945:戦車の人:2024/11/14(木) 13:26:17 HOST:61-24-203-31.rev.home.ne.jp
- 陣龍様「客人艦隊」三次創作-大陸化日本世界における令一島
令和X年。日本国が大陸化した混乱も概ね収まり、経済及び外交関係、そして安全保障の再編も完結。
幾度かの混乱や衝突を経験しつつも、日本国が概ね繁栄と平和を謳歌していた当時、第二の領土事件と呼ばれる事態が発生した。
首都圏で中規模の地震が生じたその日、南関東沖合にかなり巨大な島が突如として出現したのだ。
国土が弧状列島から大陸に変貌した混乱を、ようやく乗り越えてきた日本政府からすれば「Huh?」と威圧したくなる事件ではあった。
しかし日本の主権が及ぶ領海内の事件故に放置はできず、観測衛星や自衛隊無人機を用いた情報収集が開始された。
島の面積は概ね列島時代の四国を一回り小さくした程度。つまり「島」として見る分にはかなり広大な面積を有する。
植生は豊かであり無人機に備えられた環境センサにも、自然域を超える高濃度放射線や汚染の兆候は観測されなかった。
海洋状況などは自衛隊の観測艦、海上保安庁の測量船の調査が必要だが、電子光学センサを介する限り、かなり清浄と推測された。
首都圏直近の水域に現れた島嶼に、まずは人体に害を及ぼすような汚染兆候がないことは、政府を安堵させるものだった。
だが観測衛星や無人機による調査が進むにつれ、複数の放置できない重要案件が判明することになる。
まずこの島には海底油田や露天掘り鉱床と思しき、近代的な資源産出インフラが確認され、政財界を驚かせることになる。
政府としては最大限、この素性の分からない島への接近を禁じ、海保巡視船などによる封鎖線も構築している。
しかし衛星を持つのは我が国だけではなく、特に合衆国のような広大な衛星システムを持つ国も、この状況を認知するようになった。
二度目の当選を果たした富豪出身の大統領などは、気の早いことに日米共同によるこの島の開発を持ちかけてすらいた。
「(調査が終わってない島の開発は出来)ないです」と丁重に謝絶し、当面は待って欲しいという要望を返答。
合衆国のような同盟国は外交が通じるが、半島や大陸では不穏な反応も確認され、自衛隊のデフコンが密かに上昇するほどだった。
昨今の紛争が複数地域で生じている情勢において、平和を維持している日本に資源島が浮かぶのは、それだけ各国の興味をひいた。
だがこれだけであれば、日本政府も常識の範疇で対応できたであろう。本当に頭を抱える事になる問題は、その次であった。
946:戦車の人:2024/11/14(木) 13:27:02 HOST:61-24-203-31.rev.home.ne.jp
かの巨大な島には明らかに軍用と思しき大規模飛行場、何より海自の横須賀、佐世保、呉基地より巨大な軍港が存在していたのだ。
そしてその島には推定100隻単位の軍艦、それも第二次世界大戦当時の各国の軍艦が停泊。あるいは島周辺を哨戒航行していた。
とうに失われた枢軸陣営の軍艦、あるいは合衆国等で記念艦となっているはずの戦艦や空母すら、多数が含まれていたのである。
事は尋常ではないと再認識した政府は、調査手段を観測衛星と無人機だけではなく、有人船舶を用いたそれに拡大を決定。
海上保安庁の巡視船及び測量船、海上自衛隊の護衛艦及び海洋観測艦、これら艦船の搭載するヘリの投入を決心。
また同島に自治体や軍隊が存在した場合に備えて、国交省や防衛省を筆頭とする関係省庁職員も船舶に乗り込むことになった。
多機能護衛艦及びヘリ搭載巡視船各2隻、海洋観測艦及び測量船各1隻からなる調査船団は、横須賀で編成を終え出港。
半日程度の航海で辿り着いた彼等は、島の近隣海域を航海している軍艦と駆逐艦に、国際VHF周波数通信と発光信号で呼びかけを実施。
やはり発光信号と年若い女性-というより少女の声で返答された通信は「駆逐艦秋月」「重巡洋艦鈴谷」と名乗ったのだ。
護衛艦に常備されている艦船雑誌の特集資料で照合しても、確かに帝国海軍の秋月型駆逐艦と鈴谷型巡洋艦の特徴に合致している。
幾らか装備は変わっているようだが、それは良い-しかし何故少女と言って良いうら若い女性の声なのか。また何処の国に所属しているのか。
改めて日本国海上自衛隊及び海上保安庁船舶と名乗った上で、所属を問いただすと、海自も海保も聞いたことのない組織名が返ってきた。
曰く。彼女たちは日本政府外郭団体の「海上警護団」なる組織であり、軍隊ではないこと。日本が大陸化していることに困惑していること。
つまり-国土が大陸化した日本が言うのも何であるが-SF小説めいた並行世界の存在では?と推察される所属であった。
