903 :名無しさん:2012/03/30(金) 01:48:50

資料室


東京の一角、に其処はある。
書類上は民間企業が使っているとされているさびれた倉庫、だが其処は夢幻会にとって重要な施設である。
「お待ちしておりました」

夢幻会に所属する逆行者の井上は、来客に挨拶を済ませると提示された会員証を確認して来客を招き入れた。
「件の技術に関する資料はこれで全てです」
机の上に並べられた資料はさまざまで、中には和紙に墨で書かれたものさえもあった。

夢幻会は誕生から七十年以上もたっている逆行者たちによる組織だ。だが、逆行者の未来知識を生かしきれない時代もあった。たとえば精密機械に関する知識を持っていても幕末に来てしまえば生かせなし、生きている間に生かせるとしても記憶は除々におぼろげになっていく。

そのため井上は、夢幻会の援助を受け資料室を作った。逆行者たちから未来知識を集め保存し管理する。知識の収集に協力した逆行者には賃金などの対価を支払い。資料室を利用する逆行者には維持管理収集のための費用を負担させる。
また、多くの逆行者の力を借りて作った詳細な未来史など、外部に見られるわけにはいかない情報も多くその為、会員制とした。

904 :名無しさん:2012/03/30(金) 01:50:19


基本資料の貸し出しは禁止されているため、来客はノートにペンを走らせる。
「最近は来客も少なくなってしまってさびしい限りだよ。珈琲でもだすからゆっくりしていかないか?」
「いえ、書類の山が待っておりますので」

「そうか、それはすまなんだ」
井上は来客が帰った後、ふと考える。政府の中枢にいる仲間は連日睡眠時間を削っている事を考えれば自分は閑職で趣味や暇を楽しめる。

だが、それはこの資料室の存在が除々に必要とされなくなってきているという事だ。歴史にない大津波が起こり、技術革新が進み技術も現代に近づいていく。ここの資料たちもいずれは役割を終えるだろう。

「さてと、これから日本はどうなる事やら」
この場所も資料も役割を終えればその時は日本、夢幻会のアドバンテージは消滅する。
だが、井上はそれを不安に感じるとともに今は亡き逆行者たちの労力が報われている事に満足感を覚えるのだった。

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最終更新:2012年11月14日 20:35