222:弥次郎:2024/11/10(日) 19:12:03 HOST:softbank126116160198.bbtec.net
日本大陸×プリプリ「The Melancholic Handler」外伝「そうだね、粛清だね」
- 西暦1855年6月某日 アルビオン王国 ポーツマス ポーツマス空軍基地 陸港
クリミア戦争が終結し、講和も行われてから、王立空軍の艦艇は続々とクリミアから本国へと帰投してきた。
両シチリア艦隊とアレクサンドリア艦隊を中心として編成された派遣艦隊は、戦争後半には本国艦隊も混じっていたのだ。
講和が結ばれて、戦闘が用をなさなくなると判断され、また現地での簡易な補修や補給作業などが行われた艦艇から順次引き上げが行われたのだ。
そう、補修作業が必要なほど、航空艦は痛手を負ったのだ。
これまでの戦争において、運用上の不手際や事故などを除けば、損傷などほとんど0だった航空艦隊は、このクリミア戦争で多くの打撃を受けた。
ロイヤル・サブリン撃沈がクローズアップされるが、それ以外でも航空機や飛行船による爆撃や空襲により少なくない数の艦艇が撃沈されていた。
損傷艦も多く自力航行ができずに他の艦艇による曳航により近場のドックまで運ばれるケースも多かった。
他にも、この空襲によって空軍の艦艇に乗っていた上流階級出身の空兵たちが攻撃により死亡するケースも追い打ちをかけた。
勿論陸海軍に従軍する子弟もいたわけであるが、ともかく安全なところにいたはずの彼らがKIAというのが衝撃を上乗せしたのだ。
高貴ゆえの義務を果たすべく従軍したからといって、死なないわけではない。だが、死ぬ確率はほとんどない筈。
それが裏切られ、結構な数が天に召されてしまったのはわかっていても理解を拒むものなのだ。
それに、死体が残らない、あるいは死体として体裁を保てないほどに戦いが悲惨だったのもある。
これは陸軍でも顕著だったが、とかく航空艦の墜落や爆発、あるいは空襲による被害は人間などという惰弱な生物を殺すのに強力過ぎた。
その為に、棺に収まり無言の帰還をなした兵士が少なくはなかったのである。いや、まだ収まるべき肉体があるだけマシだ。
空の棺桶、あるいはわずかな遺品だけが収まった棺桶が運ばれてくるというケースも多くあった。
そこにいたのは確実だが、空襲によって引き起こされた混乱と破壊によって遺体すら見つからずに行方不明---実質死亡というのがあったのだ。
故に、本国へ艦隊が帰投したにもかかわらず、その空気は重く、また暗いものがあった。
艦隊が出港した時、観艦式を行い、戦勝を願うパレードも陸空で行われもしたというのに、帰投した彼らにそれらはなかった。
むしろ、悲惨なことになったのを隠すように情報統制まできっちり行って速やかに行われたくらいだ。
王立空軍の惨めな姿など国民の目の前に晒して良い影響があるわけもないのだし。
名誉はなく、負った傷は大きく、禍根は深い。
それでも生きていかねばならないのだから、人間とは、あるいは組織というのは無情なものである。
223:弥次郎:2024/11/10(日) 19:13:57 HOST:softbank126116160198.bbtec.net
しかし、戦争の後始末は、これまた無情にも進むことになった。
言うまでもないことだが、今回の戦争では空軍による独断専行---それを通り越した大逆罪あるいは反逆罪が適用されかねない事案が発生した。
このクリミア戦争が終わりに持ち込まれる契機ともなった、サンクトペテルブルク空襲(オーバーホライゾン作戦)である。
敵国とはいえ首都を押そうということもあって、あくまでも威嚇行為にとどめるという命に背き、空軍は首都を焼き払った。
その結果としてアルビオン王国は望まぬ結果を得て、各国からもなりふり構わない追及を受ける羽目になったのである。
上乗せして、国益も損なったわけだし、アルビオン王立空軍の持ち主たるアルビオン王家にも泥を塗りたくった。
これが反逆罪でなかったらなんだというのだ、というのは至極当然の論調であった。
「それで、他に報告すべきことはあるのか?」
「もう出すべきものは出し切ったと思われます……命令書を偽装した証拠も、それを行った将官の証言も揃えました。
協力した人員についても同様です。身柄も引き渡しています。これ以上はないのです……」
「はい、そうですかと信じることができないからこそ念を入れているのだ、分かってほしい」
「こちらも必死にやっておりますので、信用を……」
「女王陛下の命に背いた空軍は恥というものをご存じないようだな」
複数の人間にガン詰めされているのは戦争省内の空軍庁---すなわち王立空軍の管轄の省庁の現在のトップである長官であった。
現在の、と但し書きがついているのは、前任者がオーバーホライゾン作戦の作戦内容の偽造に関与し、罷免されたためだ。
そしてその部下も命令の偽装に関わっている、あるいは意を酌んで手抜きをしかねないと判断され、やっと見つけた適切な人材を昇格させて対処させていたのだ。
そんな彼にとってみれば、戦争省上層部や政府、さらには王室関係者からも詰め寄られて平気なわけがなかった。
彼もまた自分たちの組織が何をしでかし、どれほどの害を与えたのかを理解しているだけあって、余計に逃げ出せず、負担は重かった。
というか、後任の彼にしても、何やってんだ前任者の長官!と叫びたかった。なんでお鉢が自分に回ってくるのだとも。
とはいえ、そんな彼の精神と胃にダメージを与えようが、追及はしなくてはならないのが辛いところである。
「知っての通り、講和にあたっては各国から詳細な報告を要求されている。
アルビオン全体に波及する前に禍根は絶たねばならない。だからこそ厳しく追及しなくてはならん」
「左様、腹立たしいことだが、潔白を証明しなければ、国が締め出される。
致命的になることは回避しなくてはならんのだ」
「ですが、空軍としてお出しできるものは出しました!