こうなってしまっては人を直接降ろし交渉する他なく、我に敵意なし、相互理解交渉のため上陸を許可されたしと打診。
十数分ほどの時間を置いて「我に続かれたし」と秋月、鈴谷より返信があり、調査船団は彼女たちの誘導で軍港に入校することになる。
なお一部のサブカルチャーに詳しい自衛官、海上保安官、関係省庁職員は、艦これやアルペジオかな?と口には出さないが考えていた。
かのゲームは全盛期数百万のプレイヤーが存在し、調査団にも一度は遊んだ人間が複数存在し、秋月と鈴谷の声がゲームのそれに酷似していたのだ。
947:戦車の人:2024/11/14(木) 13:27:36 HOST:61-24-203-31.rev.home.ne.jp
2隻の旧海軍艦艇-彼女たちの言葉を信じるなら法的には軍艦ではない-の誘導で入港した軍港は、実に巨大なものであった。
四国に近い面積の島の湾一つを丸ごと使った、大陸化により大規模軍港となった横須賀すら小さく見える、雄大な港湾である。
そこに停泊する艦艇は日本、合衆国だけでなく英国、フランス、ドイツ、ロシア、イタリアなど実に多彩で、艦種も多種多様だった。
護衛艦や巡視船の映像記録システム、そして衛星通信システムを用い、市ヶ谷や横須賀、霞が関や永田町にも映像が送られた。
無人機や観測衛星だけでは感じ取れない、古めかしいが故の威容を誇る大艦隊の姿は、些か現実感すら失わせた。
とはいえ練達の船乗りたちが操る自衛艦と巡視船だけに、初の巨大軍港への入港も見事に行われ、調査団代表の上陸に至った。
そこにはあのゲームを遊んだ経験がある者なら、一発で艦娘と分かる少女や妙齢の女性が多数。そして軍人には見えない青年が一人いた。
入港許可に感謝を述べ各艦長や船長、関係省庁職員による挨拶が済むと、ここでは何ですからと庁舎らしき建物に案内された。
やや古びているが丁寧に手入れされたその建物-青年と艦娘たちは鎮守府と呼んだ-に案内されてからの情報の洪水は、凄まじいものだった。
彼等の存在していた日本と世界は、深海棲艦と呼ばれる脅威に晒され、戦争の初動で大損害を被り、ついに混乱から立ち直れなかったこと。
日本国においては与党代議士や高級官僚が戦争序盤の爆撃で多く失われ、代わりに旧野党や二線級の人材による暫定政府が成立。
戦時特例や特措法を乱発し、大いに国家を衰退させ、更には自衛隊や人類を守るため現れた艦娘を、クーデター予備軍とみなし信頼しなかった。
故に政府が制御しやすい素人ばかりを意図的に「志願」させ、紙切れのようなパンフレットと一時間の説明だけで艦娘部隊指揮官に任命。
最前線へと次々と送り出し出さずとも良い損害を頻発させ、彼等のように一人も欠けることがない鎮守府は、本当に希少であったこと。
挙げ句、不満を抱いた提督や艦娘の反乱を過度に恐れ、提督の家族親族を「保護」という形で人質により、強引な統制を行ったこと。
多大な犠牲を払いつつも海外の艦娘部隊とも協力し、最後は欧州支援まで漕ぎ着けたが、諸外国も無政府状態に等しい無策と混乱が横行。
救援に駆けつけたはずの土地で人が考えうる、あらゆる罵詈雑言と悪意を浴びせられ、深海棲艦駆除後は逃げるように帰国する他なかったこと。
ようやく日本が必要とするシーレーンの安全化を達成し、宮城でやんごとなきお方に拝謁。上奏の途中に「内乱罪」適用を受け拘束されかけたこと。
948:戦車の人:2024/11/14(木) 13:28:35 HOST:61-24-203-31.rev.home.ne.jp
無論、これらは証言だけではなく、妖精と呼ばれる存在により高解像度の画像、映像などの証拠を交えての説明で、調査団代表は顔色を失った。
何しろ提督と艦娘に無策を押し付けた。あるいは悪意を叩きつけた人々の中には、こちらの各国で要職にある政治家や官僚多数が存在していたのだ。
これにより奇しくも彼ら彼女らが並行世界の存在と確認されたが、もう十分堪能したよ…!と代表団が頭を抱える中、最後の爆弾が落とされた。
内乱罪適用で拘束されかけた提督は、事態を予測していた艦娘複数に救出され、この島-「令一島」鎮守府に脱出に成功した。
そこまでは良かったのだが、並行世界の日本政府はこの鎮守府を正式に反乱軍、テロリストと認定し広く公表。
直後、南シナ海から弾道ミサイルの飛翔が確認され、BMDシステムを持たないこの島に落着、炸裂。気づけばこの水域に存在していたという。
一周回って冷静になった護衛艦艦長が、核攻撃を受けたにしては破壊、被曝の痕跡が見当たりませんがと、重要懸念事項を質問。
その事は彼らも大いに困惑したようで、NBCに耐性を持つ艦娘や妖精による調査を行ったが、破壊や汚染痕跡は存在しないこと。
そちらの日本国に汚染が及ぶことはないと説明を受け、まずその点だけは安堵できた-本当にその点だけであるが。
