34 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2025/01/28(火) 21:28:34 ID:softbank126116178004.bbtec.net [3/109]

日本大陸×プリプリ「The Melancholic Handler」外伝「そうだね、粛清だね」3



  • 西暦1855年6月某日 アルビオン王国 ロンドン シティ・オブ・ウェストミンスター ダウニング街10番地


 さて、空軍の粛清について着々と準備を進めるゴードンであったが、重要な部門においても粛清というか首切り祭りが開催されていた。
余りにも派手な空軍の粛清劇の陰に隠れる形で、外交や軍事に絡む分野における「それ」の関係者が軒並み責任を背負わされた。
 一体どこが?それは、平たく言えば諜報分野であった。
 この時代のアルビオンの諜報分野---外套とナイフの分野はてんでバラバラに行われていた。
それぞれ情報を欲するところがバラバラであり、知りたい内容もバラバラで、まして対象となる地域や国が違えばそうならざるを得ないというべきか。
史実イギリスにおいてもそうであり、まともに統合されたのが戦間期であったというのだから、どれほどかは語るまでもないだろう。
こういった横の連携が取れていないというのは、外交分野にも通じてしまう失態とも悪習慣とも言えた。

 今回処分を受けた理由は、諜報の人間たちや組織にとっても苦渋だが認めざるを得ない失態に端を発していた。
 即ち、仮想敵国---大日本帝国とロシア帝国の間で起こっていた一連の動きをまるでつかめていなかったというものである。

「……ふぅむ」

 自らの執務室の椅子で書類を精査するゴードンとしては、そして内閣としては今回の諜報分野の失態は大いに反省すべき点があったと判断していた。
少なくとも軍事関係に関係する諜報組織は、どこに属しているかにせよ、航空艦に対抗する航空機や飛行船の存在に気が付いてほしかった。
いや、寧ろ気が付いていなければならないのだ。何しろ問題の航空機や飛行船の出所は大日本帝国だと判明しているからだ。
アルビオン王国に対してまともに戦争が成り立つ国家であり、洋の東西こそ違えども覇権国家だ。
その国がアルビオンの先を行っているならばそれを察知しなければ置いてけぼりを喰らい、何時か致命傷を喰らっていたのだろうから。
今回、ロシア帝国が使ってきたのはある意味では幸運であったくらいである。

(だが……空軍の失態以上に痛いかもしれん)

 今後の戦略・戦術の大幅な見直し---いや、大幅どころではなく、未知の存在が割り込んできたことで刷新する必要に迫られたのだ。
今後は仮想敵国が航空機や飛行船を投入してくることを前提に、クリミア戦争で行われた対応策を軍全体で共有して実行しなくてはならない。
それに費やされるコストは決して小さいものではない。ただでさえ、空軍が粛清によって弱体化しているという悪条件だというのに。

(せめて、その存在を察知できていれば……)

 そう思わないことはなかった。
 もし知っていれば、対応する必要があると分かっていたら、
 そこまで考え、しかし、ゴードンは首を横に振る。無理もないことだとも。

35 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2025/01/28(火) 21:29:23 ID:softbank126116178004.bbtec.net [4/109]

 そう、ケイバーライト鉱石を産出しているため、航空艦を欧州では独占しているアルビオンは、そうであるがゆえにドグマに囚われていた。
ケイバーライト鉱石がない国は空からの脅威に怯え、空を飛ぶ手段か、空を飛ぶ相手を撃ち落とす手段を欲していた。
その中においてはいわゆる気球なども存在しており、空を飛ぶことに関してはケイバーライト鉱石抜きでも不可能ではないのは判明していた。
 だが、気球は空に浮かぶだけのものであり、航空艦にとっては脅威たりえないというのも、また常識となっていたのだ。
 だから、情報を掴んだ時点ですでにこう思ったのだろう「ケイバーライト鉱石抜きに戦力たりうるはずがない」と。
自分や他の閣僚、あるいは軍人が新たな航空戦力の存在を知ったとしても、どこまで信用するかと言われると言葉を濁すしかないのだ。
実際、与太話や気球の話が独り歩きしたのでは、という判断がされて、報告には上げられなかったと聞いている。

 つまるところ、常識的な判断をした結果、事実であった情報は非常識と判断されて、捨て置かれたということになる。
粛清とは銘打っているものの、報告をしなかった人間への軽い罰で済まされ、あるいは一定程度の左遷で終わっているのはそういう理由からだ。
責めたいところだが、強く責めることは難しい、という事情。今後の諜報における貴重な戦訓だともいえるだろう。

(諜報の体制の見直しも考えられてはいるが……難しいのがな)

 これを契機に諜報組織の統合などが検討はされたのだが、残念ながら却下となっている。
 世界の三分の一を占めるアルビオンをしても、重宝すべき範囲はかなり広く、統合や糾合を行うには不都合が多すぎる。
一つの組織に束ねたところで、元の所属同士でもめることは確実であろうし、横の連携をとるには組織間の軋轢となりかねない。
統合する労力の方が、今の段階では得られる利益などを上回ると考えられていたのだ。

 そしてもうひとつの理由が、諜報分野が現在もフル稼働していることだ。
 クリミア戦争以降、大日本帝国は積極的に航空機と飛行船を他国に対して輸出しているのだ。
 それがどの程度の規模と数なのか、どれほどの脅威度であるのか、あるいはどういったものが販売されているのかは、現段階では重要事項だ。
何しろ、航空機にしろ飛行船にしろ、クリミア戦争でアルビオンに大目玉を喰らわせた存在である。
まして航空機はロイヤル・サブリン撃沈を成し遂げたという事実がある。どの国も欲しがるのは当然だろう。
 同時に、アルビオンの航空艦隊が航空戦力同士のぶつかり合いを想定し、急ぎで対抗策を編み出して研究していることも絡む。
各国はその対策を行った航空艦の性能を知りたがり、スパイを放って情報をかき集めているのだ。
実際、泥縄式とはいえ、対空銃座にミニエー銃を持たせた歩兵を乗せた航空艦は、航空機の撃墜に成功している。
そこから学んだ対空戦闘の教義や技術に関して、アルビオンはできるだけ秘匿しなくてはならない。
新兵器の開発も進んでいる事なので、ここは手が抜けないのだ。

「今後に……次の政権に期待するしかないな」

 そして、ゴードンのサインが書類になされる。
 間接的に空軍の暴走を招いたともいえるが、そうでなくとも空軍は暴走していた可能性がある。
 だからこそ、処分などはあまり強くすることはなく、組織体制とその管理を見直すことに重点を置くことにした。
今しがたゴードンがサインした書類は、それを決定するために必要なものだ。
 次の戦争、あるいはにらみ合いにおいて、何が起こるかはわからない。だからこそ、しっかりと注意を払う必要があるのだ。
 クリミア戦争が終わってもなお、アルビオンの頭脳たちが休まることはなかった。

36 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2025/01/28(火) 21:29:54 ID:softbank126116178004.bbtec.net [5/109]

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空軍のミスというか暴走がピックアップされますが、それ以外でも瑕疵があったよね、というお話でした。
なお、次の戦争…
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最終更新:2025年04月28日 15:45