お言葉ですが、詰め寄られても出せるものはありません!」
それに、と現長官は言葉をつづけた。
「空軍としても、今回の戦争に伴って発生した数えきれない事案への対応に大わらわなのです。
これ以上踏み込まれて業務を滞らせる羽目になれば、のちの戦争にまで影響を及ぼします!
次はもっと多くの国がアレらを使ってくるかもしれないのですよ!?」
半ば悲鳴染みた訴え。それには流石に追及の手を緩めるしかなかった。
実際、王立空軍は戦争中から大わらわだった。
艦艇運用のデータ収集、敵国で確認された航空戦力の脅威度査定、航空戦力同士の戦闘、今後の戦争の方向性---調査し、勘案し、次に備えるべきは多くあった。
ただでさえ事務方の関係者も引っ立てられてしまって人員が欠けているのに、女王直轄の調査委員会への対応までこなすのはオーバーワークになる。
224:弥次郎:2024/11/10(日) 19:14:55 HOST:softbank126116160198.bbtec.net
「粛清でも何でもやってもらって結構。
ですが、王立空軍が機能不全となれば、それこそ国益を損ないかねないのです。
ただでさえ、民間でもよからぬ噂を立てられているのですから」
「……そうだな」
調査委員会の者たちも否定しきれなかった。
ただでさえ、勝利したことになっている今回の戦争は、しかし講和内容としては痛み分けで終わったのだ。
莫大な戦費の消耗と犠牲の上で得たものが、賠償金0・航空戦力の現物や理論・南進政策の停止などで終わっている。
殊更に賠償金が0というのは痛い。戦費回収ができず、そのくせ発行した国債などを順次返済していく必要があるのだから。
戦死者や傷痍兵に支払われる手当や遺族年金などのことを考えるだけでも頭が痛い。
それでいて、ロシアが今回持ち込んだ航空戦力についての研究も必須で金がかかること確定なのも問題だ。
そしてもう一つ、王立空軍を、ひいてはアルビオン王国を苦しめたのが、事件関係者の粛清であった。
そう、知らずに加担したものにも罰を下さざるを得ず、航空艦の運用などにかかわる人員---それこそ熟練の空兵までも処罰しなくてはならなかった。
本国艦隊から地方へ異動させ、優秀な人材を地方から本国へと呼び戻すことによって譜面上は数などを補うことは成功した。
だが、だからと言って質までも補えるかといえばNoだ。本国と地方で要求されることはまるで違うのだから当然。
また、航空行政にかかわる上位階級の人員などは早々に入れ替わりなどができる役職でもないのである。
単に航空艦に詳しいだけではなく、それを軍として、組織として運用するための知識や経験値が必須なのだ。
そんな人材にも等しく罰を下さねばならなかったのだから、どれだけのダメージかは言うまでもない。
「しかしな、なあなあで済ませるわけにもいかんのだよ」
「わかっておりますとも」
そう、そうなのだ。苦汁ではあったが、各国の手前、それはやらざるを得なかった。
そうだからこそ、アルビオン王国は各国の追求を一定で抑えることができたのだ。
そこに各国によるアルビオン王国の王立空軍弱体化の意図があったとしても、である。
「それで、現行犯達は……?」
「……相変わらずだ、主張を頑として曲げない輩が混じっていて、取り調べにも苦心している」
問われた先、それを言うのが精一杯だった。
無理もない、肥大化した自尊心と空軍という権力にして暴力に魅入られ、優先順位を見誤る人間など、控えめに言って狂人だ。
ましてその狂人が追い詰められた時にどのような行動に出るかなど、考えなくとも分かろうというもの。
戦争の最中にもかかわらず大取物がが行われ、引っ立てられていった首謀者たちは今もなお、取り調べの真っ最中であった。
彼らに待ち受けるのは間違いなく極刑であろう。それは決まっているのだが、その前に証言などをとらなくてはならない。
だが、それは狂人の戯言に付き合う必要があるわけであって---
「やるべきは一つなのだが、そう簡単にいかないのが悔しいところだ」
「そうですね、やるべきは……決まり切っている」
窓の外を見上げる。
遠く、ここではないどこかで、首謀者たちは今もなお取り調べを受けている。
例え即座に極刑にして粛清したい相手でも、一応の弁明などは許されているがゆえに。
だが、それがどうしても煩わしいのも、事実なのであった。
225:弥次郎:2024/11/10(日) 19:15:42 HOST:softbank126116160198.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
アルビオン王立空軍に救っていた阿保どもに対してやるべきことは何か?そうだね、粛清だね。
次回はその狂人たちの言い分を聞くことにします。
最終更新:2025年01月20日 14:14