557 名前:弥次郎@お外[sage] 投稿日:2024/12/30(月) 18:17:14 ID:p2570027-ipoe.ipoe.ocn.ne.jp [45/97]


憂鬱SRW ファンタジールートSS 「ペテルブルク大戦略」3


  • F世界 ストパン世界 主観1944年12月 オラーシャ帝国 ペテルブルク 北方空域


 ネウロイと人類側の激突はいよいよ潰し合うレベルに突入した。
 射程の優位を持っていた人類側との距離を詰めたネウロイが、対地攻撃によって防空設備を食らい始めたのだ。
勿論防空設備側も接近してくる分だけ当てやすくなるのでネウロイを攻めてくる端から消し飛ばすことはできている。
 だが、こうなると途端に人類側が時間経過で不利になる。相手の数に対してこちらの数が足りないからだ。
あるいはネウロイが質の不利を強引に数でごまかして潰しあいに持ち込んでいるというべきか。
これまでのネウロイの戦略・戦術的な判断から見れば、明らかにそれは意図されたものだ。

『タイムリミットは短い。できる限り潰してくれ』
「ラル隊長は無理をおっしゃる……」
『無茶は承知だが、お前たちができるだけやらないとならないのは事実だからな』

 ペテルブルクに帰還した後に速やかにCDCにいたサーシャと交代したラルと通信しながら、バルバラは少しお茶らける。
 ただまあ、ラルの言葉は事実なのだ。ここが最終防衛ラインの一歩手前。ここでいかに数を減らすかがペテルブルクの被害を減らすかに直結する。
地上から対空攻撃をする陸戦ウォーザード達と合わせていかに相手をつぶすかが重要だ。

「だってさ、レーナ。準備は?」
「いつでもいいわ……」

 現在、バルバラとエマ、そしてレーナの3人はネウロイの集団のやや後方に陣取っている。
 ここから飛び込んで行って、敵主力を削る、ひいては全滅に追い込むのが目的となる。
 そこから先は本当に防空網へ委ねるしかないのだ。
 だから、危険を承知で殴りこむしかない。

「鳥になってきて!」
「うおおお……!?」

 その言葉とともに、レーナは空中へと放り出された。
 その動きを見て取ったネウロイは即座に迎撃のビーム砲を放ち、護衛戦闘機タイプを差し向けて本格的な対処に移る。
 だが、レーナとて訓練を重ねたウォーザード、それもJFW付きの部隊に配属を認められるほどの実力者だ。
オラーシャの冷たい空気を切り裂きながらも落下しながらも、自分へと延びてくるビームの存在を察知し、必要な動きをとる。

「この程度!」

 自由落下中ではありえない、緊急の回避運動。
 明らかに能動的にベクトルを変化させ、左右に、あるいは上下にずれて攻撃をかわしていった。
 現在、レーナの装着しているクリスタル・ランツィーラーは背部にハイ・マニューバユニット、脚部に跳躍ユニットを装備している。
これらは本来の陸戦型のMGFでは限定的にしか与えられていない空中でのマニューバを実現させる能力を持っていたのだ。
火力こそ低下するものの、空中で何もできないままに袋叩きにされてぼろ雑巾にされることは回避できていた。
それどころか、空中で姿勢を制御し、手持ち火器及び腰部・腕部のアタッチメントの武装を動員して突っ込んでくる個体の排除をする余裕すらある。

 だが、それでも疑問が残る。
 このくらいの空戦であるならば、そもそも専門である空戦ウォーザード達ができることなのだ。
陸戦のウォーザードが無理に空中に移動して放り出されてまでやることではない。
火力こそ陸戦ウォーザードは空戦ウォーザードに勝っているが、極端に差が開いているというわけでもない。
 では、なぜレーナはネウロイ集団目がけて放り出されたのか?

