122:モントゴメリー:2025/02/10(月) 00:13:23 HOST:124-141-115-168.rev.home.ne.jp
日蘭世界SS—— loterie pour mariage——

フランス連邦共和国(FFR)、パリ、エリゼ宮にて

「La Pucelle aux cheveux argentés(銀髪のラ・ピュセル)の生産は順調です。やはりルノーを始めとする自動車メーカーのノウハウを活用したのは大きいですな」

会議室では、FFR大統領であるマリー・マフタン以下、政府閣僚と一部官僚たちが“ラ・ピュセル”たちの普及計画について話し合っていた。

「FFR各軍への配備のための予算執行は予定通り進行しております」
「現場でも、まあ戸惑いはありましたが新しい『戦友』との友誼はつつがなく育まれていますわ」

国防大臣が軍政面を、国防参謀総長が軍令面での状況を説明する。

「軍以外の政府省庁への導入も大きな問題はございません。問題になるとすれば——」
「一般国民への普及ね」

マフタン大統領が言葉を継いだ。

「量産効果で価格低減を目指すとはいえ、現状でも中級乗用車の上位から高級乗用車の下位くらいの値段になるものね。必然的に、購入できるのは中流階級以上の国民に限られるわ」
「地方の農村などでは非常に人気ですが、やはり導入できる農家は少ないですな…」

農業・食料大臣が続いた。
それに対して教育大臣「代行」が提案する。

「政府から補助金を出して、国民の購入を後押しすれば良いのでは?」
「それは悪手だ。政府の負担が増えるし、回りまわって国民の税負担が増してしまう」
「私もその手はあまり使いたくないわ。実施の難易度は低いけど、政府の負担が増すことは避けるべきだし…何よりÉléganteではないわ」

経済担当大臣と共に『先生』の名代の案を一蹴したマフタン大統領であるが、彼女としても何か代案がある訳では無かった。
沈黙が支配した会議室を動かしたのは、アナイス国防参謀総長だった。

「何も案が浮かばないならば、今日はもう終わりにしない?そろそろ退庁しないと“売場”が閉まっちゃうのよ」
『閣下、ですから電子決済で購入するべきですと進言したのです』
「わかってないわね~クロエ?“宝くじ”は売場に並んでいる時点でもうワクワクが始まっているのよ」
『我々にはその“ワクワク”というのが理解困難です。そもそも、宝くじの期待値は0.5未満です。10フラン分購入しても5フランも獲得できないのです。
「愚者の税金」という別名は誠に理にかなっていると推察します』
「その愚者のおかげで国内の文化遺産保護などに必要な予算が確保できているのだから、政府としては“納税者”たちには感謝しないとね~」
『ですから、制服組席次第一席である閣下がそんな愚かなことをする必要はないと——』

「それよ!!」

参謀総長とその副官の漫才(?)を止めたのはマフタン大統領の叫びであった。

「あら?マリー…大統領も一緒に並びますか?」
「それは遠慮するわ。ワクワクはこの“椅子”からもらえる分だけで満足だもの。
 そうではなくて、『宝くじ』よ——」

123:モントゴメリー:2025/02/10(月) 00:14:26 HOST:124-141-115-168.rev.home.ne.jp
数か月後、Française des jeux(フランセーズ・デ・ジュー、フランス宝くじ公社)より新しい種類の宝くじが発売された。
loterie pour mariage(縁結びの宝くじ)と題されたそれは、一等の当選金額が従来の1/20であった。
しかしその代わりその当選数は20であり、すなわち20人の人間にその金額を獲得できる機会があった。
そしてこの金額は“ラ・ピュセル”1体の購入金額に匹敵し、さらに副賞として当選者には“ラ・ピュセル”の優先購入権が与えられたのである。
これは一等のみならず、二等の当選数は50で金額は“ラ・ピュセル”の半額、三等は100で“ラ・ピュセル”の1/3の金額であり(ローン購入時の頭金には十分である)、副賞も一等に準じている。

loterie pour mariageは、発売以降FFR領土全域で爆発的な人気を博した。
「リュビ(サフィール級潜水艦:『幸運』と『狙撃』を司る女神であり、主に狙撃兵や博打うちたちの守護神)」の加護があれば、高嶺の花として諦めていた“彼女”たちに会えるというのが主な理由である。
その理由から、購買者は中流階級以下の男性が過半を占めていたが、意外にもそれ以外の階層の者たちからもこの宝くじは人気だった。
それは優先権が与えられるといっても、当選したら必ず“ラ・ピュセル”を購入する必要はなく、自由な用途に使用して良いからであった。
普段なら当たる訳がないと興味を持たない者たちが「一等当選確率20倍」という数字に惹かれて売場へ赴いたのである。
(「やはり人間という存在は愚かですね」と某ラ・ピュセルは言ったという…)

結果として、loterie pour mariageは当初予測を大幅に上回る売上げを記録し、その金額は従来の宝くじの10倍に達した。
「“ラ・ピュセル”たちの販路拡大」と「政府の負担軽減」という二つの命題を実にÉléganteな手法で解決した我らがFFR大統領は、今回の収益を用いて臨時の措置であったloterie pour mariageを常設の宝くじにしたという。
(加えて、販売範囲も国内のみならず、テキサス共和国やグアテマラなどの同盟国まで拡大された)

124:モントゴメリー:2025/02/10(月) 00:14:57 HOST:124-141-115-168.rev.home.ne.jp
以上です。
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ラ・ピュセルたちを広く市井に広めたいけど、「値段」という大きな壁が立ちはだかるのだ…。
しかし、それを補助金という手段で解決するのは「エレガント」ではありません。
そこでマリー様が採用したエレガントかつエスプリにあふれた方法が宝くじであります。

国民はチャンスを掴めるし、政府は国庫が潤いしで一石二鳥なのです。

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最終更新:2025年07月27日 23:42