412 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/10/20(日) 19:23:27 ID:softbank126116160198.bbtec.net [30/89]
憂鬱SRW ファンタジールートSS 「サトゥルヌス祭にはご用心」
- F世界 ストパン世界 主観1944年12月 オラーシャ帝国 ペテルブルグ 502JFW基地
本格的な寒さがペテルブルグを覆った12月。
年明けに発令される「ヴァナディース作戦」に向け、戦力や物資の蓄積は着々と進められていた。
ここペテルブルグはもちろんのこと、最前線となるペトロザボーツクも同様だ。
オラーシャ帝国の大部分を一気に解放するという一大作戦に向け、緊張感をもって動きが続いているのであった。
当然ながら、ネウロイも馬鹿ではなく、戦力や物資の蓄積が進む拠点や輸送路を繰り返し襲撃していた。
暑さ寒さ、昼夜問わず、夜討ち朝駆け不意打ち上等とばかりにあらゆる方法で攻め込んでくる。
ハラスメント攻撃は手を変え品を変え実施され、あるいは正攻法に攻めてくることもある。
当然対応する人類側は、せっかくの備蓄を費やす羽目になる。
ノーダメージで撃退などできるはずもなく、相応にダメージを受け、あるいは消耗を強いられる。
そういうものと、消耗する分を織り込んで戦力や物資を送り込んでも、それでもダメージはある。
そんな中にあって、502JFWは比較的マシな部類であった。
他の部隊の救援に赴くことはあっても、基本的には友軍が警戒しているラインの内側にいることができるからだ。
つまり、比較的安全が確保されており、直接攻撃を喰らうにしても察知することができて即応する猶予のある立場なのだ。
「ふぅ……」
トレーニングウェアに身を包み、502JFWの基地を出たひかりは白い息を吐き出した。
早朝にこうしてランニングを行うのは、502JFWに着任する前からの日課だ。
特に魔力の保有量に限界のあるひかりは、自前での体力や抵抗力が必須であり、その涵養のためにも自主トレーニングを推奨されていた。
だからこそ、こうして太陽が昇る前よりもさらに前の時間に起きて、身体に火を入れる軽食の後に、こうしてランニングなどに繰り出しているのであった。
ストレッチなどの準備運動は既に済ませているので、あとは走り出すだけである。
「うう……やっぱり冷え込む」
オラーシャの昼間は短い。12月ともなれば、日の出が10時ごろで日の入りが16時ごろという、限られるのだ。
寒さと雪なども相まって、川は凍り付いてしまうし、道路や樹木なども凍結する。道路とてそこに例外はないのだ。
502JFW基地にしても、地面に電熱線を埋め込んでいないところは同じような有様だ。
とはいえ、凍結したり積雪している場所を走るのはそれはそれで訓練になるので、そこはのみ込むことにしている。
走りだせば、徐々に体温が上がり始め、寒さも気にならなくなる。
だが、結構なペースで走っているので冷たい風や空気が体を苛む。
体の芯の部分やウェアで覆っている部分はともかくとして、身体の端が冷えていくのは避けえない。
「……ハァ」
体が火照り、口から熱がこぼれる。
走り続けていけば、身体は熱を帯び、比例するように体力を消耗し、疲労が積み重なる。
嘗ての要塞を基地として改造した502JFW基地の外周を回れば、中々の距離となるから当然。
それでも、ひかりは走り続けている。吹き付ける風や冷気を割り、ひたすらに前へ進むのだ。
413 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/10/20(日) 19:24:32 ID:softbank126116160198.bbtec.net [31/89]
日の出前からおよそ2時間のランニング、そして筋力トレーニングをすればいい汗をかく。
午前6時というタイミングで区切りをつけたひかりは、その足で基地内の浴場へと向かう。
流石に平時であるので、配給切符が必要な別棟にある浴場は使わず、基地の常時解放されている方の浴場だ。
シャワーやサウナがメインで、浴槽そのものは余り立派とは言えないが、それでも運動後の汗を流しきるには十分すぎる。
(ん……と)
浴槽内で行うのはストレッチとマッサージだ。トレーニングで酷使した筋肉は破壊と再生が繰り返される。
その手助けをしつつ、余計な疲労を残さないためにも、ここでしっかりとケアをしておかねばならないのだ。
ここでのケアだけでなく、風呂の後には湿布や塗り薬などで行うのも忘れてはならない。
魔力の絶対量の低さから来る肉体の弱さは、こういうところにも如実に表れてしまうのだから。
その為には薬や機械による補助を惜しみなく使うつもりであった。
地球連合との接触でもたらされたのは、単なる軍事技術だけではなく、こうした民生にも応用が利く医療の技術なども含まれていた。
あるいは、身体をどのように鍛え、そしてケアを行うかという極めて学問的な、知識と経験の積み重ねももたらされていたのだ。
そうしてゆっくりと体をほぐし、疲労を抜いていると、ふと思い出したことがある。
「そういえば……サトゥルヌス祭でしたっけ」
1月になれば大規模作戦になるから、これが最後の機会だ、とニパらは息巻いていた祭りのことがふと浮かぶ。
12月に行われるというその祭りは欧州圏では非常にポピュラーな祭りで、上から下まで大騒ぎだと聞いている。
昨年も戦時下であるためにある程度自粛はしつつも、それでも基地をあげての祭りが開催されたとも。
ただ、重要作戦を目前に控えているので、季節の行事とはいえ羽目を外すのはどうか?と思う程度にはひかりには軍人としての意識がある。
