263:弥次郎:2024/12/09(月) 21:17:16 HOST:softbank126116160198.bbtec.net
憂鬱SRW ファンタジールートSS 「サトゥルヌス祭にはご用心」4
- F世界 ストパン世界 主観1944年12月 オラーシャ帝国 ペテルブルグ 上空
時刻は夜。
ネウロイの攻撃は、突如として始まったのだ。
「……アラート!?」
その夜の夜間哨戒の人員はカーチャであった。
専用の装備を積んでいたことに加え、ペテルブルク周辺を固めるレーダー網がそれを探知し、即座に対応に出た。
しかし、その迎撃は一歩遅れた。それは相手が速すぎた、ということに由来する。
最近になり出現した、探知をされようが強引に速力で振り切って攻撃を仕掛けるタイプであったのだ。
無論カーチャも知らなかったわけではないし、防空陣地や対空警戒レーダーサイトなどがまるで役に立たなかったわけでもない。
事実として、ペテルブルクに入られる前にカーチャに通報自体は届いていたし、それを受けてカーチャは即座に戦闘態勢に入れたのだ。
「撃たれた?!」
しかし、相手も早い。
ペテルブルク周辺を射程に収めるや否や、超音速のままに質量弾を複数発自分から切り離して発射したのだ。
さらに質量弾を切り離した分だけ軽量となり、さらに増速したネウロイは地上目標へと無差別にビームをばらまき始める。
数は多くはないが、市街地に突き刺されば被害は免れないだろう。ペテルブルクのJFW基地だけでなく、周辺の陣地などもターゲットなのだし。
けれども、人類とてそんなことは考慮に入れている。
即座の動きでビームの射線上にある市街地や防空陣地をエーテルバリアが覆いつくし、ビームを受け止めて弾く。
ペテルブルクやその周辺、さらに言えば陣地や中継基地などの施設にはこういった防御システムが完備されており、早々に被害が出ないようにしているのだ。
「……私がやるべきは、あっち!」
交戦に備えて持ってきた90ミリ×60口径マギリング・スナイパーライフルを構え、照準を合わせて即座に発砲する。
エーテルの弾丸が貪るように距離を喰らう先には、飛翔を続ける質量弾がある。
あれだけの速度と大きさによる威力を持ったものならば、エーテルバリアとて完全に防げるかどうかは怪しい。
寧ろネウロイが質量弾を用いるようになったのは人類がエーテルバリアを普及させてからでは?という声もあるほど。
それだけ質量弾というのはエーテルバリアに対して有効になりやすい、ということから導かれた推測だ。
それはともかくとして、確実に撃ち落とすためには一々着弾と結果の確認はしていられない、念のためも含めて連射していく。
銃身やエーテルコンデンサーの寿命あるいは射撃精度と引き換えならば、このスナイパーライフルの連射は無理が効く。
とにかく数を撃って、確実に撃墜しなくてはならない。
「よし……!」
カーチャの視線の先、ネウロイから分離していた質量弾が爆散する。破片などが飛び散るが、直撃よりはだいぶマシのはず。
ズームしていた状態から戻し、今度は本体を追いかける。
いた、即座にレーダーがとらえ、地上のレーダー設備との三角測距もあって特定には数秒もかからない。
ペテルブルクに襲来しているのは合計で超音速型が5体。いや、実際にはペテルブルク周辺の基地も含めてもっといるようだ。
あちこちで対空砲火があがり、サイレンが鳴り、地上で動きが発生していく。
この分ならば数分と経たず、ペテルブルク各所および周辺の設備と合わせた濃密な対空迎撃が始まるだろう。
けれど、それでもネウロイはひかない。ネウロイだからか?
