186:弥次郎:2024/10/03(木) 00:04:05 HOST:softbank126116160198.bbtec.net
日本大陸×プリプリ「The Melancholic Handler」外伝「空と地と鉄火にて」5
欧州の中立国スイスの都市チューリッヒを舞台に、アルビオン王国、オスマン帝国-ロシア帝国間の講和会議は幕を開けた。
建前的、あるいは戦争に耐えきれずに講和を言い出した側はロシア帝国であったが、アルビオンが呼びつけるということはなかった。
偏にオーバーホライゾン作戦の「華々しき戦果」により、アルビオンは糾弾される側に落ちる寸前であったのだ。
よって、両陣営および被害を受けた国々が問題なく集まれる場所としてスイスが選ばれた、という次第であった。
険悪なムードではあったが、アルビオン王国もオスマン帝国もロシア帝国も、ひとまず戦争を終わらせたいという意思は統一されていた。
アルビオンは言うに及ばず。オスマンはこれ以上アルビオンと組んでの戦争を継続してアルビオンと同列だと認識されるのを拒否していた。
ロシアにしても首都が灰燼に帰す羽目になったことで、諸所の案件でやることが山積みであり、戦争継続を諦めていた。
しかして、どちらが明確に勝利したわけではないため、講和の主導権はどちらの側にもなく、駆け引きによって左右される状況だった。
如何に相手に譲歩を迫れるか。あるいは、賠償などを抑えるか。得られた分の勝利でどれほど得られるか。
講和会議の場に揃った政治家に要求されるところは大きく、極めてホットな状況と言えた。
そして、プレイヤー達が揃い、駆け引きが始まった。
アルビオン王国の要求は主に3つであった。
- 賠償金の支払い
- 航空機及び飛行船技術の譲渡
- 南進政策を暫くの間進めない確約
なお、オスマン帝国の要求は、賠償金の支払い---飛行船団による空襲で焼けたイスタンブール周辺の港湾都市の復興費のみであった。
ロシアに要求できるだけの要素が乏しかったことや前述のようにアルビオンと早期に距離を置きたいという思惑があったのだろう。
南進政策に関してはアルビオンを挟まない個別交渉ということで一応の道筋は事前につけていたのも関係している。
対して、ロシア帝国側の要求は主として5つに絞られていた。
- サンクトペテルブルク空襲による被害の補填
- それ以外の戦闘の分の賠償金の支払い
- 鹵獲した兵器及びケイバーライトの引き渡し
- 無防備な都市などを対象とした無差別攻撃の恒久的な禁止
- オーバーホライゾン作戦に関与した人物への処罰
半分以上がオーバーホライゾン作戦のことで占められてるというだけあり、如何にショックが大きかったのかを物語っている。
これに関しては、この戦争に直接関係していないがサンクトペテルブルク空襲で被害を受けた国々の意見の代表とも言えただろう。
確定的な勝利を得たわけではないにしても、それくらいを要求するだけの図々しさをロシアは有していたのだ。
とはいえ、被害者急先鋒だが、各国の視線を笠に要求が過ぎれば、今度はロシアの側が見放される可能性もあるという複雑な事情があった。
187:弥次郎:2024/10/03(木) 00:05:26 HOST:softbank126116160198.bbtec.net
ロシアはアルビオンの要求に対し、賠償金や領土割譲などを一切認めないという方針を最初に明らかにした。
それもそうだろう。確かにアルビオンの覇権を担う航空艦を沈め、あるいは兵士たちを多く血の池に沈め、飛行船団による空襲で港湾や船舶を焼き尽くしもした。
その報復ということで首都に途方もない規模の空襲を喰らったのは事実である。
とはいえ、結果的には敗北であっても、アルビオンに確定的な敗北を喫したわけではない。
心情的にも、あるいは今後の復興などを考えても、アルビオンにくれてやる金などほとんどないのであった。
この姿勢は、高齢と空襲の負傷が祟ってニコライ1世が崩御したことによりさらに固くなったと言えた。
間接的であるにしろ、帝国のトップを殺されて、大人しく負けを認めて金を支払え?冗談ではない。
交渉の場にいたアレクサドル2世が「決して認めない」と何度も繰り返すほどに、その意志は強かった。
その代案として、互いに突きつけ合う賠償金の相殺、航空機及び飛行船の現物と技術の引き渡し、バクー油田の権利などを認める提案をした。
ドア・イン・ザ・フェイス---金は出さないと最初に叩きつけ、あとから譲歩したように代案をそっと出すテクニック。
それを見通していても、アルビオンとしては飛びつくしかなかった。
他方で、アルビオンはロシアからの要求に対しては、多くを認めざるを得なかった。
賠償金こそ相殺できなかった分だけの支払いで済ませることはできた。
しかし、鹵獲されたケイバーライトを諦める、航空艦による空襲への足枷というのは痛かった。
前者については特に痛い。鹵獲された量や質などは、撃沈された航空艦の残骸から集められたこともあってよいとは言えないと推測していた。
それでも他国からすれば喉から手が出るほどに欲しいケイバーライトの現物だ。
航空艦の残骸なども合わせれば、アルビオンの有する技術について露見することになるのは確実。
アルビオンはロシアの背後に日本の姿を見ていたのも後押ししている。