「エーテル・アクセラレータ・モジュール予備動作よし、エーテル供給ライン確保。
 パターン入力完了、システム面問題なし……!」

 その答えは、レーナが希少な固有魔法持ちだという点に尽きる。
 そのために、固有魔法を増強させるエーテル・アクセラレータ・モジュールまでも搭載しているのだから。
 最初の標的にめがけて姿勢制御及び滑空状態を制御しつつも、レーナは自機のモジュールを準備状態にして、使えるように備える。



559 名前:弥次郎@お外[sage] 投稿日:2024/12/30(月) 18:17:53 ID:p2570027-ipoe.ipoe.ocn.ne.jp [46/97]

 そして、一斉放火をエーテルバリアで強引に潜り抜けた先で、標的となる爆撃機タイプを至近にとらえ、レーナはそれを開放する。

「砕け、轟け、我が衝撃(Mein Auswirkungen)!」

 その刹那に---独特の魔法陣を展開したレーナを中心に、半径数十メートルの範囲の空間が揺れた。
 いや、揺れたどころではない。激震したのだ。
 レーナの持つ固有魔法「衝撃魔法」が増幅され、立体的に伸びて、範囲内のネウロイを悉く砕いたのだ。
本来ならば陸戦ウォーザードゆえに平面的に使われることが多かったそれを、空中で発動することにより3次元的に解き放つ。
その威力は下手な火器をしのぐもので、尚且つ、ネウロイの防御をたやすく貫通して撃墜たらしめるのに十分すぎる威力だった。
 音と、振動と、魔力による閃光が走ったのちに、大量の破壊が生じた。
 それは、戦場の中にあって、一種の幻想ささえも抱え込んでいたのだった。

「……いよし!」
「こちらです、進路そのまま!」

 たった一撃で多くのネウロイを消し飛ばし、自由落下していくレーナの先には、飛行しているエマがいた。
 無事に通り抜けたレーナを受け止めるためにエマは相対速度を合わせ、高度を制御し、同時にレーナにちょっかいをかけようとするネウロイをけん制する。

「着地……!」
「このままいきますよ!」

 そして、レーナが着地した。
 それを確認するや否や、エマは攻撃を受けないように回避運動をして、一気に上昇へと転じる。
 反対に、上空からレーナを落っことし、上空から援護をしていたバルバラは上空からの攻撃を浴びせつつ、高度を下げていく。
 そう、お手玉だとかそのように表現したのは文字通りの意味だったのだ。
 二人の航空ウォーザードが陸戦ウォーザードを行ったり来たりさせることで、火力を供給しつつ引っ掻き回すという戦術。
MSでいうところのドダイ履きによる重力下における立体的な空間戦闘技能。

「次は5時方向、仰角43度、相対速度ほぼ0の集団」
「マーキング完了、こちらも爆撃機タイプが多いですね……潰す価値は十分あります」

 次の獲物をマーキングし、牽制などを入れながらも、相手の動向には注意を払う。
 時間が有限だが、時間のかかるお手玉をやろうというのだから、一回あたりに巻き込めるネウロイの数などは多いに越したことはない。
そのためには入念な位置取りと敵の挙動の観測、さらには反撃を捌く必要があるのだ。

『ホワイトちゃん、チェックシックス!チェックシックス!』
「了解、軍曹、対処を!」
「任されました!」

 その時、エマの後ろ、丁度射角の限界となる後方の資格に護衛戦闘機タイプが数体滑り込んでくる。
 ネウロイもどういう仕組みであるのかを看破したのだろう。だからこそ、叩きに来たというべきだ。
 だが、その程度は見越している。片手で捕まりつつも、もう片方の手で保持した30ミリアサルトライフルの嵐が、迂闊に接近してきたネウロイを叩き落す。
それでもと食らいついてくるが、今度はバルバラの放ったマレールスマートガンの弾丸が立て続けに後続を撃墜してのける。

『今のうちに上昇して!』
「ありがとう!」

 そして、一瞬にしてエマは高度をとって敵集団上空に取り付くことに成功する。

560 名前:弥次郎@お外[sage] 投稿日:2024/12/30(月) 18:18:30 ID:p2570027-ipoe.ipoe.ocn.ne.jp [47/97]

 そのころにはエーテル・アクセラレータ・モジュールのクールタイムも完了しており、準備も万端だ。
 先ほどと異なるのは、より対空砲火が激しく上がっており、エマを追跡して動きを阻害しようとする動きが多いことか。
より効果的にネウロイに打撃を与えるには邪魔でしかないものである。
 けれど---それは必ずしも賢いとは言い切れない。

『隙だらけだ、もらったよぉ!』

 今度は敵集団の下方を飛行するバルバラに隙をさらしてしまうからだ。
 バルバラの放つホーミングレーザーキャノンやレールスマートガン、そして翼部の「ソウ」などが無防備な方向から食い破っていく。
ネウロイの注意がエマたちの方を向いたからこそ、この瞬間だけは優位を取ったうえで攻撃を仕掛けることに成功していたのだ。
 即座に反撃が来るが、バルバラからすれば懸念材料である爆撃機タイプを複数撃墜できただけでも、十分にお釣りがくる成果だ。
そしてその間に、エマの援護を受けながらレーナが再び空を舞う。

