907:ひゅうが:2025/03/17(月) 02:55:40 HOST:FL1-27-127-13-252.okn.mesh.ad.jp
   鉄槌世界戦後史ネタ



―――倉崎/イズマイロフ 69式戦略輸送機「暴風」(ソ連名:Iz-52「ブリヤ」)


全長:90.5メートル
全幅:97.0メートル
全高:28.6メートル(カーゴフェアリング含む)
主機:主機:石川島播磨/クズネツォフ「海王星」Nk-84 高バイパス比ターボファンエンジン
推力:55.2トン×4
カーゴフェアリング直径:10.0メートル
カーゴフェアリング内径:8.3メートル
空虚重量:350トン(カーゴフェアリング装着時) 300トン(吊り下げ時)
最大貨物搭載量:160トン(カーゴフェアリング内) 400トン(吊り下げ時)
最大離陸重量:650トン(カーゴフェアリング使用時) 800トン(吊り下げ時)
最大速度:マッハ0.9
巡航速度:マッハ0.77(マッハ0.64)
航続距離:空荷1万5000キロメートル 160トン搭載時7000キロメートル 400トン搭載時4800キロメートル

製造機数:38機(日ソ合計)


【概略】―――ソ連および日本が開発した超大型輸送機
ソ連の有人月面着陸計画およびその後継の有人月面基地建設計画で使用された「G-1e エネルギアロケット」輸送用に開発された
計画終了後も軍用、あるいは大規模輸送用として用いられたのは同時期に就役した地面効果翼機「飛翔」同様である
2025年現在も生産が継続されており、日本と北ユーラシアや主権国家連邦圏以外では主として英連邦圏やアジア諸国の大規模物流を担っている


【前史 有人月面着陸計画】――1950年代中盤、人類史上初の有人宇宙飛行を成功させたソ連は有人月面着陸計画ソユーズ・ルナ計画を発表
これは国際地球観測年とされた1957年にあわせて発表された太陽系探査計画「メーチタ(夢)プラン」の派生型としてのものだった
目標は、1970年代中盤までに有人月面着陸および地球軌道上の宇宙ステーションの建設開始
80年代には恒久月面基地を稼働させるという比較的無理のないスケジュールだった
世界各国にも参加が呼びかけられ、真っ先に日本国が手を上げ、ついで大英帝国とドイツ民主共和国をはじめとする欧州圏がこれに続いた
こうした流れを受けて、国際協調のために計画は国際連合も調整役として参加することが決定
冷戦が激化する中でも宇宙だけは別という人類の理想が掲げられた「宇宙開発時代」が到来する
なおアイゼンハワー政権下のアメリカもフロンティアスピリットを刺激されて参加を表明したが、残念ながら1960年のニクソン政権誕生により主導権を巡った交渉が破談となり、彼らは独自の宇宙開発を展開しつつインドシナ戦争の泥沼にのめり込んでいくことになるのだがそれは別の話である

先行する日ソ間でまず進めることとなった計画では、「月専門のロケットを作るのではなく、長く宇宙に向けて使える『トラック』が必要」というフルシチョフ書記長や日本側宇宙開発陣の強硬な主張から当初計画されていた月へ直接到達する「直接着陸案」が否決
さらに軌道上に一気に宇宙船を打ち上げる新たに設置されたソ連宇宙庁長官フォン・ブラウン博士(ドイツ出身で、ものにはならなかったものの大戦中にアメリカ攻撃用の弾道弾を開発していた鬼才。どちらかといえばプロジェクトリーダーの向きが強い)の「ノヴァ・ロケット案」も否決された
かわりに容れられたのが、それ自体が衛星打ち上げロケットにもなる液体燃料ロケットブースターあるいは強力な固体燃料ロケットブースターを装着し、将来的には回収再利用を目指す
そして中央部にこちらも回収再利用を目指す大型ロケットを設け、その上段あるいは機体側面にコンテナなどを装着する汎用ロケット案だった

908:ひゅうが:2025/03/17(月) 02:56:52 HOST:FL1-27-127-13-252.okn.mesh.ad.jp

復興しつつある東京でソ連代表団に対してこれを提唱した糸川英夫博士や大田誠一博士、そして野上武雄博士らの案は壮大なものであった
地球低軌道に基本型で100トン(高度200キロメートルに88トン)、増強型で200トン(高度200キロメートルに175トン)を打ち上げるほか、経済的に使用可能なよう中央エンジン数を4基から1基に減らした中間型も開発し、いずれも有翼化して着陸させるか将来的な逆噴射による垂直着陸を目指すというものだったのである

これには、当初大型ロケット「ノヴァ」により一気に月を目指そうとしていたフォン・ブラウンやセルゲイ・コロリョフらも面食らった
130トンを目標に考えられていた彼らのN‐1計画よりも、それはよほど狂っていたからだ

