896 :名無し三流 ◆Mo8CE2SZ.6:2012/03/23(金) 23:56:52
ドイツ第三帝国本土の空軍基地。エルンスト=ジークフリート・ステーン大佐は、
個室の中で手紙を読んでいた。その差出主は、彼が最も親しくした、そして世に知らぬ人のいない愛弟子だ。
『拝啓 親愛なる我が上官、エルンスト・ステーン殿
見舞いの品は無事届きました。同僚達もみな喜んでいます。
東部戦線は今日も硝煙と血の臭いが絶えません。キャノピーのガラスだけが、
このあまり愉快ではない香りから鼻を遠ざけてくれます。
心配はいりません。私は至って元気です。この前撃墜された時も、銃創が3箇所できた位で済みました。
基地の軍医、ガーデルマンは私の性分をよく理解してくれているので、
病院などという所に長く閉じ込められる事も最近はめっきり少なくなっています。
やはり私は前線にいたいのです。
それでは、互いの無事と健康を祈って。
敬具 貴方の弟子、ハンス・ルーデル』
「あいつめ……変わらないな」
ステーンは愛弟子の笑顔を思い出して微笑むと、飛行服に着替えて部屋を後にした。
897 :名無し三流 ◆Mo8CE2SZ.6:2012/03/23(金) 23:57:27
彼が部屋を出て滑走路に出ると、そこには既に彼の新しい弟子達が整列している。
彼、ステーンが手塩にかけて育てた、いわば『ルーデルの弟弟子』達だ。
「先生、我々は準備万端です!」
弟子達の後ろにはJu-87、スツーカ。ドイツが戦争に身を投じて以来、
常に前線を共にしてきた古い、しかし有名な爆撃機。機体下部には模擬爆弾が取り付けられている。
ステーンは弟子達の顔と彼らの、そして自分のスツーカを交互に眺めるとにっこりとし、
そして顔を正してその生徒へ告げた。
「飛び方は全て叩き込んだ。私の最後の授業だ」
「「「「了解!!」」」」
手を振る整備士を背に、5機のスツーカが縦に並んで飛んでいく。
先頭にステーン、そしてやや距離を置いて後方にその弟子4人。一糸乱れぬ編隊だ。
やがて編隊の眼下にT-39を模した標的戦車が現れる。
898 :名無し三流 ◆Mo8CE2SZ.6:2012/03/23(金) 23:58:02
まずステーンのJu-87が戦車へ向けて急降下した。乱れのない、美しいとさえ言える機動だ。
「私についてこい!」
言うが早いか、ステーン機は模擬爆弾を投下。それは戦車の砲塔真上に命中する。
「ようし、先生に続くぞ!」
そして弟子4人のスツーカも次々と急降下、模擬爆弾を投下していく。
投下された爆弾は、ステーンの爆弾が命中した、ちょうどその位置に次々と飛び込んでいった。
(凄いな……!)
既に戦車の前方を旋回していたステーンも、新たなる愛弟子達の見せた離れ業には流石に驚いてしまった。
彼らの機体、そして彼らの爆弾は、まるで見えない糸で繋がっているかのようだったのだ。
いや、もしかしたら彼らは本当に"見えない糸"―――"絆"という名の―――で繋がっていたのかもしれない。
この4人はその後ドイツ国防軍の、最前線の中の最前線へと配属される事になる。
そう、まるで彼らの兄弟子ハンス・ウルリッヒ・ルーデルの後を追うように。
彼らにどのような運命が待ち受けているのか。それは誰も知らない…………
~ f i n ~
899 :名無し三流 ◆Mo8CE2SZ.6:2012/03/23(金) 23:58:37
以上で投下終了です。
Q.ルフトバッフェ、未だに急降下爆撃マンセー?
A.いいえ、むしろ急降下爆撃マンセーから脱却しつつあります。
ただ、まだドイツにとって急降下爆撃の価値が消えた訳ではないので、
急降下爆撃以外に人的リソースの配分が移行しても、
こうして少しでも良い先生に後進を育てておいてもらえば、
数が減っても精鋭になって大丈夫だろうという考え方です。
Q.ステーンさんの昇進速度w
A.「前線で戦果を挙げればこんなに昇進できるよ!」
という、新兵達へのパフォーマンスみたいな意味があります。
もっとも、どのぐらい効果があるかは分かりませんが……
最終更新:2012年03月24日 20:02