972:ひゅうが:2025/03/24(月) 01:01:49 HOST:flh2-133-204-83-129.osk.mesh.ad.jp
鉄槌世界戦後史ネターーー「復興への助走 あるいは都市計画家たちの夢想」
――帝都復興計画(案)
- 都長官(官選)のもと、帝都東京の土地を一度全て都と国が買い上げ、全体的な再配置を実施する
- 東京の中央人口目標を500万人程度に限定、基本的に文教都市とする
- 工業設備は東京から40キロ圏内の衛星都市群へ移転し分散、中間を農業地域あるいは緑地とする
- 既存の上野公園・新宿御苑・靖国神社などを大文化公園(仮称)として残置、1万坪以下のものを小文化公園(仮称)として適宜再配置する
- 大規模文教地区として本郷、神田、早稲田、三田、大岡山の5地域を指定し都市計画上建設できる設備群を指定
- 小石川、赤羽、国立、大泉、八王子、千葉、浦和、日吉も同様に文教地区に指定する
- 道路網は、皇居(旧江戸城)を中心として40キロ圏(概ね皇居―追浜・入間・上尾・桶川・佐倉・市川の範囲)へ向かって放射状にのびる「放射道路」合計19本、同15キロ圏内(概ね皇居―多摩川の距離)を同心円状に結ぶ「環状道路」8本を設置、別に定める広域道路をその外側に設置する
- 上記の環状・放射道路の幅員は、車道1車線は3.5メートルを基準として設計し、最低幅員を道路25メートル(片側3車線)+後述する緑地帯25メートルのごとく、半分以上を緑地帯兼遊歩道とする
- 最大幅員は150メートル(中央に高速・公共・緊急車道を設置)とし、これについで100メートル、50メートルを環状・放射道路の基本幅員として指定する
- 舗装については、コンクリート基礎上部にアスファルトを敷設したコンポジット舗装を基準とし、耐久重量は通常60トン、一時通過のみ100トン程度を見込むものとする
- 路面電車は適宜地下鉄道へ移設するものとするが、適当と思われるものは交通に悪影響を及ぼさない範囲において残置し、公共交通とする
- 鉄道網については、電化ならびに立体化するものとし、山手線に加えて新たに貨物線を兼ねた環状線(仮称:武蔵野線)を設置するものの、関東平野の地勢に配慮し防風林や風よけなどの設置を行い安定運行に配慮する
- 戦災によって生じた瓦礫類の運河網・河川への投棄埋め立ては基本的に厳禁とし、東京湾上の埋め立て工事に使用するものとする
- 並行して計画されている全国新幹線・高速道路網計画にも配慮し、用地を残置しておくものとする
- 予算予定総額は20年計画で3700億円(この世界での金額、現代換算で133兆2000億円。立ち上げ当初を除き、現代で毎年4兆円台を注ぎ込んでいると考えてほしい)
大日本帝国(当時)が戦後の復興計画を立ち上げたのは意外にも戦中の1944年だった
九州戦線は崩壊の危機に瀕しており、帝都決戦を辞さずとの方針を全世界に宣言した10月8日だ
無差別爆撃を警戒して霞が関の官庁街も疎開を開始し始めており、2.26事件の痛手をようやく脱しつつあった民間人も含めて人々が防空法および緊急勅令に基づき強制疎開を開始し始めていたのだった
そんな中、企画院(資源調達や物資統制、戦時関連の諸政策を立案する強力な権限を持った機関)の音頭とりにより内務省、拓務省、商工省、運輸通信省、それに最高戦争指導委員会から陸海軍の若手将校が参集して「戦後の復興計画」が議論され始めたのである
来るべき関東決戦に敗北し、帝都決戦すら敗北に終わった後の日本はもはや米国の一自治州に終わればいい方だというのにという声は、「だからこそ今議論しなければ泥縄式に
アジア的混沌が支配する都市が生まれてしまう」との杉山元(すぎやまはじめ)首相の鶴の一声で抑え込まれた
結果、満洲帝国において新首都として新京を建設した経験を持つ南満州鉄道の調査部をはじめ多くの人々が参集
11月には基本構想のさらに素案としての合意が得られていた
973:ひゅうが:2025/03/24(月) 01:02:25 HOST:flh2-133-204-83-129.osk.mesh.ad.jp
それは以下の三通りだった
