735 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/12/01(日) 22:10:16 ID:softbank126116160198.bbtec.net [71/127]
憂鬱SRW ファンタジールートSS 「サトゥルヌス祭にはご用心」4
- F世界 ストパン世界 主観1944年12月 オラーシャ帝国 ペテルブルグ 502JFW基地 格納庫
サトゥルヌス祭がさらに近づき、基地内、特に居住区画にはそれを思わせる飾りつけがなされるようになった。
基地内部でも軍務のエリアにおいても、ちょっとした小物や装飾などにいつもよりも賑やかで楽しげなものが増えているのも目に付く。
それは鉄火場と言える格納庫兼作業場でも同じことだ。作業の邪魔にならないものが選ばれ、壁や柱など邪魔にならないところに飾りが置かれている。
尤も、インシデントなどを招かないように十分に配慮されているため、さほど派手とは言えない。
それでも確かに季節の移ろいは色を添えていたのだ。
『ウィッチ及びウォーザード帰還、ウィッチ及びウォーザード帰還。
作業員および滑走路クルーは受け入れ準備を開始せよ、繰り返す……』
独特のアラーム音と共に、502JFW基地管制の聞きなれた声が格納庫に響き渡る。
定期的なそれとは異なる輸送艦隊が来訪し、陸港に到着したとの報告があったのは3時間も前の事。
何ら不思議なことではない、その間だけ、護衛に張り付いていたウィッチやウォーザード達は哨戒と即応待機していたのだ。
502JFWの基地の近くには専用の陸港が整備されている。当然そこは防空・防御システムがあり、そもそもペテルブルク周辺のそれらと合わせれば安全性は高い。
だが、それに慢心して懐に飛び込まれたのは何度かあったのだ。防空システムも無敵ではなく、ネウロイは常に進化を続けている。
その事実こそ、ここまで入念に、それこそ物資の搬入作業が一段落するまで人員を張り付けるという行動を強いさせていた。
「疲れたよー……」
「ただいま戻りました」
そして、それは負担となる。
格納庫に入ってきたニパは長時間の警戒で疲労を隠せずにいた。同じく出撃していた定子も同じだ。
彼女らのような歴戦のウィッチでさえ気が抜けず、そして負担となるのが、このペテルブルクでさえも完全に安全ということはないという証左であった。
総力戦にして、途方もない消耗戦だ。息切れをして隙を晒した瞬間に食いつかれ、喉笛を破られる。
その恐怖と懸念が兵士たちを必死に動かさせる原動力となっていた。
『続いて「マーコール」および「オーカ・ニエーバ」所属機が帰還する。
滑走路および収容ルートの安全を確保せよ』
「了解、MPFの受け入れシーケンスを開始する」
管制室に通信機で答えつつ、滑走路クルーが目視でも滑走路の確認を行い、誘導装置の再度確認を実施した。
既に滑走路上のクルーの目視圏内に「オーカ・ニエーバ」のMPFは入っており、着陸態勢に入りつつあるのだ。
補助があるとはいえ、着艦や着陸は命がけだ。殊更に、MPFはストライカーユニットよりも重装備で、重量がある。
弾薬や武器などは山ほど抱えているし、消費されているエネルギーも馬鹿にならない。
着陸に失敗してそれらに引火あるいはリアクターがイカレて暴走すれば命は助からないだろう。
『長期の作戦行動ってのはこれだからねぇ……』
「ご苦労様です、タマロ曹長」
スカイ・リッターで危なげなく着陸したバルバラもまた、疲労がある。
AWACS役のMPFは暇そうに見えるが、航空機のそれとは違い、戦場で流れ込んでくる情報を一人で捌く必要があるのだ。
長時間にわたって広域レーダーとにらめっこをし、各機の状況を確認し、さらには自らの機体も操作する。
訓練を受けていたとしても、途方もない苦労であるのは言うまでもない。
736 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/12/01(日) 22:10:57 ID:softbank126116160198.bbtec.net [72/127]
『大規模作戦前だからって酷使してくれちゃってさ……』
「それだけ頼りになるということでは?」
『そりゃあそうだけどね』
納得と理解は必ずしも一致しない。バルバラも感情と理性ではずれていた。
それでも、愚痴りながらも操縦などは手を抜いていない。すでに着陸は完了し、ホバーで陸上移動をしている。
格納庫に入ってからは主脚歩行に切り替えとなるだろう。
(さて、と)
ここでも油断なくバルバラはHMDに表示されているレーダーへと目を向ける。
レーダーも目視観測も、必ずしも宛てになるとは限らないというのをバルバラは嫌というほど学んでいた。
レーダーを潜り抜けるステルス能力を持つネウロイ、光学的に姿を消すネウロイ、熱量を放出しないネウロイ、いくらでも相手にしてきた。
そしてここ最近のトレンドは、超高速ステルス型。圧倒的な速度と光学・エーテルの両方でステルスの合わせ技で、強引に哨戒網などを突破するスタイル。
これをいくらでも出してくるのだから、いずれは一発いいのが刺さるかもしれない。たった一度の幸運で、502JFWの基地に致命傷を与えられる。
(人間じゃない相手が厄介だって、カーチャが言うのも当然だよねぇ)
伝え聞けば、人間同士の戦争ではこんな危険なことはさせられないという。
それを行う人間の育成コスト、死亡した時の遺族年金、士気、その他諸々を考えて割に合わないからだ。
だが、ネウロイにそんな概念などない。だからいくらでも人間ではできないことをできる。
「曹長?」
「あ、ごめんね」
自分が最後の収容機。AWACSなのだから当然だ。
それでも、何か自分の中の何かが警鐘を鳴らしているような気がしてならない。
最後にもう一度だけレーダーを見て、ついでにオラーシャの空を見上げておく。
何もなく平穏で、監視の目も張り巡らされている環境。少なくとも他よりは安全のはずの基地。
(不穏だねえ)
ここから遠く、白海に居座るグリゴーリはいったいどれほどの戦力を蓄え、備えをしているのだろうか。
自分たちが戦力の蓄積を行っているのだから、相手も行っているかもしれないと考えるのは当然。
不気味だ。そして、正体不明ときたものだ。恐ろしくないわけがない。
そんな思考を打ち切り、バルバラは主脚歩行で格納庫ゲートへと入る。あとはオート操縦と収容カーゴに身を任せれば終わりだ。
そのプロセスを確認し、エーテルリアクターの出力を戦闘出力から通常出力へと段階的に下げる。あとは大気出力に変えるだけだ。
(とりあえず、夜間警戒に力を入れるように進言しておこうかな)
格納庫の扉が閉じていく重たい音を聞きつつも、バルバラはそう決めたのであった。
そして、彼女の懸念が的中し、ネウロイによる夜間空襲がペテルブルクとペトロザボーツクを襲ったのはその日の夜の事であった。
サトゥルヌス祭に関係なく、戦地の賑わしさは変わり様がなかったのであった。
737 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/12/01(日) 22:11:51 ID:softbank126116160198.bbtec.net [73/127]
以上、wiki転載はご自由に。
本当はマーコールの面々を優先するつもりでしたが、次回以降に見送りです。
平和だなんて一言も言っていないんだよなぁ…
最終更新:2025年03月03日 17:46