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憂鬱SRW ファンタジールートSS 「サトゥルヌス祭にはご用心」3


  • F世界 ストパン世界 主観1944年12月 オラーシャ帝国 ペテルブルグ 502JFW基地 執務室


 3000名以上の人員を抱える502JFWは、非常に重要な季節を迎えていた。
 直近にはネウロイの巣の攻略を行うフレイヤー作戦および、東欧の広範囲を人類の手に取り返すヴァナディース作戦が予定されている。
その為の準備に忙しく、空気はピリついており、仕事は通常よりも増えている上にミスが許されない。
そんな中でずっと仕事をしていれば、息がつまって支障をきたすどころではないのである。
 だからこそ、例年になくサトゥルヌス祭は力を入れることがラルの決定であった。

 言葉にこそしていないが、最後のサトゥルヌス祭になるかもしれないという配慮もあった。
 大規模作戦---それこそ、オーバーロード作戦以来となる広域での大戦力を動員した軍事作戦だ。
当然のことであるが、これほどの大規模作戦において一般兵科も交えて戦闘をすれば、死傷者は避けられない。
オーバーロード作戦の反省もあり、一般兵科への戦力のテコ入れなどは進められはしたものの、ネウロイの戦力は未知数なところが大きい。
作戦の方針からして、全方位から攻撃を仕掛け、ネウロイの戦力を漸減・拘束、発生した間隙を縫って精鋭戦力を中枢に突入させて巣を撃破するというもの。
どう考えても消耗戦になり、真っ向からの殴り合いになる。そうなれば犠牲はどうやっても発生する。
ウィッチやウォーザードだって例外ではないだろう。精鋭を集めてはいるものの、絶対というものはない。
 けれども、発生する犠牲も考慮したうえで、作戦は承認を受けたのだ。
 成功すれば得られるものはそれ以上に大きくなるのだから、と。あるいはオーバーロード作戦の反省を生かしているのだから、と。

 とはいえ、である。
 いかに軍人として教育を受けているとはいえ、その事実を受け止めて戦うというのは存外につらいものだ。
 だからこそ、作戦前に少しでも心理的負担を減らしてやりたいというのがラルの考えだった。
 もっと正確に言えば、ラル自身も重荷を感じていた。
自分の管轄するのは502JFWの戦力を中心とした部隊で、全体から見れば少数となる。
今後現地入りしてくる予定の部隊を含めれば、その数は相対的に小さくなっていく頃だろう。
 しかし、それでも1000名近い人間の命を背負い、指示を出し、戦う必要がある。
まだ20歳ほどの若年と言えるラルが背負うには重く感じてしまうものだった。
故に、そういったうつうつとした気分を振り払うべく、502JFWの人員は業務の合間を縫い、祭りに向けた準備を重ねていたのだった。

「ツリーの準備、飾りの準備、食材の調達、プレゼントの手配、会場と日程の調整……書類仕事は一向に減らないな」
「ええ、出撃や偵察のローテーションなどもある中で、皆さんよくやってくれています」

 サーシャとともに書類を捌くラルは嘆息するしかない。
 この忙しさもまた気を紛らわせてくれるのだが、歓迎できるものとも限らないのだ。
モミの木の確保に行ったらネウロイと鉢合わせしただとか、ワライタケを大量に採取してしまったりとか、クルピンスキーがホラ話を振りまいたとか。
全くを以てせわしないし、落ち着いて仕事ができる状況とも言えなかった。

「こういうことくらいしかしてやれないのが、自分の無力さを感じてしまうものだな」
「そうでもないですよ、隊長。大々的にやるのを許可してくれたからこそ、皆さん気兼ねなくやれているんですから」
「はしゃぎすぎても困るだけさ」

 はしゃぐといえば、とラルはワライタケについて思い出す。
 地球連合から派遣されてきた人員にワライタケのことを話したとき、とても警戒されたのだった。
 曰く、ワライタケは毒キノコで、下手に食せば危険ではないかと。

「あれには驚いたものだな」
「幻覚作用があるから基本的に食用にはしない、とは。
 むしろ、あちらでは笑いが止まらなくなるという効能に驚いていましたね」
「あちらでは幻覚を見ておかしくなって、笑うような表情になるというらしいが……いや、恐ろしいものが自生するものなのだな」

542:弥次郎:2024/11/13(水) 23:33:55 HOST:softbank126116160198.bbtec.net

 結局、その収穫されたストパン世界のワライタケについては、学術的な意味があるということで地球連合が回収していった。
幻覚作用などがなく、ただ笑いを止まらなくさせる成分とは一体なんであるのか、興味がわいたという。

