938:弥次郎:2024/10/13(日) 23:34:07 HOST:softbank126116160198.bbtec.net
日本大陸×プリプリ「The Melancholic Handler」小話「一目連という剣豪」
一目連は、剣豪にして圧倒的な強者、戦闘ユニットを通り越して戦術ユニットというレベルだろう。
比喩でも何でもない、純然たる事実。彼一人を戦線に放り込めばそれだけで恐ろしいほどの結果を叩きだす。
積み重ねた鍛錬の時間の長さ、踏んだ場数の多さ、対峙した敵の多様さ---転生を重ねて得たそれは圧倒的だからだ。
陸、海、宇宙、空、果てには銀河の海など場所は選んでいられない。相手も異星人やら機械やら神やら何やらと多い。
その経験値に釣り合うだけの肉体が完成してしまえば、もはや尋常の手段で勝つことは不可能であろう。
そして現時点で、彼の肉体は丁度全盛期にあった。全盛期真っ只中である、もはや止めようもない。
老いるか病を得るか彼自身が剣を置くか---そんな自助努力のしようがないことでしかおおよそ解決しない。
あるいは彼を周囲諸共爆殺するというような反則でも持ち込まねば無理だろう。
さて、そんな怪物そのもの、人の形をした化け物を最もうまく扱うのはどうするべきか?
戦時ならばともかく、平時においてはとかく持て余す。
平時では人を教え導く能力があるため露頭には困らないし、武家としての仕事もあるのも確かだ。
だが、一目連の抱える過剰な暴力を最大限生かすことには不足がある。それだけのユニットが腐らせることにつながる。
その最適解は?答えはほかならぬ一目連が導き出した。
この男、ただ強いだけでなく、武力を活かす方法も十分に心得ていたのだ。
機密保持のため、そうとはわからないように設置されている屋外演習場に、一目連の姿はある。
いや、パッと見た限りでは演習場とも思えないだろう、それほどに緻密に作られた街が存在していたのだ。
市街地戦闘を学ぶために作られた---それも非正規戦や非対称戦、あるいはテロ対策も考慮された演習場である。
本来ならば、これが本格的に必要になる時代はまだ先だ。国家同士の戦争の可能性が遠のいて、そういった無粋な輩を始末する必要になる時代にならなくては。
だが、今の時代はまさにそれなのだ。
国家間の戦争は要因こそ違えど抑止され、影の戦争---諜報や情報戦、あるいは技術による裏のかき合いが多くを占めているのだ。
殊更に、太平洋の覇権国家である大日本帝国からすれば、アルビオンこそが最大の仮想敵であり、その立地から影の戦争が主軸なのだ。
そうせざるを得ない---無論正面切っての戦争も想定されているが、それを一度おっぱじめたら区切りがつけにくい。
アルビオンには適度にデバフをかけつつも、仮想敵国として、競争相手として生きていてもらわなければならない。
話がずれた。
ともかく、そういった非正規戦や諜報活動で使われるようなモノを、市街地などで使うものを試すには十分な場所であった。
「んじゃあ、始めようか」
無造作に、あるいは繊細かつ自然に、一目連は刀を抜き放つ。
それは帝国技術廠が密かに製造した試製88式碧気式長剣銃---
夢幻会の面子が非正式につけた愛称「レイテルパラッシュ」。
実際、剣と拳銃を組み合わせたこれは狩人の使っていたものに似てはいる。ただ、似ているだけだ。
この銃と剣が一体となっている武器の真骨頂は、そこではないのだ。
「……よし」
ケイバーライト特有の発光を確認して、安全装置を解除し、出力を戦闘レベルに引き上げる。
すると、身体の周囲にケイバーライトの発光が拡大し、体を包む。
体温によって十分に加温されたケイバーライトは、人ひとりを重力の枷から程よく解き放つのに十分な力を有しているのだから。
「試験を開始する、続け」
そして、ひと声。一目連が鍛えた「万が一ケイバーライト機関が不調をきたしても何とかなる」テスターたちが駆けだした一目連に続く。
「判官九朗に続く、現代の八艘飛びよ」
彼らは一斉に、空を飛んだ。
939:弥次郎:2024/10/13(日) 23:34:51 HOST:softbank126116160198.bbtec.net
純粋な脚力や歩法や姿勢制御技術で、一目連が滑空したり跳躍するのは簡単なこと。
だが、今はそれを抑える。
目的なのはケイバーライト機関のテストだからだ。それも、個人が携行し、戦場で用いることも想定した装備のテストだから。
(楽しいなぁ)
一目連は壁を走っていた。普通ならば重力に引かれ間抜けにも落っこちるところを回避し、ヤモリの如く走る。
嘗て---それこそ前世でもそのまた前世でも、こういった動きは不可能ではなかった。修練を積めば割とできることだった。
けれども、これもこれで面白い。扱いさえ覚えれば誰もが超人の真似事ができる。
精神涵養と扱いを叩きこめば比較的ローコスト且つ手軽に!達人やら精鋭のさらに精鋭しかできぬようなことを簡単にできるようにしてしまう!
