148 :earth:2012/04/05(木) 23:11:16

 日本帝国政府(正確には夢幻会)はあまり乗り気ではなかったが、最終的に津州皇国との国交を開いた。
 異世界の国であるが、日本と津州は人種的にも、文化的にも近いものがあったので良い関係を築けるのではないかという声が
日本国内にはあった。

「異世界の国でも信頼できる国なら問題ない。平然と裏切ったり、俺達を下等な猿扱いする連中が闊歩する国よりかはマシだろう」

 それが多くの日本人の意見だった。
 世論の期待に押されるように日本政府は津州皇国の外交団が到着した際に大々的な歓迎式典を執り行い、世界最強国家の首都に
相応しい都市を目指して再開発が進められる帝都東京、そして工業地帯を見学してもらった。
 多くの日本人からすれば好意によるものだったのだが、見学させられた津州皇国の人間達は日本がその圧倒的な生産力と技術力を
見せ付ける行為でしかなかった。

「これがこの国の底力とでも言うのか」

 外交団の一員として参加していた皇国陸軍大尉・三笠光清は、宿泊先のホテルの部屋で日本帝国の力に恐怖さえ覚えた。

(近代化を開始して100年も経たないうちに、世界最強国家にまで上り詰める……冗談のような国だな)

 陸軍工廠に並べられた多数の高性能戦車、自分達の世界では考えられないような巨大戦艦群、そして戦場の概念を根底から覆す
大規模な航空機部隊。トドメに大都市をただの1発で廃墟にしてしまう核爆弾。そしてそれらの兵器を満足に運用することを
可能にする圧倒的と言ってよい生産力と技術力。
 それらは全て津州皇国にはないものだった。

(ゲート越しでも敵対できる国は無い。いやむしろ、彼らの力を利用して津州皇国を強くする必要がある)

 このような衝撃を受けたのは彼だけではない。
 外交団は勿論、詳細な情報を受け取った津州皇国政府首脳も巨大な衝撃を受けていた。
 ゲート越しとは言え、どの列強よりも強大な国家が隣り合ったようなものなのだ。幸い友好関係は築けそうだが、それでも
この新たな隣国を脅威と見ない人間はいない。
 おまけにゲートの出現と共に、エネルギーの流れに変化が生じたのか津州皇国が切り札と考えていたG動力の研究は半ば
頓挫しかけていた。

「どうしたものか……」

 津州皇国政府関係者の苦悩は深い。
 だがそれ以上に苦悩が深まる者達もいた。そう、津州皇国に復讐を誓う者達だ。
 彼らは圧倒的と言っても良い隣国、それも津州皇国とよく似た国家の存在が自分達の目的を阻害するのではないかと
気が気でなかった。

「列強を結集しても勝てるかどうか」

 世界最大国家であるヴェラヤノーチ帝国の皇帝に取り入った男・コロトコフは苦い顔だった。

「日本帝国と津州皇国の分断、そしてこちら側の列強を集結させての対日、対津同盟が必要になるか。出来ることなら
 日本帝国側の世界の列強とも関係を築ければ良いのだが……」

 彼の暗い情念が実を結ぶか、それは誰にも判らなかった。

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最終更新:2012年04月08日 19:52