282:モントゴメリー:2024/08/13(火) 00:14:26 HOST:124-141-115-168.rev.home.ne.jp
とある会議にて
フランス連邦共和国(FFR)、パリ、エリゼ宮
「——ですので、銀髪のラ・ピュセル(La Pucelle aux cheveux argentés)たちを戦車に搭乗させることは大いに有効だと推察します」
会議室で技術士官が閣僚たちへ向けてレクチャーをしていた。
「彼女たちを装填手とすれば現行の自動装填装置以上の装填速度を達成でき、かつ余剰空間を確保できます。
その他の利点はお手元の資料をご覧ください。」
「私からの発表は以上となります」
その言葉と共に、部屋が明るくなり、プロジェクターが停止する。
「いかがでありましょうか、大統領閣下」
「そうねぇ…」
大統領——マリー・マフタンは扇子で口元を隠しつつ思案する。
「総参謀長はどう思って?」
「ご自身でもお解りになっているでしょうに」
総参謀長は苦笑いしつつ応える。
公の場であるため、二人とも口調は「外向け」である。
「“論外”ですな」
「なっ!?」
「そうよねぇ。ラ・ピュセルたちを戦車に乗せることは不可能よねぇ。少なくとも現行の主力戦車にはね」
参謀総長の結論に技術士官は絶句し、大統領は我が意を得たりと破顔する。
それに後方で控えていた大統領の秘書官と補佐官も首肯する。
「……り、理由をお伺いしても?」
FFRを代表する戦車乗りたちに否定され、精神的に打ちのめされながらも職務を果たすために技術士官は問いかけた。
「だから、『不可能』なのよ。ラ・ピュセルたちが戦車に乗るのは」
「…砲塔内の空間は彼女たちの標準身長でも行動可能な広さですが?確かに中腰を強いられて膝の関節の摩耗は進行するでしょうが」
「『それ以前』の問題よ。……外務大臣には解るでしょう?」
「はい?」
突然話を振られた外務大臣は困惑する。
「解るわ、潜水艦乗りだった貴方になら。潜水艦と戦車の共通点は何かしら?」
「…潜水艦と戦車の共通点?……ああ」
外務大臣は得心したようで、何とも言えない表情をした。
「実演してみるのが一番ね。ソフィー、悪いけど駐車場から『私の愛車』を持ってきてちょうだい」
「承知いたしました」
「皆さま、気分転換に庭へ出てみましょう。“面白い”ものが見れますわよ?」
大統領に言葉に外務大臣を除く閣僚たちは怪訝な表情(補佐官や秘書たちは苦笑、参謀総長はいたずらが成功した少女のような笑み)を浮かべながらも、彼女に従い会議室を出ることにした。
283:モントゴメリー:2024/08/13(火) 00:15:57 HOST:124-141-115-168.rev.home.ne.jp
皆がエリゼ宮を出て庭に集まってすぐ、地下駐車場から『大統領専用車両』の一台がやって来た。
それ——ビヨット主力戦車は皆の前で停車する。
秘書官——ソフィーが操縦手席より顔を出す。
「お待たせいたしました」
「相変わらず美しい操縦をするわね」
なおソフィー、現役時代は大統領と同じ車両で戦場を駆け抜けた仲である。
(もう一人の秘書官であるイザベルは砲手だった)
「では愛車をお借りしますわね、大統領?」
「ええ、お願い総参謀長」
「——クロエ、車長席に座ってもらえないかしら?」
参謀総長がお付きのラ・ピュセルに指令を下す。
「申し訳ございませんが閣下、それは不可能です」
「わかってるわ。それを承知で命じます。砲塔内への進入を試みなさい」
「——Je comprends」
クロエはビヨットに近づき車体をよじ登る。
そして砲塔に登り、ハッチを開け、中へ入ろうとして……
「閣下、事前想定通り不可能です」
『胸部装甲』が引っかかり内部へ入れなかった。
あまりの光景に閣僚と技術士官たちが唖然とする中、大統領と総参謀長は腹を抱えて哄笑(こうしょう)する。
秘書官と補佐官が何とも言えない表情で待機する中、何とか呼吸を整えた大統領が言葉を紡ぎ出す。
「——こ、こうなる事は予想できたわよ!砲塔のハッチの直径は120㎝もないのだから!!」
「たしかに貴方達(技術士官)の机上の計算通り、砲塔『内部』での活動は可能でしょうけど、そもそもそこへの入り方を失念していたわね!!」
総参謀長の言葉に技術士官たちは赤くなっていた顔を青くする。
「これで解ったでしょう。戦車乗員にラ・ピュセルたちを含める案は先送りよ。まずは新型戦車の導入が先決だわ」
「……了解しました、最高司令官代行殿。ご指導いただきありがとうございます!!」
技術士官は敬礼しつつ応える。
それに参謀総長が反応する。
「お礼なら体を張ってくれた彼女に言いなさい。クロエ、ご苦労様」
「——なるほど、これが『恥を晒す』というものなのですね。学習いたしました」
「後で取って置きのコニャックをあげるからすねないの♪」
「アルコールで懐柔できる安い女だと思われてません?」
参謀総長とクロエのいつもの漫才を合図に、本日の会議はお開きとなった——。
284:モントゴメリー:2024/08/13(火) 00:16:52 HOST:124-141-115-168.rev.home.ne.jp
以上です。
ウィキ掲載は自由です。
リシュリュー改二記念&E-3-1が突破できない怨念を込めて即興で作成いたしました。
最終更新:2024年12月17日 23:53