277: SARUスマホ新調 :2019/07/23(火) 18:34:12 HOST:KD106132083137.au-net.ne.jp
本来は支援スレに投下すべき案件かと思いましたが、短いので此方へ

『と或る学術的名称について』

天皇海山列──と或る世界線の1954年。カムチャツカからハワイへ掛けての海底に連続して存在する海山(主に火山活動等で隆起した後、完全に水没した物)へアメリカの海洋学者が命名した呼称である。

カムチャツカとハワイが日本領であるこの世界では周辺海域処か日本と友好国群に囲まれた太平洋のほぼ全域が“聖上の湯殿”であり、先に在った様な些か不敬な呼称以前に亡国の学者が自由に研究対象と出来る状況では無かった。
又、詳細な海底地図その物も欧洲聯合が反応動力式潜水艦──所謂原潜を実用化する以前から軍事機密に指定されており、海洋学の研究は近海や南太平洋が主な場所となっていた。
とは云え全く調査研究が為されていなかった訳では無く、時の主上が海洋生物の研究者で在らせられた事もあって70年代半ば以降各種探知防衛体制の充実と共に情報公開の気運が高まり、件の海山列にも名称を与える必要性が生じた。
環太平洋諸国の有識者は協議の末に旧アメリカ合衆国歴代大統領名を付ける事を決定、こうして北太平洋の海底に大統領海山列と呼ばれる地名が誕生し、世界各国の海図にも記載される様になった……

物事には裏側がある。
過去生で海洋学者だった某研究者は天皇海山列の経緯とその舐めたネーミングを知って憤りを溜め込んでは居たが、対米戦だけではなく海流や漁業資源の動向をも左右する海底地図の充実に軍属として戦前より取り組んで来た。
そして幾星霜、史実より二十年遅くあの海山列の運命に思いもかけず関わる事となった。
最初は前世の報復とばかりにカリフォルニア・ゼファーを国鉄色に塗りたくって顰蹙を買った連中が脳裏に浮かんだが、史実通りの命名をするのも業腹だったので尤もらしい理由を付けて提案して見せた──曰く『この海域で祖国の存亡を掛けて戦った日米将兵の鎮魂を兼ねて』亡国の大統領名を付けるのだと。
カムチャツカ側から順に二十九の海山へ建国から崩壊まで歴代三十三名の内、ワシントン(ワシントン国に配慮)、ルーズヴェルト(同姓が二人居て混乱する)、ガーナー(“亡国最期の大統領”)を除いた名称が、残ったハワイ側のそれには生地近海の守護を祈念して歴代のハワイ王の名が冠せられ総称は『大統領・ハワイ海山列』とされた。
後に国際会議で提言されそのまま通ったのも列強諸国に取ってはアメリカ合衆国と云う存在が“過去の遺物”だと再確認し改めて証明する儀式に過ぎないからだった。
こうして二十世紀の旗手となる筈だった未完の大国を舵取りした人々は、北太平洋の海底にその名前だけを永く遺す事となった。

終わり

278: SARUスマホ新調 :2019/07/23(火) 18:38:59 HOST:KD106132083137.au-net.ne.jp
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最終更新:2024年12月21日 13:17