戦場が変わるどころの話ではない。市街地戦闘のような状況においてこれはまさにゲームチェンジャーたりうる。
例えば、ベルリンを経験した軍隊など万金を積み上げてでも欲するだろう。
創作でもなかなか出ないようなツールだ、当たり前であろう。
ああ、この世界も創作の世界だったか、と一目連はしたり顔で頷いた。
「遅れるなよぉ!」
そして、喜色を帯びた声は、後方を疾走してついてくる面々に向けられる。
将来的にこれを扱うことを許される、荒事と諜報戦を担う面々。
一目連も含めて鍛え上げ、影の戦争の第一線に放り込まれる。
(だから、畏れさせろとはな)
そう、一目連に向けられる候補生たちの視線には畏怖が混じっている。
彼らはもとより国に忠誠を誓い、手足となって働くことを誓い、命を差し出している立場の人間(歯車)。
だが、人間が歯車とは違うのが、己の意志を持ち、時に使用者の意に反する動きをすることだ。
それを抑止する方法論の一つとして同じ夢幻会のスパイ育成役の虎鶫が指示したのが、恐怖を植え付けること。
身も心も忠誠もささげたはずの国家を裏切り、あまつさえ害をなそうとする心を摘み取るのは、理性ではなくもっと感情的なものだ。
裏切ったらこれほどの怪物が粛清役として差し向けられるという恐怖が必要なのだ。
裏切りの誘いに始まる調略は山のように襲い掛かってくるだろうが、それでも行動を縛るのは結局それが手っ取り早く効果的だ。
(それがこの私の仕事の一部、か)
親身な教官とは別---虎鶫が飴ならば一目連は鞭。それによってスパイをスパイたらしめる。
見本であると同時に、恐怖の対象となり、スパイという恐ろしいモノになる。
ああ、面白いじゃないか---その話を受けたのも、後進育成という仕事を欲したことや粛清役に興味があったからだ。
もっと言うならば、そういう切った張ったの入り混じった影の戦争、コートとナイフの争いに交じりたかった。
「さあ、遅れるな」
「は、はい!」
途中でケイバーライト機関をオフにして、自前で疾走と跳躍を重ねながら、後続に声をかける。
その異常さに気が付いているだろう。気が付けば上等だ。ケイバーライト機関に浮かれていないということになる。
冷静さ冷徹さを失えば死ぬ。戦場でなくとも、街角で、あるいは路地裏で尊厳もなく死ぬのはそういう間抜けからだ。
(あとは……一先ずは、ケイバーライト機関を持った相手との戦いを仕込むかね……)
近接格闘戦、ケイバーライトを生かした戦闘、さらにはスパイとしての目的を果たす思考の涵養。
今後のカリキュラムを思いながらも、一目連はこみ上げる喜びに口角を釣り上げていた。
940:弥次郎:2024/10/13(日) 23:35:26 HOST:softbank126116160198.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
折角なので一目連メインで。
最終更新:2024年12月03日 13:17