638:新人艦長:2025/05/03(土) 21:45:15 HOST:182-166-38-132f1.osk2.eonet.ne.jp
ブレスト奇襲
「我々がドイツに要求したのはただ、西半球における漁師が漁をする自由、客船が客を運ぶ安心安全、貨物船が荷物を運ぶ繁栄です。しかし彼らは拒否したのです。」-1941年12月8日、米議会にてルーズベルト大統領の演説
プロローグ
「提督、第一派ブレストに到達予想時刻です。」
「ベルリンの大使が宣戦布告文章を手交した頃だな。」
1941年12月8日、空母ヨークタウンは“大西洋上”にいた。
そのブリッジではハルゼー提督以下の米海軍の航空機動部隊の生え抜きの精鋭達が揃っていた。
彼らは数刻前に発艦した“ブレスト”攻撃第一派部隊からの報告を待っていた。
数ヶ月前起きた駆逐艦ルーベン・ジェームズ撃沈を理由に米海軍は対独攻撃を決意した。
オペレーション・ヨーロピアン・フリーダムと名付けられた作戦は、米海軍が有していたヨークタウン級3隻とレキシントン級2隻によるブレスト奇襲であった。
ヨークタウン、エンタープライズ、ホーネット、レキシントン、サラトガから発艦した第一派100機の攻撃隊がそろそろ到着する頃だ。
『こちらイーグルリーダー、ブレストを視認した、攻撃を開始する』
「うぉおお!!」
「成功だ!」
「やった!」
艦内に響く無線の報告に歓声が上がる。
ドイツは完全に寝ているようで迎撃はない。
時に現地時間朝の9時前。日の出直前である。
639:新人艦長:2025/05/03(土) 21:46:07 HOST:182-166-38-132f1.osk2.eonet.ne.jp
作戦準備
1941年10月アイスランド沖
イギリスに向かう米商船の護衛のため駆逐艦ルーベン・ジェームズは派遣されたいた。
「魚雷接近!」
見張り員が叫ぶ。
狭く寒く20年もののオンボロ駆逐艦ルーベン・ジェームズ艦橋は即座に反応していた。
「取舵!最大!今すぐ!」
艦長が大声で指示を出す。
操舵手が全力で操舵輪を回し、機関室にも指示を出す。
「数3!いや4!急速接近!」
「衝撃に備えろ!」
見張り員の追加の報告に副長が叫んだ直後、大きな爆発音が起きた。
この日、駆逐艦ルーベン・ジェームズ号は撃沈された。
1941年当時最も強大な海軍は米海軍であった。
1941年の10月時点で米海軍は合計20隻の戦艦、7隻の空母などを主力とした大艦隊を有していた。
1939年の開戦以降、
アメリカは「世界大戦という巨大な山火事から我々の街を守るには街をぐるりと巨大な防火壁で覆わなければならない。」というルーズベルト大統領の演説に代表されるように、急激な軍備拡張を実施していた。
1941年10月時点で米海軍は6隻のアイオワ級と4隻のモンタナ級、エセックス級32隻などの建造を計画し、アイオワ級4隻とモンタナ級4隻、エセックス級20隻の予算枠は数年分既に確保していた。
これらが完成した暁には米海軍は両洋において世界最強の海軍になった。
その中でルーベン・ジェームズの撃沈が発生した。
アイスランドまでの領域で既に米海軍は船団護衛を実施していた。
その中でドイツ海軍潜水艦にルーベン・ジェームズが撃沈されたのである。
ルーズベルト以下米政府はこの事件を大々的に報道してドイツを非難した。
これ以前にも米国籍商船が多数撃沈されて多数の米国民間人が犠牲になっている事、大規模なユダヤ人迫害を実施していることなどを強く非難した。
そしてそれらの損害補填などを要求したハルノートをドイツ政府に提示した事で完全に米独交渉は決裂した。
1941年12月1日、ルーズベルト以下米政府は開戦を決意した。
ルーズベルトによる秘密命令が下された。
1941年11月ワシントンD.C.