計画では、建設予定のトラック宇宙基地から3回に分けて地球低軌道に最低でも300トン、できれば500トン以上の貨物を運び上げ、自動ドッキングにより月面ゆきの宇宙船を建造
月軌道に最低150トン、最大で300トンの宇宙船を兼ねた短期滞在施設を軌道投入しようというものである
(※史実のアポロ計画における月軌道投入重量は41トンあまり、初期の宇宙ステーションスカイラブは78トンあまりであった。ミール宇宙ステーションは124トン、国際宇宙ステーションISSは344トンである)
こうして最初に月の軌道上に宇宙ステーションを作ってしまえば、あとはここを基地としつつ空気や水、食料などを無人輸送ロケットで定期的に送りつつ、月面各所に降り立つこともできる
さらには、月面上での探査中に事故の発生した際に救助船を派遣する、あるいは月への飛行中に何らかの事故が発生した際の避難所ともなり得るのである
「本来は1万トンくらいの打ち上げ能力があればもっと楽にできるんですが、そんなことができるのは南太平洋から南米方向に熱核パルスロケットを使うくらいしか方法がありませんからね…」
と肩をすくめた最若手の野上博士(日本本土決戦で辛くも生き残った元戦闘機乗りでもあった。1926年生まれ)の言葉に、ソ連側の科学者一同は絶句したあとで――まずフォン・ブラウン博士が顔を紅潮させて拍手を始めドイツ語で何かまくしたて、ついでセルゲイ・コロリョフ博士やヴァレンティン・グルシュコ博士らが続いた
「なにしろ、増強型はどんなに安く見積もっても1回の打ち上げには当初500億円以上(現代でいえば1500億円以上)かかりますから、長く使ってコストを回収しましょう
量産効果さえあれば、20年でもとがとれます。いちいち新型ロケットを開発していては、資本家の悪徳の餌食になりますから」
これには一同、爆笑だったという
一同はこの案を全会一致で採択。協力を誓い合った
世にいう、「東京の誓い」である

909:ひゅうが:2025/03/17(月) 02:57:25 HOST:FL1-27-127-13-252.okn.mesh.ad.jp

この提案を見たフルシチョフならびに日本政府は即刻これを採用
かくして「ソユーズ・ルナ計画」が始動する(この月軌道ステーション軌道投入計画はL1 有人月面着陸計画はL2 以後の継続的な月面探査計画はL3と命名された)

と、ここまでが長かったが前置きである
打ち上げ基地は、カザフスタンのチュラタム発射場(のちのバイコヌール宇宙基地)に加えて新たに建設されるトラック宇宙基地(のちのトラック宇宙港)とされたが、ここで問題が発生した
海面あるいは離水に必要な1万メートル以上の安定した大きな湖面があれば、開発中である超々大型地面効果翼機「飛翔」を用いれば片道1万キロメートルを2500トンもの貨物を搭載して運搬ができる
貨物室自体の長さも150メートル以上あることから一気に構想されているロケット本体を複数本輸送すら可能だ(何しろロケット本体の重量の9割が燃料なのだから空荷ならそれだけ軽くなる)
だが、ここで問題になったのが「安定した湖面までどうやってロケットを移動させるのか」という問題だったのだ
想定されたのは、黒海やカスピ海、あるいはアラル海である
だが、そこまで巨大なロケット本体を丸ごと輸送することなど、できるはずもない
工場は機密保持に加えて既存の都市圏内に建設されており、他分野の製造も行いコストを下げることが考えられていた
何もない僻地で一貫した建造を行うことほど、非経済的なことはない(後年のシベリア開発でこれが問題となった)
そして、都市圏の近くでは「飛翔」が離着水できる安全な水面はあるにはあるが、いちいち港湾を丸ごと空にして離発着するなど無駄の極みである
そして、工場はレニングラードなどではなく、モスクワ周辺などである(当然だ。港湾都市には港湾都市の産業がある)
ならば部品に分けて陸送――となるのだが、北方のロシアにおける鉄道輸送は揺れが激しく、さらに安全のためには何日間もコンテナ内で過ごすことになる
冷暖房で安定させることも考えられたが、これだけの巨大ロケットである
どうしても、鉄道輸送などできず、細かい部品に分ければ列車輸送期間も、また昼夜の寒暖差も大きくなりすぎる
試算では、輸送に10日、そして港湾自体に巨大な組み立てラインの設置が必要となるという輸送上の悪夢のような状況であった

