276 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/10/18(金) 23:08:01 ID:softbank126116160198.bbtec.net [15/89]

憂鬱SRW ファンタジールートSS 「ラッキー・ホワイト」8


  • F世界 ストパン世界 主観1944年12月 オラーシャ帝国 ペテルブルグ 502JFW基地 執務室


『つまり、人材のミスマッチということだな』

 リーゼロッテとの通信の場において、ラルはそんな言葉を聞いた。

『人間には、出来ることとやりたいこととやるべきことの3つが存在する。
 これが一致する人間は極稀だ。一致しているとそいつは途方もないことを成し遂げられる。
 何しろ、願いと能力と環境が揃っているのだから、やればやるだけ成果が出る。ルーデルなど良い例だ』
「……確かに」

 最近オラーシャに来たカールスラントの生きる伝説的なウィッチ、ハンナ・ウルリカ・ルーデル。
世界平和のためにネウロイを滅ぼすと嘯き、その為に必要な能力を備え、そして今は一人でも多くの戦力が欲しい状況が重なっている。
リーゼロッテが言うように、そして現にルーデルが成し遂げているように、途方もない戦果を挙げ続けている。
恐らく彼女が羽を休めるのは、本当にネウロイがいなくなって平和となったときだろう。

『極稀といったように、普通ならばどれかがずれるか、あるいはいずれもがバラバラなことが圧倒的多数だ。
 やりたいことは他にあるが、他のことにこそ才覚を発揮する人間。やりたいことはあっても、その為の能力や環境に恵まれない人間。
 やりたいことがないくせに、能力と環境だけは整っている人間。あるいは---すべてがあべこべでずれていて、何をやってもうまくいかない人間。
 たいていの場合は、教育や訓練をしたり、あるいは環境を整えてやるなどすれば解決ができる。
 あるいは、その生き方の方が良いのだと理解して自ら意思を変えることもな』
「では、エマ・ホワイトはそうではないと?」
『そうだな。
 本人の気質があまり合致していない。あるいは能力と環境に精神や意思が追い付いていない。
 貴族の生まれ、貴族としての義務、貴族としての教育---いずれもが、貴族に似つかわしくない庶民的な彼女には合致はしても受け入れられなかった』

 リーゼロッテのリサーチは彼女の経歴だけでなく、精神性や意思、あるいは成長においてどのような境遇にあったのかにも及んでいた。
その中で気が付いたのだ、彼女は能力があっても、境遇に対して常に不満というか忌避感を抱いていたのだと。

『家というものを背負うべき人材として躾けられ、期待され、そうであれと繰り返し刷り込まれた。
 普通は嫌でも順応させられる。人格や意思というのは基本的には刷り込めばいくらでも変えられる。
 特に幼少期から仕込めばなおのことだ。実際、彼女はウィッチとして従軍し、オーバーロード作戦を超え、MPFへ転科を許されるほど優秀だった』
「だが、なまじ優秀で引っ込みがつかなくなったと?」
『そういうことだ。彼女は常に称賛され、敬意を集め、評価を受けた。
 それが周囲を心理的に遠ざけ、ひいては恐れさせる元凶となってしまった。
 あらゆる苦難や逆境をラッキー(幸運)もあって乗り越えてしまった---だから、どうやってもあの娘が孤独なままだ。
 元来、人間など一人ぼっちなものだが、あれは違うものだ……』
「だから、栄転にかこつけて502へ?」

 大当たり、ラルの言葉にリーゼロッテは破顔する。

277 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/10/18(金) 23:09:41 ID:softbank126116160198.bbtec.net [16/89]

『ホワイトに必要だったのは、共に泣き笑い、時に悔やみ、時に悲しみ、喜びも共有できる相手だ。
 恐らくは、彼女の幼少期にはそんな貴族らしからぬ素のままの自分をさらけ出せる相手がいたのであろうな。
 そして---当然のようにその相手は遠ざけられた』
「……使用人あたりか?」
『中らずと雖も遠からず。それかマーク・トウェインに倣い、自分そっくりなストリートチルドレンだったかもしれんなぁ。
 ブリタニアの高名な貴族の力をもってすれば、二度と会えないようにしてしまうのも簡単な、軽い命だったのだろうよ』

 おお怖い怖い、とリーゼロッテはお道化るが、その目はまるで笑っていない。
 言われる側のラルにしても、笑えて聞ける話ではない。
 確かに怪異---ネウロイは恐ろしい。
 だがそれ以上に、同じ姿形をして、同じ言葉を話し、同じものを食べる人間の方が恐ろしい。

