406:冷石:2024/04/30(火) 14:29:35 HOST:M014011193161.v4.enabler.ne.jp
シン・アスカと嶋田繁太郎の憂鬱
「あ、あのー、嶋田首席秘書官殿。お、お茶いれてまいりました」
めでたく(?)プラント評議会議長に就任したシン・アスカ議長は恐る恐るといったていで
自らが議長就任の条件として抜擢した嶋田繁太郎主席秘書に話しかける。
「そ、それでなんですが。軍からこの予算を通してほし『ギンッ』いえ、なんでもありません」
這う這うの体でといった風情で引き下がるシン。その恋人の姿を見てシン・アスカ評議長の第ニ秘書兼護衛のルナマリア・ホークは
(どっちが上司かわからないわね)などと思い、書類の作成に意識を戻す。
(でもこんな姿プラント国民には見せられないわね)
たしかに戦災孤児としてプラントに移住してきて抜群の武勲を立て評議会議長にまでなった立志伝中の人であり
幾多の戦乱で荒廃したプラントを立て直したのみでなくその抜群の外交力により各国の勢力の均衡を作り出し
世界に平和をもたらしたのみでなくそのイニシアチブをプラントがとることにより国家威信を高めた名政治家として
プラント国民の絶大な支持を得て、CE史上最高の政治家と呼ばれる男の姿とは思えない情けない姿であった。
そしてお茶と、お茶うけだけを置くスペースしかないくらいに書類が積まれた机を見やる。
その机の主こそがシン・アスカの功績の立役者とプラント上層部の一致する評価を与えられる男、嶋田繁太郎プラント評議長主席秘書官であった。
彼は評議会議長就任を打診されていることから自分を補佐してほしいとシンに頼まれ、恋愛脳でイカレポンチになって全仕事を振ってくる某総裁と某准将に愛想をつかしていたこともありそれを承諾したのだが。
数々の転生を繰り返してはいるものの、全て人種差別がほぼない日本であったため、ナチュラルとコーディネイターの確執を甘く見ていたのだ。
初期こそ若造であるシンを傀儡にしようとするプラント内の諸勢力の壁と、シンに政治のイロハを教える程度の仕事量だったのだが
(それでも十分多く一般的なブラック企業並みではある)時間がたつにつれプラント内で不満が高まり嫌がらせにドンドン仕事を振ってくるようになった。その結果がこれである。
そう、嶋田さんは衝号作戦の業により永遠に激務に苛まれる激務道を業の清算が済むまで輪廻し続けることになっているのだ。
そして今やコンパス時代がホワイトに見えるブラックぶりに上司に対する敬意も摩耗したのである。
407:冷石:2024/04/30(火) 14:30:16 HOST:M014011193161.v4.enabler.ne.jp
コン、コン
「はい」
ドアから聞こえるノックにルナが答える
「エザリア・ジュールです。よろしいですか」
「ジュール議員ですね、すぐドアをお開けします」
ルナがドアを開けるとエザリア・ジュールはシンに目もくれず嶋田さんの机に向かう
「嶋田首席秘書官、無事例の件の議会における多数派工作に成功しましたわ」
「そうですか、ありがとうございます、ジュール議員」
「いえ、首席秘書官の名前を出したら反対派は震えあがって快諾してくれましたわ。流石秘書官です」
「あくまで反対していた議員のリストはできていますか?」
「はい、当然です」
「わかりました。ああ、ジュール議員来月のジュール中佐の結婚式ですが議長の参加する時間は作っておきましたので出席させていただきます」
「ありがとうございます。『あの』難攻不落の息子がこれほど早く結婚にこぎつけたのも秘書官のおかげです、この御恩をお返しするためならどんな難しい仕事でもこなしてみせますわ」
「いえ、お気になさらず。ああリスト以外の書類の方は議長に回してください」
「はい、かしこまりました」
嶋田さん、まだ暇だったころに議会工作においてキーパーソンになるエザリアさんを味方に引き入れるべく
イザークの外堀を完全に埋めまくり。逃げ場をなくしたうえ、ディアッカを味方に引き入れて退路を断って見事シホとの結婚に持ち込んだのである。何度も転生を繰り返しその記憶を持つスーパーチートである嶋田さんからすればその程度仕事の片手間にできる策であったが、息子の結婚問題に頭を悩ませていたエザリアさんからすればまさに救世主であった。そして今では熱狂的な嶋田シンパになったのである。
「ああ、ホーク次席秘書官。このリストをホーク班長に回しておいてくれ」
「了解しました、ホーク第三班班長に回しておきます」
メイリンはその電子戦における力量を認められターミナルから即プラントに呼び戻され情報工作を行う首席秘書官付後方処理部第三班の班長に任命されていた。
それぞれが忙しく働いている中、シンの仕事は書類を確認して判を押し、嶋田にお茶を入れるだけであった。
そう、それがCE史上最高の政治家と称えられるシン・アスカプラント評議会議長の真の姿であった。
あとがき
とりあえず投下です。浮気がばれた間男の如くベランダからとんずらしつつ、
最終更新:2025年01月19日 19:06