ならば答えはひとつ。「空輸するしかない」

それも、地面効果翼機の縮小版を作って安全な飛行高度を下げるリスクをとるのではなく、本物の大型輸送機が必要なのだ
少なくとも、当時のソ連首脳陣はそう判断した

かくして誕生したのが本機である

910:ひゅうが:2025/03/17(月) 02:57:56 HOST:FL1-27-127-13-252.okn.mesh.ad.jp


【機体概略】――機体としては、他の軍用輸送機とは異なる独特の形態をしている
すなわち、魚のシシャモのように、細い背骨たる主胴体と、その下に卵を大量にたくわえてでっぷり太った腹のような「カーゴフェアリング」とで構成されている
この主胴体とカーゴフェアリングは取り外し可能で、カーゴフェアリング下部(斜め左右に向けて引き込み車輪が存在する)に引き込み式の通常の脚部が収納されていることから、「主胴体から切り離して牽引車に引かれて自走可能」である
残る主胴体の直径は平均約5メートル程度なので、ちょうどシシャモの背中か、日本から貸与されのちに図面売却によりライセンス生産された「富嶽」およびTu-95「富嶽改」6発超重爆撃機との競作に敗れたミヤシチョフM-4試作戦略爆撃機と似た直径と構造をとっている
これはイズマイロフ設計局がミヤシチョフ設計局の指導をあおいだ直系にあたるからであろう
海外の輸送機では、アメリカのフェアチャイルドXC-120のように、主胴体の下部に切り離し可能で車輪のついたコンテナを有する輸送機が形状としてはよく似ているといえよう
あえて形容するなら、極めて細い胴体を有するミヤシチョフM4試作戦略爆撃機の下部と、切り離し可能ででっぷり太ったシシャモの腹のごとく整形されたカーゴフェアリングとその内部の貨物室で構成された下部胴体で構成された輸送機といえよう

このため、カーゴフェアリングの車輪以外の主胴体用車輪は、主翼下部から吊り下げた整形コンテナ内に収納された長大な主脚を有しており、主胴体前部がカーゴコンテナからちょうど「せり下がる」ように下に伸びて前脚と前輪を有している後方左右を支えている
だがそれでも左右から吊り下げた主脚の長さは6メートルにも達している

このほかはオーソドックスな機体構成であるが、カーゴフェアリングを取り除いた後でも主胴体から貨物を吊るすことができ、この場合は巡航速度がマッハ0.7から0.64に低下するものの最大400トン(カーゴフェアリング内なら170トン)の輸送が可能となっている
ただし後述するカーゴフェアリングの利点からすると、宇宙開発関連での使用が主体であったようである


【カーゴフェアリング】――本機の最大の特徴たる、主胴体から吊り下げて気流を整流しつつ内部直系8.3メートルに達する巨大な貨物室を有する「カーゴフェアリング」は、内部に最大170トンまでの貨物を搭載できる
すなわち、主力戦車2両に加えて装甲兵員輸送車2両と関連弾薬などである
また、宇宙開発関連においては、エネルギアことG-1eロケットの主胴体、ならびにブースターであるSRB-1A液体燃料ブースター2本、あるいはSRB-2固体燃料ブースター1発を搭載可能である
このような構成がとられたのは、開発中であったエネルギアロケットに搭載予定の有翼宇宙往還機(SSTOあるいはスペースシャトル)を搭載する場合は輸送機の「背中」に取り付けて輸送するわけであるのだがこれを積み下ろしする場合はどうしても「空港に巨大かつ大重量を上げ降ろすクレーン設備が必要になる」ためであった
全高18メートルに達するSSTO「ブラン」を積み下ろしするため「だけ」の起重機をバイコヌールとモスクワ、そしてトラック環礁に据え付けろ?
なるほど確かにそれだけならいいだろう
だが、本計画は国際計画だ
「そのためだけのクレーンを他国に設けろというなど、ソ連の思いあがりも甚だしいではないか!」
機体として開発が進行していたのちのAn-225「ムリーヤ」は、国産エンジンに拘り、さらに燃費のいい3軸大型ターボファン6発機という整備負荷のかかる(余談ながら「富嶽改」のような素性のいいエンジンをもってしてもソ連空軍は整備の手間に若干苦労していた)機体の開発は、特にエンジンにおいて難航していたのだった

この状況を聞いたフルシチョフは言う
「あるじゃないか。デカいエンジンは。それも日ソ共同開発のものが」
超々大型地面効果翼機「飛翔」用、あるいは超音速旅客機用ターボジェットエンジン改造の亜音速用高バイパス比ターボファンエンジンが

