735:弥次郎:2024/12/18(水) 23:31:06 HOST:softbank126116160198.bbtec.net

憂鬱SRW ファンタジールートSS 「サトゥルヌス祭にはご用心」9



  • F世界 ストパン世界 主観1944年12月 オラーシャ帝国 ペテルブルク 502JFW基地 CDC



 ペテルブルクのペテロ・パウロ要塞を利用した502JFW基地の地下---頑強な装甲板帯の下層にあるCDCでサーシャは指揮をとっていた。
尋常ではない数のネウロイがレーダーに引っかかり、さらには夜襲が始まったことで鳴った警報を受けて叩き起こされ、退避のためシェルターに駆け込んだ。
その後になんと指揮官のラルが出撃したとの情報を知らされて、おっとり刀でCDCに入ったのだ。
 自分としては非常に不本意だとまずは言いたい。確かに自分は戦隊長であり、現場において指揮を執って戦う立場にある。
 だが、あくまでもそれは現場での、前線指揮での話であって、こういった部隊全体の指揮を執るという役割ではないはずだったのだ。

(もう、隊長は……)

 腰の調子はいいらしいし、スクランブルで即座に出られる人員が出撃することは間違いではない。
間違いではないのだが、この部隊の最高責任者であるラルがウィッチであるからと言って飛び出して行っていいわけでもない。
それを言ってもどうしようもないからこそ、サーシャは諦めてインカムを装備し、CDCの指揮官席に身を置いていたのだった。
幸いにして、サーシャもまた指揮官の扱うコンソールの操作方法などは心得ており、指揮を執るには十分な技能があった。
指示を出すべきこと、確認をすべきこと、さらに対応を決めること。多くのことが飛び込んでくるから、それをオペレーターと協力して捌けばよいのだし。

 そして、目下の問題は、北方からペテルブルクへ飛翔してくるネウロイの爆撃編隊だ。
散発的に接近してくるものもいるが、主な集団は現在確認されているもので6つ。
迎撃空域として設定されたポイント「エレナ」でどれほど減らせるかが問題だ。何しろ進路や高度が違うこともあり、全てを迎撃するのが現実的ではない。
相手の数がそれだけ多く、尚且つこちらが送り出せた戦力の頭数が少ないというのも絡んでいる。

(ポイント「エレナ」で半分に減らせれば御の字ですけど、そう甘くはないでしょうね)

 MPFにけん引されてポイント「エレナ」に向かうラル達との通信での話し合いで出された予測がそれだ。
どう考えても迎撃に向かっても足止めできる、あるいは撃滅できるのは向かってきている集団の半分以下と見込まれている。
最初の一つか二つは集団を食えるだろうが、ネウロイとて馬鹿ではない。足止めをさせてペテルブルクに向かってくるだろう。
 そも、戦闘が長時間に及んでいることもあって、疲弊や魔力と燃料の消耗も激しい。
十全に能力を発揮しても撃滅が難しいだろう数に対し、コンディションが悪いとあれば猶更だ。
悔しいが、それが現実だ。相手が純粋なまでに強く、こちらは劣勢になる。

「大尉、地上管制からです。タマロ曹長が帰還、これより補給作業に入るとのことです」
「了解しました。補給作業完了後は迅速に送り出してください。とにかく手数と頭数が必要です」
「はっ!」
「ペガノヴァ大尉の迎撃はどれくらいの効果が出ていますか?」
「先ほど砲撃が実施されていますが、奇襲効果が落ちているのか、撃墜数は落ちているようです。
 また、ペガノヴァ大尉からは敵の密度が薄くなり、効果が限定的になってきたとも」

 やはり、とオペレーターの言葉に胸中でつぶやいた。
 わかってはいたが、ネウロイも攻撃を受けることが分かってから、回避運動をとり、あるいは密度を下げて被害を低減させるように動いている。

「大尉には無理な狙撃は控えてもらって構いません。
 より距離が縮まった時ならばよく当たるようになるでしょうから、無理に長距離狙撃にこだわる必要はありませんから」
「かしこまりましたが……いいのですか?」
「距離が縮まれば、ペテルブルクに被害が出る可能性も高くなりますが、こちらが迎撃しやすくなります。
 先手を打たれていますし、やむを得ないところはあります」
「はい、ではそのように」