1.関東決戦に敗北した際に米国の属国として非武装国家となった日本――これは基本的に農業国かつドル資本による直接支配を受ける都市としての東京やそこから分散されたプランテーション群の中核としての地方都市という案で構成されていた
2.関東決戦が痛み分けに終わり、分断国家として米ソあるいは米中間の傀儡国家として分断され重武装国家となった日本――こちらは重工業最優先というスターリン路線をいずれもとるだろうから軍の移動を円滑ならしめるための道路網を最優先として、主たる問題は全国から帝都東京に殺到するであろう人口にどれだけ円滑に大量の住宅を供給するかという案で構成されていた。この場合、地方都市は基本的に地方自治の名のもと放置される
3.関東決戦に勝利し、大日本帝国が存続、九州戦線においても敗北せずに目標とする九州の3分の2程度を残した上での停戦講和が成立、将来的な帝国への九州返還が期待できるという現時点での「最良」の結末を迎えた日本――こちらも重工業を優先することは変わらないものの、米国と組むことはありえず共産革命による皇室の滅亡や日本人と名のついた別民族への変質防止を最優先の目的としつつソ連と組まざるを得ない(ドイツだけはあり得ないし中国もあと30年は期待できぬ)
これら3案が疎開先である札幌において各分野の専門家を交えて議論されていたのだが、都市計画家たちの間では3についてが最も活発な議論が交わされていた
そちらが最も多くの活躍の場を与えられるのだから当然といえば当然だが、現代からみれば夢想的といわれてもまた仕方がないといえるかもしれない
まず、陸海軍から上がってきた「道路を滑走路としても使えるようにまっすぐ作ってほしい」という案は、前線からの意見により真っ先に退けられた
のちに代議士へ転進するジェット戦闘機「轟電」の運用と操縦経験を有する田中角栄海軍中佐(当時)はこう言ったのだ
「まずジェット戦闘機というものは、滑走路になるべくゴミが落ちていないことが必要ですし、従来のレシプロ戦闘機なみの100や200メートルの滑走距離ではまず間違いなく発着できません。少なくとも数十年程度は
空母みたいにカタパルトを仕込んでおくのも考えられますが、一定距離ごとにボイラーとカタパルトを置くのはいかにも非効率です」
非効率、という言葉に提案してきた陸海軍将校たちも苦い顔になった
本土決戦下の日本の標語は「非効率は敵だ!」だったからだった
それに、前線で赫赫たる戦果を挙げているこの若者の言葉を否定できる実績もちはここには誰もいなかったからだ
「同時に、これからのジェット機はどんどん大型化していくことが予想できます
まぁ速度を出すためにはエンジンもそれを動かす燃料も大量に必要になるからですが、仮に費用と手間の削減のためにアスファルト舗装をするとして、40トン程度ならまだしも、100トンだの200トンだのの重量を持った機体が何度も離発着できるだけの平地と舗装の強度、確保できます?」
ここは珍しく田中の言葉が外れた部分だったが、大意は伝わった
当時の日本の道路は基本的に未舗装で国道ですら雨が降れば悲惨な状態になっていた
舗装されている部分はコンクリートが主体で、工費がかかるためにやや敬遠されている
それでなくともこの計画は全国の道路網も作り直すたたき台になるのだ。帝都のみ栄えてそれ以外が今までのままでは早晩立ち行かなくなる
ゆえに素直に都市計画家たちは助言に従った
「まぁ、この間ドイツで初飛行したというヘリコプタ――ああオートジャイロの親戚みたいなものです――は原理的に、『絶対に』毎時500キロの大台を超えられませんが、離着陸には20メートル四方くらいあればいいらしいですが、これはどう頑張っても30年以上は先の風景ですね。その頃には戦闘機も音速を軽く超えているでしょうからあまり考えずともいいでしょうが」
などと述べて前線へとんぼ返りした田中大佐は完璧な標準語を喋っていたのが後年の彼らの印象として残っているという
974:ひゅうが:2025/03/24(月) 01:02:57 HOST:flh2-133-204-83-129.osk.mesh.ad.jp
ともあれ、軍は直線を増やせという要望は撤回し、なるべく重量物が通れて直線的な道路があればいい、というだけで済ませることとなった
以外にもこれは内務省警保局が賛意を示した