911:ひゅうが:2025/03/17(月) 02:58:27 HOST:FL1-27-127-13-252.okn.mesh.ad.jp

かくして、今はなきミヤシチョフ設計局から独立したイズマイロフ設計局に白羽の矢が立つ
かつてのミヤシチョフ設計局のナンバー2だったイズマイロフは、自らの技量の質を過たずに、こういう場合における最適解を選ぶことに成功していた
日本の倉崎重蔵
第2次世界大戦中に、西側におけるボイド理論を生み出し、中島飛行機において超重爆撃機「富嶽」の設計にも辣腕を振るった鬼才中の鬼才
彼は、迷うことなく来日した後で、独立したばかりの倉崎技師に共同設計を持ち掛け、そして成功した
「双尾翼機は、背中にものを載せるような機体のみに許されたもので、操縦性能に多大な悪化をもたらす。たとえ上に貨物を載せていないときの運動性がよくとも、それは幻想だ」
倉崎は、きっぱりと設計される機体の水平尾翼の両端に巣直尾翼をつける、97式陸上攻撃機のごとき構成を否定した
「背中にものを載せるのは、お国(ソ連)の機体に任せればよろしい。我々がやるべきなのは、『胴体下部に荷物を吊り下げる』ことだ!」
主脚が長くなりすぎます!という悲鳴に平然と倉崎は言い返す
「なら、主翼からポッド式に主脚をおろす部位を『吊り下げる』のだ。忘れたのかね?『富嶽』はあれは米軍のB-47やB-52ほど露骨じゃないが、エンジンを吊り下げて構造を安定させているのだぞ」
そういわれてみれば、エンジン吊り下げなら1本で済むブームを2本にすればいける気がする
かくして、下部にもう一つの胴体を作るような基本構造は承認された
「ふふふ。この貨物室つき胴体を牽引可能にすれば、開発中の地面効果翼機に内部の貨物やコンテナをそのまま積み込みことさえできるぞ」
そういえば、倉崎はこいつの日本側開発責任者でもあった
あっけにとられるイズマイロフに、邪悪な笑みを浮かべて倉崎はいった
「搭載量ざっと150トン。君らのT-13が無理をすれば4両は載るぞ。エンジン?我々があの地面効果翼機用に開発してるやつを転用すればいいじゃないか。無理して6発も8発も積む必要などない。エンジンのファン直径がデカすぎる?アホか。下部のカーゴフェアリング装着後に主翼の高さが何メートルになると思ってるんだ?」
かくて――ことは決した

【主エンジン】――エンジンは、2軸式でのちの超々大艇「飛翔」用とされた高バイパス比ターボファンエンジンが主翼から吊り下げ式に搭載されている
ただし、高高度を飛行する必要があることから性能は弱冠デチューンされており、最大推力も2トンほど低下している
空気の薄い高高度を飛行するための措置である
しかし、これによって、計画されていた時のAn-225と同様のエンジン8発という悪夢のような設計は避けられた
そのかわりに巨大な超音速旅客機用ターボジェットエンジン用より発展した超大型エンジンは、図面のみをみると機体全体が当時の4発ジェット旅客機の標準に見えるくらいに巨大であった

912:ひゅうが:2025/03/17(月) 02:58:58 HOST:FL1-27-127-13-252.okn.mesh.ad.jp

【搭載量】――倉崎が見込んだ通り、この絶大すぎる搭載量にはソ連軍ならびに日本軍が大いに注目した
160トン、すなわち、当時ソ連軍ならびに日本軍が採用しようとしていた重戦車すら2両から無理をすれば3両搭載可能な余裕を持ったサイズというのは大いに歓迎されたのである
さらには、下部のカーゴフェアリング内に収納可能な最大直径は実に8.3メートル
An-225は背部に225トンの搭載が可能であったが、それを許すならこちらは全高こそ許されぬものの400トンは搭載可能
開発が長期化していたAn-225よりも明らかな重量物が搭載可能である
さらに、モスクワやチュラタム発射場ならびにトラック宇宙基地にしか装備されていない大型起重機を用いてのみその性能を発揮できる(胴体内部には8 0トン程度しか搭載できないし、それ以上搭載すると極端に航続距離が低下する)An-225に対して本機は平気で数千キロを飛ぶことができた
このことが、生産機数の帰趨を決めることになる
結果的に、ソ連、主権国家連邦の超大型かつ10メートルを超えるような大型物というニッチ市場を相手としたAn-225は、宇宙ファンに大いに親しまれたわりには生産機数が伸びずわずか11機の生産で終わったのに対し、本機はAn-225原型機であるAn-124ルスラーンに迫る38機を冷戦終結までに発注されることになったのであった


【その後】――2025年現在、本機の改良型Iz-87こと24式戦略輸送機の生産が計画されている
計画では現在までの生産数の2倍近い60機が生産され、同じく15機あまりを生産してトラック宇宙港へのリフティングボディSSTO輸送を担うAn-425(An-225改とも)と同様の任務を果たすものと思われている

913:ひゅうが:2025/03/17(月) 02:59:30 HOST:FL1-27-127-13-252.okn.mesh.ad.jp
以上になります。楽しんでいただけたら幸いです…

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最終更新:2025年06月11日 21:23