 後は、とサーシャは確認しておく。

「非戦闘員の退避は終わっていますよね?」
「はい、点呼も完了しております。
 ただ、ペテルブルク市街地の民間人のシェルターへの退避は未だ進んでいません」
「確認できているだけでまだ10パーセントも完了していないと……避難を中断させますか?」

736:弥次郎:2024/12/18(水) 23:32:07 HOST:softbank126116160198.bbtec.net

 迷うところだ、とサーシャは表情をゆがめる。
 ペテルブルクやその周辺の街や村には民間人がいるのは周知の事実。
オラーシャの大地がネウロイにより侵攻を受けていても、まだ人々はこの土地に残っている。
戦闘になった時には、特にネウロイが至近まで来た際には用意されているシェルターへ避難させるのが鉄板であったのだ。
 しかし、夜間の奇襲ということもあって、避難は遅々として進んでいない。
何しろ急にたたき起こされて避難しろというのは、訓練もしていない民間人には難しいのだ。
大体の人間が夜だから寝ていたわけで、そこから完全に目が覚めて、組織的にシェルターに避難させるのは困難を極める。
急ぎであるからとるものとりあえず徒歩か車両で移動するわけであるが、それにしたって雪などの影響を受ける。
そも、相手がステルスによって奇襲を仕掛けてきたということで、警報が鳴ってから時間が経っていないのだ。
その結果が、現在の避難の完了率として現れている。逃げ込めていない人間が市街地などに山ほどいることを指しているのだ。

 オペレーターが避難の中断を提案したのは、その状況下で空襲が始まったら何が起こるかを理解しているからだ。
端的に言えば、パニック。エーテルバリアや普段は格納されている防御用隔壁による防御はあることはあるが、ネウロイの攻撃に対して完全ではない。
仮に完全であったとしても、民間人が恐怖のあまりパニックとなり、統制を失うのは至極当然だ。
訓練を受け、実戦を経験している軍人であったとしても、果たしてどこまで冷静でいられるか怪しいところである。
そうなれば、避難が滞るどころか、避難の最中に混乱が広がって死傷者が発生する事態になる。

(……)

 サーシャは逡巡した。しかし、思考は刹那で終わる。
 迷えばその分だけ被害が出ると分かっているから、非情でも割り切るほかない。

「……現時点で避難が始まっている民間人以外は、シェルターではなく最寄りの避難所へ移動させてください。
 地下に逃げ込めないのは危険ですが、屋外よりも頑丈な建物の中に逃げ込んだ方が安全です。
 それも間に合わない場合は、とにかく建物の中に」
「了解しました」

 重い決断だが、仕方がない。
 いつまでも間に合わない避難をさせるよりも、より短時間で確保できる安全を。
装甲板帯の下にあるシェルター以外にも、避難所となりうる頑丈な建物を各所に設置してくれた地球連合には感謝しかない。
そうでなければ、膨大な数の無防備な民間人を守るためにも、他のタスクを投げ打ってでも防空に終始するしかなかったのだから。
 そんな決断と決定をして、指示を出したころ、オペレーターが報告を上げた。

「101W004より入電、ポイント「エレナ」にて交戦開始とのことです!」
「……始まりましたか」

 コンソールに表示した地図でも、それは確認できた。
 リアルタイムでの映像も届いている。ネウロイの巨大な群れがいくつも夜の空を飛び、ペテルブルクを目指しているのがわかる。
現役ウィッチだからこそ、あるいはこれまでの戦闘経験があるからこそ、改めてわかる。これは、倒しきれないと。

(歯がゆいですね)

