89:ホワイトベアー:2024/10/12(土) 21:45:37 HOST:softbank060067081109.bbtec.net
日本連合ルート 「パレードの裏側」
夜空に天高く聳え立つ魔天楼の数々、その姿は依然として超大国であるこの国の力を見るものに本能的に理解させる。
その中の一つの超高層ビル、その最上階付近に幾人かの男女が集まりきらびやかに輝く夜景を眺めていた。
「史実日本で各国の部隊によるパレードの実施が日本連合軍内で検討されている……ですか……?」
ソファーに腰を掛けた白衣を着た大学生ほどの女性が、ロックのスピリタスの入ったコップを手に取りながら確認を取る。
「ああ、表向きの理由は占領する側である我々と、占領される側にある史実日本国市民の友好関係を構築し、連合内での友好を深める一環とのことだ。付け加えるなら統治委員会内でも実施に反対意見は出ていないな」
委員会-列島日本統治委員会は、占領政策に関する最高政策決定機関である。
故にその本会議が開催される前までに、実務者層によって内々に合意が形成されていることも少なくない。
委員会内で反対意見が出ていないということは今回もそのパターンだったのだろう。
つまりパレードの実施はほぼ内定している訳だ。
ハァ…
禁煙が蔓延る世相なんぞ知ったことかと言わんばかりに、堂々と葉巻を楽しんでいた男性の答えに無意識のうちにため息が出てしまう。
いくら並列世界の同位体達と言っても、積み重ねてきた歴史も価値観も違う以上は他人であり他国にすぎない。
外から見える場所では仲良く笑顔で手を握り合っているが、同時に日陰では連合内での主導権を巡り激しい政治闘争が影に日向に繰り広げられている。
軍事パレードの特性上、今回のパレードも表向きな理由はどうであれそうした主導権争いの一環であることは子供でも想像できる。
「それで軍はどのように対応するつもりですか?」
「参加はする。」
質問の答えは先程の男性は苦笑いを浮かべながら返された
まあ、それもしょうがないだろう。
何しろ帝国軍は基地祭など小規模な催しは行うが、幕府軍の頃からの伝統でこうした組織全体としての式典をあまり実施しない。
これは半ば貴族化していた当時の旗本や諸藩へのカウンターパートとして創設された幕府陸軍、幕府海軍海兵隊が『黙して語らず。戦果でのみ力を示す』をモットーとしていたためで、帝国軍として最後に開催した軍事パレードは世界大戦戦勝記念式が最後、つまりもっとも最近のパレードですら100年以上前なのだ。
90:ホワイトベアー:2024/10/12(土) 21:47:38 HOST:softbank060067081109.bbtec.net
「他国や戦警から急いで情報やノウハウをかき集めているとのことですが、今回の件に間に合うのですか?」
無理である。長く見積もったとしてパレードの開催まで半年程度、もっと短い期間の可能性だって全然ありうる。
そんな短時間のうちにノウハウを収集し、研究し、理解し、体現できるわけがない。
いや、正確には外見だけなら何とか取り繕うことはできる。
しかし、それはあくまでもそれっぽい行進をできるというだけだ。
自分たちだけでやるならともかく、相応のノウハウや経験のある他国との合同パレードなどに参加しようものなら練度の差が出てしまうことは避けられない。
それがわかっている軍人達は口を開くことができず、白衣を着た大学生ほどの女性が投げかけた素朴な疑問は沈黙で返された。
「間に合わないだろうというのが我々の結論だ」
ため息をつきながら沈黙を破ったのは、統合参謀本部から参加している軍人だった。
その階級章についている星は4つ。それを見れば彼が日本軍のトップの一人であることはこの場にいる誰もが理解できる。
「だからこそこの馬鹿げだプランが必要となるわけか」
「だが、これが現状一番ベターな選択といえるだろう」
……まあ、それは否定できない。
それに私達にとってはある意味で一番美味しい内容なのは確かだ。
「史実日本や他の世界の同胞達は腰を抜かすだろうな」
「ああ、これ以上ないほど我々のことを各世界の人々に理解させられるだろう」
今まで黙っていた初老の男性の言葉に室内の何人かから失笑が漏れる。
軍が我々に提示したパレード計画はある意味でインパクトに溢れたものだ。
パレードに参加する部隊は史実日本占領に派遣されている中では最精鋭と言える帝国陸軍第1歩兵師団隷下第1歩兵旅団戦闘団、ここまではいい。
だがその展示プログラムは、陸軍内にいる転生者が趣味丸出しで採用させた第4種礼服(テイオウの勝負服のそれ)や、チア衣装をきた歩兵(自動人形)部隊によるマーチングとパフォーマンスと言う、確かに普通の男性を主体とする軍隊には逆立ちしてもできないパフォーマンスだし、自動人形を軍の主力とする我々を紹介するには相応しいのかのしれない。
けど………
「それに今回のパレードは史実日本と我々の友好関係を深めるためのもの。
我々という能天気な馬鹿も居ると思われ毒気を抜いてもらった方が占領政策的にも良いだろう。」
確かに、わざわざ大人しい占領地域の住民の敵意を煽る必要もないだろう。
他の日本連合加盟国からは空気の読めない奴扱いをされるだろうが、それも大した問題ではない。
何しろ友好関係を深めるという表向きの名目にはこれ以上ないほど馬鹿正直にしたがっている。
それにだ。他者と同じようになろうとして、自分自身の四分の三をなくしてしまう国家など列強ではない。我が道を行くことこそが列強なのだ。
そう考えた参加者たちは一様に頷く。
「では紳士淑女の諸兄、史実日本での方針はこの計画通りと言うことでよろしいかね?」
「「「「「異議なし」」」」」
「よろしい。では今宵は此処までとしよう」
91:ホワイトベアー:2024/10/12(土) 21:48:14 HOST:softbank060067081109.bbtec.net
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最終更新:2025年04月16日 23:22