護民官を自称する彼らは、フランス革命が成功してパリ・コミューン蜂起が失敗したのはその間にナポレオン3世のパリ大改造による道路網の幅にその原因があったことをよく心得ていた
それでなくとも開戦前のハル・ノート受諾に伴う民衆暴動鎮圧の際、警察(帝国陸海軍が文民に銃を向けてはいけないという2.26事件の反省から鎮圧は警察力のみにて実行された)はさんざんこの国の狭い路地に苦労させられていた
そこで、都市計画プランナーで満洲国にて首都新京建設をプランニングした武居高四郎(京都帝国大学教授)や同じく満州国で公園計画の神様と呼ばれた折下吉延(東京帝国大学農学部講師兼満州国国務院嘱託)らは思い切った方針を打ち出した
「遷都せず。これは変わらない。そこで宮城(皇居)に陛下がおわすのは変わらず、ここを中心とした都市設計もまた同様」
「左様。だが、今の帝都はあまりに過密で、このまま復興してはスラム街発生の可能性が高い」
ここで形式上トップをつとめていた石川栄耀(東京都都市計画部長兼東京帝国大学講師)が口をはさんだ
「では専門家に、この関東決戦勝利後の帝国の人口推移を聞いてみましょう。幸い、総力戦研究所も近くに疎開していますし、もはや暇をしておりますからいい知恵が借りられましょう」
結果は慄然たるものだった
「最低でも2度のベビーブームが発生、本土人口は1960年代までに1億を突破し、21世紀までに1億3000万近くまで増大するだと!?」
「しかし教育にかかるコストの増大から子育ての費用に耐えきれず、第3次ベビーブームが起きるかは微妙なところ、それが起きた場合は1億5000万程度で安定、か」
「この場合の帝都人口は2000万人以上、関東周辺ですら5000万人が集中するだと…」
「冗談じゃない!この予想では…東海道沿岸から関ケ原までか、下手をすれば大阪から福岡までが延々と続く都市に変わる。そんな都市をどうやって設計しろと言うのだ」
頭を抱える先輩たちに対して指導力を発揮したのは意外にも形だけの座長とされた石川栄耀だった
「ならば、発想を変えましょう。集中させないように最初からすべてをプランニングすればよろしい」
注目を集めた石川は、模造紙(縦1091ミリ横788ミリの白色紙 四六版とも)を広げて一息に日本列島の模式図と、関東周辺の拡大図を書き上げた
「これがわが本土です。まず、最良の想定でも九州の半分は当分の間返ってきませんから構想から除外します」
赤い色鉛筆で境界線が引かれる
「一方、この度の爆撃での帝都周辺の食糧事情の悪化具合を考えるに、現在の東京の人口370万人をなるべく維持すべきであろうと考えております。多くとも、かつての東京市部に500万人、これが関東周辺からの食料供給を前提としての帝都の人口の最大値でしょう」
関東地方に東京市、現在の35区部が略図として記される
「ですが、徳川家康公が江戸城を中心としてまるで巻貝の貝殻のように『外へ外へ成長し続ける都市構想をもって江戸を設計した』ということについてこの場で合意を得られていると思ってもよろしいですか?」
「それについては同意する」
「君のライフワークだったからね」
975:ひゅうが:2025/03/24(月) 01:03:27 HOST:flh2-133-204-83-129.osk.mesh.ad.jp
ならば、と石川は言った
「帝都は、住民の出入りが激しく、かつ政治の中枢であるような都市区分として設計すべきでしょう
すなわち、文教都市と政治中枢であって、経済と工業の中枢は分散させるのです」
「異論はあるが、概ね同意する。集中させた場合、地下工場化を前提としなければ爆撃により一挙に機能を喪失する」
「先の東南海地震での名古屋に残存した航空工場群の惨状をみれば、同意せざるを得ないな」
「ありがとうございます。ですが、ここで問題になるのが、『いかに東京とそれ以外を区切るか』でしょう。そこで陸軍の方々にお聞きしたい」
石川に唐突に話を振られたのは、手持無沙汰になりつつあった陸軍の将校だった
「なんだろうか?」
「昭和18年頃に構想された防空疎開帯の構築構想があったと思いますが、資料を出せますか?」
「それなら…うん、何かの参考になるかと持ってきたものがある」