作戦前に力を入れ過ぎないようにするのはいいことかもしれないが、502JFWという戦力が動けなくなるのは周辺の基地の戦力にも影響が出るからだ。
祭りを行うにしても、その分の物資をどこから持ってくるのかというのもある。
そも、502だけが楽をしているというのは申し訳が立たないし、それをするとなれば他の基地にも---
「お疲れ様、ひかりちゃん」
「各務原少尉」
そこまで考えていた時、浴室にはウォーザードの鏡子が現れた。
時間と勤務予定から察するに、夜間哨戒を終えて戻ってきたのだろう。
そして、装備を整備班に預け、報告を終えて処々の引継ぎを終えれば今くらいの時間となるだろう。
「考え事かしら?」
「はい、サトゥルヌス祭が近いな、と」
「そうねぇ」
鏡子を気遣い、彼女の身体を洗い始めたひかりは、そのことを口にした。
戦時とはいえ張り詰めすぎるのも良くないが、かといって大規模作戦が近いのが気になるということも。
502JFWを含む周辺の部隊と連携しての大規模作戦の前に、人類側の都合で隙を作るのは良いことなのか、と。
「まあ、去年に倣って行うことになると思うわよ。
みんなも楽しみにしているわけだし、ね。
それに祭一言でといっても、普通は冬至の前後……大体1週間くらいはその期間だから」
「なるほど、日程をずらして行えばいいわけですか」
そういうこと、と鏡子は頷く。
昨年の502JFWにおいても、周辺の部隊と話し合って日程を決めて、その上で祭りを楽しんだのだ。
そうすればどこかの基地の戦力が常に即応できるような体制にあるし、その間は誰かが祭りを楽しむ余暇が得られる。
「ストイックなひかりさんにはちょっと納得しがたいかしら?」
「いいえ、時には息抜きも必要ですから。
まあ、だからこそ迷ったんです」
414 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/10/20(日) 19:26:08 ID:softbank126116160198.bbtec.net [32/89]
ひかりが持っているストイックさは優秀な姉に追いつくため、というのもある。
自分に不足があると分かっているからこそ、その不足を補うために努力を惜しまなかったのだ。
その点を評価され、ティル・ナ・ノーグからは科学的な知見と検査に基づいた内容が提示され、アフターケア用品なども支給されている。
時間は極めて限られており、その中でも研鑽をしなくてはならない---そのように教えを受けたひかりがストイックとなるのも当然であった。
促成で仕込まれたということもそれに拍車をかけたのだろう。
とはいえ、である。ひかりとて年相応の部分がある。
そういうお祭りが楽しみではないと言えば嘘になるだ。むしろ、異国の祭りに楽しみなくらいである。
ティル・ナ・ノーグで他国から来た人々と知り合い、あるいは地球連合の人員と交流し、文化風習に触れて刺激を受けて好奇心は育っていたのだ。
「ところで、サトゥルヌス祭は具体的には何を?」
「そうね……贈り物を贈り合ったり、ごちそうを食べたり、飾りつけをしたり……色々とやったわね。
連合から持ち込まれたカラオケとか射的とかで遊びもしたわ」
「カラオケ……?」
「そう、こう、なんというのかしら……曲に合わせて歌を歌って、その点数を競い合うとかできるのよ」
鏡子が思い出すのは去年のサトゥルヌス祭だ。
現在と少々状況が違っていたが、潤沢に物資が供給されていて、その中には娯楽などを目的とした者も多く含まれていた。
戦争というものに対して極めて熱心である地球連合にしてみれば、士気や風紀を維持するための物資や余暇もまた必需品だとよくわかっている事。
その監修を受けた各国軍が、JFWが、あるいは各地の国際的な部隊がそのような余暇を得ているのは当然であった。
「俄然楽しみになってきましたね……」
「ええ、そうなんだけど」
「けど?」
懸念事項となるのはやはりネウロイだ。鏡子はそれを気にしていた。
「今のところはネウロイの襲撃を防げてはいる。
けれど、結構綱渡りなのは確か。何か一つ起きれば天秤が傾きかねないくらいには危ういのよね」
「……ですね、ネウロイに人間の常識は通用しませんから」
「油断は大敵、遊んだり休むにしても、加減が必要ということね」
浴槽から立ち上がった鏡子は、しかしあまり悲観していない。
「まあ、今回ばかりは備えるしかないわ。
それより、サトゥルヌス祭の贈り物をキャラバンに手配したほうがいいわよ」
「キャラバンに……そうですね」
キャラバンとは、原義的な意味とは少し違う部隊だ。
主として輸送部隊に付随するのであるが、どちらかといえば隊員たちの個人を相手とした商売を行う、軍に許された民間業者だ。
教養娯楽品をはじめとした、生活に必ずしも必要とは限らないが、それでも必要なものを売ってくれる。
そこならば、祭りを盛り上げる物を売ってくれることは確実であろう。ただまあ、被らないようにしなくてはならないのが難しいところか。
「大規模作戦前の最後の息抜き、楽しまないとね」
「はい」
415 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/10/20(日) 19:27:12 ID:softbank126116160198.bbtec.net [33/89]
以上、wiki転載はご自由に。
サトゥルヌス祭編、始まります。
どっちかといえば日常メインになりますね。
空白となっている2か月の間の動きも少しずつ解説したいところです。
最終更新:2024年12月15日 17:08