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 「弊社は悪の秘密結社です」  8話


 襲い来る理外の化け物たちと必死に抵抗する各国軍であったが、その抵抗も虚しくわずか1年2ヶ月で犠牲者は12億人に及ぼうとしていた。
 ドイツ国境の防衛ラインが突破されて中欧に流れ込んできたネウロイは、無防備な都市や村々に続々と襲いかかり、これらを蹂躙していった。
 辛うじて生き残った将兵たちも、すでに士気、モラルなど消え失せており、民間人を置いて我先に逃げ出す者が多かった。当然ながらこの光景は
辛うじて生き残っていたインターネットを通じて拡散され、軍に対する信用を大きく損なう結果となった。
 そんな中、独波国境を突破されたことで、化け物共が西欧になだれ込んでくることが確定的となったことを否応なく認識させられたNATO軍は、
冷戦時代の戦略に立ち返り、ドイツ領内に侵攻してくる化け物共に可能な限りの核兵器を撃ち込むことを決意した。

「たとえ強力なジャミングをしていても周辺事焼き払えば効果はあります!」

 会議の席で軍高官はそう進言した。
 しかしそれは今だ数千万単位で残っているドイツの民間人を諸共に焼くことを意味する。

「無茶だ! そんなことをすれば政府が倒れる!」
「しかしこのままではフランス東部の原発が攻撃されかねません。そうなれば」
「・・・・・・」

 建設された原子力発電所。
 フランス、ドイツの電力を支えた重要施設は、今や戦略上の弱点と化していた。
 人間同士の戦いなら、交渉や良識をいくらかは期待できる。しかし相手は言語を理解しない化け物共。
 東欧やヨーロッパロシアがどうなっているのかを見れば、このあとの展開は明らかだった。
 さすがのドイツ政府も自国への核攻撃など許容できるはずがなくもう反発するが、すでに軍の大半を失い、首都ベルリンも失った彼らに対して
この核攻撃を止める手立てなどない。
 国際世論も、批判はすれど誰も止めることはできなかった。そうでもしなければ化け物共は止められないのだ。
 天御門を引きずり出せれば話は別だっただろうが、彼らは戦力の逐次導入を忌避しており、本格介入の準備(兵站確保と部隊編制)をしている段階。
 仮に天御門の地上軍が介入しても戦線を押し戻すには多大な犠牲を強いられるので、地上軍単独での大規模介入もあり得なかった。

「地上軍は宇宙軍の準備が整うまでは従来の戦略を維持すること」

 ブラックはレッドにそう厳命していた。
 それでもレッドはその方針の範囲内で可能な限りの手は打ち、多くの市民が逃れられるように手を貸した。
 秘匿が大変なザムザザーを西欧にまで送り込み、後方に退避しようとする避難民の隊列を敵の弾幕から庇った。或いはレイダー(制式仕様)を使って
逃げ遅れていた輸送機、旅客機を安全圏にまで脱出させるなどしていた。
 この光景及び録画された映像に(浪漫的な意味で)脳を焼かれた青少年が多数でるのだが・・・・・・ 
 兎にも角にも、地上軍は可能な限りの援護を行っていたが、限定的にすぎず戦局全体を覆すには到底足りない。

「ドイツを犠牲にして立て直す時間が得られるなら・・・・・・」

 かくして冷戦時代に想定されていたドイツをバトルフィールドにする核戦争が21世紀を過ぎて四半世紀近くたってから実行される運びとなった。
 ただし相手の強力な防空能力を考慮すると、少数の核ミサイルでは迎撃される恐れがある。
 故に米英仏は飽和攻撃を、戦略核兵器の使用も決意する。
 彼らは占領されて敵勢力下に入ったと「判断できる」ベルリンなどの東部の都市へ核を見舞うのだ。
 勿論、まだ民間人が生きている可能性もある。だが生きているか判らない1人のために、1000人の命を天秤に乗せる余裕は人類にはなかった。

「神のお許しがありますように」

 エアフォースワンの中で老齢の米国大統領がそう懺悔した後、ドイツに多数のミサイル(通常、核弾頭)が降り注ぐこととなり・・・・・・
ベルリンなど多くの都市の上空にキノコ雲が立ち上ることとなる。

590:earth:2024/05/02(木) 12:02:10 HOST:KD106172122062.ppp-bb.dion.ne.jp
あとがき
ドイツ君、終了のお知らせ。
レッドは多少なりとも犠牲を減らそうと試行錯誤の模様。
(彼は地上担当で、現地人をよく見るので多少は情に厚い)

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最終更新:2025年03月02日 20:59