325 :ひゅうが:2012/03/22(木) 19:37:11
ネタ――「憂鬱21世紀 vs 全島(中○)世界」
――西暦20XX年 「異世界」「ゲート」付近
「妙なことになったものだな。」
「はい。本当に妙なことになっていますね。」
男の横で微妙な表情を浮かべている女性の苦笑に、かつて嶋田繁太郎と呼ばれていた男は同様の態度でそれに答えた。
普段はよく知られたキャリアウーマンじみた装束ではなく、また私的な空間で着用しているゆったりした古代ギリシア風のそれでもない。
彼女は、この「中央統合戦闘指揮室」に相応しい紺色の常勤服とキャップをかぶっていた。
そのこと自体が彼女やその周囲の変化を象徴しているようなものだった。
「10年前までは想像もできませんでした…」
「それは、我々も同様ですよ。」
大日本帝国海軍 連合艦隊司令長官 神崎博之大将は眼前の光景が出現した理由を思考の隅から反芻していた。
「我々はてっきりあなた方がその『信仰』のために我々に戦いを挑んでくるのではないかとばかり思っていました。今のあの『革命的』な連中同様に」
「昔のままなら、私もその片棒を担いでいたかもしれませんね。」
女性は肩をすくめた。
実年齢よりはるかに若く見えるのは、彼女の一族の特色なのかもしれないというほど女性は若く見えた。
「力なき正義は無力、正義なき力は暴力。まさにそうです。
そしてそれを私たちは身にしみて知るまで分からなかった。理解しようともしなかった。」
懺悔するように首を振る女性。
本心からの行動なのだろうが、どうもこういった仕草は苦手だ、と神崎は思う。
「閣下。懺悔はまたいつでもできます。今は、悲嘆ではなく行動の時なのです。
ル・ガル・ナードラ自由ローリダ政府臨時大統領閣下!!」
今、この「ゲート」沖合に集結した大小300隻近い巨大な海洋打撃艦隊も、そしてその後方から出師の途についている「奪還」船団もまったくそれを期待している。
それを知らない彼女ではなかった。
「・・・そうですね。」
ナードラは泣き笑いのような表情で顔を上げた。
「訓示をお願いいたします。閣下。」
神崎は言った。
この戦艦「大和」を持ち出したからには、帝国は本気だ。
だからこそ欧州のかつての枢軸国も戦力の大半を拠出したのだし、これだけの規模の軍勢を揃えることができた。
海には虎の子の原子力空母群を含む空母8、戦艦を含む大型水上戦闘艦28、汎用戦闘艦152と戦略原潜を含む潜水艦隊が。
空には大型超音速爆撃機200以上を含む戦闘用航空機2800機が。
陸には長大な北米境界線を喰い破るために作り上げられたあわせて200万を超える巨大な戦車軍団が用意されている。
そして、「異世界」から脱出してきた人々を訓練し統合した30万名がこれに加わっていた。
彼らは「国連軍」の名の下に「敵」に対し断固たる反攻を行おうとしている。
それには、旗印たる彼女の「声」が必要だった 。
――大中華世界人民共和国を名乗る「世界帝国」に支配された異世界。
この冗談のような状況が確認されたのは、この5年ほど前と、21世紀もその最初の10年が過ぎた頃となる。
日本列島のはるか沖合と大西洋上に出現した巨大な鏡面のような「ゲート」の向こうに放たれた偵察部隊は、断末魔の声を上げるスロリアという名の巨大な島を確認した。
その上では、赤い星と「八一」という妙なマークをつけた戦車や航空機がまるで第1次世界大戦中のような装備を持った人々を蹂躙していた。
調査の結果、それらの大軍勢の主の名が判明した時世界は驚愕した。
326 :ひゅうが:2012/03/22(木) 19:37:47
「21世紀の中華人民共和国」。それが彼らの名だった。
奇妙な平行世界からその「異世界」へと渡ってきた彼らは、主にその胃袋を満たし、次にその旺盛すぎる国威を全世界に発散させることに熱中していたのだ。
15億というあまりにも巨大な人口を手当たり次第に世界中に送り込み、現地をなし崩し的に自国領にくみこみつつ軍事力の行使を躊躇わない。
民族浄化、組織的な強制同化政策、そしてすさまじいまでの他民族排斥。
その所業は彼らの強大な軍事力もあってまったく掣肘されることはないようだった。
そして既に「転移」から10年が経過していた彼らは、もうひとつの軍事国家に挑戦しつつあったのだ。
その標的となったのは、唯一神キズラサを信じ、「中共」と同様の悪名で知られたローリダ共和国。
初手から2メガトン級水爆つきの核ミサイルを発射した容赦ない殲滅戦は観測隊の眼前でひとつの国家、民族が「殲滅」される様子を人々の前に突きつけていたのである。
彼らが占領したかの世界の7割近い空間は「共産主義」の名を借りた強権的な支配のただなかに置かれていた。
議論の末、接触が持たれたが二つの世界は歴史という面で大きな食い違いを見せる。
彼らにすれば、経済的に追い抜きいざ復讐戦を行おうとしたところで自国ごと異世界へ送られた「敵国」が「悪いナチスの末裔」と一緒にいるのだ。これほど分かりやすい敵はいない。
一方の日本やドイツなども、尊大かつまるでこの世のすべてが自分のものであると信じ切っている者とは共存ができない。
かくして――いくつかの段階を置き二つの世界は不幸な衝突に至る。
一方は総戦力3000万を超える「超大国」。もう一方は神ならぬ人々によってチートの限りを尽くされ、21世紀を迎えた日英独といった「列強諸国」。
足掛け2年にも及ぶ史上初の「世界間軍事衝突」はこうして開始されたのであった。
最終更新:2012年03月22日 20:30