海軍省一室
普段海軍の最も最上級のエリートが揃うこの場所にハルゼーなど海軍のお偉方が集結していた。
音頭を取るのはキングだ。
「諸君、戦だ」
開口一番告げたその言葉に思わず将校たちや提督たちが動揺する。
遂に開戦、戦だ。
キングはドイツ占領下フランスの地図を映し出させると叫んだ。
「相手はドイツ!エッグ計画の出番だ。」
米海軍は1941年の6月時点で既に対独開戦の作戦行動を計画していた。
仮名称で「エッグ計画」と題された対独開戦のオプションは極めて野心的で投機的であった。
既にこの時点で「空母機動部隊によるドイツ攻撃」が最適であると結論が出ていた。
その野心的プランは判明しているだけで以下の通りである。
エッグ-ベーコン:採用された計画。フランスの独占領地域港湾を空母部隊が攻撃後、英本土に派遣した爆撃機部隊が追加攻撃を実施。
エッグ-ソーセージ:ハンブルク及びドイツ北部への航空攻撃案。投機的過ぎかつ軍事的に不十分な打撃しか与えられないなどの理由から却下。
エッグ-トースト:地中海ドイツ軍攻撃案。遠距離すぎる事を理由に却下。
この中からエッグ-ベーコン案が採用された。
米海軍は投機的だが作戦の成功率はかなり高いと見込んでいた。
まずは自分たちの艦載機の能力の高さである。
独軍のBf109などと比較してF4Fの能力は劣っていない。
さらにSBDやTBDの能力は独軍には過剰ですらあると考えていた。
次に相手の海上作戦能力が低く、追撃や迎撃の可能性は低いと言わば侮ったからである。
「遂にか…これで」
太平洋艦隊から派遣された将校が呟く。
なぜ数ヶ月前急に配下の空母部隊が大西洋に転属したのか訝しんでいた彼はこれで納得した。
数ヶ月前には既に戦の準備を進めていたのだ。
元々この時期には戦をするつもりだったのだ。
ここで説明された作戦はドイツ海軍の根拠地にして戦艦と巡洋艦が立て篭もるブレストを航空部隊で奇襲攻撃する。
そして続けてB-29部隊でさらに空爆を実施するというものであった。
640:新人艦長:2025/05/03(土) 21:46:43 HOST:182-166-38-132f1.osk2.eonet.ne.jp
第一派の空母部隊を指揮するのはハルゼー以下の大西洋艦隊機動部隊空母5隻。
この空母部隊には新鋭のノースカロライナ級戦艦が付随し、万が一の砲戦にも対処する。
夜明けと共に艦載機部隊がブレストを空爆。
新型航空魚雷と航空爆弾の破壊力を持ってするならば十分な打撃を与えられるという算段だ。
さらにドイツ軍の迎撃に備えて周辺の飛行場も空襲する。
昼前までに一連の空襲を終えると15時以降に実施するのが三波の戦略爆撃だ。
使用されるのは最新鋭のB-29重爆撃機合計300機。
指揮官はルメイ大佐だ。
B-29部隊は新型の地中貫通爆弾を装備するなどして徹底的に残存港湾施設とUボートブンカーを攻撃する。
一連の攻撃でドイツ軍のブレストの戦力を完全に破壊する、そうすることで大西洋への通商破壊作戦を麻痺させるという計画だった。
ドイツの備え
一方のドイツ。
急激に悪化した対米関係であったがドイツは極めて楽観的に見ていた。
理由は米国があまりにも離れているため、攻撃してくるのには時間がかかるだろうという常識的な理由である。
米国が基本的に内向きであったという点も侮られていた。
ハルノートすらもヒトラーはブラフと見ていたほどであった。
そしてブレストなどフランスの各港湾も同様に警戒は緩んでいた。
米海軍が大西洋を越えて航空攻撃をする可能性は低いという至って常識的な判断であった。
ブレストの防備は固いがそれもあくまで英軍対策であった。
ドイツ軍自体の海上作戦能力は低かった。
既にビスケー湾内ですら英潜水艦が行動する、Uボート狩りの英軍機が行動するなど洋上作戦能力の低さは英軍経由で伝え聴こえるほど洋上作戦の能力は低かった。