「ワライタケはそうですが、他にも毒キノコでは危険なものもありますからね。
 まあ、ニパさんの故郷であるスオムスではベニテングダケも調理して食べるらしいですが……」
「ぞっとするな……なぜそこまでして食べたがる?」

 そんな当然の問いに、サーシャは肩をすくめた。

「そこに食べられそうなものがあるから、ではないでしょうか?
 ニパさんに聞いた限りでは、毒キノコは案外おいしいそうですよ」
「味で見分けがつかないとはますます厄介だな……食べたくなる気持ちがわからないでもないが」

 食料調達には今後も注意してくれ、と改めてラルは釘をさしておくしかない。
 この502JFWでも、食糧の自力調達は行われていることである。
ストリボーグ艦隊の撤収で補給線が危うくなった時は、特に食料をオラーシャの大地から得ることで何とかしていたのだ。
そうでなくとも、巡回や偵察任務に出た将兵が獣を狩ってきたり、食用の植物を見つけて取ってくるということはよくやっていた。
やってはいたのだが、やはりというか、自然のものだからこそ調理の手間などもあってなかなか大変だったのだ。
ネウロイと戦う前に食料で死ぬか戦闘不能になるのは、あまりにも洒落にならないのだから。

(……そういう時なら、あのまずいレーションでもありがたく思える)

 長期保存と耐環境性を優先したレーションは、地球連合から送られてきた物資に入っていたものだ。
味は比較的まずい。少なくとも他のレーションなどから見れば美味しくはないものだった。
それでも、前述したストリボーグ艦隊の撤収で補給がおぼつかなくなった時、頼りになったのである。
勿論不満は出たのだが、何もないよりはましであったし、必要な栄養も量も満たしたのはあのレーションだった。
敢えておいしくしないことで盗み食いなどを抑止する、というのは正しく機能していたと言えるだろう。

「隊長?」
「ああ、すまない。少しばかりレーションのことを思い出していてな」
「あのレーション、でしたか。そうですね……安全が確保されているなら、多少の味の悪さは無視しますよね」
「だからこそ、ブリタニアのアホ共には殺意が湧いたものだ」

 また一つ書類にサインをして、その時を回顧する。
 地球連合からの謝罪とともに送られてきた連絡は、まさに驚天動地のものだった。
 あの時の状況は非常にまずかった。まだ係争地域がペテルブルクに近いため、下手をすればオラーシャから叩きだされていた可能性があったのだ。
502JFWの面々の努力と忍耐が、その時の大規模襲撃をはねのけることとなり、苦境を乗り越えて今がある。

「もう、あんなことはこりごりだからな」

 そういいつつ、また書類が決裁された。
 サトゥルヌス祭でのレクリエーションの企画の一つ---ルミナス・ウィッチーズのサトゥルヌス祭記念ライブを巨大スクリーンで倒しむ催しだ。

「せめて上層部はルミナス・ウィッチーズのような明るい話題を持ってきてほしいものだ」
「ですね」

 聞いたところによれば、ルミナス・ウィッチーズは今ガリアのパリ---だった場所にいるとのことだ。
 ガリア解放記念式典の一環として公演を行う予定であり、それに前後して世界各地に映像と音楽を届けるライブを行う予定であった。
 彼女らの歌などを修めたレコード盤や映像フィルム、あるいは情報媒体は一般市井や軍にも支給され、最早大衆娯楽の一つとして受け入れられていた。
ラルもまた、補給に際してはJFW内部の士気の維持や鼓舞のためという名目で結構取り寄せているのだ。

「裏を返せば、彼女たちの歌ほど影響力のある娯楽は今のところ乏しい。
 せめて、勝利で明るいニュースを届けたいところだが……」
「その前にお仕事ですね……どうしましょう、管野さんを呼びますか?」
「ああ、そうしてくれ。あいつには酒をやっておけばいいだろう。
 さすがに疲れてきた……くぁ……ぁあ」

 大きく伸びをして、肩を回し、もう一度書類と向き合う。親の仇のように憎いが、それでもやる必要がある。
すべては人類の勝利のため、そして人々の安寧のために。あるいは---その先を目指して。
サトゥルヌス祭が近づいているが、あまり浮かれていられないラルの仕事はまだまだ続きそうだった。

543:弥次郎:2024/11/13(水) 23:35:35 HOST:softbank126116160198.bbtec.net

以上、wiki転載はご自由に。

お仕事を頑張るラル隊長でした。

変な毒性がなくて、ただ笑いが止まらなくなるだけの毒キノコって、ある意味ではすごいですよね。
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最終更新:2025年01月20日 14:21