「おおざっぱでいいのでここにその『防空帯』疎開計画図を描いてみてください」
「お安い御用だ。軍は参謀教育で地図作図も習うのだ」
都市計画家たちが思わず感嘆の声を上げるくらいに見事に将校は「防空帯」予定地を模造紙上の地図に描いてみせた
「ありがとうございます。この区域の建物を強制疎開させて帝都を空襲に強い都市に、という参謀本部の研究でしたね」
「うむ。それが某新聞にすっぱ抜かれて小磯内閣攻撃の材料にされたのだった。おかげで構想自体が立ち消えになった」
将校は苦い顔になった
「恥をしのんで言うが、この規模の大空襲の連続にはこの防空帯が完成していても役には立たなかっただろうな」
「だが、名分は立ちます。都市計画家にとっては幸い、いえ国民にとっては不幸なことにこの区域内はほぼ全焼状態です。ならば、作ってしまえばよいのです。この防火帯を」
「だが、役にはたたないはずでは――」
「そうか!そういうことか!」
折下が手を打った
「ここを物理的に公園化するのだな。それも、フランス式ではなく英国式の、いや、かつての武蔵野のごとく!」
公園の専門家である折下の理解は早かった
「その通りです。同時に工業地帯の形成をこの内部においては制限、特に大規模重工業などは厳禁ですな。これで労働者の集中をまず排除できます」
全員が頷いた
「そして、当然生じるであろう国民の不満は、『住居としての帝都』ではなく、『行って帰ることができる帝都』とすることで、関東各地に人口を分散させます
要は、成田山新勝寺や浅草寺のように、ですね」
「鉄道網か。しかしそれだけの人口を移動させられるものだろうか?」
「幸いにも、帝国政府は広軌(この場合、日本の狭軌1067ミリ軌道より大きなもの、特に標準軌1435ミリ)への改軌によって輸送力を大幅に増強させることを計画していると聞きますので、輸送力はおおむね単純計算で1.8倍、うまくすれば2倍程度に増強可能です。車両を2階建てにすればさらに倍に達するでしょう」
976:ひゅうが:2025/03/24(月) 01:04:06 HOST:flh2-133-204-83-129.osk.mesh.ad.jp
「新幹線計画か。あの頃は夢があったな」
運輸通信省(かつての鉄道省)からやってきた官吏が遠い目をする
東京駅から西へ向かい、対馬海峡を越えて満洲からアジア各地を経て欧州へ至る大東亜横断鉄道構想
そして日華事変で増大し続けた東海道本線の輸送力のひっ迫に対処するために構想されていた新たな幹線鉄道構想、これらが合体して一時期語られていたそれを「新幹線」という
「目標速度は当初毎時200キロ、これは300キロ以上にまで上げられるでしょうから、これで全国各都市を結んでしまえば、茅ケ崎から丸の内へ行くがごとき感覚で京都や大阪と帝都を連結できます
発想を変えようというのはこういうことです。いうなれば全国総合開発計画、これこそが企画院たる我々が考える都市計画といえましょう」
「ふむ。理屈は通っている。巨大な都市と本土そのものを見立てるのだな」
「だがどうする?その主要幹線から枝葉のように鉄道網を伸ばすまではいいが、それだけではあぶれる国民も出るぞ」
「ドイツで一時期話題になった国民車構想、あれを使いましょう。確かあれは、月賦式で中産所得者層すら自家用車を持てるようになるとのことでしたね。戦争で凍結されていますが」
「確かに米国のごとき国は、一般庶民どころか学生どもまでもがT型フォードを所有してスピード狂になっていたな」
繁栄と狂騒の20年代、
アメリカはそこまでの豊かさを手にしていた
「その頃に増えた運転免許保有者が今や帝国や独国を攻撃する航空操縦士に化けた。皮肉な話だが、それが、できるというのか?」
それまで黙っていた海軍将校が目を輝かせた
彼は、既に山本五十六海相の「海軍流の幕引き」について漏れ聞かされていた
日本が外洋艦隊を持つことは当分ない
航空機で構成されたいわば「海空軍」こそが当分の間海軍の役目となるのである
ならば、潜在的な搭乗員となり得る運転免許所有者の増大は海軍としても望ましいところだった
「そうです。新幹線―鉄道網―そして道路網という構成で都市を再構築、中規模都市間はドイツのアウトバーンのごとき高速道路網を整備いたしまして万全を期します
