401 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2025/02/02(日) 00:17:44 ID:softbank126116178004.bbtec.net [35/109]
日本大陸×プリプリ「The Melancholic Handler」小話「一目連という剣豪」2
- 西暦1889年某月 大日本帝国 滋賀府 某所 流派「嘉島八相」道場
道場内で、二人の人間が相対していた。
一人は藤堂ちせ。もう一人は、言うに及ばぬことであるが、「嘉島八相」の宗主たる一目連。
弟子と師匠という関係の両者は、激しい戦いを繰り広げている。
実際に刀で切り合うわけではなく、竹刀を用いた稽古であるが、それはもう実戦の雰囲気の中であった。
竹刀を使っているとはいえ、防具を余りつけない素肌剣術に近いために迂闊なことをすれば負傷さえもありうる状態である。
だが、それが稽古を手抜きでやる理由にはならない。実戦ともあれば、武器も状況も選んでくれないのだから。
一面として勝つための武術の色の強い「嘉島八相」において、これくらいのリスクは承知で技量を磨くものであった。
(くっ……ぬっ)
体格差があり、あるいは技量の差があることもあって、ちせは攻めを選んでいた。
主導権を握ることで、何もできないままに押しつぶされてしまうというのを回避するためだった。
一目連の速く、鋭い攻めを弾きつつも、決して流されないように注意を払う。
「すぅ……ふぅー……!」
剣戟の合間にも息を入れつつ、チセは踏み込んだ。
嘉島八相の剣術はあらゆる攻撃を是とする。一目連に襲い掛かるそれらは、急所さえも狙う連撃だ。
「まだまだ」
しかして、受ける一目連もまた尋常な遣い手ではない。
嵐のように襲い掛かるそれらを、柔らかく、時に鋭く弾く。
そして---それの合間に一瞬の反撃を差し込んでくる。
「!?」
それを辛うじて察知したちせは危ういところで弾き返す---が、ここで動きが淀んだ。
ちせの一撃を刹那に弾いた一目連は攻めに転じようとしている。
それに対して、受けに回るかそれとも攻めを維持するか---判断と行動に迷いが出た。
ほんの一瞬、瞬きの間でしかないような、そんなわずかな時間でしかない。
しかし、一目連ほどでなくとも熟達した剣士ならば十分に「隙」として付け入ることができるものだった。
「迷えば、敗れるぞ」
戒めつつ、一目連は容赦なくその動揺に付け込んだ。
一撃、二撃と打ち込んだところで、これまで体格差などのハンデを受けながらも牙城を維持していたちせの姿勢が崩れた。
「喝!」
そして、突き出された張手の一撃が、ちせの身体を軽くふっ飛ばしてのけたのだった。
十分に加減されたとはいえ、体重と筋力とをうまく掛け合わせたそれは、ちせの意識を刈り取るのに十分すぎるもの。
その勢いのままに、ちせは周囲に並べられていたマットへと飛ばされ、受け止められる。
だが、その衝撃でちせは立ち上がることができず、竹刀を手放してしまう。
まぎれもなく、敗れたのであった。
「参り……ました」
やっと言えたのは、それだけ。
辛うじて礼をした後は、駆け付けた他の内弟子に支えられて退出していくほかなかった。
402 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2025/02/02(日) 00:18:18 ID:softbank126116178004.bbtec.net [36/109]
内弟子の一人であるちせを容赦なくふっ飛ばした一目連は、ちせの動きに「迷い」を強く感じていた。
攘夷派に身を置いており、公儀の敵となった父を討つという仕事は、やはり辛いものがあるのだろう。
あるいは、勝てるのか、という疑問がついて回っているのか。
熟練者や先達に師事するというのは正しい面もあるが、同時にその師事した相手の実力や育てる能力に依存するという面も存在する。
青は藍より出でて藍より青し、とはいうが、藍より青い青が早々に出ることは稀な話なのだ。
そういう点において、ちせの父たる藤堂十兵衛は自身を超えられるようにちせを鍛えてはいた。
問題は、そのちせ自身が己の技量や力量を信じきれていないというか、自分が師であり父を超えることに戸惑いがあるのだろう。
あるいは、もうひとつの可能性としては---
「私のミス、か」
そう、一目連が強すぎたという可能性だ。
その結果、知らず知らずのうちにちせは己に要求するところをあまりに高く設定してしまい、それに追いつけないことで焦っている可能性がある。
父親に勝てるようにと稽古を行い、他の分野も学ばせて成長を促していたのだが、それが裏目に出たか。
実際、ちせは成長している。
一目連は単なる剣客としてだけでなく、諜報員や暗殺者といった役割もこなせる知識と技能を身に着けさせた。
剣に限らず、あらゆる武器、あるいは武器を持たずに生身で戦う方法も叩きこんだ。
学問も積極的に学ばせて、必要な精神涵養を行い、知識と教養を深く学ばせた。
それでも満足させず、なおも学ばせ、修練を重ねたのは、成長を促し、頭打ちとなって弱っていくだけになるのを回避するためだったのだが---
(ままならぬな)
生涯修練・生涯実戦を是として鍛え、度々試練を課していたことも、裏目になったか。
まだ時間の猶予はあるが、彼女が焦りから拙速な行動に出ないように予防する必要がある。
楽ではなく、むしろ苦労が多い。選択を誤れば何が起こるか分かったものではない。
だが---この試行錯誤こそが結局のところ、一番の醍醐味とさえいえるのだ。
主観的に見て、何十人どころか何千人と弟子を育て、間接的ならばもっと育ててなお、それは飽きがこない。
(まあ、私の楽しみは置いておくとして……)
ともあれ、ちせが己の殻を破れるように、取り計らう必要がある。
こちらの思惑を超えて成長してくれるかどうかを含めての、試練という形になるだろう。
彼女が如何に成長したかが、世界の行く末にまで大きくかかわるのだし。
将来のチーム白鳩に不足が無いよう、一目連は手配を急ぐのであった。
403 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2025/02/02(日) 00:20:04 ID:softbank126116178004.bbtec.net [37/109]
以上、wiki転載はご自由に。
ちせ殿、一目連さんの内弟子という形でゴリゴリに鍛えられています。
ですが、師匠がちょっと強すぎましたね…
年齢も近い姉弟子二人(某殿下とその妹さん)共々頑張ってほしいところです。
最終更新:2025年04月28日 15:48