ここでロシアに渡してしまった場合には、同じく航空艦を有する国家の日本に情報が流れるという確信があった。
しかし、それを取り返すだけの何かを支払うのもまた負担であるというのが実態であった。
後者に関して痛かったのは、アルビオン側が一方的に不利を課されるからというのが理由だ。
これまでならばまだ我慢できたかもしれないが、既にロシア帝国は敵国の首都まで乗り込み攻撃をできる状態にあった。
つまり、こちらだけが報復できない状態にあるため、殴られ放題になるというわけである。
抑止力というのは殴ったらそれ以上に殴り返されるから諦めるという利害の一致で成り立つもの。
それが機能しなくなれば、早晩にアルビオンは欧州諸国からこれまでの報復を喰らうことになりかねないのだ。
他の条件で譲歩するのでこれはどうにかできないか、と探ったが、ロシア側は冷ややかだった。
「アルビオン女王さえも望んでいる事ではありませんか」
「……ッ!?」
その確信を持った言葉に、アルビオンは恐怖した。
その言葉は真実だった。今後の軍事活動において、今回のような虐殺はしてはならないと内々に伝えられていたのだ。
そこまで言わせたのは、オーバーホライゾン作戦が政府により承認された段階と実行段階で大きな差異が人為的に発生していたことに由来する。
つまり、示威的行為に限定される作戦として承認されたオーバーホライゾン作戦は、軍が実行する時には無差別攻撃にすり替えられていたのだ。
アルビオンの総力を挙げた調査で、王立空軍の高官数名が関与して、意図的に作戦内容が変更して伝えられていたと発覚していた。
これは途方もない失点ということで伏せられた---そのはずだったのだ。だというのに言及してくるということはそういうことだった。
188:弥次郎:2024/10/03(木) 00:06:03 HOST:softbank126116160198.bbtec.net
事実として、ロシア帝国はアルビオン内部での動乱を察知していた。
いや、気が付かない方がおかしいというべきか。女王自らが動いたという情報に始まり、戦争省において騒ぎがあったのは隠せなかったのだ。
そして、その事件が発生したのが、各国が首都への直接攻撃を行ったことを外交ルートを通じて猛烈に抗議した直後だったこと。
これらをサンクトペテルブルク空襲と結び付けるならば、それがアルビオン女王の本意ではなかったと推測できる案件だ。
だが、アルビオンからすれば、そのことを引き合いに出してこちらに譲歩を迫られることになるとは予想外過ぎた。
(軍部の馬鹿どもが……!)
外務卿としては軍部に文句をつけたいどころの話ではなかったが、もはや過去には遡れないのも事実。
とはいえ、今後のことを考えれば、あるいは枷を一方的にはめられるのを回避したい。
相互に禁止し合う協定という形に落とし込む必要がある、その考えに至るのも当然であった。
そこに落着させ、相手を納得させるにはどこかで妥協や譲歩をせざるを得ないことを含めて。
そして、アルビオンはより多くの国とも折衝を要求された。
いうまでもないであろう、サンクトペテルブルク空襲による被害を受けた国々との賠償についての話である。
その国の数は、ロシアと国交および通商関係にあった国々ほぼすべてが該当---つまり、当時の独立国のほぼすべてが該当していた。
何しろ、攻撃した場所が場所だ。首都というからには多くの国々から人や物が集まるし、各国は大使館をそこに設置していた。
そこに集まっていた人やモノは、史実の東京大空襲を超える砲爆撃で多くが灰となってしまったのである。
当然、失われたものが戻ることはない。だから、落とし前をつけろ、そうでなければ許さんとギリギリ理性を保って各国は要求した。
これに対してアルビオンは抵抗しなかった。前述のように、女王さえもやり過ぎたと認めたものだからだ。
実行した王立空軍の一部の馬鹿どもは困難な作戦を実行し、ロシアに鉄槌を下したとはしゃいでいたが、それは見込みが甘すぎた。
そうでなければ、こうして針の筵状態でこうして追い詰められるということはなかっただろう。
その事実は消せない。苦々しい感情を表に出すこともなく、粛々と「敗戦処理」を進めるしかなかったのである。
斯くして、図らずも全世界を巻き込んでしまったクリミア戦争の戦後交渉は開始された。
程度こそ差があるとしても、誰もが不幸になってしまった戦争の後始末。
普通ならば、少なくとも人としては互いを助け合うのが普通、あるいはあるべき姿であったのかもしれない。
しかして、この場にいるのは人ではあるが実体としては国という集団である。
自国の利益と被害の補填を考えて、誰かを、最悪の場合自分以外全員を蹴落としてでも自らの考えを実現させようとするエゴイズムの塊。
国家というリヴァイアサン同士の腹の探り合い。交渉という戦争は、早くもどうしようもないほどに激しくぶつかり合う様相を見せていた。
189:弥次郎:2024/10/03(木) 00:07:38 HOST:softbank126116160198.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
とりあえず一気に走り抜けました。
後は講和のお話で〆ですかねぇ。
講和条約に関しては皆さまのお知恵をお借りしたく思います。
最終更新:2024年12月03日 13:00