作戦開始前
1941年11月15日、攻撃を行うハルゼー艦隊が出撃した。
戦力は空母5、戦艦2(NC級)、重巡4、潜水艦8などである。
さらに遅れて3日後、米陸軍航空隊のB-29部隊が移動を開始。
11月末日にはイギリスに集結した。
イギリス全土に展開したB-29合計300機以上はアーノルド将軍指揮下で出撃準備を待っていた。
この時点で米軍は新型偵察機F-12など偵察部隊を派遣してブレスト港湾内の目標を精査していた。
そしてこれらの行動、特にイギリスへの爆撃機部隊終結はドイツを警戒させた。
1941年12月5日時点でドイツ軍は米国の参戦は決定的になったと考えていた。
そしてその上で、第一撃を見定めていた。
Uボートから米艦隊が東進しているという情報は得ていたが、それがイギリスへの増援かあるいは自分達への攻撃かは判断できていなかった。
641:新人艦長:2025/05/03(土) 21:47:25 HOST:182-166-38-132f1.osk2.eonet.ne.jp
12/6 ドイツOKW
「米国の参戦は決定的だ!」
デーニッツが会議場で大声で叫ぶ。
国防軍の最高司令部では各軍のお偉方が集まって今まさに起きかけている対米開戦について議論していた。
「なんとか海軍と空軍で先制攻撃できないのか?」
カイテルが聞く。
それにデーニッツは首を横に振った。
「連中対潜警戒が厳重で捕捉もできん。
空軍は攻撃範囲外だろう。まだビスケー湾にすら近づいてない。」
「偵察機も出撃しているが、あまり上手くいっていない。」
ゲーリングも頭を抱える。
現状目の前の脅威に上手く対処できていないというのが現状だ。
「とりあえず、フランスの部隊に警戒を呼びかけているが…対処は難しいだろうな。」
カイテルもその明晰な頭脳でそのぐらいは予想できた。
海上からの高速機動部隊に対処する術が独軍には決定的に不足しているのだ。
そうして何一つとして対処できないまま無意味に時間は過ぎていった。
「リッペントロップ閣下」
駐独米大使が目の前のドイツ外相リッペントロップに書類を手交した。
ドイツ外務省の一室、時にドイツ時間12月8日の早朝ことであった。
そしてその内容はリッペントロップを動揺させるのに十分であった。
攻撃開始
午前9時を期して開始された航空攻撃。
F4Fに護衛されたTBDデバステーターとSBDドーントレスで編成された第一派100機はブレスト奇襲に成功した。
第一派は上空で散開し、各編隊で各々目標に攻撃を開始。
第一派の目標はブレスト在泊艦艇、Uボートブンカー、港湾施設などである。
そして今回米軍は新型爆弾を用意していた。
Mk80
シリーズ低抵抗爆弾は通常よりも高速高精度で目標を破壊し、その貫通力も高かった。
第一派攻撃にドイツ軍は慌てて反撃、しかし効果は薄かった。
まず被弾したのはシャルンホルストであった。
巨大なシャルンホルストにSBDドーントレス部隊が攻撃し、通常爆弾が4発命中。
続いてグナイゼナウとプリンツ・オイゲンが被弾。
プリンツ・オイゲンは命中した爆弾が甲板を貫通し喫水線付近で炸裂、浸水し始めた。
グナイゼナウとシャルンホルストにはデバステーター隊が襲いかかった。
両艦の反撃に対してデバステーター隊は装備していたロケット弾でまず対空砲を薙ぎ払う。
これにより片舷の対空戦闘能力が減少しその隙をつき雷撃隊が攻撃した。
後に艦長が「敵ながら実に勇敢な攻撃だった。イギリス軍よりもずっと正確で勇敢で大胆な攻撃だった。」と懐古する程の飛行により全機投下、グナイゼナウには3発、シャルンホルストには4発が命中、両艦は大量浸水が発生し傾斜し始めた。
そしてダメ押しはデバステーター隊が装備していた新型徹甲爆弾である。
水平爆撃により大量に投下された爆弾は両艦を直撃。
大損害を与え、速やかに両艦は放棄された。