ニェット、違う。これは撃破されてでも何かをしなくてはならない動きだ。
「……これは」
ネウロイの動きの意味を、カーチャは即座に看破した。これは第一波にすぎないと。
オーバーロード作戦でもあったことだ。防衛ラインに真っ向から激突してくる物量を何とか凌いだら、その後におかわりが押し寄せてくるという悪夢。
第一波が暴れまわっている間に接近し、本命の第二波が飽和状態にある防空網を突破、こちらの本陣に致命傷を与えるつもりだろう。
「CP、CP!こちら夜間哨戒の101W001!敵の狙いは波状攻撃!くりかえす、敵の狙いは波状攻撃!
飽和させられた後に本命の第二波が来るわ!急いで増援を!」
そう叫びつつ、カーチャは四方に散って攻撃を開始していくネウロイの追撃に入った。
今のうちに敵の数を減らす、いや、殲滅しておかなければ第二波攻撃と合わせて悲惨なことになると理解があったからだ。
264:弥次郎:2024/12/09(月) 21:18:18 HOST:softbank126116160198.bbtec.net
- オラーシャ帝国 ペテルブルグ 502JFW基地 格納庫
「スクランブルだ、急げ!」
「夜間戦闘だ、センサーユニット装着急げ!」
「そこを空けろ、武器が通る!」
作業員の声と叫びが飛び交い、せわしない動きで溢れかえりそうな中、鏡子は格納庫でMPFを纏い、スクランブルの準備を進めていた。
夜間空襲の例がこれまでなかったわけではなく、実際に夜間戦闘に参加したことはある。
夜間は昼間よりも人員が少なくなると理解しているらしいネウロイは、嫌なタイミングでこれまでも襲撃を仕掛けてきたのだ。
だから、夜間哨戒には出なくても即応出撃できるように準備がなされるのが慣例となっていたのだ。
そして、今日もまた久しぶりに即応出撃。アラートで起こされ、そのまま出撃の準備のために格納庫までつくまで10分もかからないスピード。
(第二波攻撃が来るって隊長が言っていた……梯団攻撃かな)
人とは違い、ネウロイは使い捨てのような個体が存在する。
1年ほど前、ペテルブルクを襲った空中母艦型が自身を護衛させるためにはなってきた小型種がいい例だ。
とにかく数が多く、こちらの体力と集中力、さらに武器弾薬を消耗させるのを目的としていた。
さらに厄介だったのは自爆攻撃を辞さないということで、それによって攻撃を行う以前に身の安全確保が優先されていたのだ。
そして、その使い捨ての個体を大量に使うことによる梯団攻撃は、カーチャが警告するほどよく効く攻撃であるのだ。
恐らくだが、周辺の基地や監視所や防空陣地なども攻撃を受けていると鏡子は想像する。増援は見込めない。
同時に複数の箇所を襲うことでこちらの迎撃能力を分散させ、押し切りやすくするつもりだ。
(なんて厄介な)
ネウロイが攻め込んできた理由もわかる。ペトロザボーツク基地が完成・稼働を開始し、人類の手が白海に迫ってきているのを何とかしたいのだ。
だからこそ手段を択ばず、次々と手を打ってこちらを妨害し、あわよくば大打撃を与えて追い出したいのだろう。
『こちら管制、各務原機、緊急発進を許可します!』
『進路クリア、何時でもどうぞ!』
「了解、101W004、発進します!」
そうなる前に、と鏡子は空へと飛び立っていく。
直掩機、特に航空戦力はいくらあっても足りないのだが、スクランブルでどれほど出せるか。
『101W004、陸戦のモートラート隊およびマーコールも展開しています。
対空砲火には注意をお願いします』
「マーコールも展開していたの?」
『はい、丁度夜間演習から帰投したところでしたので、即座に装備換装後に出撃出来ました』
それなら、と高度を上げつつ鏡子は口角を上げる。
「対空砲撃も十分に期待できるわけね」
『はい、対空砲撃のエリアはこちらから情報を逐次リンクさせますので、確認をよろしくお願いします』
「了解!」
そして、鏡子の意識は戦場へと没入していった。
戦線に鏡子が加わった頃、地上ではさらに動きがあった。
一刻も早く戦力を送り出さなければならないということで、準備ができたウィッチから発進を進めていたのだ。
