861 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2025/02/10(月) 22:58:06 ID:softbank126116178004.bbtec.net [76/109]

憂鬱SRW支援ネタ オカルト編SS「どうせ死ぬまでの暇つぶし」


  • C.E.某年 某所にて


 空間を、刀が切り裂いた。
 いや、刀ではない。力だ。剣士が刀を通じて放った力が、切り裂いたのだ。
 それは物理的なものでもあり、同時に、形而上学的なものであった。

「形無きを斬る、これ虚薙……」

 嘉島八相が伝える秘奥の一つ、秘技・虚薙。
 怪力乱神、語られぬものを切り裂き、滅するという超常的な剣技の到達点の一つ。
この世の法則、この世のルールの及ばないものをこの世のルールで斬り捨てるという矛盾の一刀。

「ぬ……?」

 しかし、振りぬいた剣豪---一目連は奇妙な感覚を覚えた。
手ごたえがない。この世のルールの及ばないものを斬った時に感じる感覚がないのだ。
同時に、振りぬいた刀に違和感を覚え、視線を送ってみれば。

「……耐え切れなんだか」

 刀が、形を失っている。脆い刀を使ったわけではなく、十分に扱える一振りを用いたはずである。
 だが、それが耐え切れなかった。つまり、かかる負荷が耐久力を超えていたということか。
 これらを勘案すると、自分が意図したことは---

「ぬ、結構痛かったぞ……一目連殿?」
「やはり殺せぬか」

 斬られた当人---リーゼロッテ・ヴェルクマイスターが立ち上がっていた。
 身体は休息に再生し、衣服も元通りとなる。
 ただ、流れた血だけはそのままであって、傍目にはドレス姿の幼女が血だまりの中で諦観の表情を浮かべているという結果になる。

「ともあれ、考察と参りますかな」

 いつもの通り血振りをしようとして、刀が形状崩壊していることを一目連は思い出す。
やはりというか、彼女を殺しきるには今少し力が足りなかった、というべきか。
役目を果たしきれなかった刀だったものを片手に、手持ち無沙汰になったまま、一目連は吐息を漏らした。

862 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2025/02/10(月) 23:00:04 ID:softbank126116178004.bbtec.net [77/109]

「なるほど。つまり、再生能力や耐久力といった不死性をもたらす『虚無の魔石』を砕くには武器の力が足りなかったわけか」

 カメラで撮影していた動画を見ながら、リーゼロッテと一目連は分析と考察を行っていた。
確かに一目連の一刀は彼女の体に埋まっている『虚無の魔石』を捉え、その力を断ち切ろうとした。
一目連も知識としては知っていたし、事前にリーゼロッテから明かされていたわけで、そこを正確に捉え、振った。
 だが、相手の『虚無の魔石』が抱える魔力や耐久力と、一目連の一撃のせめぎ合いに、刀が耐え切れなかったのではと考えられたのだ。

「恐らくは……手ごたえがなかったのもそれが原因かと」
「とはいえ、結構な年月を経た業物だったのだろう?それでだめというのは中々に条件が厳しいな」
「はい」

 一目連が持ち込んでいた刀は、リーゼロッテが言うように業物だった。
 C.E.に入るよりもさらに昔に鍛え抜かれ、幾多の戦いを経て業も誉れも纏ったそれは、なかなかにいいお値段のする一品。
にも拘らず、それは刃がこぼれるとかそういうレベルではなく、形状崩壊して失われてしまった。
残っているのは柄の中に残っていた茎のみであって、もはや往時の価値もなければ、武器として使うことも難しい状態である。

「はい、と簡単に言うが……痛いのではないか?」

 淡々と事実を認める一目連に、リーゼロッテは呆れるしかない。
 魔術師であるから、蒐集癖があり、物の価値を理解できるから、そんな気にしていない一目連が少し信じがたいものであった。

「まだまだ蔵にはごろごろ転がっておりますので」
「……世の好事家や剣豪などが聞いたら血涙を流すな」

 あるところにはあるものだな、ともリーゼロッテは漏らす。
 そういうものとは理解してはいるのだが、そういった求める者たちのことを考えると、ぽいぽい使い捨てにするのはもったいなく感じる。
 脱線しかけたのを感じ、一目連は仕切り直しをする。

「まあ、使い倒されてこその刀ですからな。
 それに、もうひとつ『虚無の魔石』が齎すのは不死性であって、不死そのものではないということもあるかと」
「……それは確かにそうだが」

