876 :ヒナヒナ:2012/03/19(月) 19:55:47
○図書館
図書館の自由に関する宣言
図書館は、基本的人権のひとつとして知る自由をもつ国民に、
資料と施設を提供することを、もっとも重要な任務とする。
この任務を果たすため、図書館は次のことを確認し実践する。
第1 図書館は資料収集の自由を有する。
第2 図書館は資料提供の自由を有する。
第3 図書館は利用者の秘密を守る。
第4 図書館はすべての検閲に反対する。
図書館の自由が侵されるとき、われわれは団結して、あくまで自由を守る。
え? これ? 図書館宣言ですよ。
そうそう、ちょっと厳ついですよね。
こう、肩で風を切っているみたいです。
失礼しました。私は司書なんです。
あ、司書と言ってもなじみの無い人も居ますよね。
一言で言えば図書館業務の専門家です。
もし、この説明が分かりにくいのなら、図書館の貸し出し口に行ってみて下さい。
そこにきっと私達が居ます。
ここが私の勤める図書館なんです。
実はこの図書館は赤坂の本館から永田町の一角に移転したてで、
古書の良い香りと、新築の建物の香りが混じって少し変な感じがします。
でも前より広くて、私の背より高い本棚に囲まれて日々を過ごせるのは幸せですね。
あ、永田町にお勤めだったのですか。ぜひご利用くださいね。
ここでの仕事は、日々増え続ける蔵書を分類し、台帳を管理するのが仕事です。
基本的に発行された本は全て収集しますし、私達はどんな本でも受け入れます。
流石に、国家機密に触れている本はお国に回収されてしまいますが、
基本的に図書館は「資料収集の自由を有する」のですが……。
ええ、そうですね。本当は私も検閲にも反対なのですが、
お国の決めることですからね。逆らえません。
まあ、それでもソ連や独逸に比べて日本の検閲はかなり緩い方なのだそうです。
聞いた話では、ソ連や独逸では国の方針に合わない本を書いたりすると、
秘密警察がやって来て著者やその関係者を攫って行ってしまうのだそうです。
あ、ご存知でしたか。え? 実際はもっと酷い? あまり聞きたくない話です。
本当に怖いことです。日本がそういう国でなくて本当に良かったと思います。
日本は機密漏洩や直接的に犯罪を助長する内容には厳しいのですが、
思想などについては、かなり過激な内容でも発行は許されます。
まあ、もちろん裏も有りまして……。
実はそういう本は殆どの場合書店には出回りません。書店側が置かないのです。
877 :ヒナヒナ:2012/03/19(月) 19:56:29
ここにはたくさんの本が送られてきます。年間なら本当に膨大な量になります。
内容も一応読みます。読まないと、どのような分類になるか分かりませんから。
内容を頭に入れる必要はありませんが、どんな分類か分かる所まで読み進めます。
夏のお盆と冬の年度末は恐ろしい忙しさになります。
戦前から続いている文化祭……今はコミケと言うのでしたっけ?
あの催し物の主な出展物は漫画ですから。
え? ええ、漫画も立派な書籍です。もちろん収蔵しますよ。
…まぁ、さすがに、小さな子どもに見せるには刺激が強すぎる本も多いので、
閲覧については年齢を鑑みて許可制とさせていただいています。
「資料提供の自由を有する」という図書館の精神からいえば、
あまり褒められた物ではないのですが、
図書館の本分と青少年の健全な成長を比べれば、これでかまわないのだと思います。
そうですよね。そう思いますよね?
内容確認も大変なのです。私もよく真っ赤になりながら内容を確認しています。
男の人は大変そうですね。恥ずかしいのか別室でこっそり分類しているようです。
その時だけはチリ紙の減りが異常に早くなります。
鼻血と言っていますが……まあ、鼻血が出てしまってもしょうがない内容ですからね。
本を汚さなければ問題ありません。眉を顰めてどうされました?
本来は個人発行の書物はここに送る必要はないのですが、
コミケ出展の著者の皆さんは、納本するために律儀に5部ずつお持ちになります。
「俺の魂を日本の歴史に」とか「これで嫁が永久保存」などと言っているのを
聞いたことがありますが、皆さん目がちょっと怖いです。
これに関して、ちょっと面白い話があります。
嶋田元総理が、現役の時代にこのコミケ出展漫画の納本に関して
制限を掛けようと仰ったらしいのです。
文芸・芸術方面に一過言持つ近衛公爵や、教育問題に取組んできた辻大臣などが、
表現の自由や、言論の自由に反すると言うことで、元総理を説得したらしいのです。
嶋田元総理といえば、比較的自由な風潮を押し進めてきましたし、
そもそもコミケの提案者である総理が、こういう発言をするとは少し意外でした。
書籍を介した機密漏洩といった問題もありますし、国防上気になったのでしょうか。
どうされました? 顔色が優れませんが……。
は? ええ、テレビは見ないんです。
活字があれば生きて行けますし、何よりまだまだお高いでしょう?
そうそう、私も検閲にはやはり反対です。
どんな内容の本でも、そういったことを考える人がいる、いた、という資料になるのです。
それを権力でもって一方的に制限してしまうのはちょっと。
もちろん国防上必要な場面もあるということは分かっているのですが……
希望としては、そういったことが必要のない世の中になって欲しいですね。
日本国民ならば基本的にはどんな方でも資料を閲覧する権利を持っています。
希少価値ゆえに研究者以外は触れない書籍も、マイクロフィルムで閲覧できます。
さっきの年齢制限の本は、ちょっとした例外です。
……さて、そろそろ閉館の時間ですね。
書庫の見回りをしなければならないのです。
ええ、では。おじいさんもさようなら。
是非、永田町にお越しの際には国会図書館に立ち寄ってみてくださいね。
(了)
最終更新:2012年03月20日 21:30