夜間遅いときにまで起きており、なおかつ即応できるようなウィッチがいたのか?となるだろう。
実際、過半数のウィッチは警報で飛び起きはしたが、即座に対応に出られるとは限らなかった。
夜間空襲へのスクランブルとなれば、鉄火場の格納庫で準備を整えるのは危険と隣り合わせ。
安全を確保するためにもシェルターに引っ込んだ方が正しい。昼間の疲労を抜いている最中ならばなおさら。
265:弥次郎:2024/12/09(月) 21:19:13 HOST:softbank126116160198.bbtec.net
『ラル隊長、大丈夫ですか?』
「ああ、たまには飛ばなくては腕も鈍る。それに、腰の調子も悪くないからな」
だが、こうして起きて勤務していたラルは例外であった。
自身のストライカーユニットであるメッサーシャルフ Bf109K-4-2を装着し、さらには夜間戦闘用のHMD内蔵のヘルメットを被ったラルは、万全の状態だ。
夜間まで残業をする羽目になっていたためにややハイになっているのが怖いところだが、それをおしても出撃する理由にはなるのだ。
兎にも角にも、奇襲を喰らい夜間空襲が続いているならば、数を送り出して防空に努めねばならないのだ。
「よし、502W001、出るぞ」
『了解、進路クリア、発進を許可します!』
その声とともに、ラルは空へと飛び出していく。
主兵装として持ち込んでいるM2のほか、30ミリ×65口径対大型怪異自動砲「ハルコンネンⅢ」だ。
敵が超高速ステルス型で、爆撃を仕掛けてきているということは、一々接近して撃墜するのもそうだが、遠距離から仕留める手段が必要だった。
「総員、聞こえるか。
こちらグンドュラ・ラル少佐だ」
通信回線をオープンにし、全周波数で呼びかける。
今この環境下において必要なのは、統制だ。地上管制が連絡を取り持っているとはいえ、中心がなければまとまりに欠ける。
そういう意味では、自分が出撃して指揮を執ることができたのは非常に幸運と言えるだろう。
狙った通り、各所からの通信が繋がってきて、やや混線気味だ。
だから敢えて向こうからの声は無視し、こちらからの指示を飛ばしてやる。
「残業していたら空襲警報があってな、臨時で指揮を執ることになった」
自分で言って、苦笑する。聞いている人間もそうだ。
「生憎と奇襲を喰らった関係から、AWACSはまだ出せていない。
そのため地上管制塔から防空範囲の指示を伝達する、各員は所定の配置で戦闘を継続してくれ。
防空体制を一旦整理して立て直す。502基地からは補給物資も運搬させるので、弾切れにならないようにしてくれ」
何しろ、とラルは続ける。
「緊急体制でも防空ができているというのが危うい。まるで失敗さえも織り込み済みのような動きだ。
オーカ・ニエーバのトゥクタムイシェヴァ大尉の推測だが、これはあくまで第一波にすぎないと。
私も同意見だ。オーバーロード作戦で同じ経験をした」
通信の先で、息をのむ音が聞こえる。
ここにいる面々の中にもオーバーロード作戦で地獄を見た者が含まれている。打てば響くとはこのことか。
「第二波かそれ以降が本命と考えられる。
このまま速やかに第一波を撃滅し、防空体制を再編。さらなる戦闘に備えておけ。
各員の奮励に期待する、戦闘を再開せよ!」
一瞬の空白の後、了承の声が響く。
それに満足しつつ、ラルは高度をとり、ハルコンネンⅢを構える。
夜間視を可能とする魔道具は今日も好調、昼間とあまり変わらない視界が齎される。
「行くぞ」
言葉とともにトリガー。その砲声が、夜間空襲迎撃戦の号砲となった。
266:弥次郎:2024/12/09(月) 21:20:22 HOST:softbank126116160198.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
ペテルブルクを襲った夜間空襲について。
あと2話くらい戦闘が続きます。
お祭りに突入するまではちょっと時間かかるかもですねぇ。
最終更新:2025年03月15日 15:35