 だからこそラルは出撃したのだと分かる。
 いや、単純に仕事のストレスを発散したかったのかもしれないが---それはともかく。

「ポイント「エレナ」の情報は逐次報告をください。
 勿論、展開中の各員への共有もお願いします」
「了解!」

 ともあれ、戦闘の結果を待つしかない。できる限りの準備を進めながらも。

737:弥次郎:2024/12/18(水) 23:33:51 HOST:softbank126116160198.bbtec.net

  • オラーシャ帝国 ペテルブルク北方 ポイント「エレナ」



 502JFWのウィッチたちによるポイント「エレナ」での迎撃は、2つ目の群れを壊滅に追い込んで3つ目に取り掛かろうとしたところで頭打ちとなっていた。
理由としては単純だ、戦闘に時間がかかりすぎてしまったことによって、他の群れが「エレナ」を突破してしまったことによる。
奇襲効果があったこと、ペテルブルク方面からの支援砲撃があったことで、最初の2つの群れは壊滅的な打撃を与えることはできた。
 だが、ネウロイはそれを分かっているかのように、群れの一つを自分達に差し向け、残りがルートと高度を変えて逃げを打ったのだ。
つまり、やられてもいい群れを足止めさせ、確実な成果を得るために動いたのである。
 そして実際、ラルたちウィッチは戦闘機タイプおよび小型ネウロイの群れに包囲され、追撃などを中断せざるを得なかった。

「ダメか……抜けられる!」

 ラルはペテルブルク方面へと加速していくネウロイの集団をにらみ、悪態をついた。
 それでも、ラルは戦闘をやめない。こちらに差し向けられた群れの迎撃をしなくては、自身が危ういのだ。
これまでに続いた戦闘の疲弊はあるし、魔力もエリクサーにより回復したとはいえ減り続けて底が見えている。
 しかし、死ぬわけにもいかないので迎撃を続けるしかない。足止めがネウロイの狙いと分かっていても、だ。

「皆さん、いきます!下がって!」

 通信回線で鏡子は警告すると、再び火器をフルバーストする。
大多数を一気に蹴散らすことも可能な広範囲攻撃は確かに効果を発揮し、まとわりついて来ていた個体を消し飛ばす。
その攻撃の余波をシールドで防いだウィッチたちは、すぐさま陣形を整え、残敵を喰らいつくす。
 だが、それはそこまでだ。すでに距離は稼がれ、自分たちは未だに足止めを喰らっている。
すでに激戦をした自分たちは消耗しているから追いつけるかも怪しい。
 そも、ペテルブルクへの帰還のことを考えると、余裕をもっておかねばならないのだ。
 それらを勘案し、戦闘が終わったのを見計らってラルはロスマンに呼びかけた。

「エディータ、やはりここでの迎撃はここまでのようだ」
「私も同意見です……流石にこれ以上は危険ですね」

 戦意は衰えていないのは同じ。目はまだ鋭く、言葉には悔しさが滲んでいる。
 それでも、理性と経験とがそれを何とか抑えているのだ。
ロスマンだけでなく、ここにいる誰もが、今もなおペテルブルクへ、基地や一般市民もいるエリアに向かっているネウロイを止めたいと思っている。
 それが決して叶わないものであることも理解しているのだ。できなくもないが、これ以上は自分達も危うい。
 ウォーザードとしてMPFを操るがために戦闘継続能力が高い鏡子ならば、単独で追撃も続行できる。
できるのだが、それはウィッチたちをこの場に置き去りにするということでもある。
撤退途中でネウロイとブッキングする可能性がある中で、迅速な撤退をするためには鏡子が牽引したほうが安全だ。
そもそも武器弾薬の消耗も流石に激しいため、追撃に出てもどれほど成果を出せるか疑問だ。

「各務原も異論はないな?」
「はい……流石にこれ以上は無理ですね。
 牽引の準備をします。周辺の警戒をお願いします……」

 それに、と努めて明るい話題に切り替える。

「カルガモちゃんもいますし、ペテルブルクで控えているみんながやってくれますよ」
「……そうだね、信じてあげないと」
「よし、行こうか」

 斯くして、航空戦力による主要な迎撃フェイズは終了した。
 バルバラの迎撃と触接を受けつつも、ネウロイの群れはその数を減らしつつもペテルブルクへと接近。
 最終防衛ラインでの迎撃戦が始まろうとしていた。

738:弥次郎:2024/12/18(水) 23:34:42 HOST:softbank126116160198.bbtec.net

以上、wiki転載はご自由に。

途中は長ったらしくなったのでカットしました。

さて、ようやくペテルブルクでの戦闘だ…8話もかけて前振りがやっと終わったとかマジ?
ということで、次からシリーズを切り替えます(鋼鉄の意志
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最終更新:2025年03月15日 16:15