS戦役時にはある程度形になり、そこからさらに研究されたものだ。

『HQよりケース1、お待たせしました』
「ケース1、ラージャ。
 こちらは何時でも……といいたいけど、少し体に違和感」

 忌憚のない意見に、HQのオペレーターは苦笑した。

『テスト用にだいぶいじった誤差によるものですね。
 前段階でフィードバック面での見直しは行ったはずですが……時間経過でまた出てきましたか?』
「わからないね。でも、身体の節々、
『そこもデブリーフィングで確認する必要がありますね』
「データ取りはソッチでもよろしく。開始は何時でもいいよ」
『了解です』

 その言葉にオペレーターは頷きを作る。既にダイスウーメンが訴えている違和感はリアルタイムで計測されていた。
AMSの状況のモニタリングでは、言っている通り、身体の関節部においてAMSで少々過敏になっているところがあるのが確認されていた。
事前にOSやAMS周りのフィッティングを行っておいてもこの症状が出るとは、詳しいデータを後で洗い直す必要がありそうだ。
とはいえ、それも含めてのテスト。今やっておかねばならないのだからこのまま続行だ。
しばしHQ内部でのやり取りが行われた後、テストの開始が宣言された。

『PAカット、ACS(動的防弾制御調整)およびダメージコントロールシステム一時カット、該当部位の防御性能の低下を確認。
 パンドラケース、所定位置にお願いします』
「……いやー、なかなかだね」

 オペレーターが言ったように、今現在パンドラケースMod.PのPAと防御系のシステムは意図的にカットされた状態。
ここからまともに攻撃を喰らえば、
 そして、現れたMTの砲弾は十分にネクストの装甲に対しても有効打となりうると計算されたものである。

『スリーカウント、3……2……1、ファイア!』
「ぐっ……」

 直後、被弾。AMSを通じ、フレームにまでダメージが貫通し、損傷が発生したことの警報が鳴り響く。
一体化している分のダメージも来ていた。実に正しく、被弾時のアクションが来ている。
警告の嵐を黙らせつつ、ダメージレポートを読み解く。

917:弥次郎:2024/09/28(土) 21:11:18 HOST:softbank126116160198.bbtec.net

「……予想通りのダメージを確認、各セクション問題なし、正常に稼働中」
『HQ、了解』

 爆炎の晴れた後には、予定通りにふっ飛ばされたネクスト「パンドラケース」の機体が存在した。
 防御システムをカットしてしまえば、これほど簡単にネクストは破壊される---まあ、それでも頑丈な方なのは確かだが。
それよりも、とダイスウーメンは意識を切り替える。テストはここから先なのだ。

「損傷部位確認、セクション確認、OS及びFCS正常に動作中、AMSおよび補助電脳問題なし。
 ダメージコントロールパージを実施する」
『了解』

 声とともに、マニュアルだったシステムがオートに変更される。
 すると、パンドラケースはすぐに動作を開始した。損傷の大きな箇所、もげてしまった腕部の先端部をフレームごとパージ。
損傷した装甲部分も切り離し、ダメージ部位を地面へと振り落としていく。

『コンテナ解放、損傷部位該当パーツ、射出!』
「っ!」

 そして、演習場の端で待機していたパーツコンテナが解放され、必要な部位パーツなどが自律飛行で飛んでいく。
パンドラケースの方からも接近して彼我の距離を詰めて、そのまま合流した。

「接続ッ!」

 そして、一斉にパーツがドッキングしていく。
 AMSに交じるノイズと失った部分が補われていくような特有の感覚。あるいは肉体が修復されていくのにも似た充足感。
ダメージと部位パーツのパージに伴い、ディアクティブとなっていた機構が再起動、システム面のリブートを実施し、遅滞なく完了させた。
一瞬のうちに、パンドラケースは元の姿を取り戻したのだ。

『続いてV.S.C.接近、武装を投下!』

 続けて投下される武装を遅滞なく空中でキャッチすれば、武装とネクスト側の武装がリンク。火が入り、アクティブ状態へ。

『FCSオンライン、問題ありません』
「受領確認、このまま試射に移る」

 そして、トリガー。
 MT目がけて、支給されたライフルとレールガンは遅滞なく砲弾を送り込んだ。
 続けて、背部武装としてミサイルポッドとグレネードランチャーがV.S.C.から射出され、誘導されてドッキング。

「……接続確認、動作テストを開始」

 こちらも遅滞なく正確に動作し、ダメージを追っていたMTに止めを刺した。

『目標の撃破を確認。
 AMSに異常は……ちょっとありますね。ケース1、大丈夫ですか?』
「モニターされているとおり……変えたところの違和感がひどいね」

 機体としては問題なし。
 さりとて、交換が実施されたところからのフィードバックが前後で有意な差異が発生しており、ノイズとしてダイスウーメンには認識されていた。
どこか自分の肉体とは違うような、微妙な違和感と動きの倦怠感。無視しようと思えばできるし、むしろこういったモノを見つけるためのテストだ。
そうとは言え、リンクスにかかる負荷も無視しえないのも事実。

「けど、続行いけるよ」
『……了解です』

 しかし、ダイスウーメンはテスターだ。これくらいは飲み込まなくてはならない。
 テスターといえば聞こえはよく安全だと思えるが、実のところ未知と付き合う必要があり、かなり危険な仕事だ。
AMSが人の脳と体を機械へと接続し一体化させる都合上、あらぬことが起こる可能性は否定しきれない。
今でこそ実践投入型では安全性が担保されているが、こちらはそれがないものなのだから。

『では、第二テストへ移行します』
「ラージャ」

 オペレーターもそれを認識し、行動に移す。オペレーターにもオペレーターの仕事があり、矜持があるのだから。
 そして、パンドラケースとダイスウーメンは遅滞なくスケジュールをこなし、貴重なデータを提供することとなったのであった。
そう、後進のネクストに新しい機能を追加するための、非常に有用なデータを。
彼ら、後方で戦う者達の動きは、常に続いているのだった。

918:弥次郎:2024/09/28(土) 21:12:47 HOST:softbank126116160198.bbtec.net

以上、wiki転載はご自由に。

即興ですが、ダブルドライブタイプのネクストと並行して行われているテストの様子でした。
イメージ的にはアイアンマンのMk-42やハルクバスターですね。
武装や装甲、フレームなどの各部位を次々と補充して戦うスタイル。

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最終更新:2024年11月18日 16:43