215 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/12/26(木) 23:34:26 ID:softbank126002241119.bbtec.net [39/60]
憂鬱SRW ファンタジールートSS 「ペテルブルク大戦略」1
- F世界 ストパン世界 主観1944年12月 オラーシャ帝国 ペテルブルク
ペテルブルクは「戦争」の色に塗りつぶされていた。
鳴り響く空襲警報のサイレン。灯される非常灯。展開される隔壁。稼働を始める防衛兵器の数々。
武器を持った軍人たちが必死に誘導する中で、人々は戸惑い、恐怖するしかない。
サトゥルヌス祭の最中、楽しみにあふれている日々、戦争が遠いものと思えていたところにこの事態だから無理もない。
戦争が続いており、いざとなれば生活が崩れることは分かってはいたのだろう。それでも理解できていなかった。
理解したくなかったのだ。これまでの窮屈だが平和な日常が薄氷の上に存在しているということを。
どうしようもなく弱いからこそ、バイアスだろうが何だろうが希望に縋りつきたいと思い、現実から目を背けてしまう。
圧倒的多数の弱い市民に対して、あまりにもこの攻撃は刺さりすぎたと言えるだろう。
「近いシェルターもしくは避難所に急いでください!手荷物は最低限に!」
「家族とはぐれないように!しっかりと手を繋いで!」
「走って転ばないように注意してください、後ろからも人が来ますから!」
ペテルブルクに駐留する兵士達---502JFWと連携する陸上部隊は警察などの治安維持組織とも連携して避難誘導にあたっていた。
ペテルブルクはブリタニア方面へ人々が疎開しているとはいえ、それでもオラーシャ有数の大都市。
母数が多ければ多少減ったところで絶対数は多いままだ。
まして、ネウロイとの戦争の影響を避けるためにペテルブルク周辺から逃げてきた人々がいる。
そんな数が一斉に避難するというのは、戦時ということが周知の事実であったとしても、苦労しないわけがない。
「今のところほとんど攻撃は来ていないのが幸いだな……」
「前線でウィッチたちやウォーザード達が食い止めてくれているおかげだな」
ならば、と歩兵たちは急ぎ足になる。
彼らは歩兵にすぎない。魔導士でもウォーザードでもウィッチでもない、単なる二本足で走る歩兵だ。
ネウロイと戦うにはあまりにも非力。けれども、出来ることはある。
「俺たちしかやれないことをやらないとな!」
「急ぐぞ」
最前線で戦っている面々の代わりに、空襲に備えて人々を避難させることだ。
避難する人間の数に対し、誘導にあたれる人間の数は少ない。
まして、冷静さを保てている人間の数などさらに少ないのだ。
「立つんだ、さあ早く」
「もう駄目だ、おしまいだ……みんなここで死んじまうんだ」
「隠れたって無駄よ……」
突き当たったのは、道路の隅でへたり込んでいた男女だった。
何も見たくないとばかりに泣きながら目をつむり、聞きたくないと手で耳を覆い、動きたくないと歩くことを拒否する。
諦念のままに、死を選ぼうとしている。その方が楽だから、苦しまないからと。
恐らくは夫婦なのだろう。訛りから考えるとペテルブルクに逃げてきたのだろうか。
避難してきて元の生活を失い、違う生活を続けることになったのはつらかっただろう。
そんな中でこの空襲警報とパニック寸前の状況---心が折れてしまうのも無理からぬ話だ。
だが、そんなことを配慮してやる謂われは無い。
ネウロイが接近してきているのは事実だが、ペテルブルクにはまともに被害が出ておらず、迎撃や防御に成功しているのだから。
216 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/12/26(木) 23:35:58 ID:softbank126002241119.bbtec.net [40/60]
だというのに、なんだこいつらは。
兵士の一人が闇夜でもわかるほどに顔を赤くした。
努めて冷静に、それでも声を大きくして言う。
「泣き言言うな、そうやって嘆いても何も変わらんぞ!
前線では将兵が命かけて戦っているんだ!
あんたらが死なないようにするために、命がけでな!」
「で、でも……」
「どうせここも終わるのよ!」
叫ぶ女の声に、表情をゆがめるしかない。
ここも、という言い方からすれば、彼女らは恐らくは故郷を追われただけでなく、失ったのだろう。
「泣き言は十分か?」
「えっ?」
「絶望して死んだら、戦っている連中が報われない!