「読まれていた!?」

 だが、その動きはネウロイも察知していた。
 ペテルブルク方面から大きく舵を切り、急激な回避軌道をとることで、レーナが集団中央に着弾することを回避しようとしていた。
迎撃に上がってくる護衛戦闘機タイプを打ち落としながらも軌道修正を試みるが、やや間に合うかどうか微妙なところだ。

『こっちでカバーする?』
「大丈夫、このまま何とか届かせます」

 そして、レーナは瞬時の判断で足場を蹴り飛ばしていた。
 そう、自分を狙っていた護衛戦闘機タイプのネウロイを蹴っ飛ばして機体の軌道を修正したのだ。

『わぁお』
『それをやって見せますか……』

 もとより、護衛戦闘機タイプのネウロイは大型だ。
 比較的動きが遅いこともあって、空中で足場とするにはちょうど良い相手である。
そもそもの数も多いので、合わせる相手には事欠かないのもプラスだ。
後は動きをうまく観察して、連続した動きを作っていくだけの話である。

「とったぁ!」

 そして、二度目の衝撃魔法がネウロイの群れに大きな風穴を開けることに成功した。

561 名前:弥次郎@お外[sage] 投稿日:2024/12/30(月) 18:19:05 ID:p2570027-ipoe.ipoe.ocn.ne.jp [48/97]

 ネウロイも黙ってはいない。
 すぐさま護衛戦闘機タイプの動きが変化し、距離を取りつつの射撃戦に終始するようになったのだ。
 ついでに、バルバラの背に着地したのを確認すると包囲して集中砲火を浴びせ、中には捨て身の特攻をして動きを妨害しようとしてくる。
 だが、如何せんそれは悪手であった。
 空戦ウォーザードが陸戦ウォーザードを背負うことで、ある程度自由な火力投射を可能としたことで、MGFの火力が牙をむいたのである。
真っ向から撃ち合うならば、ネウロイは数で防ぐことしかできない程度には彼我の火力には差が生じている。
やがては護衛戦闘機タイプの数も目減りし、落ち着いて本命の爆撃機タイプを食い破る射撃の連打をたたきこめるようになった。

「このまま追い込みましょう」
「任せてよ!」
『こちらからも援護します!』

 ネウロイは予想以上の攻撃に慌てたのか、明らかにペテルブルクへの到達を優先する動きを作り始める。
 残存の護衛戦闘機タイプをこちらに割り当て、爆撃機タイプがなりふり構わず加速を開始したのだ。
今度こそ逃げを打つ動き、それも抱えている火力をばらまきながらの、捨て身に等しい動きだった。
とにかく人類の勢力圏に傷跡を残し、今後の戦略のためになる行動をとっている。
人間では不可能な、自らの帰還などを考慮しない捨て身の戦術。

「すごいものだね」
『なりふり構わないってこういうのを指すんだろうなぁ』

 けれど、とバルバラは無理な追撃をやめる判断を下した。これ以上追撃を続行する必要はないという指示を受けたためである。
それはもはや追撃不可能だからという消極的な理由からではない。彼女らは蓋をする役割を与えられたのだ。
 つまり---

『よくやった……3人とも。包囲は完成した』

 ラルからの通信が、すべてだった。
 対空陣地との殴り合いを行い、さらにはバルバラたち3人に散々引っ掻き回されたことにより、ネウロイの集団は動きを制限されてしまった。
それだけの時間があるならば、あるいは減速をしてしまったならば、人類側が残存となったそれ等を包囲する準備くらいはできてしまうのだ。

『攻撃開始!』
『撃てェー!』
『発射あああ!』

 通信で響く声。
 その声とともに、ペテルブルクをめぐる夜間の戦闘は、最後の一節へとシフトしたのであった。

562 名前:弥次郎@お外[sage] 投稿日:2024/12/30(月) 18:19:56 ID:p2570027-ipoe.ipoe.ocn.ne.jp [49/97]

以上、ウィキ転載はご自由に。

次はモルフォWの方を主軸にして、物語を終わらせに行きます。
後始末もあるからあと2話か3話かなぁ…

多分年内はこれがラストですね。
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最終更新:2025年03月16日 22:01