266:700:2019/06/28(金) 00:36:11 HOST:KD119105029058.ppp-bb.dion.ne.jp
提督たちの憂鬱について その85 レス982でモントゴメリー氏が書かれた
「水陸両用トラックA型」をネタに今では一部で一般名称化してしまったとある商標に
ついて書いてみました。

転載については自由に扱ってください。

267:700:2019/06/28(金) 00:47:07 HOST:KD119105029058.ppp-bb.dion.ne.jp
クレーン付トラックあるいはユニック事始

フランスは「水陸両用トラックA型」を上陸部隊向けに大量導入を開始すると同時に
初期の納品分を用いて上陸戦演習を行った。軽榴弾砲(10cmクラス)を荷台に搭載し、
上陸させることが出来る「水陸両用トラックA型」の有用性は明らかであり、砲兵科
では大々的な導入を働きかけることとなる。

一方、現場では様々なトラブルがあり、初期には諸手を挙げて歓迎できる状況でも
なかった。特に問題となったのは以下の点であった。
  • フランス陸軍が運用中の軽榴弾砲シュナイダーM1913 105mmカノンは戦闘重量こそ
 2.3tと「水陸両用トラックA型」に搭載可能であったが、牽引形態では2.65tとなる
 ため過積載により海上航行が危険なレベルであった。(※1)
  • 砂浜を含む悪路走行性能が極めて低く、スタックすることが多かった。(※2)
  • 水密性を保つため荷台に可倒式のアオリが無く、荷物の積み降ろしには一度持ち
 上げて船縁を越えてから降ろす必要があった。

最初の問題は当初牽引用装備を別の車両で運搬し、積み降ろし後に必要に応じて合流
させるといった運用を行ったが、最終的には砲架の軽量化を行うことで解決すること
となり、ドイツ製75mm対戦車砲の砲架と合わせてM1947 105mmカノンとして結実した。

2番目の問題はベース車両のオペル ブリッツの4輪駆動モデルのトランスミッションを
トルク重視とし、標準よりも幅広のタイヤを使用することで改善されたが、改善後も
スタック脱出用の丸太は事実上の標準備品扱いであり続けた。

最後の問題は非常に大きな問題で最初の演習時には無事上陸したものの砲を積み降ろ
せずに終わると言う情け無い結果に終わった。(※3)
別途小型クレーンを持ち込み、砲の積み降ろしを行うという手順が定められたものの、
順調に推移しても混乱すると言われる上陸海岸でクレーンを広げるゆとりがある訳も
なく、時間も掛かるため改善が必要であった。これに対し、痺れを切らした兵員が
2台の「水陸両用トラックA型」を並べ、一方の上に持ち込んだ小型クレーンを展開し、
もう一方に搭載された榴弾砲を積み降ろすという裏技を展開するに至る。これを車両
整備部隊に随伴していたユニック社(※4)の社員が目撃したことから、輸送車両に
積み降ろし用のクレーンを装備すると言う、ありそうでなかった組み合わせが誕生
した。(※5)
もちろん只荷台にクレーンを固定するだけではクレーンアームを横に振った際の
安定性に問題が出るため、アウトリガーを装備し、フレームに接続するなど、
改造の範囲は大きく、最大積載量に悪影響が出るのは避けられなかった。しかし、
ちょうど砲架を軽量化した105mm榴弾砲が導入され始めた時期と重なったため、
これらの改造による積載量減少も許容範囲で収まることとなり、砲兵用として
クレーン付「水陸両用トラックA型」が配備されることとなる。そしてクレーン
アームに誇らしげに描かれたロゴにより車両そのものが「ユニック」と呼ばれる
ようになる。(※6)
輸送車両自体にクレーンを装備することはクレーン自体の重さにより輸送可能な
重量が減少することに繋がり、通常の荷受作業現場ではデメリットが大きいが、
混乱を前提とした戦場では自己完結性として歓迎されたのである。

その後、その便利さゆえに補給科を始めとするする他の兵科でもクレーン付輸送車両
(「水陸両用トラックA型」に限らず)を要求するに至り、フランス軍において同種の
車両は急速に一般化し、車両の製造元を問わず「ユニック」と呼ばれるようになる。

なお、「ユニック」という名称は現代日本においてもクレーン付トラックを示す
用語として建築業界を中心に通用するが、冷戦中は敵対国と言ってよいフランス
発祥の名称が何故定着したのかについて定説は無い。

268:700:2019/06/28(金) 00:49:16 HOST:KD119105029058.ppp-bb.dion.ne.jp
※1 シュナイダー105mm砲は諸外国の軽榴弾砲よりは若干重い。
  例:ドイツ 10.5cm leFH 18/40 1.9t
    英国  25pdr 1.6t
    日本  機動九一式十糎榴弾砲 1.75t
※2 元ネタのDUKWがベースとしたCCKW 2-1/2トントラックが悪路も考慮した6x6の
  全輪駆動車両であったのに対し、「水陸両用トラックA型」がベースとした
  オペル ブリッツは4輪の後輪駆動車が基本であり(4輪駆動モデルあり)、
  エンジン出力も低めだった。またCCKWは2-1/2トントラックと呼ばれていた
  ものの、これは悪路を前提とした数字であり、舗装路では4トン程度の積載
  能力を持っており、車両としてのゆとりが大きかった。
※3 そのまま荷台上からの砲撃を敢行した結果、砲が荷台にめり込み、積み降ろし
  不可能となったため当該「水陸両用トラックA型」を自走榴弾砲として登録し
  直したという逸話が語られるが、過積載によりフレームを破損し修理不能として
  廃車にせざるを得なかった「水陸両用トラックA型」が存在したことから
  生まれたジョークである。
  荷台からの発射も、再登録もされていない…はず、多分。
※4 フランスの自動車メーカー、第2次世界大戦直前ごろからトラック等商用車専業
  となる。
※5 牽引用ウィンチを装備した輸送車両は普通に存在したが、荷物の積み降ろし
  機能を持った輸送車両は存在しなかった。
※6 第一次世界大戦のマルヌの戦いにおいて兵員を前線へ運んだタクシー部隊に
  ちなんだ命名とも言われる。(創業当時ユニックはタクシー向け車両を製造)

269:700:2019/06/28(金) 00:51:34 HOST:KD119105029058.ppp-bb.dion.ne.jp
正直DUKWに始まる水陸両用トラックの使い勝手について気になっていたのが切っ掛けです。
荷降ろしを人手だけでやるのはどう考えても大変ですが(アオリが倒れないので普通の
トラックより上げ下ろしが発生する上に車高も高い)、そんな所に2t余りの荷物なんて
どうやって扱ったものか。クレーンが常にあるとは思えませんから。

なお自衛隊の補給科でもクレーン付トラック(作業装置付と呼ばれる)は人気のようです。
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最終更新:2024年12月18日 20:40