179 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/10/22(火) 23:26:03 ID:softbank126116160198.bbtec.net [9/28]

艦これ×神崎島支援ネタSS「今宵は楽しくサルーテ」


  • 客観時間 1937(昭和12)年7月14日 神崎島 神崎市 鎮守府近傍 「Etoile de mer」


 帝国海軍中将 堀悌吉は鎮守府の近くにある「Etoile de mer」という看板を眺めていた。
 どうやらここはバーらしいというのは、看板や並んでいるメニューなどを見ればわかった。
既に就業の時間は終わって、夕食を終え、ついでに一杯飲みたいと考えて探し歩いたのだ。
勿論、帝国高等弁務官府にあるバーで飲んでも良かったであろう。
 だが、そこでうたた寝をした際に「島意」あるいは「記憶」に触れたのは記憶に新しい。
その際にバーメイドを勤めていた夕雲型駆逐艦早霜から、酔いもさめるような話をされたことも、だ。
それから1週間余りが過ぎたが、ショックは未だに残っていた。忘れようとしても、忘れられないというべきか。
そこで、趣向を変えることも兼ねて、足を延ばして酒を楽しもうと考えたのである。

「あ、いらっしゃいませ……あ、堀中将!?」

 ベーイ、という鳴き声がどこからか聞こえたような、そんな気がした。
 そこにいたのは、金髪碧眼の、恵体を独特のスーツに包んだ---一部が包み切れず飛び出ている---艦娘だった。
胸元につけられている洒落たバッジには筆記体の英語でその間娘の名前が書かれている。

「やあ、飲みに来たよ」
「びっくりしましたぁ……改めて、ようこそ「Etoile de mer」へ。
 今宵はこのガンビア・ベイがおもてなし致します!」

 驚きつつも歓迎する彼女のはにかみ顔は、勤務の疲れに効くような気がしてくる。
日本の艦艇が姿をとった艦娘と比べて女性らしい身体もこう見ると眼福でさえある。
普段の服装とは違い、彼女はバーメイド服。目の毒になりそうな極めて短いミニスカートではなくて、ショートパンツでなんとなくほっとする。
無論、意外と大きいお尻が強調されてしまって、これはこれで目に毒なのでは?と思ってしまうのだが。

(艦娘の感性は我々とは違うのだなぁ……)

 ともあれ、何を頼もうかと考えを巡らせる。
 さっと視線を巡らせてみると、色とりどりの酒瓶が並んでいるほかに、独特の道具たちが整然と並べられているのがわかる。

「ここの売りは、カクテルです!」
「カクテルか……それなりに飲んだことはあるな」

 カクテル。それはこの昭和12年の日本においては、日本酒などから見れば比較的歴史の浅い飲料であった。
 明治初期にはその存在が日本にももたらされており、大正期には一般においても嗜まれるようになった。
時代としては既に製氷機が存在したこともあり、「器具を使って作る氷で冷やしたミクスト・ドリンク」としてのカクテルは普及が始まっていたのだ。
先駆者となったアメリカから欧州に伝わって広まっていたこともあって、海軍では余計に知られることになったのだ。
何しろ海軍というのは外国と接する機会が多い。海軍軍人ならば外国語も学ぶし、海外でのマナーについても厳しく教育されるのだから。
とはいえ、未だに普及が始まってから30年余しか過ぎていないというのは、触れる機会の少なさにつながってしまっていたのだ。

「それなり、ですか」
「知ってはいるのだが、飲む機会は多くはなくてね」
「……中将は海軍の方ですし、初心者でしたら、ジン・トニックでしょうか」
「うん、お任せしようかな」

 堀はバーメイドのガンビア・ベイに任せることにした。さほど詳しくないというのだから、先人に倣うべきと判断したのだ。

「では、早速……」

 先ほどまでの楽し気な空気が引っ込み、ガンビア・ベイの目に熱が点る。
 そこにいたのは、艦娘のガンビア・ベイではなく、お客に上等なカクテルを提供するバーメイドとしてのガンビア・ベイだった。
 堀に見えるように置かれるのは、ボンベイ・サファイアというジンとトニックウォーターだ。
更に用意されたのはライム、さらに---

180 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/10/22(火) 23:26:52 ID:softbank126116160198.bbtec.net [10/28]

「胡瓜?」
「このお店でのレシピではこれを入れるんです」
「ほぉ……」

 手際がいい。明らかに作りなれているし、何度となく練習したことが窺える素早さと隙のなさ。
 胡瓜を星型にカットし、ライムもカットして下準備。
 続けて、冷やしておいたタンブラーグラスを用意し、用意しておいた氷を順々に入れていく。
そこにメジャーカップを用いてボンベイ・サファイアを計り取ってそそぎ、トニックウォーターを加えてステア。
ほぼ無音のそれの後に、ゆっくりとマドラーを引き抜くと、飾り付けるように胡瓜とライムが添えられる。

「ジン・トニック、サルーテ・レシピです」

 そして、そっとグラスが差し出された。
 シンプルな、それでいて緻密な計算がされたと窺えるそれを、丁重に堀は受け取った。

「……なるほど」

 香りを楽しみ、それから口をつけると、添えられているライムの清涼感が強く感じられた。
本来は果汁を絞ってステアすることもあるが、ここでは敢えてグラスに入れるだけ。
飾りつけのためだけのように見える胡瓜の青さが、意外とその清涼感を後押しし、飲んだ時の快感を良くしている。

「素人だから偉そうなことは言えないが……うまい」
「あ、ありがとうございます!」
「なんとも飲んで気持ちの良いカクテルだ……だから私に?」
「ええっと、ですね……ジン・トニックはカクテルの中では基本であり、最も難しいって言われています。
 工程が短くて、あっという間にできるんですけど、だからこそ技術が試されるんです。
 私が仲間とこのバーを始めた時、初めて作ったのもこのジン・トニックでした」
「思い出のカクテルということかい?」
「はい!最初は本当に苦戦して、これを作るのもやっとやっとで……水っぽくなったり、ステアの時にガチャガチャ音を鳴らしちゃったりしましたぁ」

 その時に協力し合ったのが、タシュケントやコマンダン・テストだったという。
 さらには、うまく作るためのヒントをこっそりとリシュリューが残してくれていたのだが、それはさておき。

「でも、こうしておもてなしできるのは光栄ですね」
「おかげで楽しめるよ。
 ところで、先ほど海軍だからとこれをお勧めしてくれたが、それはどういう意味なんだい?」
「あ、そうでしたね。
 実はこのジン・トニックは、インドで生まれたとされているんですよ。
 元々はマラリア対策でキニーネ錠剤やキニーネの含まれるトニックウォーターを飲むために砂糖やジンやライムを混ぜていたんです。
 そして、ライムを絞れば壊血病の予防にもなるからと、イギリス海軍でも飲まれるようになったんです」

 なるほど、とガンビア・ベイの語りを聞きながら、さらに一口。
 シンプルだが、飽きがこない。これが元々は薬効を期待されていたというのは面白い経歴だ。

「そこについて、もう少し教えてくれるかい?」
「はい、お任せください!」

 今宵は楽しくなりそうだ、そう思いながら、ガンビア・ベイの語りを堀は楽しむことにしたのだった。

181 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/10/22(火) 23:28:13 ID:softbank126116160198.bbtec.net [11/28]

以上、wiki転載はご自由に。

季節感も何もない感じですが、ご容赦を。

艦これの派生作品の中から「今宵もサルーテ!」をモチーフにしました。

カクテルは作っているところを見るだけでもいいですよぉ

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最終更新:2024年12月15日 16:58