死ぬな、必死に生きようとあがくんだ!」
ほら、と兵士二人は彼女らを無理やり立たせ、背中を押しながら一緒に避難所の方に向かう。
大きな声で泣きごとをかき消し、励まし、
そうでもしないと止まってしまう。いや、止まるどころか誰かを引きずって率先して死に向かうだろう。
そうなるとこの男女だけでなく、もっと多くの人に波及する死が起こって、もっと多くの悲劇につながる。
「悪いがここで死なれちゃ目覚めが悪いんだよ」
「まったくだな……不幸自慢したいか?死にたいか?勝手にやるのはいいが、迷惑なんだよ」
「だったら放っておいてくれよ!」
「やかましい!」
怒声と共に、避難所の入り口の前で、地面に半ば突き飛ばし、それを突き付けた。
「そうやって泣いていても何も変わらん。
それでもそんなに死にたいなら、一発で楽にしてやるぞ」
突き付けられた自動小銃の銃口に、女は不思議そうに瞬きをして、その直後に凍り付いた。
認識が追い付いたのだろう、自分の生殺与奪が他人に握られているという状況に。
後指先一つの動作で、自分が死体になるということを。
「おい……」
「死にたがっているんだよ、なら殺してやるのが優しさってもんだよ」
感情の消えた声と表情、そして今にもトリガーを引ききらんとする指の動き。
逃げる、どうやって?いや、死ねるのか。苦しみが終わるのか?逡巡が男女の脳裏をよぎり---
「やめろぉ!」
「やめてよ、死にたくない!」
二人は同時に動いた。女はとっさに急所を守り、男は射線に割り込んで銃をひっつかんで邪魔しようとした。
そしてようやく、冷静さを取り戻した。同時に、自分が何を言ったのかも。
「よし、なら避難所に大人しく入るんだな」
「ああ、生きたいならそこで大人しくしていた方が身のためだぜ。な?」
これでようやく二人だ。ペテルブルクにいる人間を捌き切るのに、どれほどかかるか。
いや、間に合わないとしても、少しでも多くの人々を安全な可能性が高い場所に誘導しなくてはならない。
兵士たちの戦いは続くのだ。
217 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/12/26(木) 23:37:24 ID:softbank126002241119.bbtec.net [41/60]
- オラーシャ帝国 ペテルブルク 502JFW基地 CDC
ペテルブルクに置かれている502JFW基地のCDCは、地上とはまた別ベクトルで鉄火場であった。
地上で起こっているあらゆる事象に関する情報が流れ込んできており、多数のオペレーターたちが必死に裁いているのだ。
上が忙しくなればなるほど、CDCもまた忙しくなるという絵図である。
「各地区、「アイギス」および「アイアス」展開率72%。
防衛兵装群の展開も現在47%です」
「了解。稼働が間に合う分はできるだけ送り出してください。
一般市民から注意を引きはがさないとなりませんから」
「了解です」
「42地区の避難所で負傷者多数!転倒による将棋倒しのようです!
「医療班の派遣を急いで!わかってはいたけど、パニックになっているわね……」
「28地区の避難所からも要請が!」
「ええい、どこも一杯……!」
CDCの指揮官として各所からの情報や指示を捌いていくサーシャは息つく暇もない状態だ。
気を利かせたスタッフがオペレーターたちやサーシャに飲み物を差し入れるくらいはできているが、それでも声がガラガラになる程度には忙しい。
指示と報告が飛び交い、あるいは人が行き来し、コンソールを操作する音でCDCが飽和する。
「地上管制より報告、ユーティライネン大尉が出場しました。
長期戦を見越して武装コンテナも牽引していきました」
「了解です……そうですね、武装を補給する時間も乏しくなる……手すきの人員で武装コンテナを地上に送り出せませんか?」
「打診してみます」
お願いします、と伝え、レーダーマップに目を落とす。
敵集団は長距離対空攻撃で徐々に数を減らしているが、襲撃集団としてはまだまだ健在だ。
こちらが放つ攻撃に対して護衛戦闘機型のネウロイが盾になり、あるいはミサイルやロケットや砲弾を撃ち落としているためだ。
数を減らすことにはつながるが、爆撃タイプが健在なのはいただけない。だからこそ手数で削って火力で吹き飛ばしつつあるのだが。
(とにかく爆撃機タイプの数を減らす、それが先決ですね。ですが……)
いかに敵を効率的に殲滅するか、優先目標を排除するか、そのアンビバレントには苦しむしかない。
両方一度にやれれば苦労しないのだが、それをできる戦力が少ないのだ。何とかしなくてはならないのだが---
(考え込みすぎるのは良くないですね)
できる手はほとんど打って、その上で何ができるかを考える時間だ、と切り替える。
それに加え、戦場での動きもまだ続いているのだから、なおのこと注意を払う必要がある。
「ラル隊長たちの帰還ルートは大丈夫ですか?」
「はい、ポイントT-23を経由するルートで帰還する予定だと。
消耗が激しいこともあって、ネウロイとの交戦を回避するとも」
「了解。こちらとの情報共有は綿密にお願いします。
ネウロイが攻め込んでくる動きは変化する可能性が大きいですから」
「了解」
目立つ位置に配置されたデイムラー大尉のモルフォWなどがいい例だ。
巨体とその戦闘能力の高さから、モルフォWを重要目標と判断して都市部よりも先に攻撃を仕掛けてくることが見込まれる。
少しでも敵の注意と攻撃を引き付けてくれれば、それだけネウロイの撃退の可能性が高くなるし、ペテルブルク市街の安全が確保できるのだ。
正直言えば、ここからがいよいよ本番。これまでが前哨戦だったのだからなんだか笑えてしまえる。
あれほどの激戦があっておいて、前座?だとしたらこの後に起こるのはどれほどの激戦だというのか。
「さて……」
やるべきを行うべく、とりあえずサーシャはカフェイン入りの目覚ましドリンクを一気に飲み干すことにしたのだった。
身体がカフェインで興奮し、目が余計にまでにしゃっきりしたような気がする。
ひかりが夜間警戒大気の時に普段飲んでいるのも確かこれと同じようなもだったかと、そんなことを考えるくらいの猶予はあった。
218 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2024/12/26(木) 23:38:14 ID:softbank126002241119.bbtec.net [42/60]
以上、wiki転載はご自由に。
ここから本番の戦闘という事実に震える…
モブたちも頑張っていますよぉ
寧ろモブたちがいないと成り立たないのだ。
今夜のうちの感想返信はできる範囲でやります。
最終更新:2025年03月16日 21:47