『ネウロイがいなくば、人は人と争っていただろうよ。
 人の身体とは人と戦うための形をしている。ウィッチとて「使える」と分かれば畜生働きをしていたことは確実』
「今は関係のない話では?」
『そうだな。
 ともあれ、オーカ・ニエーバの連中がアイスブレイクと洒落こんでいる頃合いだろう。
 そこでだ、ラル少佐』

 そこで切り替え、リーゼロッテは命令を下した。

『命令にはなるが……ラッキー・ホワイトの名を持つウォーザードではなく、一個人としてのエマ・ホワイトに会って話をしてきてほしい。
 絆されれば、懐に入り、互いを知ることはできる。過去には遡れずとも、未来に向けてマシなことはできるだろうさ』
「オーカ・ニエーバの行動が速かったのも、大佐の入れ知恵でしたか」
『否定はしない、必要なことは必要な時にやっておくべきと判断しただけさ』

 ともあれ、そういうことならばラルがすべきことは一つだ。

「では早速、会いに行ってきます」

 元ウィッチであり、ウォーザード。けれど、それにはあまり触れず、個人として付き合う。なかなか難しいかもしれない。

278 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/10/18(金) 23:10:56 ID:softbank126116160198.bbtec.net [17/89]

  • 502JFW基地 娯楽室


「うわあぁぁぁぁぁああああんん!いい人ばっかりだよおおおおおおお!」

 オーカ・ニエーバのお茶会が開かれていると聞いた娯楽室に着いて早々、後悔していた。
 まさかのエマ・ホワイト、ガチ泣きであった。感涙っぽいのでまだマシか。いや、大して変わらないか。

「何が起こった!?」
「あー……なんといいますか」

 責任者たるカーチャに慌てて問いかければ、なんとも気まずそうな返答が帰ってくる。
 見れば、エマの顔は泣いていることを加味しても赤くなっているし、声や鳴き声はどう見ても普通とは言えない。
おまけに衣服を着崩しているということは---

「イギリス式の紅茶を飲ませて、それから少し高めのお菓子を食べさせたらこの有様です……」
「まさか……」

 そのまさかであった。
 無言で差し出されたのは紅茶に香りづけで入れられるブランデーの小瓶、そしてエマの食べたと思しき菓子の包装紙。
ブランデーは言うまでもなく、包装紙のにおいを少しばかり嗅いでみれば、何があったかを理解した。

「下戸なのか」
「ええ、度を越している下戸です。
 本人の体質もあるのかもしれないですが、思い込みで酔っているんじゃないかなと」
「……っふー」

 泣きたいのはこっちだ、と言いたくなるのを何とかラルは堪える。
 割とアルコールを飲むことにおおらかな風紀があり、尚且つ体を温めるためのアルコールもあるというのに、こんな厄介な体質とは。

「問題視されていなかったというか、これまで発覚していなかったとみるべきでしょうね……」
「これでは消毒用アルコールにさえ酔っ払いかねんな」
「あとで医務室とも相談してみます……」
「任せた……それで?」

 問いかけた先、カーチャはしっかりと頷いた。

「意識を変える第一歩はできたと思います。
 生憎と一般庶民なので貴族の苦労はわかりませんが、話を聞いてくれるだけでも良いようですので」
「それは良かった。オーカ・ニエーバ内の連携などがきちんととれていなければこちらにも問題が生じるからな」
「まあ、時間をかけて彼女のことは何とかします」
「調教だったか?」
「うぐっ……言葉の綾ですって」

 冗談だ、と思わず笑みがこぼれた。
 一先ずは、この酔っ払っているウォーザードをどうにかすべきだろうか。
 明日に響いてはたまらないのだし、医務室から主に整備班向けに用意されているアルコール分解薬でも貰ってくるべきかと考えを巡らせる。
 賑やかすぎる歓迎会は、しかし、息のつまりそうな執務続きだったラルにとっては一種の清涼剤のように感じた。
 同時に、遠からず訪れる孝美の着任を思い、胃が縮むような感覚を覚えるのだった。

279 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/10/18(金) 23:11:49 ID:softbank126116160198.bbtec.net [18/89]

以上、wiki転載はご自由に。

ようやく、エマ・ホワイトちゃんが着任しました。

他の世界線観測に忙しかったのもあって、後回しにしていたのですが、やっと解決。

次がサトゥルヌス祭だぁ…
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最終更新:2024年12月15日 17:05