同時にプリンツ・オイゲンにはドーントレス隊が襲撃を開始。
ドーントレス隊の急降下爆撃が多数命中、7割が命中したと推計され大火災が発生した。
642:新人艦長:2025/05/03(土) 21:47:57 HOST:182-166-38-132f1.osk2.eonet.ne.jp
そして残りの隊とF4F部隊は港湾施設と周辺飛行場を徹底的に攻撃していた。
燃料タンク、ドック、そしてUボートブンカー。
倉庫に飛行場を銃爆撃して損害を与える。
これにより第一派でUボート8隻が沈没、その他大小20隻のUボートが損傷した。
10時前、散々に暴れ回った第一波が去って15分後第二波が攻撃を開始した。
第二波の攻撃目標は第一波攻撃の徹底であった。
第二波には新兵器、2000ポンド地中貫通爆弾が搭載されていた。
2000ポンド爆弾を搭載したデバステーター隊はUボートブンカーを中心に攻撃を実施した。
さらに大破炎上して傾斜しているシャルンホルスト以下3隻にもとどめとして投下された。
こうして第二波が攻撃をしている頃、空母では帰還した第一派の収容が進んでいた。
ヨークタウン艦橋ではハルゼーが帰還した機体を取り囲む嬉しそうな乗組員たちを見つめていた。
「提督」
「なんだ?」
ヨークタウン艦長が尋ねた。
「第三波攻撃は如何しますか?」
「速やかに実行しろ。パイロットは交代だ。」
「了解。第三次攻撃隊編成急げ!
弾薬燃料補給急げ!」
ハルゼーの命令に大声を張り上げて命令する。
第三次攻撃は命令違反であったが、真珠湾攻撃時のことを思い出したハルゼーは徹底的な破壊を決断したのだった。
ドイツ軍に脅威となる水上戦力はなく、恐るべきは潜水艦のみであると判断したのだ。
「ボスからの命令だ!すぐブレストに飛ぶぞ!」
伝令の飛行隊の士官がパイロットの待機室に飛び込み叫ぶ。
それに命知らずのパイロットたちは皆大声で歓声を上げて我先にと飛行甲板へと走った。
1時間後、第三次攻撃隊80機が出撃。
彼らは徹底的にブレスト、特に周辺の飛行場を破壊した。
夕方、B-29部隊の第一派が高度2万フィートを巡行していた。
ドイツ軍の迎撃は一切なかった。
そしてあったとしても護衛の戦闘機部隊が対処する。
恐るべきは高射砲だけだ。
隊長機の無線手が操縦室の司令官たるルメイ大佐に話しかける。
「大佐、海軍の連中は大戦果挙げてるらしいですよ。」
「早く行かないと全部喰われちまいますよ」
副操縦士の少佐が言うとルメイは笑う。
「大丈夫さ。海軍の連中も全部食えるほど腹はデカくないさ。
それに今回は残飯漁りでもこれからはベルリンでフルコースを楽しめるさ。」
「次はベルリンですか?」
「この先はトップシークレットだよ。答えたら君を今すぐパラシュートなしで放り捨てないといけなくなるよ。」
機内はどっと笑いに包まれた。
数刻後、彼らはブレストを空爆。
絨毯爆撃とブンカーへの爆撃はブレストの港湾機能を完全に破壊した。
最終的な被害は以下の通りである。
ドイツ軍
兵士:約6900名死傷
撃沈:シャルンホルスト、グナイゼナウ、プリンツ・オイゲン
Uボート29隻
駆逐艦3隻
水雷艇2隻
掃海艇8隻
駆潜艇7隻
トローラーなどその他艦艇23隻
航空機:128機破壊
その他:ブレスト港湾施設に大打撃
このあと、米軍はビスケー湾全体に機雷の敷設を開始。
B-29から投下される航空機雷によりUボートの被害が増加した。
アメリカ夢幻会の第二次世界大戦が始まった。
643:新人艦長:2025/05/03(土) 21:48:53 HOST:182-166-38-132f1.osk2.eonet.ne.jp
以上です
初手機動部隊による独海軍基地への奇襲攻撃から始まった第二次世界大戦
大西洋の戦いが大きく変わります
最終更新:2025年06月13日 22:21