あとは、必要性こそが市場の母となり、乗り合いバスで運転のできぬ者も1日で帝都につくことが可能となりましょう
ただし――」
石川は周囲を見渡した
「これら社会資本(インフラストラクチャー)が将来的に必要な輸送力より不足していてはいけません。平時の余裕は、戦時には戦力となることを我々は今次大戦で思い知らされましたから」
「となれば、我々が考えている100メートル級道路が4本や5本程度では足りぬな
あれは緑地帯と遊歩道を兼ねているから」
「いっそ150メートルは必要では?中央には高速自動車線か新幹線、あるいは都市の郊外とを連結する鉄道網を作るべきだろう
200メートルは厳しいだろうな。人間が横断するまでの時間がかかりすぎて横断歩道が設置できなくなる」
「乗り合いバスも忘れてはならないだろう。いっそ、高速自動車線は自家用の国民車を進入禁止にしては?鉄道の『路線の閉塞』と同じ発想だ」
「待て待て。そうなると普通自動車はどうなる?」
「別に高速自動車道を作って連結しよう。こちらは輸送用トラックの進入を制限するか、いっそ金をとるのだ。とった金は新たな道路建設費用とすればよい」
おおなるほど、と各人が頷き合う
こうなると以前やりこめられて以来あまり意見を出さなかった軍人たちも肩の力を抜いて希望を出し始めた
「軍の移動も円滑にしていただきたいですな」
「そうそう。新型戦車の重量が『通れる道路がないから』という理由で制限されるというのはどうにも…それに貨物自動車だけでなく、工事用重機の類も移動させるには…」
「うちなんぞ、かつては工場から飛行機を牛が曳く貨車で運んでたのだぞ。恐るべき後進性だ」
977:ひゅうが:2025/03/24(月) 01:04:39 HOST:flh2-133-204-83-129.osk.mesh.ad.jp
「ならば、少なくとも帝都東京の道路構成は決まりますね」
石川がいった
「要は、ウィーンやパリと同じです。同心円状の環状道路と、中心たる『皇居』から各街道、主要幹線道路やその向こうの衛星都市群、『太平洋ベルト』などに伸びる放射道路です
ちょうど鉄道の車輪をイメージしていただければよろしい」
一気に石川は書き上げる
聞き役の都市計画家は、宮城(きゅうじょう)と言わずに皇居と述べたり、太平洋ベルトなる言葉を聞いて不思議そうにしていたが、やがて「ああ、彼の新たな造語か」と納得した
この男はときどきそういった不思議な言葉を使い始めることがあったからだった
「これまでの東海道や甲州街道などの主要街道は大拡張、新たにこれまでの3倍強、19本の放射道路を建設
3キロから4キロメートル間隔で環状道路を建設。これを帝都の主要幹線とします
関東平野全域でも、最低でも2本、理想を言えば3本程度の環状線が必要ですな
高速道路網と接続するにせよ、しないにせよ、あれば極めて便利ですから」
「鉄道は?」
「帝都東京周辺は山手線の拡大に加え、さらに外側に最低1本の環状線を、東京駅の再建後はここと奇跡的に無傷の上野を起点として郊外鉄道網を建設
もちろん中央本線や東北本線、上越線をはじめとするものの起点とします
これらの間にターミナル駅を建設し乗り換えの拠点としましょう
いずれ新幹線も拡大するでしょうから用地については基本的に今まで考えていた3倍規模で敷地を確保する必要があるかと」
ふむ…と全員が考え込む
「地方の各都市の意見も聞かねばならんな。帝都東京のごとき、いうなれば文教都市の指定はどこも欲しがるだろうし、工業地帯を欲しがるところもあるだろう」
「内務省さんは、生きている県庁や市の官吏たちと直ちに連絡をとってくれ。各都市の復興計画も詰めねばならない」
かくして、全ては動き出す
時に、西暦1944年12月24日、関東決戦が今まさに始まろうとする、北海道帝国大学構内の一室で、日本の「戦後」はゆっくりと始まろうとしていた――
978:ひゅうが:2025/03/24(月) 01:05:30 HOST:flh2-133-204-83-129.osk.mesh.ad.jp
【あとがき】――というわけで、1本では終わりませんでした
続きは、また後程書いて投下させていただきます
楽しんでいただければ幸いです
最終更新:2025年06月12日 21:07