 一目連の言にリーゼロッテは『虚無の魔石』の宿る腹をそっと撫でた。
 『虚無の魔石』の本質は膨大な魔力にある。それがリーゼロッテの体を生かし続けているだけであって、不死という概念そのものではないのだ。
過去に死を求めて不死を殺す武器を使った自殺を試みたこともあるリーゼロッテには、薄々予感はしていたことであった。
 とはいえ、『虚無の魔石』そのものやリーゼロッテに魔力を流すラインを斬ろうとする試みは無駄ではない、というのが分かっただけ収穫と言えるだろう。
一目連のレベルの剣豪に、『虚無の魔石』を斬るという大業に耐えられる刀を用意するという、途方もない労力が必須であるが。

「やはり、私を殺しきるにはアイオンの眼が一番かもしれんな」
「劫の眼……しかし、それでは共倒れになるはずでは?」
「ああ。あの眼はそういう代物だからな。
 だが、分かっていても何度となく後悔した。ヴェラードが言っていたように、私を殺せたのはヴェラードだった。
 もはや、互いに簡単には死ねない化け物(フリークス)になっているのだから、救われない」

863 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2025/02/10(月) 23:01:05 ID:softbank126116178004.bbtec.net [78/109]

 ヴェラード---ヴラド3世。彼はオスマントルコの侵攻に対し、その眼による千里眼や未来視を活用して抗った。
それに加えて、苛烈なまでの焦土戦術とゲリラ戦、さらには串刺し公の名の通り、敵兵を串刺しにして晒すという心理攻撃をした。
それでもなお、蒐集した聖遺物により奇跡による化け物と化していたメフメト2世は倒しがたく、結果は現代に残っている通りだ。
 それから長い時間を経て、化け物同士となってしまった二人は再会しており、現在の関係に落ち着いてはいる。
落ち着いてはいるが、かといって納得しきっているわけでもないのが事実だ。

「ともに死ねたなら、愛する人に愛によって殺されたなら、どれほど甘美であっただろうな」
「……」

 一目連は沈黙を返した。
 物語として、リーゼロッテとヴェラードの物語は知っている。11eyesという作品の前日譚にして根底となる出来事。
リーゼロッテと、リーゼロッテを殺しうる魔眼を持っていたヴェラードは同志であり、同時に愛し合う仲であった。
一行知識(トリビア)的に理解していても、その詳細を聞かされてもなお、余人が首を徒に突っ込めるものではない。
まして、原作において、ヴェラードと対話した主人公によって殺されるという救いを得た彼女と比較するのは酷すぎる。

「今回の試みは、そういったものから?」
「いや、単なる---そう、ヒマつぶしだな」

 自殺の探求が暇つぶしとは、と今度は呆れるしかない。

(いや……違うか)

 不死や長命の者の宿痾---それは暇。
何をしなくとも、飯も食わず、水も飲まず、寝ずとも、怪我を負うとも、死ぬことはなく生き続ける。
何もしないというのは楽に見えるが、途方もない苦痛でもある。刺激に耐性ができてしまい、何時までも「無」が続く。
その結果として精神は?心は?魂は?やがては暇に蝕まれ、腐り果てるのだ。肉体よりもそういったものは脆い。
その宿痾を克服したものは多くはない。そも、嘉島八相が不死を殺す技術を生み出して伝えるのも「介錯」という面が大きいくらいだ。
 その多くはない宿痾の克服者の一人が、暇つぶしの探求でこういったことを考えてもおかしくはないだろう。

「ともあれ、誰かがいずれ私を倒し、踏破して乗り越えていく可能性があるのはわかった。
 早々に倒されるのも詰まらんからな、私は研鑽を続けるさ」
「……ふふ、ご随意に」
「すまなかったな、こんなことに付き合わせてしまって」
「いえ、こちらも学ぶところが大きいものでした。生きることなど、所詮は死ぬまでの暇つぶしですから」
「いいことを言う」

 互いに、壮絶に笑い合う。
 ある意味で、一目連も転生の宿痾に囚われている者。永劫の刹那を繰り返す身の上だ。
 そうであるがゆえに、こういった楽しみはいくらあっても足りない。
 双方が得るものを得て、今回の実験は終わりを告げたのであった。

864 自分:弥次郎[sage] 投稿日:2025/02/10(月) 23:02:01 ID:softbank126116178004.bbtec.net [79/109]

以上、wiki転載はご自由に。

オカルトのSSも書いてみました。

読む人を選びすぎる…
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最終更新:2025年04月28日 15:52