一時間の休憩を挟んで再開された対談では、艦娘という存在の詳細が説明され、嘗ての軍艦の魂が八百万の神になったようなもの。
軍港に停泊している艦艇も彼女たちの能力の一部で、実態艦を展開することで深海棲艦に対し、高い戦闘力を発揮できること。
人類の兵器で損傷させることは不可能に近い困難で、深海棲艦との戦闘による損傷・負傷も比較的短時間に修理、完治できること等が説明された。
その上で彼女たちの最高責任者である、あらゆる意味で軍人とは呼べない疲れ切った青年-提督は調査団代表に懇願した。
どうか我々を人格と人権を持つ存在として保護して欲しい、また食料など生活物資も不足気味で支援もお願いしたい。
またこの世界の日本政府主権下に入ることは当然だが、正当防衛と緊急避難の範疇で、実力行使を認めて欲しい。
代償としてこの島の資源採掘権をお渡しする。だからどうか、元の世界のような理不尽と悪意と暴力から、我々を守って欲しいと頭を下げられたのだ。
しばしの重たい沈黙の後、この代表団をまとめる形になった国交省官僚が、まず政府に図らねばならないので、要求を全て確約はできない。
人道支援については翌日以降の実態調査の上、可及的速やかに実働を政府に具申します。故にそちらも武力行使は控えて頂けますか、と。
949:戦車の人:2024/11/14(木) 13:29:13 HOST:61-24-203-31.rev.home.ne.jp
国交省や防衛省、あるいは海自や海保としても玉虫色の回答と自覚していたが、提督の反応は予想を裏切るベクトルで辛いものであった。
そのように誠実に応じてくれる官僚、政治家、軍人に元の世界で会ったことがなかった…と、静かに落涙したのである。
良心をヤスリで削られるような反応に再び言葉を失ったが、海自側の先任艦長と海保側巡視船長が目配せし、気分を変えることになった。
「つまり全員腹が減っているわけですね?」「空腹で対話しても互いに辛いでしょう」と、自衛艦や巡視船による食事提供を提案。
帯同していた女性防衛医官による簡単な問診、触診によりリフィーディング症候群の兆候がないことをまず確認。
各艦の補給科に「現地で食糧不足状態発生、握り飯や味噌汁など消化の良い食事準備を開始」と発令したのである。
幸いにして多機能護衛艦、海洋観測艦、ヘリ搭載巡視船、測量船の何れもが長期航海を前提としている艦船である。
故に相応の立派な冷凍設備、司厨設備を持っており、不測の事態に備えて各艦船の冷凍庫や食料庫は定数満載で出動したのだ。
提督と艦娘の合計人数は300人を超えたが、6隻で分担すれば大きな負担ではなく、何より災害派遣等で彼らは手慣れていた。
ことが尋常ではない様相の説明を受けた各艦の補給分隊は、災害派遣時の食料提供手順に従い、迅速な食事の準備を達成。
補給長や先任士官に先導された各艦の補給分隊はシンプルだが、栄養価と消化をよく考えられた具材の握り飯。
具沢山の味噌汁をわっせわっせと運び込み、明らかに空腹そうな彼女らを不憫に思い、ご飯ですよと明るく振る舞いながら提供を開始。
日本、海外の艦娘。そして提督や代表団の区別なく、簡素だが滋味豊かで温かい食事は、それぞれの余裕を取り戻す。
何より令一島鎮守府側を大いに喜ばせ、少なくとも第一印象で最悪の関係に至ることは、各艦長と補給長の機転で回避された。
食事後、代表団は一度フネに戻り本土の政府に打診すること。明朝9時に再びこの鎮守府で、対談と協議を行うことで当面合意。
なお会議の記録映像、そして鎮守府側からの証拠映像を転送の上でビデオ会議となった内閣は、どうしろと言うのだと頭を抱えた。
人道支援については良い。政府所有船舶と災害派遣用物資、民間余剰物資購入などは3日程度で行える。港も立派で問題はないだろう。
だが…恐らく各国が偵察衛星で確認してしまったこの大艦隊。多国籍の艦娘をどう保護するか、政府と官公庁の苦難は始まったばかりであった。
950:戦車の人:2024/11/14(木) 13:31:56 HOST:61-24-203-31.rev.home.ne.jp
以上となります、長くなってしまい恐縮です。wikiへの転載はご自由に願います。
まず新しい島が出現した場合、何処から調査を手につけるべきか。
鎮守府と接触した際、何処から支援を行うべきか…そんな試行錯誤の段階を描いてみました。
余り本編と関係ない話ですが「ご飯にしましょうか」といった艦長は、
マイゴジの堀田元中佐をなんとなくイメージしています。
日本政府のスタンスとしては、人道支援に異存はないがこの大艦隊どうするの?と困ってる感じですね…
外見こそ旧式ですが深海棲艦相手に戦える、つまり人類で対抗できる戦力じゃないんですから。
最終更新:2025年06月13日 21:24